元TBSワシントン支局長の山口敬之氏によるフリージャーナリスト伊藤詩織さんへの準強姦罪疑惑の問題が、国会を騒然とさせている。
2017年12月1日の衆議院法務委員会で、希望の党の柚木(ゆのき)道義議員が質疑に立ち、詩織さんの訴えをもとに、警察と検察の捜査プロセスの公正性や、検察審査会のブラックボックス化を追及し、法改正を求める提言を行った。
質疑にあたって、山口氏の逮捕執行中止命令を出したとされる中村格(いたる)警視庁刑事部長(当時)や、警察トップにある小此木八郎・国家公安委員長の出席と答弁が要求されていたが、両氏は出席しなかった。平木正洋最高裁刑事局長、林真琴法務省刑事局長は質疑に対して、「個別の事件の回答は差し控える」として明確な回答を行わなかった。
柚木議員は、警察と検察の捜査プロセス、さらに検察審査会の審議自体が「ブラックボックス」となっており、安倍政権が掲げる「開かれた司法」に反すると厳しく批判した。
フリージャーナリストの伊藤詩織さんは、2015年4月に元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から準強姦の被害を受けたと警察に被害届を提出、警察は捜査の上で逮捕状を裁判所から取得したが逮捕は見送りとなり、2016年7月には検察から不起訴処分を通達された。詩織さんは検察審査会に不服申し立てを行ったが2017年9月に「不起訴相当」の議決により退けられた。10月に事件の詳細をまとめた『Black Box』(文藝春秋社)(amazon)を出版し、大きな反撃を読んでいる。
▲『Black Box』
この日の委員会で柚木議員は詩織さんの著書『Black Box』などをもとに質問を行おうとしたが、平口洋法務委員長(自民党)は「一般人の個別の案件については議案として取り上げられない」と発言し、野党の委員が抗議、質疑が数分間中断されたうえで開始された。
再開後の質疑で柚木議員は、山口敬之氏への逮捕停止処分を指示したとされる警視庁の中村格(いたる)刑事部長(当時)が、当時、菅義偉官房長官の秘書官だったことや、山口氏が逮捕停止処分の二週間後に『総理』(amazon)という著作を出版するなど、安倍総理と密接な関係にあった経緯などを指摘。安倍総理が逮捕停止処分の報告を受けていたかどうかについて、中村氏に確認して報告すべきだと追及したが、中村氏の代わりに出席した大賀真一警察庁長官官房審議官は「個別の事件捜査にあたって総理等に報告することはない」と答弁した。
また、「不起訴相当」をくだした検察審査会の判断についても、審議内容に疑問が残るとして、詩織さんは、検察審査会自体がブラックボックス化していると指摘する。柚木議員は、「これでは検察の捜査プロセスの適正性について検証のしようがない」と厳しく批判し、審議内容の開示を求めたが、平木最高裁判所刑事局長、林法務省刑事局長は、「個別の事案についてはお答えできない」と具体的な説明を拒んだ。
午後の答弁で柚木議員が、性犯罪性暴力被害者支援制度の充実を求めたのに対し、松本文明内閣府副大臣は、被害者を医療・心理的に支援するワンストップ支援センターの整備を進めており、平成32年までに各都道府県に最低1ヵ所設置することを目標としており、来年度予算編成でも予算拡大に全力をあげたい、と答弁した。
希望の党・柚木道義議員が逮捕執行命令を出した中村刑事部長と国家公安委員長の出席を求めるも、両者は姿を現さず
柚木議員「大臣も所信で述べられました司法制度改革、その中でも検察審査会、まさに国民に開かれたある意味では国民の最後の砦となるべき審査会がブラックボックス化していることも含めて、いま超党派で、伊藤詩織さんについて準強姦罪疑惑で捜査がされましたがその捜査プロセスと検察プロセスの公正性、さらに検察審査会法の改正の提案も事細かに通告しております。その議論をしようと思います。
捜査プロセスについて、先の国会で性犯罪厳罰化法が改正され、これは評価できることも課題もあります。でも捜査プロセスが適正でなければ法改正しても何の意味もないじゃないですか。プロセスの公正性について警察の捜査責任者である国家公安委員長に今日、答弁要求をしました。
大臣の一般質疑は、民主党政権においても国家公安委員長は3回出席してるんですよ。なぜ今日は来ないんですか? そして逮捕寸前に成田空港で所轄の捜査員が張り込んでて、仕事でドイツに行っている詩織さんにも帰ってきてくれと連絡があって、実際に当時の被疑者の元TBS記者の山口さんが目の前を素通りした。なぜか? まさに当時の警視庁刑事部長の中村格(いたる)氏、今日要求もしておりますが、現在は内閣官房の総括審議官、別の人を登録しているじゃないですか。
▲柚木道義議員
ぜひ国家公安委員長、そして執行停止命令を出した当事者は中村格(いたる)さんですから、中村さんに聞かないとわからないんですよ。安倍総理や菅官房長官に報告していたのか。(中村格氏は)菅官房長官の元秘書官ですよね。そういうことを聞きたくてお願いをして、なぜここに出席していただけないんですか?委員長答えてください」
平口洋法務委員長「一般人の個別事案を議論できない」と頑なに山口氏の議題を牽制! 2度にわたり審議が中断!
