【東京都知事選】殿を担ぐ異形の面々 〜細川陣営選対事務局長はタモガミ的な極右の「小泉チルドレン」、政策責任者は「小沢ポスター破り」で書類送検の過去 2014.1.27

記事公開日:2014.1.27 テキスト
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(取材:佐々木隼也・文:岩上安身)

※本ブログで、その言動を問題視している細川陣営の事務局長・馬渡氏について、自民党・鳩山邦夫議員が以下の内容をfacebookに投稿している。

鳩山 邦夫
「都知事選で、日頃、私と付き合いのなかった元秘書たち、たとえば前代議士の牧義夫君や元代議士の馬渡龍治君、それに上杉隆君らが細川陣営に加わって私は、ずい分誤解されてまいりました。私自身は舛添要一氏を全面支援し、彼の遊説は、私の現役秘書の小沢洋介君が取り仕切っています。
 ところが、「やはり」というか「良かった」というべきか、私の元秘書たちは全員、細川陣営からクビにされたというか、追い出されたようです。細川陣営は左翼志向の強いメンバーに占拠され、私の元秘書たちは居場所を失ったそうです。

 良かった。良かった。これですっきりしたという気持ちです」

また、産経新聞は27日22時10分に配信した記事で、「細川護煕元首相の選挙活動の指揮を執っていた馬渡龍治事務局長(元衆院議員)が退任することが27日、分かった」「細川氏の陣営では、馬渡氏らのグループと、旧日本新党系グループによる主導権争いが激化していた」などと報じ、「細川氏陣営で内紛? 選対事務局長が退任へ」という見出しを付けている。

IWJが馬渡氏の「解任」について事実関係を細川氏の選挙事務所に確認したところ、広報・宮下氏は「あくまで体制強化のための配置転換であり、馬渡氏も木内氏も今も事務所に来ています」と回答。一部ネット上では馬渡氏の他に、選対の中心人物である木内孝胤 元衆院議員も、細川選対を「解任」「退任」という情報が出回り、J-CASTニュースなどが記事にしているが、選対がこれを正式に否定した。(1月29日更新)

ただ1月29日に馬渡氏は、自身のブログで「退任」と題した文章を投稿し、「事務局長という立場で事務所にいましたが、退任しました。候補と長年の付き合いのある人が選挙の指揮を執るということになったので、指揮命令系統が複数あると混乱します。新参者の私は違う形でお手伝いすることにしました」と明らかにしている。選対から「追い出された」のではなく、「事務局長」という立場を退任したということになる。(1月31日更新)

 これまで「脱原発」を掲げて東京都知事選に出馬を表明していた細川護熙元総理が、1月22日、正式に出馬表明会見を行い、告示日(23日)ぎりぎりで基本政策も発表した。会見では、あくまで「原発問題」を、他の政策課題よりも優先すべき課題だと強調した細川氏。しかしそれは、憲法やTPPについての見解を明かさなくてもよい、ということにはならない。

 「脱原発」についての姿勢は分かっている。私は会見で、あえて原発以外のイシュー、目下、国政の最大の焦点となっている集団的自衛権の行使容認をはじめ、憲法や安全保障の問題と、TPPや国家戦略特区など、新自由主義的な経済政策の是非を聞いた。

 細川氏の背中を押したのは、小泉純一郎元総理である。その小泉政権時の新自由主義的な「構造改革」路線を継承しているのが安倍政権であり、その安倍政権が前のめりに推進しているのが、TPPであり、国家戦略特区だ。そして、その国家戦略特区を是としているのが、自民党の推す舛添候補でもある。他方、小泉氏が今回推す細川氏は、自身の政策で「戦略特区の有効活用」や「規制緩和」を打ち出している。

 つまり細川氏の経済政策は、舛添氏や安倍総理の新自由主義的な経済政策に、ほぼ重なりあうのだ。

 この点を問うと、細川氏は、「戦略特区は誰の言っていることであろうと、良いことは良い、悪いことは悪い、というだけの話です。良いところは大いに取り入れてやっていきたいと思います」と回答した。安倍政権が強力に押し進め、舛添候補が公約に掲げている特区構想を、「誰の言っていることであろうと、良いことは良い」と語り、経済政策については安倍、舛添両氏と同工異曲であることを細川氏御本人が認めたのである。

