2015年9月19日未明、集団的自衛権行使容認にもとづく安全保障関連法案が、参議院本会議で「可決」されてしまった。これまで、「専守防衛」に徹してきた日本の安全保障政策が、根本的な転換を迎えた瞬間だった。
その安保法制が2016年3月29日、施行日を迎えた。施行日当日、国会前には安保法制廃止を訴える3万7000人(主催者発表)の市民が押し寄せたが、安倍政権は市民の声を押し切る形で、自らの悲願である「集団的自衛権行使容認」の同法施行に踏み切った。
「敵国」から攻撃を受けた同盟国(主に米国)を防衛することを可能にする集団的自衛権。安倍政権は、この集団的自衛権行使容認にもとづく安保法制に関して、「抑止力を向上させるものだ」と一貫して説明してきた。
しかし、本当にそうなのだろうか? 安保法制、さらにはそれを定めた「日米新ガイドライン」によって、「日本全体が、米軍の巨大な兵站(へいたん)になる懸念がある」――。そう指摘するのは、憲法学が専門で、学習院大学教授の青井未帆氏である。
2015年4月27日に改定された「日米新ガイドライン」では、平時を含め、日本への武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」など、あらゆる段階における日米の調整の枠組みとして、「同盟調整メカニズム」(ACM)の常設化が取り決められた。
この「同盟調整メカニズム」内で、中核的な役割を果たすとされるのが、「軍軍間の調整所」だ。2015年8月11日、日本共産党・小池晃議員が国会で暴露した自衛隊統合幕僚監部の内部文書には、安保法案の成立を前提に、詳細な部隊運用計画が記載され、「軍軍間の調整所の設置」が明記されていた。中谷元・防衛大臣は国会で、「(軍軍間の調整所は)すでに存在している」と述べ、さらには「軍軍間」とは「自衛隊と米軍だ」と答え、自衛隊を「軍」と記していることを認めている。
具体的には、防衛省の地下に置かれる中央指揮所に、米軍幹部を常駐させること、また、在日米軍司令部のある横田基地には自衛隊幹部を派遣し、それぞれに「日米共同調整所」が設置されることなどが決まっている。
日本全体が「米軍の巨大な兵站」になる可能性は、現在行われている米大統領選予備選挙の趨勢からも、現実になりつつあることがうかがえる。
移民排斥や女性蔑視の暴言を繰り返しながらも、共和党指名候補争いのトップを独走するドナルド・トランプ氏は、3月26日の米紙「ニューヨーク・タイムズ」で、次のように述べた。
「米国が国力衰退の道を進めば、日韓の核兵器の保有を認める」――。
誰が「認めてくれ」と頼んだというのだろうか? 「認める」というよりも、これは「保有させる」という意思表明である。
トランプ氏の発言は、米国が自国の軍事負担を軽減するために、各国へ負担を押し付ける「リバランシング戦略」の一環として、「ニュークリア・シェアリング(核共有)」策を用いることを示したものである。
トランプ氏による「リバランシング」戦略の表明を、まるで先取りするかのように、3月18日、参議院議員予算委員会では、横畠裕介内閣法制局長官が次のような発言を行った。
「わが国を防衛するための必要最小限度のものに限られるが、憲法上あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているとは考えてない」
横畠内閣法制局長は、核兵器の使用が憲法違反に「あたらない」との見解を示したのだ。
要するに、「同盟調整メカニズム」や「リバランシング」によって、日米の軍事的一体化と、自衛隊の米軍への従属化がいっそう進むのではないか。青井氏は、2015年7月8日に私が行なったインタビューにおいて、次のような見解を述べた。
「今後、米軍と制服組が軍事上の観点から集団的自衛権を行使するかどうかを決め、内閣やNSC(国家安全保障会議)の決定は形式的なものになる可能性がある。実際には、自衛隊は米国とデータを共有しているので、事実上の指揮権が日本にあるとは考えられない。米軍の制服組を中心に決定されていくことになるのではないか」
