衆参の『ねじれ』が解消され、国民と国会の『ねじれ』が始まった(【IWJウィークリー第12号】岩上安身のニュースのトリセツより) 2013.8.5

記事公開日:2013.8.5 テキスト
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 今回のウィークリーは、参院選総括とこれからの見通しについての特別編集号です。普段は各記者がそれぞれ自由に書いている<IWJの視点>ですが、今号ではスタッフが分担し、参院選で争点となるべきだった重大テーマについて、「自民圧勝」直後からの動き、そして今後の見通しについて論じています。「岩上安身のニュースのトリセツ」も、参院選後の展望について、総監します。題して「新たに生じた国会と国民の間のねじれ」。

 なお、改憲と軍事国家化へ向いてひた走る安倍政権の外交的孤立についても、不安はぬぐえません。この問題については、メルマガ「岩上安身のIWJ特報!」で報道しましたので、そちらをお読みいただければと思います。

 日本国憲法下にあった戦後日本の約70年を「日本のワイマール時代」となぞらえ、その幕引きか、と書き出したら、その数日後、麻生副総理がナチスを引きあいに出し、国民が気づかないうちに憲法が変わっていた、という手口に習え、などと驚愕の発言をしました。こちらも必読です。 

 7月21日、参議院開票日をむかえ、ご存知の通り、自公が圧勝、改憲勢力の拡大という結果に終わりました。多くのマスメディアは「争点が見えにくい選挙」などと、とぼけた論評を繰り返し、自民党が全面に打ち出した「アベノミクスの成果」や「ねじれ解消」が真の争点であるかのように報じ、本来はより重要な争点となるはずだったTPPや憲法改正、雇用の崩壊、原発再稼働の問題を後景へと押しやってしまいました。

 その結果として、中道リベラル勢力は、ほぼ消失し、自公と維新、みんなの党などの、改憲を主張する党が164議席を占め、参議院で改憲発議が可能となる162議席を超えるまでになりました。こうした極端な選挙結果を招いたマスメディアの世論誘導の責任は重大であると言わざるを得ません。

 メディアは一斉に「国会のねじれが解消した!」と、参院選は大成功に終わったかのように報じました。確かに、「衆参のねじれ」は、「解消」されました。ですが、新たに、国民と国会の間には「ねじれ」が生じました。そのことは、多くのメディアも識者も論じません。

 「国民と国会のねじれ」とは何か。読売が国会議員に行ったアンケート結果と、各社の世論調査の結果を見比べてみましょう。

【国会議員】(読売新聞)
消費税増税: 容認70%、反対21%
原発再稼働: 賛成56%、反対19%
憲法改正: 賛成74%

【有権者】
消費税増税: 賛成39.5%、反対55.8% (産経・FNN)
原発再稼働: 賛成41.1%、反対49.7% (時事通信)
憲法改正: 賛成44.5%、反対38.0% (共同通信社)

 国会議員の70%が容認すると回答した消費税の増税については、産経・FNNの世論調査によれば、国民の中で賛成と回答したのは39.5%。それに対し、増税反対と回答したのは55.8%と過半数を占めます。国会議員と国民との間で「ねじれ」が生じているのは明らかです。産経によると、「アベノミクス」への国民の期待は61.2%と、依然として高いことがうかがえます。

 しかし一方で、景気回復を「実感していない」という層が83.2%にも達しており、アベノミクス効果を実感できず、2015年から始まる「増税」への抵抗はじわじわと強まっている気配もうかがえます。

 石破茂幹事長や麻生太郎副総理兼財務相は増税強硬路線を主張していますが、菅義偉官房長官は、「さまざまな意見を聞きながら首相が責任をもって判断していく」と述べ、安倍総理のブレーンであり、「アベノミクス」の生みの親ともいえる、経済学者で内閣官房参与の浜田宏一氏は、「増税すれば景気は一気に悪化するだろう。極めて慎重に判断すべきだ」と、増税にやや慎重な姿勢を見せ始めてもいます。

 社会保障・税一体改革関連法には、経済の状況次第で執行を停止するなどとした「景気条項」も盛り込まれています。「アベノミクス」の「異次元金融緩和」が空ぶかしに終わり、実体経済の好転に結びつかなかった場合には、「増税見送り」となる可能性はないとは言えません。

 (産経新聞 2013.7.29 「強まる消費増税反対 首相の最終判断にも影響か」リンク切れ)