 細川氏は、「脱原発」には本気であろう。そこは誰も疑っていないと思う。と同時に新自由主義的な規制緩和にも熱心だ。反原発で、親TPP的、といっていい。その事自体、矛盾をきたすと思われるのだが、それはひとまずおこう。

 もうひとつの重要な政治議題、集団的自衛権の行使容認など、安倍政権がなりふり構わず「戦争ができる国」というテーマについてはどうか。

 憲法や集団的自衛権に関する私の質問に対して、「集団的自衛権は私は賛成ではありません。海外での武力行使はできない、というのが憲法に関するスタンス。従って憲法をいじるということも私は賛成ではない、ということを前から言ってきた」と述べた。

 靖国参拝についても産経新聞の質問に答えて、「心の問題。私はかつて参拝してきたが、近隣諸国を刺激してはいけない。知事になっても私は参拝しない」と回答し、安倍政権とは考え方に開きがあることを明らかにした。

 しかし、そうなると当然のことながら疑問が湧くのが、小泉元総理との「共闘」である。「原発問題」以外の政策、とりわけ外交・安全保障や憲法の問題では小泉氏と、細川氏は見解がぶつかるのではないか。

 細川氏は平和主義を守る、憲法を重視し、集団的自衛権の行使は容認しない、というスタンスを明らかにした。安倍政権の姿勢、舛添候補、田母神候補ともはっきりと一線を画したかたちだ。

 小泉氏は、首相在任当時に靖国を参拝している。安倍総理は小泉元総理時以来の、現役総理での参拝者であり、小泉—安倍ラインは先達者と継承者として忠実な師弟関係にある。小泉氏のスタンスとは距離をおくという細川氏だが、自身の後見人は小泉氏である。憲法や靖国、集団的自衛権、海外への自衛隊の派兵など、安全保障と日米関係にかかわる重大な政治議題について、小泉氏と合意をみることなく、手を結べるものなのだろうか。

 こうした点について、小泉氏とよく話し合ったのか、という私の質問に対し、細川氏は、「脱原発ということで一致しており、その他の問題を話し合ったことはない。話し合ってもお互いすれ違いになるだけだ」と回答。あくまで「脱原発」の一点のみで協調していることをアピールした。

選対事務局長がブログで「集団的自衛権行使はあたりまえ」「韓国は敵国」

 そうなると合点がいかない点が一つある。細川氏の選対の中核を担っている人物の存在だ。報道で「細川氏の選挙対策事務所・責任者」とされる馬渡龍治(まわたりたつはる)・元衆議院議員は、2005年の「郵政」選挙で自民党公認で出馬し、初当選したいわゆる「小泉チルドレン」の一人である。

 細川氏は政界から16年間も離れている。「子分」もいない状態では、自力で選挙を戦うことはとてもではないがおぼつかない。会見の中で細川氏自身が明かしたように、小泉氏から出馬をうながされた折、その小泉氏に、支持はちゃんとしてくれるのかと、念を押したという。

 細川氏が選挙を戦うのに、後見人である小泉氏に全面的に依存せざるをえないのは当然であり、選対の責任者に「小泉チルドレン」が就任するのは不思議なことではないだろう。

 しかし、その馬渡氏が自身のブログで、「日本軍による慰安婦の強制連行はなかった」「安倍内閣の支持率が上昇してうれしい」「集団的自衛権の行使容認はあたりまえ」「オスプレイ推進」「消費税増税賛成」「憲法改正は自民党の使命」などなど、枚挙に暇がないほど安倍政権を礼賛し、新自由主義推進のみならず、極右的と言ってもよいタカ派的な文言を書き連ねていることは看過していいとは思われない。細川氏が会見で語った「思想」とは明らかに遠く隔たっている。

▲馬渡氏のブログ「まわたり始末控」

 以下に、その馬渡氏のブログから過激な発言の一部を紹介していきたい。

・「日本軍による強制連行はなかった」 2014.01.15

「平成の20年ころに、戸井田とおる先生と慰安婦問題について真実を確かめようといろいろな文献や資料を調べたことがあります。その結果、日本軍が強制連行した女性を慰安婦にしたという事実はないと確信しました。当時の新聞には朝鮮人が、朝鮮人や日本の女性を誘拐して東南アジアに売り払っていたという記録があります。また、朝鮮人の業者から高額の金額をもらって慰安婦をしていた朝鮮人の女性がいたという文書を見ました」

