『核の傷』公開記念 肥田舜太郎氏講演会 2012.4.7

記事公開日:2012.4.7取材地: テキスト動画
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(IWJボランティアスタッフ・山村)

 2012年4月7日(土)、東京都渋谷区のアップリンクでの、映画『核の傷』公開を記念し、福島の事故後、日本各地での取材や講演に応え続けている肥田舜太郎医師が、予約者で満席となった観客の前で講演を行った。

■全編動画

  • 日時 2012年4月7日(土)
  • 場所 アップリンク(東京都渋谷区)

 肥田舜太郎医師(95歳)は戦後67年にわたり原爆被爆者の治療にあたり、現在問題になっている放射線による内部被曝を日本で最初に警告し、その危険性を訴えてきました。福島原発事故後は早くから政府に子供の疎開を訴え、現在の危機に対し緊急の提言を発しています。自らも広島の被爆者であり2012年現在では唯一存命の被爆医師であります。

 映画『核の傷 肥田舜太郎医師と内部被曝』は広島での被爆者治療を原点とする肥田医師のあゆみを追いながら原爆の脅威とその隠された戦後史を告発したドキュメンタリーです。仏監督のマーク・プティジャン氏は福島事故をTVで見たとき「肥田先生はまるでこの事故を予言していたようだった」と感じたそうです。映画はフランス、ロシア、カナダでTV放送されました。
 福島の事故後、日本各地での取材や講演に応え続けている肥田医師が渋谷アップリンクでの映画公開を記念し、予約者で満席となった観客の前で講演を行いました。

 28歳のとき広島原爆を体験し、直後より軍医として被爆者の治療に当たった肥田医師は、やけどの症状が過ぎてからも、はっきりとは原因がわからぬまま消えていく何百という命を目の当たりにしました。直接に原爆の熱線を受けていないのに瀕死となった兵隊の「ピカに遭っとらんけねー」の言葉。原爆を浴びた者もあとから広島に入った者も同じように異様な症状を出して死んでいく。原因がわからない、消えゆく命をどうすることも出来ない、医師にとってこれほど悲しく苦しいことはなかったと言います。戦後も被爆者が病名のつかぬ症状に長年苦しむ姿に疑問を抱き続けていた医師は、実に戦後30年を経た1975年、アメリカでE.スターングラス博士と出会い、体に入った放射線が長いことかけて体を壊していく、“内部被曝”のことを初めて知ります。

 アメリカは戦後、原爆のことも被爆者のことも全てを軍事機密としました。安保条約締結後の日本政府もアメリカに結託したため医者や学者も研究を禁じられ、被爆の実態は何ひとつ調査・研究がされず、真実は徹底して隠されてきました。日米両政府による原爆隠蔽史の影で被爆者の苦しみは続き、健康被害との因果関係の立証が難しい内部被曝については、長年無視され続けてきました。その間に日本列島には54基もの原発が林立し、そして昨年、未曾有の福島原発事故が起きたのです。

 「(被爆者の病状は)医者に行っても 調べても放射線の影響だということは絶対わかりません。医学的に証明ができない。だから同じ症状がこれだけ起こったという数で話をするしかないのです」という医師の言葉はそのまま、フクシマを生きてゆく私達の現実と重なります。

 内部被曝の実態を知る肥田医師は、これから数年して放射線による慢性症状が表れてくるだろう、日本中どこも安全ではないだろうと言います。体に入った放射線を取り除く方法も今日の医学ではわからない。避難することも、安全なものだけを食べることも限界がある。その上で今私達が出来る唯一のことは、“自分の責任で自分の命を生きること”だと言います。自分で健康を守り、自分で生活を改める。先祖から引き継いだ免疫を大切にして発病させない体を自分で作る。

 「あなたの命はあなただけのものなのです」。命と人権を見つめ続けた医師は言います。「ひとりひとりが覚悟して自分の命を懸命に生きる。被爆者もそうやって努力してきた。その一つしかない命を命がけで守ろうというのが民主主義運動であり、それはひとりひとりがやらなくてはなりません。今の日本にそれはありません。世の中を汚してきたのは皆さんなんです。だから皆で核兵器を無くす。皆で原発を全部止め、日本をきれいにする。世の中を良くしていくのは皆さんの肩にあるのです」

 肥田舜太郎医師、95歳。原爆投下後の戦いに身を捧げてこられたその瞳は柔和である。

 『私に課せられた使命として、自分の体験を死ぬまで語り続けていきたい』

 聞いてくれる人のところに行って話をするという肥田先生は「草の根」の力に希望を持っていると言います。

 “いのちが私を生きている”ふと思ったその感覚を今一度確かめながら、ひとりがひとりに伝えあう、草の根として私も力を出していきたいと思った。

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