【ドキュメント台湾国会占拠(6)】「流血」の強制排除から一夜明け 〜高まる馬政権への反感、立法院は占拠続く 2014.3.25

記事公開日:2014.3.25取材地: | テキスト動画
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(取材:原佑介、林(現地)、岩上安身、須原拓磨・記事構成:佐々木隼也)

 3月18日夜から続いている台湾・立法院(国会)占拠と数万人規模の抗議行動。23日夜には、国会を占拠するグループとは別の市民らが、行政院を占拠した。立法院周辺にいた抗議者らも集結し、8000人以上が行政院敷地内で夜通し抗議を続けた。

 そんな中、馬英九政権側は即座に警察による「法的措置」を決定。数回にわたる強制排除を行った。動員された2000人の警官隊は半ば強引に市民を排除しながら、最後は放水車を使用して行政院での抗議を鎮圧した。この強制排除により、63人が逮捕され、100人以上が負傷した。

 IWJではこの行政院の強制排除の模様を、現地の協力者とコンタクトを取りながら、リアルタイムで報じ続けた。また現場からも原記者が、行政院の中の様子を取材し続けた。

 一夜明けた24日、台湾のネット上では警官隊の「暴力的」な強制排除の模様を映した写真、動画が多数アップされ、政権側への批判の声が高まっている。立法院で依然として占拠を続けている学生らも記者会見を開き、「流血の責任は馬政権にある」とし、新たに台湾全土でのストライキや大学の授業ボイコットなどを呼びかけた。

 流血の強制排除の模様から、一夜明けた24日の動きまで、原記者の現地報告とともに、以下、ドキュメントで掲載したい。 ※20日〜23日の抗議の模様や、国会占拠の背景などはこちら

3月24日未明 行政院強制排除

▲始まった強制排除

▲一人ひとり引き剥がされる市民

 現地時間深夜2時(日本時間深夜3時)、警察は本格的な強制排除を開始した。台湾メディアのカメラや市民による動画撮影の目にも関わらず、警官隊は警棒と盾を使い、半ば乱暴に抗議者らをごぼう抜きにしていった。市民との小競り合いがヒートアップし、血を流し倒れ込む抗議者の姿も映しだされた。

 原記者のいた付近では、数千人もの市民が敷地内と外を自由に出入りし、みなリラックスした様子で深夜までスピーチやシュプレヒコールを繰り返していた。多くの報道関係者がその模様を取材していた。

 やがてこのエリアにも警官隊が強制排除を執行。現場は一転騒然となった。 

 放水銃を抗議者に浴びせかける様子や、その後も続いた警官隊との激しい衝突の模様は、以下の台湾NGOの記事から見ることができる。【URL】

24日 強制排除から一夜明けて 立法院占拠は継続中

 行政院の占拠は一夜にして鎮圧されたが、立法院の占拠は継続して続けられた。立法院の占拠を支持していた人の中でも、行政院の占拠はやり過ぎだ、という声もあるという。今回の行政院の占拠が今後の展開にどのような影響を与えるのか。

 行政院の強制排除を指示した江行政院長(首相)は24日、記者会見で「昨日起きたことは、警察力によるデモの圧殺ではない」と述べ、「抗議者たちは、行政機能を麻痺させようとした」と強調。その一方で、立法院の占拠については「リーダーにより秩序が保たれている。対話のドアは開いている」と明らかに軟化した態度を見せた。その理由として、「強制排除が予想以上に国民の反感を買っているからではないか」と、台湾メディアは報じている。

 立法院を占拠する学生らは、午前9時半に記者会見を開催。「流血の責任は馬総統にある」と厳しく批判を展開し、あらためて「サービス貿易協定」の撤回と再審議を求めた。

 以下、記者会見の内容と、記者との主なやり取りを掲載したい。

1:学生運動に、たとえ異なる意見があろうと、みんなが要求する理念は一致している。
2:(昨夜の行政院突入のような)コントロールできない事態は、馬政府に最大の責任がある。
3:落ち着き穏やかさを持ち続けることだけが、勝利への可能性である。
4:完全にサービス貿易協定に反対しているのではない。国会で直接審議し、民衆が直接的に参加できる「両岸サービス貿易協議」の再審議を求める。
5:立法院にいる学生リーダー林氏「行政院への突入に関して、陰謀などという質問がありますが、私は、その質問に意義はないと感じます。いま、聞くべきことは、これらの不満に、馬政府は、どのように向き合うべきか?
 私はこれこそが、ポイントだと思っています」
(以下、記者とのやり取り)
6:記者「民衆から、ここ(立法院)を占拠することは、国民の税金の無駄遣いだという疑問も出ているが?」
 林氏「ひとつも、正常に民主を監督する効能も発揮できない国会こそ、税金の無駄づかいです。」
7. 行政院副秘書が、事務所内の太陽餅(台中市の銘菓)を食べられたと発表しましたが?」
 林氏「これらの行為は、私達は一切何も支持などしていません。もし本当にこのようなことが発生したのなら、警察に通報されてもよろしいですし、訴えてもらっても構いません」