・日本の右傾化肯定 2013.12.25

「中国の報道機関が主催する『中国国際新聞フォーラム』が開催され今年の10大ニュースが発表され、その中に『日本の右傾化』が選ばれたと、きょうの人民日報に載っていました。『日本の右傾化が(東南アジア)の安定を脅かした』そうです。それって、そのまんま中国に返してやりたいですよね。まず、日本は右傾化したのではなく、主権国家としてやっと目覚め始めたということなのです」

・中国はウザイ 2013.12.15

「中国はいつも日本のことを批判しているくせに、ちょっとでも日本側が本質をついた話をするとすぐに噛み付いてくるから、本当にウザイ国です。『中国包囲網』をつくられてはたまらないという思いもあるのでしょう。(中略)まずは憲法改正をして『日本国軍』と明記してその増強に努めてほしいです。『自衛隊』というあいまいな表現をいまでも継続しているほうがおかしいと思います」

・朝鮮学校には補助するな 2013.11.02

「朝鮮学校がたとえ適正な財産管理をしたとしても、今後朝鮮学校には補助金を出さないことを宣言してほしいです」

 近隣諸国に対する敵対的な姿勢。これは、細川氏が見せた「ハト派」的姿勢とまったく違う。妥協できるレベルではない、非常に大きな隔たりがある。

 さらに馬渡氏は韓国を「実質的な敵国」とまでののしっている。近隣諸国との融和の姿勢はみじんも無い。

・韓国は実質的な「敵国」 2013.12.23

「南スーダンでPKO(国連平和維持活動)に参加している韓国軍に自衛隊が銃弾を提供することになったそうです。1万発の銃弾を韓国軍にです。日本政府は「緊急性が高い」としていますが、どうみたって韓国は日本にとって実質的な「敵国」だと思います。その韓国に銃弾をあげるなんて。やめたほうがいいと思います」

・都知事選は「下村博文文科相がいい」 2013.12.19

「自民党にがんばってもらって、行政手腕のある候補者を擁立してほしいですね。私が勝手に願っているだけですが、いまの文部科学大臣の下村博文先生が出ていただいたらいいなと思っています」

 下村文科相は、12年12月に文科相に就任した後、靖国神社を参拝している。また、昨年11月に米国の新聞に掲載された日本軍「慰安婦」問題を否定する意見広告で、安倍総理と一緒に賛同者として名を連ねていた4人の閣僚の中に、下村文科相の名前もしっかり記載されているのだ。

 下村文科相はまた、昨年10月31日に東京・元赤坂の赤坂御苑で開かれた秋の園遊会で、山本太郎参院議員が陛下に手紙を渡した問題について、翌日行われた閣議後会見で「議員辞職ものだ。政治利用そのものだ」と批判した。

・集団的自衛権の行使はあたりまえ 2013.08.25

「どこの国でも自国の国益のために集団的自衛権を行使するのはあたりまえなのに、日本の国だけが自ら手足を縛ってしまっているのです。戦後の日本人は自虐的だといわれますが、これが一番の自虐的なことだと思います。何かあったときのために集団的自衛権を行使できるようにしておいたほうがいいのに、『集団的自衛権を認めると、若い人たちが戦場に送られてしまう』と大きな声でいう人たちは本当に無責任です。(中略)安倍首相は集団的自衛権に関係する憲法解釈の見直しにチャレンジしてくれるのですから頼もしいです。勇気があると思います」

 これも、会見で細川氏が語った姿勢と真っ向から対立する。なぜこうした「思想」を奉じる馬渡氏が、「平和主義」を唱える細川氏をかつぐことができるのだろう。理解に苦しむ。

 ところが、このブログを読み続けると、細川氏との一致点もあるのだ、ということに気付く。

細川氏のもつ「リベラル」なイメージとは真逆発言、さらに小沢氏批判も

・安倍政権の特区推進に賛成 2013.04.17

「安倍晋三首相は、産業競争力会議で『特区制度の活用に光を当てたい』と国の主導による特区の具体策の検討をするように指示しました。規制緩和や税制優遇措置などで日本の国の経済競争力を高めていくのがねらいです。ぜひ、大胆に推進してほしいです」