自衛隊をめぐっては、現在、「シビリアン・コントロール」(文民統制)に関して、防衛省内で「背広組」と「制服組」との間に対立が生じている。2016年2月22日に共同通信が第一報を伝えたところによると、安保法制を初めて全面的に反映させる自衛隊最高レベルの作戦計画策定にあたり、防衛省内で「制服組」が「背広組」に対して、権限の大幅移譲を要求している。
※制服組自衛官が権限大幅移譲要求 防衛省、背広組は拒否(共同通信、2016年2月22日【URL】http://bit.ly/1Umxe9u)
インタビューでは、こうした「シビリアン・コントロール」の問題も含め、「同盟調整メカニズム」による自衛隊の米軍に対する「下請け化」「軍事的従属化」について、お話をうかがった。安倍政権が進めている「軍事国家化」とは、実のところその動きは軍事的な主権を喪失した、「鉄砲玉」化なのではないか。今後の日本の外交・安全保障政策について考えるうえで、必読のインタビューである。
冒頭、(その1)で維新の党(当時)の対案について論じているところは、今となっては少々間の抜けたものになっているかもしれない。一方、(その2)以降、「同盟調整メカニズム」について青井氏が論じているところは、今読みなおしても非常にアクチュアルである。ぜひ、最後まで読み通していただければと思う。
2015年7月8日、維新の党が対案を提出。維新案は「政府解釈」を前提としており、「武力攻撃危機事態」は個別的自衛権の範囲とは言い難い
▲学習院大学教授・青井未帆氏
岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。慌ただしくなってまいりました。いわゆる戦争法案(*1)の行方ですけれども、これまで賛否がくっきり分かれていました。ところが維新が対案を出すことになり、それをめぐって、非常に各方面で動きが慌ただしくなっております。また、この維新の対案をどう考えるのかという問題がでてきました。
維新案は合憲なのか、それとも違憲なのか。これまで自民党案、与党案を、違憲だと言っている人たちのなかでも考えが分かれているようです。そういうタイミングに大変ふさわしいお客様に今日はお越しいただいております。学習院大学法科大学院教授、青井未帆先生です。憲法学のご専攻です。青井先生、よろしくお願いいたします」
青井未帆氏(以下、青井・敬称略)「よろしくお願いします」
岩上「国民安保法制懇(*2)にも加わっておられ、一度記者会見などでご挨拶させていただきました。本日は大変な混乱のなか、先生もここへ来るまで、きっと大変な情報の収集をして、いろいろなものに目を通さなければならず、慌ただしい時期だったとは思うのですが」
青井「そうですね」
岩上「逆に言えば、大変よいタイミングでお越しいただけたと思っております。本日はよろしくお願いいたします」
青井「よろしくお願いいたします」
岩上「最初に、『維新の対案をめぐる動き』から始めたいと思います。みんな、これをどう考えたらいいだろうかと思っている。民主党もこれに乗るか乗らないかで、いったんは乗ると言い、それから乗らないと言う。二転三転しています。
民主党の枝野幸男(*3)さんによると、いったんこれを蹴った。しかし、代表同士が話し合って、『いや、やっぱり維新案に乗るよ』ということになり、共同提案することになったそうです。
でも国民はそもそもこの対案の中身が分かりませんし、分かったとしてもこれが合憲か、あるいは違憲か、スパッと判断するのは難しい。自民党案とはずいぶん違うということはだいたい分かるのですが、まずその内容からうかがいたいと思います。先生はこの案をざっとご覧になっているとお聞きしていますので、まずご解説いただきたいと思っております」
青井「この案に関して、まだ私も詳細までは読めていないのですが。これまで、世界で戦えるような自衛隊であってはいけなかった。だから自分たちの案ではそこを限定したのだと。こういうふれ込みといいますか、前提で出されたものなので、『地理的な限界』をつけ、また『存立危機』ということではなく、あくまでも日米同盟、日米安全保障条約に基づく活動への支援への対応だと、射程を限定しています。文言上そうであることは確かですね」