 記者の攻撃的な質問に、ネット上では多くの批判の声があがっている。最後の「太陽餅」の件については、怒ったネットユーザーが行政院副秘書長宛に太陽餅1000個(150箱)を送りつけた。送りつけた人物は、「そんなに食いたかったんだろ? ならこれでいいだろ。食い足りたか?」と話したという。

 この日も、台湾各地で大規模な抗議行動が続けられた。現在までに台湾の大学24校が、国会占拠を続ける学生らを支持する声明を「大学として」発表。その他11校も、授業を休講するなどして抗議参加を促すなど、行政院の強制排除を受けて、台湾国民の世論は、より「抗議の継続」に傾きつつある。

【原記者報告】24日 立法院前

▲占拠されている立法院・議場 3月24日 午後8時頃

 台湾行政院の占拠から一夜明けた3月24日。学生を中心とした市民による立法院の占拠は続いている。

 立法院敷地内で座り込む桃園県・中原大学の学生は、座り込みに参加する理由について、「台中サービス貿易協定のプロセスが不透明で、正当な手順を踏んでいないからだ」と話す。中原大学の学長は、占拠に反対の立場だというが、インタビューに応えた学生は、授業を休んで座り込みに参加していた。

 昨夜の行政院占拠については、「僕も占拠に参加しましたが、昨日の政府の手段は間違っていると思う。警察に学生たちを排除させたやり方は酷い」と馬政権による「法的措置」を非難。「昨日の占拠がやり過ぎだと思っている人は、学生の暴力的な一面だけを強調するニュースを見て、マスコミに影響されているのだと思う」と指摘し、「昨日の占拠は少しやり過ぎだったとは思うが、あれで多くの人の目を覚ますことができたら意義があると思う」と述べた。

▲24日夜、立法院前での抗議参加者へのインタビュー動画

「学生たちに泥を塗ったかもしれない」 行政院占拠に不満の声も

 同じく立法院敷地内に座り込む、女性二人に話を聞いた。それぞれ日本への留学経験を持つという。

 京都に1年間留学していたという社会人の女性は、「昨日の事件は、ここを占拠した学生たちのやり方に、泥を塗ったかもしれない」と語り、「そのことで、学生らの要求自体が、あまりよくない印象を与えることになる可能性がある」との懸念を口にした。

 大阪に4年間留学していたという女性は、「今回の運動は100%成功できるとは言えません。しかし、政府が人民の要求を無視すれば、必ずみんな、座り込みを続けます。この運動によって、何かを変えることはできると思います」と希望を語った。

「暴力学生」のレッテル つのるマスメディアへの不信感

 立法院入口付近で座り込み、新聞を読んでいたサラリーマンの男性は、台中サービス貿易協定にはあまり詳しくないが、従兄弟が中国で働いていることからも、協定による台湾のメリットも期待できる、と話す。しかし同時に、協定によって台湾の中小企業が壊滅的ダメージを受けることも危惧する。

 手にしている新聞には、今回の占拠がどのように書かれているのか。尋ねると、隣で座り込んでいた別の男性が「半分くらいは悪口ですよね」と、日本語で話に加わった。

 「基本的に、『暴力学生』ということが書かれています。その新聞だけでなく、他の媒体でも、半分以上の意見は悪い方向だ」

 若干の日本語が喋れるその男性は、行政院の占拠について、「昨日の行政院の占拠はちょっと賛成出来ない」と述べ、「私たちは要求を通すまで、ここにずっと居座っていなければいけない。しかし昨日は、自分も学生たちを守るために行政院に行かなければならなかった」と説明した。

 さらに、「昨日の事件では、結果的に目的を達成できなかった。一番重視すべきは結果です。やりすぎれば、成果が出ない。マスコミたちに、学生たちが暴力を使うというイメージを植え付けられたのも、運動にとってよくないことです。この占拠を応援する人は減ってしまうかもしれない」と懸念を口にし、この先はどうなるかはわからないが成功するまで座り続けると述べた。