 この規制緩和と改革特区の推進の点だけは、馬渡氏と細川氏の見解が一致する。同時にこの点は、小泉氏とも、安倍氏とも一致する点である。馬渡氏は、この一点を実現するために、細川陣営を支えにやってきたようにすら見える。

 さらに注目すべきは、次のような書き込みである。

・小沢氏批判 2014.01.02

「平成21年の総選挙で民主党が大勝したのは確かに小沢氏の功績です。できないことでも国民が喜びそうな政策をマニフェストに載せたのも小沢氏の指示によるものです。当時国民を騙してでも政権をとるための指揮をとった人です。だから『生活の党』の意味が国民の生活のためではなく、『所属議員の生活のための党』に思えてしょうがないのです」

 このように、安倍総理を熱烈に支持し、中国を非難して韓国を実質的な「敵国」とまで言い、集団的自衛権の行使容認を当たり前と言いきり、TPPの実質国内化ともいえる規制緩和特区導入を求め、さらには小沢一郎氏をここまでこきおろしている人間が、細川氏の選対責任者をつとめているというわけである。

 小沢一郎氏は、表には立たないが細川氏支持を明らかにしている。生活の党は、小沢氏の方針通り、細川氏の支持に動き、ネット上でも活発に細川氏を支持する動きが見られる。しかし、小沢氏をこきおろす馬渡氏の存在を、小沢氏の支持者はどれだけご存知なのだろう。

 馬渡氏の言動は、細川氏のもつ「リベラル」なイメージとは真逆で、なぜ彼が選対のトップを務めるのか、不可解といわざるをえない。馬渡氏が担ぐのにふさわしいのは、細川氏より田母神氏の方であろう。なぜ自分の思想信条とまったく違う(かにみえる)人物を担げるのか。また、細川氏も、そうした人物に選対をまかせることができるのか。

 この馬渡氏について、21日、IWJの佐々木記者が電話で選対に問い合わせた。電話口に出た広報担当であるという「中島」と名乗る方は、馬渡氏について質問した途端、「選対内のナイーブな問題なので、明日(22日)の午前に事務所までお越しください」と回答した。馬渡氏の存在は、細川選対にとって「ナイーブな問題」であるらしい。

選対事務所へ直接取材

 翌22日、佐々木記者が指定された通り、永田町にほど近い細川氏の選挙事務所を取材した。対応したのは前日電話で話した中島氏である。その中島氏は、野田政権下で民主党を離党した、中島政希・前衆議院議員だということを、名刺交換の際に確認した。

 中島氏は、「我々は選対ではなく、あくまで『勝手連』だ」と何度も強調した。あくまで一般のボランティアの集まり、ということをアピールしたいのだろう。事務所は奥に電話が1台置いてあり、数台のテーブルとイスが並べられただけの、簡素な作りだったという。その一角で、中島氏に取材した佐々木記者の報告を、以下、お伝えする。

IWJ「事務の中核である馬渡氏について。馬渡氏はブログの中で、安倍総理を礼賛し、安倍政権の政策にシンパシーを感じているように見受けられます。自民党に近い人物なのではないかとの声もありますが、馬渡氏はどの程度政策に関わっているのでしょうか?」

中島氏「馬渡氏も私も、木内孝胤(たかたね)さんから呼びかけをいただきました。政策については、私が取りまとめ。馬渡氏は実務の方の取りまとめです」

 木内孝胤氏といえば、2012年に消費税増税に反対し民主党を離党し、国民の生活が第一に入党。その後12月16日の衆院選に日本未来の党公認で出馬するも落選し、現在は生活の党の党員である。この木内氏も細川選対「キーパーソン」の一人である。

IWJ「馬渡氏は『都知事選は下村支持』、『集団的自衛権行使容認』、『特区で規制緩和を』などと言及しています。細川氏のいまだ明らかにされていない『脱原発以外の政策』が、ここから見えてくるが、この馬渡氏の姿勢は、どの程度細川氏の公約に反映されているのでしょうか?」