岩上「なるほど。前提をご存じない人のために申し上げておくと、与党案といいますか、自民党案、政府案というのは、この『地理的制限』を取っ払って、地球の裏側まででもアメリカについていくと。もしくはアメリカ以外の同盟国、それはNATO(*4)かもしれないし、イスラエルかもしれません。オーストラリアかもしれないし、どこか分かりません。
よく分からないけれども、よその国で自分と親しいと思われる国、あるいは向こう側がそう思っている国、そこがはっきりしないのですが、戦争が起こった場合には、日本が駆けつけなくてはいけないという案だった、これが政府案です。そこで維新案ではまずその点ですね、つまり『地理的な制限』を設けると。これは一つ大きい点ですね」
青井「これが維新案の特徴と言われていて、その点でこれは個別的自衛権の範囲内であるという合憲意見も出てきている。憲法学者のなかでもですね」
岩上「小林節(*5)先生とか」
青井「ええ、小林先生」
▲慶應義塾大学名誉教授・小林節氏
岩上「そうですよね。で、小林先生の話については、今度近々に私はインタビューをしますので、そこで直接お聞きしようと思っているのですけど」
青井「そうですね」
岩上「その前に確か明日だったと思うのですが、小林先生がFCCJ(*6)で会見をされるそうで、確か維新と一緒に会見をするという話がある。小林先生はご意見をどんどんお出しになっていくようです。青井先生は国民安保法制懇で小林先生とご一緒されていたわけですよね。小林先生はメンバーの方々に、『自分はこの維新の案に乗った、合憲だ』とはアナウンスされているのでしょうか」
青井「メーリングリスト上で、小林先生がそのような立場をお示しになったことは確かです」
岩上「これについては小林先生に直接お聞きするべきだし、お聞きいたします。しかし先取りでここでもちょっとお聞きしておきたいのですが、小林先生はなぜこの維新の案を良しとして、ここまで太鼓判を押して前へ進めようとお考えなのでしょうか」
青井「これは本当に、ご本人にお聞きするよりほかはないのですが、個別的自衛権の理屈の範囲内かあるいは範囲外かというところで言えば、小林先生、阪田雅裕(*7)先生、長谷部恭男(*8)先生につきましては『範囲内である』というご意見をお持ちになったています。なぜ範囲内だとお考えになるのかという点については、ご本人にお聞きしたいと思います」
岩上「なるほど。青井先生はまたちょっと違う考えをお持ちだと」
青井「そうですね。私はその見解には乗ることは全くできないですね」
岩上「青井先生は乗ることはできない。なるほど。
維新の対案ですが、内容としてはまず日米連携を基礎としている。日米同盟を基盤として、『武力攻撃危機事態(*9)』という概念を入れている。この武力攻撃危機事態という新しい概念が出てきます。この概念を設けたうえで、抑止力と対処能力は充実させ、しかしあくまで存立危機事態(*10)に基づく集団的自衛権行使を認めないとしているのが維新案です。
この存立危機事態という概念は非常に曖昧です。自分たちが攻撃されているわけではないんだけれども、なにかしら大変不利な状況、例えば石油が入ってこない場合なども含めて集団的自衛権行使ができる。そう言ってしまったらそれはなんでもできるという話になりかねない。こうしたことは以前から言われていて、批判されていました。
対して、維新案の武力攻撃危機事態という概念は、これまでの存立危機事態という概念とは異なり、より明確に日本、あるいはその同盟国が攻撃されているということに対し、集団的自衛権を行使するのかしないのか――実はこのあたり僕らもちょっとよく分からないのですが――つまり個別的自衛権の話だけに完全に終始しているのか、それとも同盟国が攻撃された時、例えば米艦船が攻撃された時には、日本の自衛隊も駆けつけるのか、そのへんがよくわからないのです。そのあたりについては、青井さんはどのようにお考えですか」
青井「2014年7月1日の閣議決定(*11)でも、憲法9条のもとでの自衛措置として行使できるという説明の後に、『国際法上は集団的自衛権の行使と理解されるものもある』と言うにとどまっています。集団的自衛権を行使するか否かというのは、基本的には国際法のお話ですから。国内法でどこまでが自衛の措置としてできるかという議論とはもともと位相が違う。
