【IWJウィークリー第6号】バブルがはじけたアベノミクス、その「正体」は、黒田日銀総裁の発したある言葉にあった![岩上安身のニュースのトリセツ(1/2)] 2013.6.13

記事公開日:2013.6.13 テキスト
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 1週間に起こった出来事の中から、IWJが取材したニュースをまとめて紹介する「IWJウィークリー」。ここでは、6月11日に発行した【IWJウィークリー第6号】から「岩上安身のニュースのトリセツ」の前半を一部公開します。

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はじけたアベノミクス・バブル

 2013年5月23日、それまで上昇一辺倒だった日経平均株価が、1000円以上急落しました。リーマンショック時を超える値下がり幅となったことで、大手マスコミも一斉に大きく報じたのでご存知のことだと思います。

 NHKは、市場関係者の話として、「このところの株価上昇が過熱気味だという警戒感が強まるなかで、中国で発表された製造業に関する経済指標が悪化したことをきっかけに、売りが売りを呼ぶ展開となり、株価が一気に急落した」と報道しました(※1)。

 その後、小幅に反発するも、5月30日には737円、6月3日と4日には2日続けて500円以上も下落。6日の終値は1万2,904円02銭と、約2カ月ぶりに1万3,000円を割り込み、5月22日のピークから2,000円以上急落しました。

 暴落の理由として、「中国の経済統計の悪化」「投資家の利食い売り」「米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和縮小の可能性」など、さまざまな憶測が飛び交っています。エコノミストらは、今回の急落は行き過ぎた株高の調整であり、株価はここから1万5,000円台を回復して、夏にかけて1万6,000円台に達するとの見方でおおむね一致しています(※2)。

(※1)2013年5月23日 NHK「日経平均下げ幅1,000円超す リーマンショック以来」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130523/t10014789031000.html(リンク切れ)

(※2)2013年5月24日 朝日新聞「株・金利、今後どう動く? アナリストの見方は」http://digital.asahi.com/articles/TKY201305230482.html(リンク切れ)

暴落するほど株価が高騰していたのはなぜか

 今回の問題の本質は、「なぜ急落したのか」ではなく、「なぜ急落するほど、株価が高騰していたのか」であると思います。

 その答えを探るにあたって、重要な出来事があります。それは、急落翌日の24日、衆議院財務金融委員会での、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁の以下の発言です。

「長期金利は、景気・物価への期待で決まる部分と、リスクプレミアム部分で決まってくるが、後者は日銀が年間50兆円を買い入れるオペが進むにつれ圧縮が強まるとみており、したがって長期金利が跳ね上がるとはみていない」(※3)

 この発言は、「リスクプレミアムの圧縮」という専門用語を使っているため、一般的には少し分かりにくい発言です。「リスクプレミアム」というのは、リスクを伴う投資に対して、投資家が求める上乗せ利益(=Premium)のことです。当然、リスクの大きな投資ほど、リスクプレミアムも大きくなります。この理解の上で、黒田総裁の発言を見なおしてみると、次のように言い換えることができるでしょう。

『国債は日銀が大量に買い支えるから、高い値段の割にリスクプレミアムは少なく、投資妙味はないですよ。だから、株や外債に投資した方が儲かりますよ』

 黒田総裁は、2013年3月の就任以来、「リスクプレミアムの圧縮」という言葉を頻繁に使用しています。2013年4月4日の金融政策決定会合後の記者会見で、「株式のリスクプレミアムに圧縮の余地がある」と述べています(※4)。これは、「日銀は株価をどんどん上げますよ」と言っているに等しい。また、2013年5月22日の会見で、日銀による巨額の国債買入れで「リスクプレミアムを圧縮する効果がある」とし、「買入れが進むにつれてその効果が強まっていく」とも述べています(※5)。

 黒田総裁は、このような発言を繰り返すことによって、結果的に投資家を株式市場へと誘導していったわけです。加えて、5月15日の参院予算委員会では、「(株式市場は)現時点ではバブルと考えていない」との認識を示しています(※6)。

 これら一連の日銀の行動は、投資家にとって「おいしい」ポジショントークになっていたと考えられます。つまり、昨今の株式市場の上昇は、日銀による『相場操縦』だと見なされてもおかしくない状況だったのです。

 黒田総裁は、「バブルではない」という言葉によって、自ら「バブルを生んだ」とも言えます。実体のない「バブル」は、まさに空虚な言葉によって生み出されるからです。いつから、日銀はトレーダーになったのでしょうか。

(※3)「長期金利が跳ね上がるとはみていない=日銀総裁」(2013年5月24日 ロイター)

(※4)「山崎元のマルチスコープ 黒田日銀の『目標株価』を推測する」(2013年4月10日 ダイヤモンドオンライン)

(※5)「金利上昇の説明に”苦慮”する黒田総裁」(2013年5月23日 東洋経済オンライン)

(※6)「株価上昇『バブルではない』、円安は当面の輸入物価上昇要因に=黒田日銀総裁」(2013年5月15日 ロイター)

