【参院選2013争点解説②マクロ経済/アベノミクス】大企業だけではなく、国民生活の豊かさにつながる経済政策を(IWJウィークリー10号より) 2013.7.15

記事公開日:2013.7.15 テキスト
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 今回の参議院選挙は、安倍内閣の経済政策「アベノミクス」が始まって、最初の国政選挙です。アベノミクスに対する国民の審判がどう下されるかが、大きな注目点です。

 日銀の「異次元金融緩和」によって「円安株高」となり、物価も下げ止まるなど、アベノミクスの効果は特に経済界から大きく歓迎されています。その一方で、地方経済や中小企業の業績はまだ回復していないのが実状です。また、円安によって輸入価格が上昇し、生活必需品の値上がりも見られ始めています。

 自民党政権は、まずは短期的な景気回復をアピールすることで、参院選を勝利してねじれ国会を解消し、憲法改正に着手し、消費税増税を一気に決めてしまいたいという政治的な思惑があります。後ほど詳しく触れますが、「景気条項」という経済成長の目標をクリアしなければ、消費税を上げられないからです。

 それに対して、アベノミクスは株価の乱高下を生み出しただけで、雇用や給与増にはつながらない「バブル」だとして、一部野党は批判の姿勢を強めています。大企業や富裕層を優遇する一方で、生活者への恩恵を犠牲にしていると主張しています。

 アベノミクスの経済政策は多岐にわたりますが、最大の争点の一つが「税制改正」です。具体的には、「消費税の増税」と「法人税の減税」です。

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消費税増税には、生活、社民、共産、みんな、みどりの風が反対の姿勢

 消費税の増税は、2012年8月10日の参院本会議で民主、自民、公明3党の賛成多数で可決、成立しました。5%の消費税率が来年4月に8%、再来年10月に10%へ引き上げられる予定で、消費税収は現在の年間10兆円から23.5兆円になると推定されています。

※財政金融委員会調査室 「消費税増税の諸課題」
【URL】http://bit.ly/13Di6x9

 今回の参議院選挙で、自民党は消費税について「全額、社会保障に使う」とだけ触れています。「増税」と直接的には掲げていません。しかし、公約に掲げている「名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度を実現」というのは、消費税増税法案の「附則18条」にある、増税を発動する条件(景気条項)と重なっています。

 この条件をクリアしないと、消費税の増税はできないと定められているのです。ですから、自民党は景気条項をクリアして、消費税増税を推進するのは間違いないと解釈できます。

※財務省HP 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」
○消費税率の引上げに当たっての措置(附則第18条)
【URL】http://bit.ly/HtZFj9

 公明党は、将来の軽減税率の導入に触れていますが、消費税増税の方針自体は引き継いでいると思われます。

 与党時代に消費税増税を主導した民主党は、2013年3月に、低所得者への支援や駆け込み需要の反動を緩和する「消費税影響緩和法案」を衆院に提出しました。しかし、法案提出者の松本剛明議員は「そもそも消費税率の引き上げ自体に反対している党もあるが、引き上げが現実のものとなる中で、対策の必要性をご理解いただく機会もありうるのではないか」と述べていることから、消費税増税そのものには賛成の立場であるとみられます。

※民主党HP 「消費税影響緩和法案を衆院に提出 逆進性対策、自動車・住宅対策、医療機関対策盛る」
【URL】http://bit.ly/131NWjX

 維新の会は、消費税増税については触れてはいませんが、前回2012年の衆院選では、「消費税率を11%に引き上げる」ことを公約に掲げていたことから、実質的には増税推進の立場だと推測できます。

 以上の政党に対し、生活の党、みんなの党、社民、共産、みどりの風が、消費税増税反対を訴えています。しかし、同じ消費税増税反対の立場でも、各党の立場は異なっています。

 社民党と共産党は、消費税増税は「低所得者ほど重税になり、貧困と格差を拡大する」として、廃止や中止を求める一方、富裕層に対しては課税を強化していくとしています。

 みんなの党は、「増税の前にやるべきことがあるだろう!」という党のキャッチコピーにあるように、無駄な財政歳出の削減を目指しています。税率引き上げではなく、民間の経済活動を支援することで、税収拡大を図る方針です。

 生活の党やみどりの風は、消費税増税には反対ですが、公共投資や所得再分配など政府の役割も重視し、経済成長と社会保障負担のバランスを取った政策を訴えています。

消費税増税は本当に必要なのか

 消費税増税は、国債残高がGDPの200%以上になるなど、危機的な日本の財政を改善する手段として議論されています。「国の破綻を免れるためには、消費税増税は当然である」という論調は、マスコミを通じて頻繁に報道されています。

