オスプレイ配備の矢先の米軍ヘリ墜落事故~トモダチ作戦part2は願い下げ(<IWJの視点>原佑介式延髄斬り:IWJウィークリー13号より) 2013.8.13

記事公開日:2013.8.13 テキスト
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(原佑介)

 落下地点は、民家までわずか2キロの地点だった。

 今月、2013年8月5日午後4時頃、米海兵隊基地キャンプ・ハンセン敷地内の山林に、米空軍の救難ヘリコプターHH60が墜落した。乗員は4名で、3人が重傷、1人の死亡が確認された。参院選が自民党の圧勝に終わり、待ってましたとばかりに岩国基地から沖縄へオスプレイを運び入れようとした矢先の事故である。この日はまさに、オスプレイが普天間飛行場へ追加配備される手はずになっていたが、墜落事故を受けた米海兵隊は、配備延期を決定した。

 この墜落事故を受け、小野寺五典防衛大臣は米側に対し、原因究明と再発防止策がなされるまでHH60の飛行を停止すること、また、オスプレイの沖縄追加配備に慎重な対応をすることを要請した。

 だが、小野寺大臣のこの「要請」を、誰が本気で受け取るだろう。ただのポーズに過ぎないと、多くの人が見抜いているはずである。オスプレイ配備や米軍機の横暴な飛行訓練を容認しているのは、日米地位協定の存在である。その抜本的な見直しがなされるわけではない。日本を守る「抑止力」などと謳う米軍基地こそが、もっとも沖縄県民を危険にさらしているという事実が、改めて浮き彫りになった。

今年もまた踏みにじられた沖縄の民意

 昨年夏、第一陣のオスプレイ配備計画に対して、沖縄は、総力を挙げて撤回を迫った。

 県をはじめ、沖縄全41市町村議会のすべてが配備反対の決議や意見書を出し、県民大会には、米軍基地関連としては過去最大規模となる10万人以上の市民が参加し、配備反対の意志を表明した。オスプレイがいよいよ普天間飛行場へ配備されるというタイミングでは、数百名の市民らが結集し、普天間飛行場のすべての出入り口を封鎖するという、身体を張った抵抗を示した。その模様を我々も身体を張って最後まで中継し続けた。

 第二陣となる12機のオスプレイは、先月30日に岩国基地に陸揚げされた。今月3日午前8時頃、オスプレイ第二陣の普天間到着に合わせ、市民ら約60名が、普天間飛行場のメインゲートとして使われている「野嵩ゲート」前に集まり、再び門を封鎖。配備撤回を訴えた。強制排除に乗りだした県警と市民らが激しいもみ合いとなり、現場は一時騒然とし、「公務執行妨害」の容疑で、抗議の市民側から初の逮捕者が出る事態にまで至った。

 これまでもIWJは、欠陥機オスプレイの危険性について指摘し続けてきた。

 オスプレイは、試作段階から現在に至るまで、墜落事故が相次ぎ、36名の死者を出し、「未亡人製造機」と揶揄されている。米紙「TIME」は07年、オスプレイについて「アポロ計画の2倍以上の月日を開発に費やし、月探査計画の10倍以上の死者を出した、1機の値段が1.19億 ドル (約118億円)にものぼる『空飛ぶ恥』だ」とまで批判した。

 当時の森本敏防衛大臣などがしばしば用いた「海兵隊全体の事故率から比較すれば、オスプレイは決して危険な機体ではない」というロジックも、欺瞞だらけである。現に米国内では、事故の危険性や、環境におよぼす悪影響の観点から、徐々にオスプレイの飛行訓練は中止に追い込まれ始めている。「岩上安身のIWJ特報!」で詳細に論じているので、詳しくはそちらをご覧頂きたい。

 (「岩上安身のIWJ特報!強行配備された『空飛ぶ恥』オスプレイ~普天間ゲート完全封鎖してまで沖縄県民が阻止したかった理由(前編)」まぐまぐでのご購読はこちらからhttp://www.mag2.com/archives/0001334810/2012/ また、IWJサポート会員に入会していただければ、そちらからもご覧いただけます。

米国では肩身の狭いオスプレイは、空を求めて沖縄へ

 自国民に配慮し、米国内では飛ぶこともままならないオスプレイだが、こと沖縄においては、民意を押し切るかたちで飛行訓練を繰り返している。仮にも同盟国である。なぜ、日本国民の命や暮らしへの配慮はなされないのか。