今回、維新の党は個別的自衛権で読んでいこうと説明しているようですが、これまでのわが国の定義からすると、他国防衛か否かで個別的自衛権と集団的自衛権とは分かれますので、日本に対する武力攻撃がない時点で反撃するというのは、国際法上は集団的自衛権にあたるだろうと思います。水島朝穂(*12)先生も指摘されているように、武力行使の要件については自衛隊法88条(*13)」
岩上「自衛隊法なんですね」
青井「そうですね。自衛隊法76条(*14)で防衛出動が下令されて、次に自衛隊法88条で武力行使ができるわけですが、武力行使できるのはあくまでも武力攻撃があったときであると。そういうこれまでの枠組みは変えていない。このことから、やっぱり個別的自衛権の範囲には入っておらず、集団的自衛権なのではないのかと。これはこれまでの議論を前提としても、個別的自衛権の範囲内とはちょっと言い難いことになります」
▲早稲田大学教授・水島朝穂氏
岩上「なるほど。昨日の今日ぐらいの話ですから、よくまあ、こんな200ページにもわたる大部の本を用意できたなと。どこの誰が考えたんだろうと、そんなことも言われていますが、これに対してスピーディに反応され、昨日おとといぐらいまでの時点で持論を示されたのは、合憲論としては小林先生、そして違憲論としては水島先生ですね」
青井「そうですね」
岩上「どちらかというと、青井先生は水島先生の言っていることに近い?」
青井「はい。水島先生がおっしゃるように、元々政府解釈として内閣の憲法解釈が示され、それに対して国会が憲法解釈をどうするのかが問われているわけですから、これは政府の解釈を前提にしつつ限定にすると。政府の憲法解釈を認めていることになってしまう」
岩上「維新の対案のなかには、昨年7月1日の閣議決定は無効である、集団的自衛権の行使は認められない、個別的自衛権のみである、という文言は入ってないのですね?」
青井「そうですね」
岩上「入っていない」
青井「わたくしの理解しているところではそうですね。読み落としているかもしれませんけれど」
岩上「詳細にではないかもしれない・・・」
青井「詳細にではないのですが、そもそもその文言は入れることができないのじゃないかなと。つまり集団的自衛権として、自衛の措置として、行使するか否かというのは、概念そのものとしては国際法上のお話ですよね。
個別的自衛権云々と法律でいくら書いたところで、あとから『国際法違反じゃないか』と言われてしまったら、それこそ国際法違反なわけですから。つまりその文言が入っていたとしても、それはあまり有効ではないのではないか。
仮に明文で規定が入っていたとしても、後ほど国際法との適合性が争われた時に、『いや、うちは国内法でこう書いてあるから』と言ってもそれは通用しないわけなので。仮にその規定が入っていたとしても、有効性は疑問です」
岩上「憲法には9条が書かれてあり、そしてその憲法解釈を政府が去年の7月1日に閣議で変えてしまったわけですよね。この政府の解釈自体がおかしいという申し立てを国会がする、あるいは国民がする。なんとかできないものかと、そう思っている人はいっぱいいると思うんです。そもそも解釈の仕方自体が違憲だと、こういうことは言えないんですか?」
青井「私はそういう立場なんです」
岩上「そうですよね。それで、その歯止めを明確にすることはできないのでしょうか? こういう対抗案を出すことではできないんですね」
青井「あれは内閣の解釈であって、今は国会の解釈が問われている。仮に内閣の解釈がおかしいということであるならば、絶対にいじってはいけないと思います。改正してはいけない」
岩上「いじらない?」
青井「自衛隊法などを改正してはいけないということですね。今の時点で改正してしまうなら、それで限定をかけたと言うのであれば、それは去年の内閣の政府解釈をとりあえず飲んだうえで限定するという理屈になります」
岩上「そうなんですね」
青井「だから政府の去年の解釈がおかしいと言うのであれば、徹底的に批判をし、改正をさせないということが一番筋が通っているはずです。そうだとすると、いくら内閣が自分たちだけで、憲法に適合しています、という解釈をしたところで、それを具体化できない、ならばそれは封ずることができますよね。