 日本語で話した男性の隣の男性は、「マスコミは、自分の都合で一部の事実だけ報じる。ほとんどの事実を伝えていない」と不満を語り、具体例を挙げた。

 「僕の彼女の友だちは、台湾のあるTV局の記者に、『あなたは協定の内容をどう思うか』と質問されて、いろいろと回答した。しかし、TVは、『自分にはあまり協定の内容はわからないが…』という発言部分だけをカットして放送し、『学生は協定の内容に詳しくないのに抗議している』というイメージを植えつけた。テレビを見た人は誤解しただろう」

立法院の占拠は明日も続く

 この日、通訳を手伝ってくれた台湾の大学院生の邱さんは、「昨日は興奮していた人も一夜明けて冷静になり、雰囲気は変わったと思う。人数は少なくなった気がするが、それは時間の経過が関係していると思うし、今日からまた平日になったことも影響している。しかし、抗議する気持ちに変わりはないことは伝わってくる」と話した。

▲立法院横の道路に座り込む若者

 立法院の外の占拠された道路上でスピーチしていた刑法学の大学教授は、「今日、授業のとき、僕の心は教室になかった。昨日の行政院で、警察が暴力を用いて学生を排除したことを考えると、我慢ならなかった。武器を持たない学生に暴力を使った警察は、法を尊ぶ観念がない。僕が生徒に教えたい刑法は、そんなことじゃない」と訴えていた。

 抗議の座り込みは、夜、一段と賑やかになる。学校や仕事を終えた人が参加するためだ。延々と続くスピーチに耳を傾け拍手をする参加者、隣同士で会話し、笑顔を浮かべる参加者、水やパンなどを配給する人、交通整理する人、無関係な通行人、多様な人で道はごった返す。

 この日の夜の抗議参加者は、合計1万人を超えていただろう。うち7割以上が10〜30代の若者に見えた。日本の基準で考えれば、想像しがたい光景がここには広がっている。誰にも展開の読めない立法院の占拠、座り込みは明日以降も続く。(原佑介)

協定の審議は「膠着状態」へ

 抗議は、国会運営に着実に影響を与えている。問題の「サービス貿易協定」について、内政委員会などが連合して開いたこの日の審議では、国会占拠の発端となった「強引な審議終了宣言」を含め、17日の審議をすべて無効とした。さらに行政院に対して、大陸側と合意済みの同協定を撤回し、大陸側と改めて協議をするように求めた。

 国会占拠の学生らの要求に歩み寄った決定と言えるが、この日の審議には肝心の国民党議員は欠席しているため、着実な進展にはほど遠い。

 国会占拠に一定の理解を示す王立法委員長が、「民意に耳を傾けるべきだ」と与党・国民党に呼びかけ、国民党がこれに応えないという構図となっている。 

 この国会運営の膠着状態を受けて、王立法院長は16時、以下の声明を発表した。

1.国会運営を正常化するため、現在、あらゆる方法を通して多岐にわたった意見の合意を得ようと努めながら、社会的損失を最低限にし、事件を解決しようとしている。
2.争議は、与野党の協定の審査過程をめぐる意見の対立から始まったもので、3月19日より与野党の意見を集めてきて、今日の午後、会議を開くことに至った。明日も意見交流を続け、事件が早く平和に幕を下ろすようと願う。
3.立法院は合議制機関で、また公権力は民主法治を守るために駆使されるものだ。学生たちに冷静さと自制を保つよう、そして与野党がみんなで智恵を生かしながら争議を早く解決するようと願う。

 増える一方の馬政権への反感。こうした国会の膠着状態が続き、抗議が長期化すればするほど、同協定の立法院の5月(会期末)までの承認は難しくなる。馬総統に残された選択肢は限りなく少ない。 ※ドキュメント次回へ続く。

 IWJでは、IWJ台湾Chから、今も台湾全土で行われている抗議行動の模様を、現地市民の協力を得て報道し続けています。「持久戦」の様相を呈してきたこの事件。3月23日からは、原記者が現地に入り、生々しい抗議の模様や現地市民の声を体当たりで取材し、配信しています。この問題は、中国を米国に置き換え、ECFAをTPPに置き換えたら、非常によく似た構図となっています。IWJは苦しい財政状況ですが、可能な限り伝え続けたいと考えています。取材が持続できるよう、どうか緊急のご寄付、カンパのほど、そして会員登録をよろしくお願い致します。

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