 地元住民への配慮として一応は取り決められた、オスプレイの運用に関する日米合意も、まるで守られていない。

日米合同委員会合意及び議事録骨子、日本国における新たな航空機(MV-22)

 例えば「市街地での翼の転換はできる限り限定する」「夜間訓練飛行は必要最小限に制限し、できる限り早く終了させる」などの合意がされているが、どの項目にも「運用上必要な場合」、「運用即応態勢上不可欠と認められるものに限定」といった例外規定が付け加えられており、その例外規定が「通常のルール」としてまかり通ってしまっているのが実情だ。

 こうしたオスプレイの合意違反は、配備された10月から約2ヶ月間で、わかっているだけで、318件確認されている。これは、オスプレイの飛行回数全体の6割超に値する。違反が常態化しているのである。昨年末、沖縄県は防衛省に対し、この318件の合意違反の調査、検証を求めた。

 しかし先月30日、防衛省は「オスプレイに違反行為は認められない」との調査結果を発表した。(2013年7月31日付 沖縄タイムス 「オスプレイ合意違反、防衛省『確認できず』」)

 調査は、沖縄防衛局が撮影した約3000枚の写真などをもとに行ったという。315件も指摘があった人口密集地上空での飛行については、設定されたルートを「おおむね」飛行しており、合意違反は確認できなかったという。また、夜間飛行については、3件確認されたものの、「運用上必要なもの」と考えられ、ルール違反には当たらない、と結論づけている。

 今年2月、飛行中のオスプレイから、宜野湾市の民間地に水入りのペットボトルを落下させるという、あってはならない事故が起きている。飛行中に荷物搭載口を開放することが多く、ペットボトルもそこから落下した可能性が高いという。

 オスプレイの運用ルールでは、低空飛行訓練時でも500フィート(約150m)以上の高度を保たなければならない。地上150m以上の地点から落下すれば、ペットボトルも立派な凶器である。人に直撃したら、命にかかわる。被害者が出なったのは不幸中の幸いというほかない。

2月7日付 琉球新報「オスプレイ、ボトル落下 離陸時、民間地に 米軍、詳細公表遅れ」

 訓練中のオスプレイからの落下物事故は、今年1月に米カリフォルニアでも発生したばかりだ。こちらは19リットルのバケツが落下し、自動車修理屋の屋根や車6台に被害を出した。人命に関わらなかったのがせめてもの救いだが、2011年には、アフガニスタンでは飛行中の機体から乗員が転落する死亡事故も発生している。

 低空飛行による騒音も深刻だ。オスプレイの夜間飛行で観測されたという92デシベルは、「騒々しい工場の中」のレベルだとされている。近所迷惑どころの話ではなく、音を聴いた住民は不安や恐怖感に苛まれるだろう。また、オスプレイの騒音には、ジェット機などの騒音とは別に、「低周波音」も含まれ、こちらも基準値以上の音が観測されている。

 低周波音とは、周波数100 ヘルツ以下の音を指す。船やヘリ、ダム放水時の空気の渦、トラックのエンジン音などに多く含まれる。低周波音が気になると、不眠症状や頭痛、吐き気を引き起こすこともあるとされる。普天間飛行場の周辺住民が起こした「爆音訴訟」の2010年控訴審では、福岡高裁那覇支部が米軍ヘリの低周波音と原告の精神的苦痛の因果関係を認定する判決を出している。

 沖縄以外の日本国民も他人事ではすまされない。

 今年の3月には、高知県で3機のオスプレイが低空飛行訓練している姿が確認されている。政府は先月中旬、オスプレイの一部訓練を大阪・八尾市で行えるか確認するため、現地調査を行った。米空軍は、沖縄・嘉手納基地だけでなく、東京・横田基地もオスプレイの配備先として候補に挙げている。

安倍政権の目線の先

 小野寺五典防衛相は先月5日、在日米海兵隊を統括するグラック海兵隊中将と防衛省で会談し、南海トラフ巨大地震や首都直下地震を想定した日米合同の防災実動訓練を、今秋にも実施したい考えを伝えた。なんと、これにはオスプレイの参加も見込まれている。