中島氏「馬渡さんの管轄ではありません。政策については私が最終的に文書に取りまとめたりしますけれども、色んな方のアドバイスを受けて、細川さんがご自分でお考えになっています。古賀茂明さんや、他にも色んな方が意見を言って、細川さんが総合的に判断して、『こういう形で文書にしなさい』と指示します」

IWJ「その『文書』は公約と言ってもよいのでしょうか?」

中島氏「公約ということでしょうね。公約というか、基本政策というか…」

 ここで、佐々木記者は気になっている事を質問した。1月21日に、生活の党・小沢代表は正式に細川氏支持を表明したことについてである。

 小泉純一郎氏と小沢一郎氏の両者がバックに付く構図というのは、これまで政局を見続けてきた者にとっては、衝撃的なことではある。小沢氏は小泉氏の新自由主義的な構造改革を一貫して批判してきた人物であると、これまで見られてきたからである。

 その両者が手を組むとなれば、どちらが主導権を握るかで、揉めると考えるのが普通であろう。どのようなかたちで折り合いをつけたのか。その帰趨によって、細川陣営の本質が見えてくるはずだ。

細川陣営「表に出て共闘するのは小泉さんだけ」

 佐々木記者が、「小泉さんと、もう一人支持をしているのが小沢さんだったりするのですが…」と質問を切り出すと、中島氏は間髪入れずに「いえいえ、小沢さんは表に出ません」と否定した。

 中島氏「政治家で、選挙活動を一緒にやっていただくのは小泉純一郎さんだけです。他の元総理の菅さんとか野田さんとか小沢さんも、色んな方が支持を表明されていますが、選挙事務所にお入りになることはないし、勝手連でやっていただこうと。バッチを付けている人はここには入っていただかない。

 ただ日本新党系の人達は師弟関係ですからね、細川氏を支持される事を否定はできない、拒否はできないんで、勝手連で自由にやっていただくということです」

 中島氏は「共闘するのは小泉さんだけ」ときっぱり言い放った。つまり、小泉氏と小沢氏との間でイニシアティブ争いや路線闘争が起きることはないということだ。小泉氏が細川氏の「後見人」として、実権を掌握している、ということになる。

IWJ「小泉さんの政策は『脱原発』では細川氏と一致しているでしょうが、他の政策について小泉さんの意向はどの程度影響力があり、どの程度政策に反映されるのでしょうか?」

中島氏「細川さんと小泉さんは『脱原発』で一致している。また、もともと細川さんも、もちろん色んなお考えはあるんだけども、日本新党を作って以来の改革論者ですからね」

 細川氏はもともと、規制改革論者なのだと中島氏は言う。実際、記者会見で細川氏は「岩盤のような規制に穴をあける」と強い姿勢を見せた。この表側は、ダボス会議や国会での施政方針で「岩盤のような規制をあけるドリルになる」という安倍総理の言葉とうりふたつである。

 そう言うと、中島氏は細川氏の政策理論と、それをかつぐために参集した面々の重いについて語り始めた。

中島氏「ここにいるのは皆ボランティアで、私も政界引退してヒマをしていましたら、木内さんに呼ばれて、留守番役に呼ばれてね…。ここにいる人間はみな、細川さんの掲げる『脱原発』『再稼働しない』『原発ゼロ』に共鳴・共感している、その一点です。

 原発政策というのは、従来のエネルギー政策ではないんです。政治改革なんです。『政治とカネ』でみな小さなことを言ってるけれども、政治腐敗を根絶するということは、政府と官僚の癒着体質を打破しなければならない。

 これは日本新党以来の大きなテーマなんだけど、なかなか既得権益の壁は厚くて、根本的な方向転換できないまま来てしまった。民主党でそれに挑戦したんだけど、抜本的な改革はできなかった。

 政府と官僚の癒着体質の象徴というのが、原発なんだよね。福島事故っていうのは、政治や行政のチェック機能がさ、この癒着体質の中で麻痺していた、機能不全に陥っていたことにあるわけですよ。そこの既得権益を断つと、原発ゼロを政治決断して断つということは、政治改革なんです。そのための選挙なんです。そういう気持ちで細川さんは立っているので、そこに我々は共感しているんです」


 「脱原発の理念に共感」と中島氏は説明するが、そうなると気になるのが、同じく「脱原発」を掲げている宇都宮健児氏の存在である。巷では、宇都宮氏との候補者一本化についての議論が過熱気味になっている。この件について、中島氏に聞いた。