でも維新の党の対案、これをしちゃったら、それこそ水島先生もおっしゃっているように、基本的には政府の解釈にのっとって文言、条文の解釈をするということになりますので、ある意味でお墨付きを与えたことにもなりかねない」
岩上「なるほど。それじゃあここは廃案にして、そしてとうとう解釈は変えたけれども、この安倍内閣というのはちょっとイレギュラーな内閣で、そんなことを言ったけれども、結局国民は支持せず法案は流れましたと、そしてそういう責任を取って内閣に総辞職してもらって、選挙をやってやり直してもらって、別の内閣が『いや、あれは解釈間違っていました』と。そう次の内閣が言えば、『もう一回出直しましょう』ということになる」
青井「ええ。それが一番シンプルでいいと私は思いますけど」
岩上「そうなって改めて例えば個別的自衛権強化のため、従来の解釈のもとにこうしたことを論ずるというのであれば、また違ってくる」
青井「そうですね。従来の解釈からは、他国防衛か自国防衛かというところで線を引いている以上無理だと思うんですね」
岩上「やっぱり、それが入っちゃっているんですね」
青井「そうですね。だから、いま二重の意味でおかしいと言いますか。まず政府解釈を前提とする点でおかしいですし、これまでの政府解釈との整合性の意味でもかなり厳しい。というか、もう無理じゃないかと思いますが、人によっては個別的自衛権の拡大の範囲内だ、という人は出てくるでしょうね」
岩上「『領域警備法を制定してわが国の領土・領空・領海を徹底的に守る』。聞こえはいいですよね。それで『現行の周辺事態法を維持し、安保条約に基づく日米連携強化、自衛隊を地球の裏側まで派遣させない』と。これだけ聞いていると、まあいいじゃないかと思うんですけど。でもやっぱりこのなかには、字面、表には出てこない点、つまり結局は他国防衛ですよ、という話が潜んじゃっているような状態にあるということですかね。もうちょっと続きを見ますね」
(※1)戦争法案:第2次安倍改造内閣が進めている集団的自衛権の行使容認についての法案を、「戦争を可能にする法案」という意味で解釈した際の呼称。とりわけ、社民党の参議院議員・福島みずほが用いている。福島みずほ議員は公式ブログの2015年4月19日付け記事で、同月1日の参議院予算委員会で「戦争法案」という語句を用いて質問を行ったことについて、同月17日に表現の修正を求められたと述べている(参照:Weblio 新時事用語【URL】http://bit.ly/1Pph7qC)。
(※2)国民安保法制懇:2014年5月、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」、いわゆる「安保法制懇」が「限定的に集団的自衛権を行使することは許される」として、憲法解釈の変更を求める提言を安倍首相に提出した。これを批判することを主たる目的として、大学教授や弁護士、政治家などが集結し、国民安保法制懇設立委員(国民安保法制懇)が発足した。
青井氏以外のメンバーは以下のとおり。愛敬浩二(名古屋大学教授、憲法)、伊勢崎賢治(東京外国語大学教授、平和構築・紛争予防)、伊藤真(法学館憲法研究所所長、弁護士)、大森政輔(元第58代内閣法制局長官)、小林節(慶応大学名誉教授、憲法)、長谷部恭男(早稲田大学教授、憲法)、樋口陽一(東大名誉教授、憲法)、孫崎享(元防衛大学校教授、元外務省情報局長)、最上敏樹(早稲田大学教授、国際法)、柳澤協二(元防衛省防衛研究所長・元内閣官房副長官補)(参考:国民安保法制懇【URL】http://bit.ly/1Skb3x7)。
(※3)枝野幸男:民主党所属の衆議院議員、民主党幹事長。民主党政権時は、予算委員会等の答弁で、内閣法制局長官に代わって、憲法及び法律解釈も担当した。
憲法9条の改正については、2013年9月10日、民主党憲法総合調査会長時代に、改正私案を発表している。
自衛権行使の要件を明文化した条項を9条に追加し、憲法解釈の幅を極力狭めることで、無原則な軍拡に歯止めをかける必要性を打ち出した。「時の内閣の判断で憲法解釈を変更できる可能性がある」ことが現行憲法の最大の問題だと指摘している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1O4QELH)。
