「ものごとをありのままに見る」という意味のヴィパッサナー。
2500年以上も昔、ブッダが悟りを開いたとして知られるヴィパッサナー瞑想法は、現在、インドを始め、北米、中南米、欧州、中東、アフリカなど、世界各地で開設されたセンターで指導を受けることができる。
2007年、イラクで日本人人質事件の被害者となった高遠菜穂子氏も、ヴィパッサナー瞑想法の実践者である。IWJによる、高遠菜穂子×青山弘之×岩上安身のクロストークカフェが行われた9月8日、イベント前の時間を利用して、イラクから帰国したばかりの高遠氏にヴィパッサナー瞑想法の体験談について岩上安身が聞いた。
記事目次
■ハイライト
政治家発言でバッシングがエスカレート、身の危険を感じた高遠氏
インタビューが始まると同時に、岩上安身は高遠氏を「日本で一番ストレスのかかった人」と紹介。高遠氏も、「一番かどうかは分からないが、きつかったですね」と当時を振り返った。
自身を「戦場ボランティア」と呼ぶ高遠氏は、2003年からイラクで人道支援を開始。翌年の2004年に現地の武装勢力に監禁され、「イラク日本人人質事件」に巻き込まれてしまう。他の日本人男性2人とともに目隠しをされ、銃や刃物を突きつけられる映像を中東のテレビ局、「アルジャジーラ」が放送。日本でも速報が流れ、全国に衝撃が走った。
犯行グループは、自衛隊のイラクからの3日以内の撤退を求めたが、当時の小泉純一郎首相は、この要求を拒否。福田康夫元官房長官は記者会見で、自己責任論を展開。3人の行為を厳しく批判した。この発言を受けてか、世論のバッシングもエスカレート。3人の被害者家族に対して、非難の連絡が殺到したという。
「政治家の発言が一般の人に降りて行った。いつ、誰が私に飛びかかってくるか分からない、そんな日常的な恐怖があった」
日本社会から袋だたきにあった高遠氏は、事件後、何度となく「死んだ方がましだ」と苦しむことになる。その苦しみから高遠氏を救ったのが、ヴィパッサナー瞑想だった。
- 小泉政権が加担したイラク戦争、その傷跡は今 ~イラク医療支援報告会 高遠菜穂子氏ほか 2014.1.28
- 「イラク戦争はまだ終わってない」現地の映像と共にイラクの被害実態を明かす ~岩上安身による高遠菜穂子氏インタビュー 2013.4.12
ブッダが悟りを開いた瞑想法の中身とは?「呼吸」と「感覚」
「安らぎと調和を保ち続けるにはどうすればいいのか」
人類の歴史始まって以来、賢者や聖人たちは常に、この問題に取り組んできた。苦しみから脱する方法の一つとして、注意をそらし、気を紛らわすという瞑想法もある。しかし、注意をそらすことは、反発心を潜在意識の底へと押しやるだけだと、ヴィパッサナーの指導者、ゴエンカ氏は説いている。心の奥底に押し込められた反発心は「休火山のごとく、くすぶり続け、大爆発を起こす」のだ、と。
過去、完全なる悟りに至った人がいた。ブッダである。ブッダは、心に汚濁が生じると、身体に二つの変化が同時に現れることを発見。一つは、呼吸が乱れること、また、同時に、身体のどこかに何らかしらの感覚を生み出すというのだ。
ヴィパッサナー瞑想法では、この「呼吸」と「感覚」を観察する。観察することで、苦しみの原因となっていた汚れは自然に消え、そこから解放されるというが、一見、簡単に聞こえるこの解決法も、実践はそうたやすくはない。
高遠氏はイラクに経つ1年前、インド・ダラムサラでヴィパッサナー瞑想の10日間コースを受講。1日約10時間、座禅を組み、この「観察」を行う。コース終了まで、他者とのアイコンタクトはもちろん、会話は一切禁じられている。とことん、自分自身と向き合う訓練なのである。
動いていないと落ち着かないタイプの高遠氏だったが、1日10時間も座り続け、誰とも会話ができないという新鮮な経験を経て、受講直後、イラク・ファルージャに飛んだ。
歯茎から出血「開腹手術をして、腫瘍を取り除いたような感じ」
2003年5月、支援活動のためにイラクへ入った高遠氏だったが、日々、殺人現場のような惨状を目の当たりしたという。イラクでも瞑想を続けようと思っていたが、「それどころではなかった」と話す高遠氏。体験談は、1年後に起きた「日本人人質事件」に移った。
(IWJ・ぎぎまき)
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