 小野寺大臣は会談で「『トモダチ作戦』をもう一度、強固なものにしたい。自衛隊は水陸両用部隊の訓練をしているが、離島防衛だけでなく災害救助にも大きな役割を果たす」と述べ、グラック氏は「今後とも緊密な協力関係をつくりたい」と応じたという。

 「2011年に発生した日本の地震、津波、原子力災害後、ただちに行なわれた米軍の類例を見ないほど大規模な平時の人道支援作戦は、60年かけて培われた日米同盟が本物であることの力強い証拠である」と、安倍総理は言う。

 米軍の災害支援は感謝すべきことに違いないが、この「トモダチ作戦」は、米軍が純然たる慈善で行った救援活動とは言えない。自衛隊と協力しあって日本国内で行動することが、集団的自衛権の行使容認後に想定される日米の軍事的一体化の「予行演習」でもあったのだ。

 さらに、「トモダチ作戦」に参加していた米軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の乗組員らが、「虚偽の情報で被曝した」として、東京電力を相手取り、賠償金や医療費など、96億円を求める損害賠償訴訟を米連邦地裁に起こしている。

 当初、原告は乗組員9人で、1人あたり10億円強の補償を求めていたが、その後も原告団は増え続け、現在は25名にまで増加。「トモダチ作戦」に参加した米兵は2万4千人である。仮に作戦に従事した兵士全員が原告になれば、単純計算で損害賠償の請求額は約24兆円にまで膨れ上がることになる。当然、東電は支払いきれるはずもなく、米軍兵士らの要求が仮に通れば、ツケはすべて我々日本国民の血税でまかなわれることになる。

 再度地震が起こり、また原発が事故を起こして、米軍兵士が被曝して被曝して訴訟など、願い下げである。

 詳しくは「岩上安身のIWJ特報」第95号「ワイマール時代」の終幕? 孤立を深める日本 (前編)や、「IWJウィークリー創刊号」で岩上安身が詳細に論じているので、参考にしていただきたい。

安倍政権の掲げる「日米同盟の強化」の実像

 今、日米の軍事的一体化が急速に進んでいる。

 2012年3月、航空自衛隊総司令部とその関連部隊が、在日米軍横田基地内に移転。現在、米軍横田基地内には760人の自衛隊員が配備されている。小野寺大臣の言う「トモダチ作戦Part.2」も、「在日米軍と自衛隊の一体化」を現場レベルで推進しようとする狙いがあるのではないか。

 オバマ政権は財政赤字の煽りを受け、今後10年間で約5000億ドル(約50兆円)の国防費を削減を迫られている。米国防総省ヘーゲル長官は先月31日、米空母を現行の11隻から3隻減らすなどの戦力縮小を伴う国防費の大幅削減の方針を示した。他にも陸軍兵士を11万人、海兵隊兵士を3万3000人、それぞれ縮小することも想定しているという。

8月1日付 日経新聞「米国防長官『空母3隻減も』 予算強制削減回避を訴え」

 その肩代わりをするのが、日本だ。先月26日に発表された「防衛大綱」の中間報告は、「武器輸出三原則の緩和」に言及し、日本で製造した武器や軍事技術を海外に輸出しやすくする方向性を示した。ロイター通信やイランラジオによると、米国防総省のフランク・ケンドール兵器購買担当官が8月1日に日本を訪問し、外務省、経産省、防衛省の担当者と面会し、日本企業による武器製造と米国への輸出を要請したという。

 すでに、今年6月19日の時点で、米ロッキード・マーチン社が、ステルス戦闘機F35の最終組み立てを日本国内で行う計画についてと三菱重工と合意していたことも明らかになっている。日本政府はF35を最終的に42機取得する計画で、今年度予算で2機、来年度予算で3機以上の取得を目指している。(7月18日付 中国新聞「国内防衛産業が初参入 F35の組み立てや部品製造」)

 安倍政権は今年、11年ぶりに防衛費を増額した。昨年と比べ400億円増で、来年度防衛予算は、そこからさらに1800億円も上積みして計上する方針である。(8月2日付 NHK「防衛省 来年度予算1800億円以上増額要求へ」)

 日本の防衛費によって、米国の国防費削減の肩代わりをし、自衛隊によって、米軍の人員削減の穴埋めをする。沖縄県を、自国民を省みない、こうした米国への隷従構想こそが、安倍政権の言う「日米同盟の強化」の姿なのではないだろうか。

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