※ サポート会員の方は、IWJウィークリー6号【PDF版・全95ページ】がご覧になれます。
⇒ 【IWJウィークリー6号】アベノミクス・バブルの終焉と外資優遇の成長戦略(epub版・PDF版を発行しました!) 2013.6.9
いよいよ日本の戦争参加が現実味を帯びてきた。筆者がこのニュースを目にしたときの、率直な感想だ。
「菅義偉官房長官は7日午後の記者会見で、国家機密を漏えいした公務員らに厳罰を科す特定秘密保全法案について、外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSC(国家安全保障会議)創設法案と合わせ、秋の臨時国会での成立を目指す考えを示した
日本版NSC創設法案とは、米国がホワイト・ハウスに設置している国家安全保障会議(National Security Council)を日本にも創設しようとする法案で、自民党の衆院選挙公約としても「首相官邸の司令塔機能を強化するため『国家安全保障会議』を設置する」と掲げられていたものだ。
米国のNSC設置は1947年、対外政策、戦略の重要事項や、有事の対処を決定する米国の司令塔的役割を担っている。メンバーは大統領、副大統領、国務長官、国防長官の4人。
米国大統領は軍の最高司令官として指揮権を持つが、憲法上、宣戦布告には米国連邦議会の決議が必要である。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は、「実際には『議会の決議を待っていては間に合わない』として、宣戦布告なしで戦争を始めることが慣行となっている。ベトナム戦争の苦い経験から1973年に『戦争権限法』が改正され、事後48時間以内に議会に報告する義務、60日以内に議会の承認を得ること――などの制約が課されたが、事後承認であるため、戦争を始めるか否かは事実上NSCで決することになる」と指摘している。
- ダイヤモンド・オンライン 田岡俊次の戦略 目からウロコ 安倍首相が模範とする「米安全保障会議」は失策続き
日本のNSCは、総理大臣(議長)、官房長官、外務大臣、防衛大臣の4大臣で構成され、緊急事態や防衛計画大綱などの審議には、総務、財務、経済産業各大臣や国家公安委員長らも加わることとなっている。菅官房長官がこの日の閣議で「政治の強力なリーダーシップを発揮できるような環境を整えた」と述べたように、政権を担う一部の閣僚によって、外交や安全保障などの政策をスピーディーに決定していくことが狙いだ。
NSCは、「国家安全保障基本法」の制定に向けた法整備の一環でもある。
自民党は、国家安保基本法の下位法として「日本版NSC創設法」を組み込むことを計画している。国家安保基本法は昨年7月、自民党が野党時代に発表・党議決定した法案のため、あまり大々的に報じられていない。だが、この法案は、憲法改正することなく「集団的自衛権の行使」を可能にする、危険極まりないものだ。
「集団的自衛権」といえば一見、聞こえがいいが、結局は、「自衛」と称した米国の侵略戦争の片棒をかつぐのがその正体である。
自由法曹団が出した「集団的自衛権行使容認、国家安全保障基本法制定に反対する意見書」では、集団的自衛権の実態について、次のように指摘している。
「1945年に署名・発効された国連憲章に集団的自衛権が規定(同51条)されてから今日に至るまでの歴史が明確に物語っている。
①ハンガリー軍事介入(1956年・旧ソ連)
②レバノン軍事介入(1958年・アメリカ)
③ヨルダン軍事介入(1958年・イギリス)
④ベトナム戦争(1964~1975年・アメリカ)
⑤チェコスロバキア侵略(1968年・旧ソ連)
⑥アフガニスタン侵攻(1979~1988年・旧ソ連)
⑦チャド軍事介入(1983年・フランス)
⑧ニカラグア軍事介入(1981年・アメリカ)
⑨アフガニスタン戦争(2001年~・アメリカ)
⑩イラク戦争(2003年~・アメリカ) など、
アメリカや旧ソ連といった大国が集団的自衛権を口実に海外での戦争や武力行使を繰り返してきたのである」
もし、日本で集団的自衛権の行使が認められれば、日本は攻撃を受けていなくても、同盟国の始めた上記のような戦争に参加することになり、自衛隊の海外派兵や戦闘参加が現実のものとなるだろう。
自民党はHPで、国家安全保障基本法案の骨子について、以下のように掲載している。
・国連憲章に定められた集団的自衛権の行使を一部可能にする
・教育、科学技術、建設、運輸、通信などの分野で安全保障上必要な配慮をする
・安全を確保する上で秘密保護のため法律・制度上必要な措置を講じる
・安全保障に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、安全保障基本計画を定めねばならない
まるで我が国には日本国憲法など存在しないかのような骨子だが、12条からなる「国家安全保障基本法 概要」を実際にみてみると、自民党は大まじめに検討していることがうかがえる。
第2条「安全保障の目的、基本方針」において、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使については、必要最小限度とすること」と集団的自衛権の行使を認め、10条「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」で、「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態」などと、発動要件を定めている。
また、11条「国際連合憲章上定められた安全保障措置等への参加」では、「当該安全保障措置等の目的が我が国の防衛、外交、経済その他の諸政策と合致すること」と、多国籍軍型の武力行使への参加についての規定まで設けている。
さらに別途、「武力攻撃事態法と対になるような『集団自衛事態法』(仮称)、及び自衛隊法における『集団自衛出動』(仮称)的任務規定、武器使用権限に関する規定が必要」との注が付き、集団的自衛権の行使に関する法整備と、自衛隊法の改正について言及している。
国民生活への影響も懸念される。
第3条「国及び地方公共団体の責務」の2項では、「国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」と、学校教育への介入を示唆。第4条「国民の責務」では、「国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする」と義務付けられている。
自民党は否定しているが、「徴兵制」導入に向けた環境整備であるようにも考えられる。
IWJが今年4月に中継・取材した「国家安全保障基本法案反対院内集会」で、憲法学者の清水雅彦日体大准教授は、同法案について、「思想がなく、曖昧で、ずさんで、ひどい法案だ」と評し、「とてもこんなものが国会に上程されるとは思えない」と、法案の出来の悪さに呆れた表情を見せた。
しかし、自民党がこの法案成立に本気であることは、今月4日に発表した「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言 (『防衛を取り戻す』)」の中身からもうかがえる。
曰く、「今後のわが国の安全保障政策策定の基盤となる重要課題は広範多岐にわたっている。具体的には『国防軍』の設置を始め、わが国における国防の基本理念を明確にするための『憲法改正』や『国家安全保障基本法の制定』、総理の強いリーダーシップの下で外交・防衛政策を推進するための官邸の司令塔機能としての『国家安全保障会議』(日本版 NSC)の設置、日米同盟の抜本的強化の観点からの集団的自衛権などの法的基盤の整備や日米ガイドラインの見直しなどへの早急な取り組みが求められている。 このように、防衛力の構築に際しては、現下の周辺安全保障環境への対応だけではなく、さらに中長期的視点に立脚した本質的かつ総合的な施策の検討が必要とされている」
このような違憲で「ずさん」な法案が、国会で通るのだろうか。同院内集会で、福島みずほ社民党党首は、「国家安全保障基本法案は、明確な違憲法。集団的自衛権を行使する、すなわち『交戦権』を認めたものだ。突き返されることが分かっているので、内閣法制局に提出できない。だから内閣立法ではなく、議員立法での制定を狙っている」と指摘した。
つまり、国会で過半数を占めさえすれば、国家安全保障基本法は成立するのだ。安倍政権が打ち出す憲法改正に目を光らせているだけでは不十分だ。その裏で、着々と「事実上の憲法改正」に向けた動きが進んでいることにも留意する必要がある。