(※4)NATO:North Atlantic Treaty Organizationの略称、北大西洋条約機構。北大西洋条約に基づき、アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ(=アメリカ合衆国とカナダ)およびヨーロッパ諸国によって結成された軍事同盟。2010年時点で28カ国が加盟している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1JTE0NP)。
(※5)小林節:法学者、弁護士。専門は憲法学。慶應義塾大学名誉教授。青井氏とともに、国民安保法制懇にも参加している。IWJは数多くの小林氏の講演などを報道してきたほか、岩上安身がインタビューを行ってきた。本インタビューの8日後、与党による安全保障関連法案の強行採決が行われた翌日の7月16日(木)にも岩上安身によるインタビューの模様が実況された。
同法案で小林氏はいわゆる「戦争法案」が成立し、海外派兵が可能になると国民は常に戦争の脅威と隣り合わせになるため、その苦痛は「生存権の侵害」にあたるとし、各界の有名人・大物100人を集め、1000人の弁護団を結成して損害賠償請求をする、という戦略を語った。小林氏は、「裁判でケリをつけようとは思っていません。何より重要なのは政権交代です」とも岩上安身に語った。
(※6)FCCJ:The Foreign Correspondents’ Club of Japanの略称、日本外国特派員協会。日本の大手マスコミの記者ではなく、外国人記者が会員の多くを占めることから、日本の大手メディアにおけるタブー、あるいはそれにまつわる通常は躊躇されるような質問も多く行われる。本文中に登場するように、この翌日、維新の党による記者会見が行われた。維新案を審査し、「合憲」だと判断した小林氏が会見に同席。IWJがその模様を取材・中継した(参考:FCCJ【URL】http://www.fccj.or.jp/)(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1PDlGfs)。
・2015/07/09 維新案も「違憲」との憲法学者の指摘に小林節氏「維新案をまっすぐ見て評価を」 昨年の政府閣議決定について維新・松野代表「違憲か合憲かの論評ありえない」 IWJの質問に(【URL】http://bit.ly/1WKOrs0)
(※7)阪田雅裕:大蔵省を経て、第61代内閣法制局長官などを歴任した。現在は弁護士。『「法の番人」内閣法制局の矜持』を出版しているほか、集団的自衛権についてたびたびメディアなどで発言している。
IWJでも2013年から阪田氏の参加するシンポジウムなどについて中継しているほか、2013年9月18日には岩上安身がインタビューを行なった。同インタビューで阪田氏は、憲法解釈の変更が、時の政権の恣意的な判断で行われることを中心に、安倍政権の集団的自衛権についてのスタンスを批判した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1MLvXRE)。
(※8)長谷部恭男:早稲田大学法学学術院教授。専門は公法学、憲法学。国際憲法学会(IACL)副会長、過去に、学習院大学教授、東京大学教授等を歴任してきた。「国民安保法制懇」のメンバー。著書に『憲法とは何か』(岩波新書)、『法とは何か』(河出書房新社)、『憲法と平和を問い直す』(ちくま新書)などがある。
IWJでは、2015年6月26日に岩上安身によるインタビューを配信した。
インタビューで長谷部氏は、安倍政権が推し進める安全保障関連法案を「違憲」としたうえで、外交・安全保障両方の観点から批判した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1O4TY9G)。
(※9)武力攻撃危機事態:2015年7月1日、維新の党は安全保障調査会を衆院議員会館で開き、安全保障関連法案の対案を修正した。修正案は「自国防衛」が法律の目的であることを明確にするよう求めた橋下徹最高顧問氏の主張を反映させた内容となっている(時事通信、2015年7月1日【URL】http://bit.ly/1PpxfZ8)。
