2012年10月17日(水)19時、大阪市北区の大阪弁護士会館において、「たたいてどうなる?今、大阪から生活保護を考える」と題するシンポジウムが開かれた。我が国における生活保護受給者数は、2011年7月末時点で約205万人、受給世帯が約148万6千世帯だったのが、2012年5月末時点では約211万人、受給世帯は約153万8千世帯にまで拡大し、過去最多となっている。一方で、生活保護受給者への「バッシング」が社会問題化している。このシンポジウムは、貧困問題や生活保護問題に取り組む市民団体などが組織する「反貧困全国キャラバン2012大阪実行委員会」による「反貧困キャラバンイベント」の第2弾として開催したもので、神戸女子大学教授の松崎喜良(きよし)氏ら有識者が登壇し、生活保護や、「バッシング」に関して、さまざまな問題提起を行った。
- 登壇 松崎喜良氏(神戸女子大学)、小久保哲郎氏(弁護士) 他
- 主催 反貧困全国キャラバン2012大阪実行委員会
◆松崎氏の講演(問題提起)要旨
松崎氏は、10年前まで大阪市のケースワーカーとして、31年間にわたって生活保護相談に携わってきた経験をもとに、大阪の生活保護を取り巻く問題点を詳しく解説した。冒頭、大阪市について、市民の17.5人に1人が生活保護を受給し、全国一の生活保護率を記録している自治体であることを説明した。さらに、「将来、大阪の問題は、大阪以外の全国の大都市にも共通してくるだろう」と予測した。
また、「貧困が増えているから生活保護が増える」とし、「貧困を減らすか、保護を圧殺するか。基本は、貧困にならないようにするのが国の使命である」と強調した。さらに、「憲法には、『国民は、健康で文化的な最低限度の生活をする権利を有する』とある。国民に貧困を与えてはならないのが行政の使命なのに、それを解決せずに無視するのは問題である」と批判した。
大阪で生活保護者が多い理由として、松崎氏は、大阪には中小企業が多い点や、商売人が多い都市である点を挙げたほか、大阪市による調査結果として、「年金受給者が多い」「失業率が高い」「離婚率が高い」「低所得者が多い」「高齢単身者が多い」などの点を要因として挙げた。また、大阪府の調査結果も紹介し、「所帯主の失業の割合が高い」「55歳以上の高年齢者が多い」「中高年齢者の失業者が多い」といった点を生活保護者が多い要因として挙げた。失業者ではなく、就業できている市民の状況についても、いわゆる「ワーキングプア」や、非正規雇用者が多い点を問題点として挙げた。
さらに、大阪において、「専門的な分野の企業は増えてきているものの、高齢の失業者は、それらの企業が求めている人材ではない」など、雇用のミスマッチの問題も挙げたほか、「地域社会の崩壊」も憂慮すべき要因として挙げ、景気悪化で大阪の街が全体として衰退したことにより、公営住宅などに空き部屋が多くなり、家賃の値下げや入居条件の緩和など、低所得者を受け入れる素地があることが、結果として生活保護者の増大につながっている要因であるとした。
生活保護政策が直面している財政問題にも言及した。大阪市の場合、一般会計の歳出に占める生活保護費が17%に達していることを紹介したほか、財政悪化による、ケースワーカーを取り巻く環境の悪化についても、問題点として紹介した。この中で、ケースワーカーは極端な人手不足であるとし、大阪市の場合、法的には1300人が必要なのに、実際は483人しかいないことを説明した。また、これにより、「安否確認や高齢者への親身な対応ができず、結局、お金だけを出すという状況になっている」と述べた。ケースワーカーに嘱託や非正規雇用者が多いことも問題視し、ある福祉事務所の例として、70人いるケースワーカーのうち、正規雇用者は35人、残りの35人は非正規雇用者であると説明した。さらに、仕事がハードすぎて、事務処理さえこなしきれていない現実のほか、孤独死の防止やアルコール依存者に寄り添うといった、本来行うべき業務に対応できないことを問題点として挙げた。
生活保護政策が果たすべき本来の役割については、「所得が低くても、地域社会の中で認められて、生活ができるようにするのが生活保護である」とし、それがうまく機能していないことを問題視した。特に、生活保護の申請で、門前払いが増えている現状に憂慮の念を示し、門前払いが問題視されるようになって以降、窓口が申請を「いったん受け付ける」対応をした上で、「働こうとしていない」との理由で、あとから却下している現状があることを紹介した。
親族・親戚など、扶養義務者がいないかを探す、「扶養照会」については、「扶養義務があったとしても、それぞれの世帯が収入減少で大変な状況である。家族関係が切れている人も増えている」と問題視した。さらに、「不正は、そんなに多くない」と語り、不正とされている事例についても、「ケースワーカーが事務をきちんとできておらず、生活実態をきちんと把握していないために、調査によって、生活実態と事務処理の間にギャップが見つかれば、『不正』とされてしまっている場合がある」と解説した。
その上で、「意図的に不正をやっているのはごくわずかで、全体の0.02%程度である」と述べたほか、「不正受給を抑止するために、大阪では警察OBを大量に雇い、億を超える人件費を掛けているが、人件費のほうが高くつくし、さほど効果がない」と語った。そして、「生活保護の敷居が高くなっている。『生活に困ったら福祉事務所へ』だったのが、『不正を発見したら福祉事務所へ』になってしまっている」と述べ、現状を嘆いた。
講演の終盤、松崎氏は、「生活保護を減らすのは簡単。貧困をなくすことである」と述べ、「働けば生活できる賃金を保障する、働けなくなったら社会保障を受けられるようにする、こういった根本的な対策をせずに、弱者を切り捨てていくと、地域や社会が沈滞化していく」と警鐘を鳴らした。そして、「働けるのに怠けているのではないか、という意見があるが、中高年には働く場所がない。働ける場所があれば、誰だって働きたい」と述べ、失業者の苦しい胸中をかばった。
意図的に不正をやっているのはごくわずかで、全体の0.02%程度である不正受給を抑止するために、大阪では警察OBを大量に雇い、億を超える人件費を掛けているが、人件費のほうが高くつくし、さほど効果がない。
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