「内閣からは、総括原価方式と地域独占に関わるな、と言われた」 ~東電臨時会見 敷土文夫取締役 所信表明 2014.1.15

記事公開日:2014.1.19取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

 東京電力の社外取締役である敷土文夫氏は「4月から取締役会長として、新総合特別事業計画(新総特)の実現に向け、指導、監督する」と語り、その要旨を説明した。

 質疑応答では、柏崎刈羽原発の再稼働、東京都知事選での細川・小泉元総理の「脱原発勢力」に対する質問が集中したが、敷土氏はあいまいに答えるにとどまった。また、会長就任に際して、内閣から『総括原価方式と地域独占には関わるな』との指示があったことを口にした。

 2014年1月15日19時から、東京都千代田区にある東京電力本店で、臨時会見「特別事業計画の変更の認定について」の第1部が開かれた。今年の4月1日より取締役会長に就任予定の、數土文夫氏が所信を表明した。

■全編動画

  • 出席者
    取締役 數土 文夫(すど ふみお)
    代表執行役社長 廣瀬 直己(ひろせ なおみ)
  • 日時 2014年1月15日(水)19:00~
  • 場所 東京電力本店(東京都千代田区)

敷土氏の「新総合特別事業計画」所信表明

 会見冒頭、數土氏が「下河辺会長の退任を受け、4月1日より、取締役会長に就任する。東電の存続が国民から許されたことを、肝に銘じて職務にあたる」などと決意を述べた。また、自分が策定に関わった、新総合特別事業計画(新総特)が政府に認定され、会長として、その実現を指導し、監督する旨を述べた。

 「第一に、新総特の基本的な枠組みの中で、福島復興のために、国、東電、金融機関が三者揃って、被災者の最後の1人まで賠償をやりぬく。そして、人、モノ、カネ、技術のすべてを動員し、廃炉、除染、復興に取り組んでいく」。

 次に、新総特の特徴について、「責任と共存を、両立させること。事故の責任を担うに足る経営基盤の確立。つまり、地域独占や総括原価方式を反省し、従来の経営手法や事業モデルを変える。グループ5万人で、緊張感、活力、創造力を共鳴させる経営の実践を目指す」とした。

 「第3は、人材だ。自分は鉄鋼会社にいて、競争が根本原理の中で、経営計画の遂行、合従連衡(がっしょうれんこう=状況に応じた駆け引き)の連続だったが、東電では『リスク回避が根本原理』になっていて、カルチャーショックを受けた。しかし、意欲と活力にあふれる多くの中堅若手とともに、人材を育て、彼らの能力をいかんなく発揮させる」。

 最後に數土氏は、ホールディングカンパニー制への移行に言及した。「メーカーの経営手法を徹底して導入、必要な合従連衡を実行していく。これにより、競争原理を発揮させ、燃料費の低減や、燃料効率をアップする。新サービスの導入、選択肢を広げる新たな電力ビジネスなどを目指していく」などと語り、質疑応答に移った。

原発再稼働について、明快な回答を避ける

 まず、朝日新聞の記者が、包括的アライアンスに対する思いと、その具体的な方法について質問。さらに、「今回の事業計画では、原発の再稼働が不可欠だが、今、東京都知事選で、細川護熙氏が小泉元首相とタックを組み、脱原発を訴えている。この影響をどうみるか」と訊いた。

 數土氏は、包括的アライアンスについて、「株主あるいは顧客のために、ライバルと手を組み、協力することは、当然あってもいい。国際的競争感覚を持たないとダメだ」と答え、都知事選については「ノーコメント」とした。

 日本経済新聞の記者は、下河辺会長の後任を受ける経緯と、今後3年間で、東電が必ずしなくてはいけない改革のポイントについて尋ねた。

 數土氏は「茂木経産大臣より強い要請を受け、当初は固辞したが、年末に受諾した。1月6日、取締役会で下河辺会長の退任が認められた」と話した。2つ目の質問には、「信なくば立たず。国民、株主の信頼を3年間で取り戻さなければならない。賠償と廃炉、安定供給の責任を果たす。この原点を社員に徹底して周知、事故処理と復興を加速させる。経営主導で再起を図る」と力を込めた。 