中島氏「宇都宮さんを応援している河合弘之先生の市民団体(「脱原発都知事を実現する会」)から、『一本化調整をしてくれ』という要望があったんですが、宇都宮さんの方もお断りになり、我々の方も『調整というのはまずいんじゃないですか』という話をして、お断りをしました。それを受けて、その団体が自主的に、宇都宮さんではなくて細川さん支持を表明された、というのが22日の段階です」

IWJ「それ以前に宇都宮選対からの打診は…」

中島氏「宇都宮陣営からは過去に一度も一本化の協議についての話はありません。宇都宮さん自身が立候補すると言っているわけですしね。支持している人達が『一本化して欲しい』という思いがあって、そういう動きをされた、ということです。私どもから一本化の話をお願いしたこともない」

 この一本化の話の火付け役となったのが、1月12日付の毎日新聞の記事だ。このなかで「細川陣営が一本化の話し合いの打診をして、宇都宮陣営がそれを断った」と報じられている。

 しかし、1月20日付のIWJ記事でも報じたように、宇都宮氏の選対幹部である海渡雄一弁護士は「事実無根。細川氏サイドから話し合いの申し入れが行われた事実はないし、我々が断ったこともない」と答えている。

 細川氏の選対の中核を担う中島氏も、「我々の方から一本化の打診をしたことは一度もない」と明言した。

 これで細川陣営も宇都宮陣営も、一本化に向けた話し合いをお互いに打診もしていないことが明白となった。毎日新聞の記事は、完全な誤報である。

第三者による強引な「一本化」要請は公職選挙法違反の可能性

 中島氏はさらに、困り果てた様子でこう続けた。

中島氏「しかもね、第三者が立候補者に対して『降りろ』とか『一本化』を、などと働きかけるのは、公職選挙法の違反になりかねない。立候補の自由に関わる問題ですから、非常にまずいですね、正直」

 この発言は重要である。「一本化」を求めたり、「宇都宮降りろ」と唱えたりする細川氏の勝手連の方々や、そのシンパの方々は、ぜひ耳を傾けていただきたいと思う。

 宇都宮サイドに「降りろ」と「一本化」を働きかけた人間は一人、二人ではない、という。ネット上でも「一本化」を求める声がやまない。中島氏の言う通り、こうした常軌を逸した動きは、度を超えているといわなくてはならない。私は何度も繰り返しているが第三者は冷静になるべきだ。

 第三者のできることは「一本化」の「提案」どまりである。それ以上は、立候補者の意思が尊重されなくてはならない。細川氏を応援したい人は細川氏を、宇都宮氏を応援したい人は宇都宮氏を応援すればいいし、またそれ以上のことをしてはならない。「降りろ」と強要すれば、立候補の自由を侵害することになる。それは明らかな違法行為である。これは民主主義のルールに関わる話である。

脱原発派候補は、細川氏に一本化しろ、宇都宮氏では勝てないから、宇都宮氏は降りろ、と叫び続けている。細川シンパは数々いるが、「世に倦む日日」というブロガーは、宇都宮選対の事務所の電話番号を紹介して、圧力をかけようと煽り続けている。そのため、宇都宮選対の事務所の電話は「降りろ」という圧力をかける電話が鳴りやまず、怒鳴る、脅す者もいて、事務に支障をきたしていると宇都宮氏の選対幹部の海渡雄一弁護士は語る。

「これは非常に悪質な選挙妨害です。立候補の自由は憲法で認められている権利です。自由な選挙妨害罪というものがあるんですよ。立候補をやめろと圧力をかけるのは許されない」

また、悪質なデマ宣伝も行われている、と海渡氏は語る。宇都宮さんは共産党員だ、共産党の候補だ、などというレッテル張りが横行している。

「冗談ではない。共産党の推薦を受けてはいるが、宇都宮氏は無所属であり、彼は共産党員ではありません。長いつきあいだから、僕はよく知っている。これはまるで、『アカ狩り』ですよ。

一流の知識人までが一緒になって『降りろ』などという。信じられない」と、海渡氏は語った。

選対は「選挙が終われば一斉に手を引く」?