(※10)存立危機事態:2014年7月の閣議決定では、集団的自衛権行使の前提条件として新3要件が示された。存立危機事態はこのうちのひとつで、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とされる(参照:コトバンク【URL】http://bit.ly/1QwD1aI)。
(※11)2014年7月1日の閣議決定:第2次安倍内閣において、集団的自衛権を限定的に行使できるという、憲法解釈を変更する閣議決定がなされた。この閣議決定によれば、日本における集団的自衛権行使の要件が挙げられ、日本に対する武力攻撃または日本と密接な関係にある国に対する武力攻撃と、それによる国民への危険、これに加えて集団的自衛権行使以外に方法がない場合、必要最小限度の実力行使ができる。解釈変更の動機について安倍総理は「紛争中の外国から避難する邦人を乗せた米輸送艦を自衛隊が守れるようにする」と説明した。
また、菅義偉内閣官房長官は「新三要件を満たせば、中東ペルシア湾のホルムズ海峡で機雷除去が可能だ」とし、「原油を輸送する重要な航路に機雷がまかれれば、国民生活にとって死活的な問題になる」と語った。
さらに2014年7月14日の国会答弁で、安倍総理は「世界的な石油の供給不足が生じて国民生活に死活的な影響が生じ、わが国の存立が脅かされる事態は生じ得る」と語り、エネルギー問題での行使が含まれるかのような発言をしている。
集団的自衛権の行使を容認した閣議決定の無効を求める裁判が起こされたが、2015年7月29日、最高裁判所は訴えを却下。行使を容認する政府解釈は、内閣法制局で1日しか審議されずに通過している(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1RPRNYx)。
(※12)水島朝穂:早稲田大学法学学術院教授。専門は憲法学。リンク先のホームページの記事で現在の法改正案の問題について述べている。同記事で水島氏は、「7・1閣議決定」を受けた改正法案では、自衛隊法76条により防衛出動ができる場合として、「存立危機事態」を加えているが、改正法案では自衛隊法88条の改正をしておらず、現行の88条のままであり、76条1項の「存立危機事態」による防衛出動において88条1項の武力行使がどこまでできるかは、「政府の憲法解釈」によって決まることになっている、と解説した(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1MCfyTQ)(参考:水島朝穂ホームページ【URL】http://bit.ly/1U7Eum0)。
IWJではこれまで、岩上安身による水島氏へのインタビューを3回にわたり配信している。
(※13)自衛隊法88条:自衛隊は防衛出動時には自衛隊法88条に基づき、「わが国を防衛するため、必要な武力を行使」できる。一方、防衛出動以外の行動においては、自衛隊であっても、警察官職務執行法を準用した武器使用が認められるにとどまる。防衛出動以外の行動については、「軍服を着た警察官」としての行動であるのに対し、防衛出動は侵略行為への対処が目的であることによる(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1NsoUOf)。
(※14)自衛隊法76条:自衛隊法第6章「自衛隊の行動」のうち第76条には、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態、または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至る事態に際し、日本を防衛する必要があると認める場合には、内閣総理大臣の命により、自衛隊の一部または全部が出動できることが規定されている。ただし、戦時国際法上の宣戦布告には該当せず、自衛権を行使することはできても、交戦権は認められない(参照:Wikipedia【URL】http://bit.ly/1NsoUOf)。