株高円安の停滞から目を逸らせようとする安倍政権

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リストラを進めて利益を確保する大企業

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日用品の値上げに対して上がらない給料

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薬が大量に売れる社会を目指す安倍政権

 先にも触れましたが、6月5日に発表された「成長戦略 第3弾」の中身について、ここで紹介しておきたいと思います。

 子育て世帯支援や医療技術の輸出を中心とする第1弾(4月19日発表)、産業再編・設備投資の促進や農業活性化を中心とする第2弾(5月17日発表)に続く、成長戦略シリーズの最後を飾るのが今回の第3弾です。これらを取りまとめて、6月中旬に経済戦略を発表し、7月の参院選に臨む構えです。

 その中身を見て、正直、驚きを禁じ得ません。

 外国企業向け、外国人向けの優遇政策のオンパレードです。国内の大多数を占める中小企業や一般の日本国民(勤労者としても、消費者としても)を守ろう、育もう、励まそうという視点がほとんど見当たりません。

 今回、成長戦略の初めに来るのは、一般医薬品のネット販売「全面解禁」です。

 だいたい、医薬品の販売促進が、経済成長につながるという考え方自体にビックリせざるを得ません。一般医薬品(家庭用医薬品)とは、医師による処方箋を必要とせずに購入できる薬品であり、体調が優れないとか、頭痛や腹痛など、軽い症状の緩和に使われるのが通常です。

 経済成長の一環として医薬品を売るということは、医薬品が大量に売れる「病人だらけの社会」でも目指しているのでしょうか。そんな社会が、健全と言えるでしょうか。なるべく薬を使わずに健康的な生活を営める社会を目指すのが、普通の感覚ではないでしょうか。

 また、実際の問題として、「購入が便利になるから、明日から薬を2倍、3倍、購入しよう」という人間がいるでしょうか。経済成長策としても愚策です。

 一方で、薬品の承認を大幅に簡略化する「薬事法改正案(※20)」が5月24日に閣議決定されました。その後、今国会での成立を断念したことが明らかになりましたが(※21)、自民党は引き続き、次期国会での成立を目指しています。これは、新薬による国民の健康被害への配慮を後回しにして、医薬品メーカーをまずは儲けさせようとする政策ともとれます。

(※20)薬事法改正案:iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使った再生医療製品や、医療機器の承認について、審査手続きを簡素化し、早期の実用化を可能にする内容。

 再生医療製品について、医薬品や医療機器とは別に「再生医療等製品」を新たに定義し、審査手続きを設ける。安全性などが確認されれば、販売期間を限定し、販売先を専門医に限るなどの条件をつけて早期に承認できる仕組みを導入する。安全対策についても、使用成績に関する調査や感染症の定期報告などを行うことを義務づける。

 政府の成長戦略の柱となる医療機器については、民間の第三者機関による認証を拡大し、迅速な普及を図る。法改正に伴い、薬事法の名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保法」に変更する。
(2013年5月24日 読売新聞「薬事法改正案と再生医療新法案、閣議決定」より)
(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130524-OYT1T00446.htm 記事リンク切れ)

(※21)2013年6月7日 読売新聞「再生医療新法案、今国会の成立断念…政府・与党」(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130606-OYT1T01636.htm?from=ylist 記事リンク切れ)

外資と外国人を優遇するのが日本の成長!?

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日本でも起こり得るボリビアの「水戦争」

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「脱原発」の公約を反故にして、原発を推進する自民党

 そして、電力事業です。表向きは、電力小売りの自由化や発送電の分離、風力や地熱など再生可能エネルギーへの投資などが、提言には謳われています。今後10年間の関連投資額は30兆円規模になると見られています。

 一方、原発の扱いに関しては、安倍政権は民主党が掲げた「2030年代、原発ゼロ政策」を大幅に見直し、原発再稼働を参院選の公約にするなど、原発推進一辺倒に動いています。驚くべき節操のなさです。衆院選の前に福島県内で貼られた自民党のポスターには、第一の公約として「脱原発」が掲げられていました(pdf)。

 半年前の公約などどこにいったことか。再稼働だけでなく、あろうことか、事故を起こした福島第一原発の収束もできていないのに、原発輸出を産業の柱にしようと、安倍総理自らトルコやインドなどにトップセールスを重ねているのは周知の通りです。

 原発被害者への賠償負担にあえぐ東京電力は、2012年7月、政府による1兆円の出資により実質国有化され、2013年3月期は6,852億円の最終赤字となりました。電力会社10社の赤字合計額は1兆6,000億円にまで達しています。

 今後、原発事業に新たな民間投資を呼び込むのは難しいでしょう。安倍総理が掲げたように、「民間活力の爆発」を目指すならば、原発事故の収束にメスを入れ、原発を順次廃炉にし、脱原発依存のエネルギー戦略への転換を真剣に検討すべきではないでしょうか。どこかの原発の再度の「爆発」におびえながら、民間企業が自らのリスクで「爆発」的投資をするというのは、空想でしかないでしょう。


※つづきはこちら→【IWJウィークリー第6号】「復古主義」の仮面をかぶった「新自由主義経済」 ~トルコと日本の奇妙な共通項を岩上安身が分析![岩上安身のニュースのトリセツ(2/2)] 2013.6.13

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