 しかし、日本の財政は、果たして本当に危機的な状況なのでしょうか。IWJでは、早くからこの疑問に対して数々の取材を重ねてきました。その結果、消費税増税は、国家予算の拡大を狙う財務省によるプロパガンダであり、マスコミが既に官僚ファシズム支配に侵されつつある現状が浮かび上がってきます。

 日本はたいへんな借金大国であり、今にもギリシャと同様の債務危機が起こると喧伝されてきましたが、日本は債権大国でもあり、純債務は決して大きくないという事実を、経済アナリストの菊池英博氏は、たびたび指摘してきました。菊池英博氏は、「消費税増税は危険きわまりない」として、日本には消費税がなくとも十分やっていけるだけの財源があることを明らかにしてきたのです。

▲岩上安身のインタビューに応える、経済アナリストの菊池英博氏~2010年6月6日

※クロストークカフェ Vol. 1「日本のサバイバルのために 〜デフレ・円高・震災に加えて、TPP・増税・戦争・石油危機の七重苦が日本直撃!」
http://iwj.co.jp/shop/goods/item.php?ID=VCTC01

 このような財源を有効活用せずに、盲目的に消費税増税に走ることは、国民の生活をさらに悪化させ、日本全体の力を削ぐことになりかねません。健全な経済成長が伴わなければ、国債暴落(金利上昇)という「アベマゲドン」がやって来るという指摘もあります。

 当然のことながら、消費税増税に反対する市民の声は今なお強く存在しています。今年4月に行われた「消費税大増税中止を求める国民集会」には、全国から約4000人が集まりました。

 私たち市民の雇用や給与の回復がいまだ見られない中、消費税増税は本当に必要なのでしょうか。ぜひ、そのことを良く考えて投票してください。

大企業の税負担はさらなる軽減へ

 そして、税制改正のもう一つの争点が、法人税の減税です。

 2013年6月に自民党安倍内閣によって閣議決定された「日本再興戦略」には、アベノミクスの「第三の矢」(成長戦略)の一環として、企業の設備投資を増やすための「投資減税」が織り込まれました。

※首相官邸HP 「新たな成長戦略 ~「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を策定!~」
【URL】http://bit.ly/Y3aTPs

 これを受けて自民党は、「思い切った投資減税を行い、法人税の大胆な引き下げを実行」することを公約に明記しています。

 公明党は、法人税減税については独自の公約を掲げていませんが、自公両党のこれまでの関係から、おそらく自民党の政策に追従すると思われます。

 民主党も、今回の公約では法人税について触れていませんが、菅政権時代に法人税率を30%から25.5%(中小企業は18%から15%)に引き下げました。また、日本企業が海外に進出する際に税の優遇を適用してきました。基本的には、経団連など財界の要望を聞き入れ、法人税減税を推進する立場であることは一貫していると考えられます。

 今回、公約で最もはっきり法人税減税を明言しているのが、みんなの党です。「法人税率を20%に減税」と、具体的な数値で示しています。また、維新の会も「大胆なフロー課税(法人税、所得税等)の引き下げを断行する」と公約に明記しています。

 一方、法人税減税に反対の筆頭は、共産党です。大企業に減税しても、すでに企業は260兆円もの内部留保をため込んでおり、賃金や設備投資が増えるなどの経済効果は生まれないと主張しています。法人税率を30%に戻すことや、各種投資減税の廃止・縮小を公約にしています。

 社民党は、中小企業に限定した法人税率の引き下げを行うことを公約にしています。具体的には、軽減税率の15%から11%への引き下げや、軽減税率が適用される企業の範囲を広げることを約束しています。

日本の法人税率は本当に高いのか

 消費税が導入されたのは89年。それから今まで累積で280兆円を超える消費税が徴収されてきました。

 他方、法人税率は平行して下げ続けられてきましたが、下がった分、徴収されなかった法人税の総額は240兆円を超えると推計されています。

 企業の負担を軽減した分、そっくり国民の消費に転嫁した形となっているわけです。

 法人税を含む日本の法人実効税率(法人に課税される総合的な税率)は、2011年度税制改正で約40%から約35%(2015年までは震災復興特別税3%を加算し約38%)になりましたが、今回さらなる法人税減税を盛り込む背景には、経済界からの強い要望があります。

