7月28日発売の週刊新潮(2016年8月4日号)に、先週号の週刊文春の「淫交」疑惑記事の「続報」が掲載された。
先週の文春記事では、鳥越氏に「強引に」キスをされたという女性の夫が取材に応じていたが、当の女性には取材ができていなかった。新潮は、後追いの形で、当事者である女性の13年前の取材記録を載せたのである。
記事では、「被害者」とされているA子さんが、鳥越氏との関係について成り行きを細かく話している。
鳥越氏から「好きだ」と告白されたこと、A子さんは鳥越氏のことを「尊敬し、憧れていた」こと、食事に誘われた時に「何の疑いもなく2人で食事」をし、「その後、彼が一人で借りているマンションに行った」こと、「そのマンションでキスされた」こと。「すごくビックリし」たこと、「それからも『好きだ』と言われ続け」たこと、半月後に、鳥越氏に誘われて同氏の別荘へ2人きりで行き、一緒に寝たこと、「半ば強制的に全裸にさせられ」たことなど、生々しく描かれている。詳細は週刊新潮の本編と、岩上安身による分析記事を参照してほしい。
IWJでは今回、週刊新潮の記事内容について、仮に事実であれば鳥越氏にどのような法的責任が生じるか、仮に鳥越氏がいうように今件が事実無根で、裁判となった場合どういった展開が予想されるか、弁護士の落合洋司氏に話をうかがった。以下、インタビューの模様を全文掲載する。
▲落合洋司弁護士
――女性の証言が事実である場合、鳥越氏に法的な問題が生じますか?
「今回の新潮の記事は、文春よりも、女性本人に聞いている分だけ詳しい。前回の文春は、女性が当時付き合っていた彼氏(今の夫)の話が出ていた。今回は当時の状況の、よりディテールが詳しくなっている。ただ、どうも強制猥褻とか、強姦未遂とか、それはどうなのかなという気はしますね」
――2002年頃から鳥越氏から「好きだ」と言われ、アパートでキスをされ、その後、鳥越氏の別荘に二人で行っているとのことですね。
「別荘に行くことについては、相手が無理やり連れていかれたという状況にはない。強制猥褻や強姦未遂ということになれば、暴行や脅迫など、そういったものがないと犯罪にはならない。無理やり力を加えるとか、脅かすとか、そういった形跡は記事を読む限りでは特段、見当たらないですよね。その夜、強引に関係を迫ったという話は出ているけれども」
――「半ば強制的に全裸にさせられた」とありますが。
「ただ、全裸にさせられたといっても、そこらあたりのディテールは出ていないので。刑法上の犯罪行為にまでいくかという、ちょっとそこまではどうかと思いますね。書いている話の中身だけ見ていると、そういう印象ですね」
――男性は合意があったと思っても、女性は無理やりだったと感じている。こういう話はよくあると思うのですが、刑法上ではどう考えたらいいのでしょうか?
「性的なことは、お互いが積極的だったら何ら問題ないですけども、一方は強く求めて、一方はやや消極的な場合、しかしそれは往々にしてありがちなことでもあります。一方は強く迫り、一方は避けがちだった場合、だから即『違法なこと』になるかと言えば、そこは、むずかしい。相手がちょっとでも嫌だと言えば違法だという人もいます。ただ通常の紛争の場合、例えば裁判所が評価する場合に、相手がちょっとでも嫌がって、避けているという場合でも、即違法とみなされるとは限らないので。
ただ、もちろん刑法上の犯罪にならないから、何をやってもいいというわけにはなりませんから。民法的な不法行為になるかどうかという問題もあるわけであって。そこはなるかもしれないし、ならないかもしれない。グレーですね」
――鳥越氏の弁護団は、あくまで一方の証言だけであって、何の証拠もないと言っています。証言だけでは問題にはならないのでしょうか?
「文春の記事については、その後のやり取りしたメールがあるとかね。かなり時間が経った後に、鳥越氏が講演に出るときに、当時の彼氏が深くかかわる立場にあったので『(講演を)止めてくれ』と言ったりしている、そういう話などが出ていましたよね。
そういうのは一つの状況証拠というか、裏づけにはなりうるものだと思うんですよ。文春の記事は、そういった周辺記事というか、状況証拠的なところが出ていたんだけれども、今回の新潮の記事はそういうものが特段ない」
――13年前の証言をそのまま出しているだけのようですね。
「そう。鳥越氏に聞いたら『そんなことはない』と否定していたと。ようするに、お互いの話以上のものが特段、触れられていない。男性(A子さんの当時を恋人で、現在の夫)の話というのは出ていますけども、その程度しかないので。記事としてみた場合に、名誉棄損の判断基準としての真実性については、文春の記事よりも弱いと感じられます。女性の話はより具体的になっているんだけど、ただ女性の話を裏づけるものが、記事としては裏づけが弱いですから。
新潮は、文春の後追いだからかもしれないけれども、ダイレクトに証言を紹介していて、あとは皆さんの判断に任せます、と。名誉棄損で訴えられた場合、新潮がどこまでもつか」
――鳥越氏側の弁護団が発表した抗議文についてはいかがですか? 女性が被害にあったという2002年8月の日付が特定されていないので、鳥越氏側としてはアリバイも証明できないと抗議しています。
「名誉棄損が問題になった場合に、鳥越さんの方が『それは嘘だ』と立証する必要はないわけです。人の社会的評価を低下させた側である、今回だったら新潮の方が、『真実であるだけの相応の根拠を伴っているんだ』と立証しなければいけない問題です」
――では、今回の新潮の記事は、鳥越氏が主張する選挙妨害や、公職選挙法の「虚偽事項の公表罪」、名誉棄損などに抵触する可能性があると?
「結局、どれくらい根拠を伴って書いていたかが問題になりますから。あくまで記事を読んだ印象として、やはり文春よりは弱さを感じますよね。ただ、弱さは感じつつも、女性から直接話を聞いているのは、強さではありますよね。実際に体験したという人に話を聞いたのは。
その場にいたのは、鳥越さんと女性のふたりしかいなかったわけですから、ある意味では水掛け論じゃないですか。おそらく新潮がこれまでに書かなかったのは、男女の間柄のことだし、その場にいた一方は、被害を受けたと言い、一方はやっていないと言う。それでは水掛け論になっちゃうから、ちょっとこれは、記事を出した時に、裁判でどれだけもちこたえられるかという点で自信がなかったんじゃないですか。やっぱり公表に踏み切れなかったと。それで書かなかった。そういう経緯が推定されますよね」