平口洋法務委員長「個別の事案については…」
柚木議員「個別じゃなくて今日のテーマです。要求しているんです。なんでここに来れないのか? その理由を委員長に聞いているんです。委員長、答えてください」
(委員長を2人の理事が囲む。「理事会の協議事項ですから。そんなことを委員長に質問するのは不適切です」
と話しているのが聞こえる)
柚木議員「そんなにやましいんですか?」
平口委員長「まあ、あの、理事会の協議事項ですから、それを経てください」
▲平口洋委員長
柚木議員「記者さんたちの中でも、『モリカケ問題』、会計検査院の指摘も含めて隠蔽疑惑という状況にある中で、この詩織さんへの準強姦罪疑惑については、今日資料提出も含めて…あ、今日本を持ってきているんですが、本取ってきていいですか?
(伊藤詩織氏著『Black Box』と山口敬之氏著『総理』を取りに行く)
(自民党の古川禎久(よしひさ)理事らが委員長に耳打ちする。「『何とか詩織さん』という方のは個別の案件だから…」と聞こえる)
平口委員長「速記を止めてください」
(以後2分30秒ほど無音になる。委員長を3人が囲んで協議)
平口委員長「まあ、一般人の個別の事項の案件について議場で議論するのは、控えていただきたい、ということでございます」
柚木議員「ちょっと待ってください、委員長。これまでも一般人でいろんな事件をやってるじゃないですか。冤罪の事件とか散々やってるじゃないですか。
なんで山口さんだけ特別なんですか? 安倍総理のお友達だからですか? そういうことになっちゃいますよ。おかしいですよ。山口さんだけ特別扱いにするんですか? 納得できません。理事会にもちゃんと提案したじゃないですか。ほかの委員会でも認められているのにこの委員会だけだめなんですか? 開かれた司法じゃないんですか? 安倍政権は」
(「一時不再理が」など委員長を5人囲んで話し合いの声)
平口委員長「速記を止めてください」
(以後約4分間動画は無音に)
平口委員長「この委員会であくまで一般論として審議するということで、個別の人名を出したり、そういうことはふさわしくないと思いますので」
山尾志桜里理事「それはおかしいな。おかしいですよ」
柚木議員「全部事実書いてますよ。表にわざわざ」
平口委員長「審議続行してください」
柚木議員「どう続行するんですか?」
山尾志桜里議員「それはよくないと思いますよ。もう少し委員長の発言として、丁寧に言い換えていただいたほうがいいと思いますよ」
柚木議員「なんで認められないんですか? こういう本が出ているということだけですよ。もう質問に入りますよ。いやいやいや、捜査過程の適正について疑義があるからこれから説明するんですよ」
山尾志桜里議員「ちょっと包括的すぎますよ、今の采配の発言は。もう少し発言詰めたらいかがですか?」
柚木議員「そんなこと言ったら冤罪事件なんか何もできないじゃないか」
平口委員長「まあ、一般私人の具体名をあげたりするのは…」
他の議員「個別の刑事事件ですよ、これは!」
柚木議員が持ち込もうとしたパネルも持ち込み禁止に!
柚木議員「委員長、今紹介はいいと言われましたので。この本の中身なんて散々いうつもりは全くないんですよ。しかもパネルの写し最後のページですね。(資料めくる)このパネルが何でだめなんですか? パネルの写しと書いて理事会に資料提出しているのを与党の方チェックする方いるでしょ。なんでこれがそもそも認められないんですか?
そもそも今日国家公安委員長も来られないし、中村格(いたる)、当時『総理』という本を書かれた元被疑者を逮捕するのを、直前で執行停止命令を出した当時の警視庁刑事部長です。彼が認めてるんですよね。
この本にあるように。『報道からの、安倍総理あるいは菅官房長官のトップの意を受け、中止したかの問いに対し、中村格(いたる)警視庁刑事部長(当時)は『逮捕は必要ないと私が決裁した。当然だと思う。自分で判断した』と述べている』と書いてある。これが事実かどうか確認させていただきたかったんですよ。
そして、なぜ執行停止したのか。当時この被疑者であった『総理』という本を出版されている山口氏、(本を示し)この本の表紙写真は安倍総理の執務室ですからね。どれだけ身近な記者でいらっしゃるかということです。
▲『総理』
その方から報道した雑誌の記者に誤送信して、相手はおそらく北村内閣情報官だろうと思われる。『北村様 質問状が来ました。伊藤の件です。取り急ぎ転送します』。それでこの記者の名前が書いてあるんですね。
こういう本当に不透明極まりないやりとりがあって、逮捕直前ですよ。所轄の捜査員が成田に行っている。詩織さんにドイツから帰ってきてくれと連絡もいっている。
ところが上から今ストップがかかって、被疑者は目の前を通り過ぎて『我々は捜査から離れます』という連絡が、時の捜査員から詩織さんに直接かかってきてるわけですよね。
それ以降詩織さんは検察が不起訴にしたことに対して検察審査会に不服申立てと会見もしておられます。検察審査会も委員会もまさにブラックボックスになりますよ。そういうことを伊藤詩織さんは告発する本を書かれているんです。
(本を示して)今日警察庁から誰も来てないじゃないですか。聞けないじゃないですか。著名な方、有名な方であれば直前にストップがかかることがあるという前例があるのか。あるいは実際に中村刑事部長がストップをかけたのか。確認しようがないじゃないですか。
そういうことをやっているとまさに性犯罪厳罰法を改正しても実効性が失われるじゃないかと。そういうことを適正な捜査について国家公安委員長にご出席お願いしても、警察庁から誰もきていないから、警察捜査プロセスの公正性について誰にも聞けないんですよ。
今日呼んでますよ。要求もしています。文書でも通告していますよ。警察庁の連絡室にも直接やりとりしていますよ。確認してください、そんなことはそちらで。ちょっと、いい加減にしてくださいよ。