 また、自民党は原発の再稼働を着実に進めています。主な政党で、唯一、積極的に原発再稼働を明言して参院選を戦ったのですから、当然といえば当然です。

「民意を代表しない国会」が見つめる先は1%の大企業か、99%の一般市民か

 しかし、原発の再稼働については、賛成と回答した国会議員は56%、反対という議員はわずか19%です。ところが時事通信の世論調査によると、原発再稼働について賛成と回答したのは41.1%に対し、反対は49.7%と、国民の間では再稼働反対が上回りました。ここでも国会議員と国民の間は「ねじれ」ています。

 事故後、原子力規制委員会、規制庁が設置され、「原発新規制基準」が施行されましたが、国民の信頼回復には至っているとはいえません。

 IWJが連日報じていますが、参院選の直後から、福島第一原発では「汚染地下水の海洋流出問題」「湯気問題」など、次々と問題が表面化しています。事故は収束するどころか、「冷やす」「封じ込める」という第一ステップすらクリアできず、状況はむしろ悪化しつつあります。

(時事通信 2013.07.12「原発再稼働、半数が不支持=時事世論調査」リンク切れ)

 憲法改正については、国会議員のなんと74%が賛成と回答。しかし共同通信の世論調査では、賛成44.5%、反対38.0%。賛成が上回ったものの、賛否は拮抗しています。ここでも「ねじれ」は存在しているといっていいでしょう。

 もとより、憲法改正は何をどう改正するのかテーマが多岐にわたり、賛否の二択で、単純に答えを求めるのは適切ではないかもしれません。かつては憲法改正といえば「9条改正か否か」でした。しかし、自民党の掲げる憲法改正案は、平和主義だけでなく、国民の基本的人権を様々に制約し、近代立憲主義(国民が権力者に対して制約を課す憲法本来の性格)すら転倒させ、天皇を元首とし、権力の側から国民に義務と制約を課すものとなっています。

 こうした自民党の憲法草案の隅々まで国民に認知され、その上で一括してこの草案通りに「改正」することに賛成なのか、反対なのかをたずねているわけではないことに、留意する必要があります。

 共同通信社の世論調査も、仔細にみると、憲法改正に賛成と答えた人が44.5%といっても、前回行った同調査の51%から減少しており、反対と答えた人は、前回の33.6%から38%に増加しています。

 自民党の示した「改憲草案」の中身を、私もIWJも機会あるたび、徹底してひも解いてきました。同草案のトンデモぶりについての理解や認識は徐々に広まりつつあり、ゆっくりではありますが、危機感をつのらせていることがうかがえます。そもそも、憲法とは「権力者を縛るためのもの」であり、権力者にとって常に不都合なものです。それは甘んじて受け入れてもらわねばなりません。

(共同通信 2013.07.07 「世論調査、改憲反対38%に増加 自民比例29%、民主7%」リンク切れ)

 かくて、衆参の「ねじれ」は解消されたものの、国民との間で「ねじれ」た「民意を代表しない国会」が誕生しました。経団連・米倉弘昌会長はさっそく「国会のねじれ状態が解消され、成長戦略など諸課題を迅速、着実に実行できる体制が整った」と、より強固となった自民党政権に対し、歓迎のコメントを出しています。TPP参加を強く主張し、モンサントとの間で、自身の率いる住友化学とパートナーシップを組み、消費税増税と法人税の減税を求め、原発の再稼働や輸出、武器三原則の緩和を求めているだけのことはあります。彼ら財界のリーダーたちと、一般国民との利害の「ねじれ」もますます拡大しつつあるように思われます。

 しかし、言うまでもなく、大企業や一部の富裕層の利益にのみ奉仕するのであれば、「政治」は不要であり、そもそもが脆弱な日本のデモクラシーは、死亡を宣告されることになるでしょう。政権を担う者が顔を向けるべきは、経団連などの大企業や一部の富裕層の方向ばかりではなく、増税や原発再稼働を拒み、隣国との関係に不安を抱きながらも、憲法改正にとまどう大多数の国民の方向です。8月2日からは、臨時国会が開かれます。安倍政権がどちらを向いた政治をしていくのか、注視が必要です。

 今後、報道はさらに偏向したものになることが容易に想像できます。我々IWJとしても、責任の重さをひしひしと感じています。逆風や重圧は強まるでしょうが、今後とも大勢に流されることなく、独自に取材を続け、真実を報じていきたいと思います。

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