学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、「総理のご意向」などと記された文書の存在を本物であると認めた前川喜平・前文部科学事務次官が2017年5月25日、霞が関の弁護士会館で記者会見した。
加計学園は安倍総理の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務めている。困難とされていた獣医学部が突如、国家戦略特区で新設可能となった背景には、安倍総理の強い影響力があったのではないかと疑われているが、政府は頑として否定している。
菅義偉官房長官は同月17日の会見で、「総理のご意向」文書の存在について「怪文書みたいな文書だ。出どころも明確になっていない」などと批判。さらに25日には、文書を本物だと認めた前川氏について、「(文科省の天下り問題の際に)地位に恋々としがみついていた」などと個人攻撃に走っている。
▲記者会見する前川喜平・前文部科学事務次官
会見に臨んだ前川氏は改めて「文書は確実に存在していた」と主張。国会の証人喚問に応じる意思も示し、「これらの文書については、私が実際に在職中に共有していた文書です。これは確実に存在していました。文書を見つけるつもりがあれば、すぐ見つかるでしょう。複雑な調査方法を用いる必要はありません」と明言した。
IWJは記者会見終了後、同日5月25日の18時30分から録画配信をおこなった(この会見は生中継が許されていなかった)。その際に連投でツィートした実況をベースに、以下、会見の内容を掲載する。
- 日時 2017年5月25日(木)16:00~
- 場所 弁護士会館(東京都千代田区)
「文書はいずれも本物」――前川氏「文科省の事務方トップとして関わり、疑問を感じながら仕事をしてきた」
▲記者会見する前川氏(写真左)と代理人の三竿径彦(みさお・みちひこ)弁護士(写真右)
代理人・三竿径彦弁護士「文科省から出た文書の真偽が争われています。今日は本人から話す機会を設けさせていただきました」
前川喜平氏「国家戦略特区における今治市の獣医学部の新設について、私は文科省の事務方トップとして関わり、疑問を感じながら仕事をしてきました。
文書は確実に存在していました。私が発言することで文科省の中で混乱が生じるでしょう。『調査したが確認できなかった』と文科省は言っていますので、困った事態になるでしょう。後輩たちに迷惑をかけるのは申し訳ないが、あったことをなかったことにはできません。
文科省の8種類の文書については、昨年9月から10月にかけて、今治市の国家戦略特区の関係の課題について、私が文科省高等教育局専門教育課から相談・報告を受けた際に、専門教育課から受け取った文書に間違いありません。幹部間で共有された文書です。
文科省で再調査すれば存在が明らかになるはずです。内閣府から文科省に強く要請がきて、文科省は苦慮していたわけですが、大臣からも懸念が示されていました。『なぜ平成30年開学でなければならないのか』『与党間での議論も必要だ』と。内閣府からの資料には、『与党での議論は必要ない、総理の意向だ、平成30年開学だ』などと書かれています。いずれも本物であると申し上げることができます」
満たされなかった獣医学部新設の「4条件」――「文科省としては負いかねる責任を負わされた」
前川氏「今治市の国家戦略特区において、新しい獣医学部の新設に向け、新たな規制改革を行うかどうかについては、2015年からすでに検討課題にはなっていました。検討にあたっては、閣議決定された『日本再興戦略改定2015』というものがあります。この中で『4条件』が示されました。
(1)既存の獣医師養成ではない構想が具体化すること。(2)ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的な需要が明らかになること。(3)それらの需要について、既存の大学では対応困難なこと。(4)近年の獣医師の需給動向も考慮しつつ検討すること。この4条件で検討することが閣議決定で決まっていました。
しかし、今治市の場合、私はこの4条件に合致しているとは思えません。一度設置が決まれば、文科省は私学助成も行わなければいけません。設置認可は慎重に行わなければいけない。
獣医師の将来需要をはっきり見通ししてくれない限り、新学部の新設には踏み切れない決まりですが、結局、農水省も厚労省も将来需要は示してくれず、そんな中、特区による新設が認められてしまった。私は、文科省としては負いかねる責任を負わされたと思っています。農水省や厚労省などが責任を果たしていない中で、設置認可まできている。これは行政のあり方として問題です。
文科省は基準に則り、公平公正な審査をして結論を出してほしい。これ以上行政のあり方を歪めることはないようにしてほしいと思います」
国家戦略特区の獣医学部新設は今治市ありきだった!? 「関係者の中で暗黙の了解だったことは確か」
▲わずかなスペースに大勢の記者が詰めかけた
質疑応答へ。
記者「このやりとりは今治ありきだったとお感じになっていますか?」
前川氏「関係者の中で暗黙の了解だったことは確かです。口に出して『加計学園』とは言っていませんでしたが」
記者「国会で証人喚問があれば応じますか?」
前川氏「証人喚問されれば応じます」
TBS金平氏「前川さんは捨て身の告発をしたが、松野大臣は『辞めた人間の話にはコメントしない』と言っています」
前川氏「大臣含め、文科省の皆さんは本当に気の毒です。あるものをないと言わなければならず、できないことをできると言わなければいけない状況です。松野大臣のコメントに私から申し上げることはありません」
記者「このことで身の危険を感じたり、権力側の嫌がらせを受けることは?」
前川氏「嫌なことは起きますが、それが権力側の嫌がらせかはわかりません」
記者「文書を見た時の感想は?」