東電はプレイヤー。決められたルールの中で動く

 テレビ朝日の記者は、再稼働の審査基準について尋ね、さらに、「新潟の泉田知事などへの地元対策も、自分でやるのか」と質問した。數土氏は「安全に必死になり、追求する。これに経営のすべてを投入する」と答えた。同記者が「地元の十分な理解なくしては、成り立たないのでは」と重ねて問うと、敷土氏は「東京電力はプレイヤーであり、ルールメーカーやジャッジではない。ジャッジとルールメーカーは、国の所管。われわれは誠心誠意、安全に徹底的に取り組み、理解を得るしかない。これは、全取締役も同意していると思う」と述べた。

 ニコニコ動画の七尾氏が「都知事選に関して、小泉元首相が『これからの日本の発展を、原発ゼロで考えるか、原発推進で考えるか』と語った。數土氏は、どちらの考えで、東電の舵取りをするのか。そして、柏崎刈羽原発の再稼働を前提に収支計画をまとめているが、都知事選の結果によっては、見直しがあるのか」と訊いた。

 數土氏は「決められたルールとジャッジの中で、精一杯、誠心誠意やっていくだけ」と繰り返し、柏崎刈羽原発の稼働については、「ひとつの仮定として、収支計画を立案した」と答えた。

「総括原価方式と地域独占には関わるな!」

 フリージャーナリストの田中龍作氏は「総括原価方式の大胆な転換と言うが、これは電力会社の力の源泉。この財力で、政界を支配してきた。政治家も、このお金と組織で選挙を支えてもらい、両方が潤っている。ここにメスを入れると言っていたら、遠からず、新会長はハシゴをはずされ、惨めな辞め方をしなくてはならないのでは」と切り込んだ。

 數土氏は「もう、わたくしは、惨めな気持ちだ。ただし、覚悟は決めている。しかし、総括原価方式をやってきた結果、今の電力料金は、韓国の3倍、アメリカの2倍という高さだ。現内閣は、それを十分知っていて、私に対して『総括原価方式に関わるな、地域独占に関わるな』と言った」と、会長就任に際して、政府から釘を刺されたことを明かした。

 田中氏が「メスを入れるのか、入れないのか」とたたみ掛けると、數土氏は「メスを入れる」と即答。その後、「メスというより、ひとつひとつ着実にやっていく」と言い直した。田中氏は「それでは、身内からも政界からも、猛反対を食らう。嵌められますよ」と続けた。

 敷土氏は「ありがとうございます」と受け流した上で、「東京電力は、今まで15ある火力発電所の電力製造単価を開示していなかったが、これからは、コストを開示していきたい。企業秘密なので、社内で開示したのち、社外取締役に開示を」と話し出したが、司会者が「時間があまりない」と話をさえぎってしまった。

東電は免罪されたわけではない

 次に、TBSテレビの記者が、數土氏と廣瀬社長に「新総特を踏まえた上で、東電にとって、原発はどういう意味があるのか」と質問した。數土氏は「営利企業である以上は、コスト削減、合理化を追求しなければならない。それを理解してもらえるか、どうか」などと述べ、廣瀬氏は「少しでも安いお値段で、電力を安定供給するための、選択肢のひとつだ。オプションは多いほうがよい」と語った。

 福島民友新聞の記者は「先ほどの所信の中に『東電が国民から存在を許された』とあったが、それは『制度上、存続を認められた』ということで、原発事故の被災者に許されたわけではない。東電の改革に先立ち、新会長自らが被災者に会い、現状を把握する覚悟はあるのか」と問いかけた。

 數土氏は「そういう努力をしたい。『存在を許された』というのは、『免罪された』という意味ではない」と答えて、会見を終えた。

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