 例えば、経済同友会は、「EUやOECD諸国では、この10年で約10%引き下げた」として、5%の引き下げでは不十分だと述べています。フランス(33%)、ドイツ(30%)、イギリス(26%)、中国(25%)、韓国(24%)、シンガポール(17%)などと比べて、日本の法人税は高止まりで、企業の競争力を弱めていると主張しています。

※経済同友会「法人実効税率25%への引き下げの道」 2013年7月3日
【URL】http://bit.ly/121JF05

 しかし、法人税減税の効果については、各方面から疑問が呈されています。

 第1点は、日本では赤字企業が全体の7割を超えていることです。赤字企業は法人税を払わないのですから、税率を下げても効果がありません。国際競争力について議論する前に、企業の赤字体質を脱却することが先決でしょう。

 第2点は、政府の財政再建との両立が難しくなることです。法人税引き下げによって、数千億から1兆円程度の減収になると言われています。前述したように、財源の活用を進めなければ、金利上昇が景気に悪影響を与える「アベマゲドン」のシナリオが現実味を帯びてきます。

 そして第3点は、そもそも日本の法人税の負担は海外に比べて本当に重いのかということです。これに関して、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が、非常に興味深い分析結果を公表しています。

 野口氏によると、各国によって税法が異なることから、実効税率は単純な国際比較にはなじまないと主張しています。また、実効税率から算出された課税額は、さまざまな税額控除によって、実際の課税額と異なると説明しています。

 それらの点を調整した負担率は24%程度で、法人実効税率よりもかなり低いことが判明しました。また、個別企業についても、日産自動車が20%程度、本田が25%程度、トヨタが30%程度、日立31.0%、東芝38.4%、三菱重工38.0%となり、実効税率よりも低い数値になる企業が多いことがわかりました。

※ダイヤモンドオンライン
「日本の法人税の負担は重くない」 2013年6月27日
【URL】http://diamond.jp/articles/-/37990
「実効税率よりかなり低い法人税等負担率の実態」
【URL】http://diamond.jp/articles/-/38352

 税額控除には、二重課税を防ぐなどの正当な理由があるものもありますが、研究開発費や海外投資への非課税措置など、大企業に有利な項目も多いのです。そして実は今、多国籍企業の税金逃れが、世界的な問題となっています。

 今年5月20日、アップル社が海外子会社を利用して巨額の税金逃れを行っているとの調査報告書が、米議会によって発表されました。

 具体的には、アップルが法人税率の低いアイルランドの政府と手を組んで、アイルランドに実態のない3つの子会社を作り、数十億ドル(数千億円)の税金を免れたと報告されました。さらに、アップルは約1千億ドル(約10兆円)以上の資産を海外に蓄え、米国での課税を避けていると指摘しています。

※朝日新聞 2013年5月22日「米上院「アップルは課税逃れ」と報告書 CEOは反論」
【URL】http://bit.ly/131OB4W

 同委員会は、アップルだけではなく、マイクロソフトやヒューレット・パッカード(HP)など、米大手企業の課税逃れも追及しています。エコノミスト誌によると、米国企業はこうした手法によって徴税を逃れ、全体で国外に1兆9000億ドル(190兆円)をため込んでいると推定されています。

※英エコノミスト誌 2013年5月25日号 「企業と税金:アップルの「課税逃れ」の波紋」
【URL】http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37861<

 日本の大企業も260兆円の内部留保をため込んでいると言われていますが、そのうちどれだけが国内に還流しているのか明らかではありません。もし利益に対する徴税逃れが横行していたら、もはや法人税引き下げ以前の問題です。

国民生活の豊かさにつながる成長戦略を

 日本経済の復活のためには、減税も含めた税制改革や規制緩和は大いに検討に値するでしょう。しかし、減税や規制緩和が民間の競争を奨励し、経済を活性化させるという主張を、そのまま鵜呑みにすることには注意が必要です。

 規制緩和というのは、規制によって少数の人だけが恩恵を受けているという状態を解消して、より広く公平に富が行き渡るようにすることが、本来の目的です。

 しかし、小泉政権が日本に導入した「新自由主義」によって、欧米では金融危機が起こり、日本では失われた10年が20年になり、富が人口の1%に集中する世界になってしまいました。私たちに必要なのは、99%の国民が恩恵を受けることのできる経済政策です。

 どの政党が、国民の生活を豊かにする経済を目指しているか。今こそしっかりと見極めていきましょう。

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