 細川選対での取材から帰ってきた佐々木記者からの報告を受けて私は、「選対ではなく勝手連」と言う中島氏の説明に、少々腑に落ちない点を感じた。

 馬渡氏はあくまで「実務の責任者」だとするが、基本的にこうした選挙の選対の実務責任者は、お金の管理などを担う関係上、その選対で実権を握ることが多い。馬渡氏が「選対事務局長」の肩書きを持つことに変わりはないのである。

 こうした疑念について、佐々木記者が再度電話で取材を試みると、中島氏は「違います」と即答した。

中島氏「ここの事務所は全員ボランティアで、志を理解している人が集まっている。政策については細川氏が色んな人の声を聞いて決めたものを、私が責任をもって文字にしているということ」

 では、中島氏と馬渡氏を細川選対に招いた、木内孝胤氏は、どの程度実権を握っているのだろうか。

IWJ「木内孝胤氏も勝手連に入ってらっしゃるんですか?」

中島氏「もちろん、中心人物です。細川さんを担ぎあげるについて、主導的な役割を果たした方です。細川家と木内家はお親しいということもありますけれども、発案して、色んな人を口説いたりして、立てることになったと。

IWJ「では勝手連内の中核は、木内さんということですか?」

中島氏「そうです」

IWJ「誰かが実権を握ったり、選対内で上下関係がある、ということではないということですか?」

中島氏「全然ありません。確かに『長』というのを付けたのは馬渡氏だけなんです」

 やはり、公式に「長」としての肩書きをつけているのは、馬渡氏だけである。はんこも握っている。となれば、やはり、選対本部の「責任者」は実質、馬渡氏ということになるのではないか。

 「馬渡氏に『長』の肩書をつけているのは、なぜかというと、色々な契約をしたりする場合に、責任者が対外的に必要なので、そういうふうにしてあるだけで、全員ボランティアで、同格です。役割を分けて取り組んでいるというだけです」

IWJ「同格といっても、馬渡さんと木内さんとでは、イデオロギー的な隔たりもあるような感じがするのですが…」

中島氏「イデオロギーと言っても、この選挙の目的についてはまったく一緒ですよ。まったく一緒です。脱原発です」

IWJ「脱原発政策以外の部分でのイデオロギーの違いについては、細川さんが都知事になった後の運営において、まとまりがつかなくなるのではないでしょうか?」

中島氏「我々は別に都知事選後に都議会議員や都庁の職員になるということではないですから、終われば、細川さんの考えに従って腕をふるわれれば良いんじゃないでしょうか。

私どもが何か余計なことを言うということは全然ありませんよ。選挙が終われば一斉に手を引きますから。そういうのがボランティア選挙と言うんですよ。何か下心があってやるのをボランティア選挙とは言わないんです」

選挙で汗をかけば、大きな借りが生まれる、というのが政界の「平時」の「学識」だ。細川氏は、小泉氏やその配下に大きな「借り」を生んだとかんがえるのが「学識」だが、今回は「有事」なので、「平時」の「学識」は通じない、ということなのだろうか。

政策責任者は「国民の生活が第一」ポスター破りで書類送検の過去も

 最後に、中島氏自身の気になる過去について、話を聞いた。中島政希氏といえば、2012年10月に群馬県高崎市(群馬4区)の民家に貼られていた「国民の生活が第一」のポスター数枚を剥がし、器物損壊の疑いで書類送検された人物として知られる。

 当時衆院選を控え、群馬4区からの立候補に向けて動いていた三宅雪子氏からも「ポスターや看板などがたびたび撤去されるなどの被害に遭っている」との報告があがっていた。そんな中、ネット上で男性がポスターを剥がしている様子を撮影した写真が流れ、犯人が中島氏だということが判明したのだ。

▲中島氏が「国民の生活が第一」のポスターを剥がしている写真

 この中島氏が細川選対に加わっていることについて、当の三宅氏は1月21日に自身のTwitterで、「細川さんは事件は知らないと思います。知ってどうするかは私は関知しません。驚きましたけど。ご心配恐縮です」と呟いている。三宅氏は現在、細川氏支持を表明している。

 三宅氏は寛容である。それはそれで、ご本人の人徳であると思う。しかし、小沢氏と浅からぬ因縁のある人物が関わる細川陣営と、小沢・生活の党が足並みを揃えることは、本来ならば難しいことではないだろうか。

IWJ「昨日小沢さんが細川さん支持を表明してから、生活の党の、支持者たちが沸き立っています。その関連でちょっとおうかがいしたいのですが、中島さんは以前に国民の生活が第一のポスター数枚を剥がし、器物損壊の疑いで書類送検ということがありましたが…」

中島氏「そんなこともありましたね(苦笑)」

IWJ「これについてコメントをいただきたいのですが…」

中島氏「それはちょっとノーコメントで。私のことは全然関係ないんで、ボランティアとして手伝っているんで、そのことについて触れるつもりはないですし、それは『ためにする』発言になるんじゃないでしょうか」

 中島氏の語る「下心はない」「ボランティア選挙」「選対内部に上下関係はない」「選挙が終われば我々は一斉に手を引く」といった言葉は、ひとつひとつとても美しく響く。本当に全員が私心なく集まり、「脱原発」を実現するためのみに汗を流されているのだとしたら、なんとうるわしいことだと思う。

 だが、一方で冒頭に掲げたような極右的なブログを書き綴ってきた「小泉チルドレン」の一人が選対事務局長であることも事実であり、中島氏が「国民の生活が第一」のポスターをはがして回った「過去」をもつ人物であることも事実だ。何か、どうしても釈然としないものが残る。

 生活の党の関係者などから、「小沢さんは昨年の後半、中道左派の統一・連合に見切りをつけて、自民党を割る戦略に出た。今回の細川氏担げ出しで、自民党を割って、政界再編につなげる腹づもりだ」といった話を聞いた。だが、我々が目のあたりにしているのは、自民党ではなく、脱原発派が割れた、という現実である。少なくとも、今のところは、そうだ。

 しかも生活の党は「反消費税増税、脱原発、反TPP」を3本の本柱としてきた。実質的なTPPの国内化である特区構想を掲げる候補の支持を、さしたる議論も説明もなく決めてしまうのも、腑に落ちない。たしかに、政治は打算と妥協と、そして駆け引きで織りなされている。細川氏の支持者の中には、小沢氏は小泉氏を利用しようとしているのだ、と「解説」する人もいる。「脱原発を実現するためには、悪魔とも手を組む」などという表現で、小沢氏との「共闘」を肯定する人たちもいる。これまでの「政敵」と手を組む、ということも戦術として大いにあり得ることだろう。しかし、ちょっと立ち止まって考えてみよう。ということは同時に小泉氏側も小沢氏側や脱原発派の知識人・市民を利用しようとしているとも考えられる、ということだ。

 いったい利用しているのは誰で、利用されているのは誰か。どちらが損をし、得をしているのか。折りあいはどうつけられ、矛盾はどこにシワ寄せされるのだろうか。

 熱心な小沢氏の支持者や生活の党の支持者の中には、一生懸命、細川・小泉連合を応援している方々がいる。私の直接の知人も少なくない。皆、とても熱心でピュアな人たちだ。脱原発派の市民の方々も、同様である。その人達の「一途」な気持ちは痛いほどよくわかる。

 そうした方々は、この細川陣営の舞台裏についてはどれだけご存知なのだろうか。彼らの熱情が、利用されたり、裏切られたりすることはないだろうか。老婆心ながら、胸騒ぎを覚えてならない。

 不安や疑念を払拭するためにも、細川氏は討論会や会見、取材に積極的に応じ、説明を尽くすべきである、と思う。

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「【東京都知事選】殿を担ぐ異形の面々 〜細川陣営選対事務局長はタモガミ的な極右の「小泉チルドレン」、政策責任者は「小沢ポスター破り」で書類送検の過去」への2件のフィードバック

  1. hasimoto より:

    IWJのすごい取材力に感謝します。やはりこんな裏があったのですね。それにしても鎌田さん、河合さんなどが「細川支持」を表明されたのは腑に落ちません。

  2. 鎮守の森 より:

    日本人はムードに弱いです。私も。
    ムードに流されずに違った角度からみると、「騙し絵」みたいに、全く別な表情が見えるのですね。
    理解がゆっくりな私にもわかりやすい平易な文章で、「騙し絵」の解説をしてくださってありがとうございます。

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