2016年12月12日、憲法学や政治学などを専門とする学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」が、衆議院第2議員会館で記者会見を行い、「議会軽視と解散権の乱用」に関する声明を発表した。
(取材・文:安道幹)
2016年12月12日、憲法学や政治学などを専門とする学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」が、衆議院第2議員会館で記者会見を行い、「議会軽視と解散権の乱用」に関する声明を発表した。
■ハイライト
会見したのは、山口二郎・法政大学教授や長谷部恭男・早稲田大学教授ら5人。声明の中で、安保関連法やTPP関連法、年金制度改革法やカジノ法など、多くの懸念が残されるなか、「数の力」によって強行採決を繰り返す政府・与党の振る舞いを「議会政治の劣化は、目を覆うしかない状況にある」と痛烈に批判した。
さらに、政府・与党によるこうした態度の背景には、首相によって恣意的に解散権が行使されることを認めてきた「長年にわたる政治慣行」があると指摘。解散権を制約しているドイツ基本法や、選挙の期日を定めた「立法期固定法」が2011年9月にイギリスで成立したことを事例にあげ、日本でも解散権のあり方を検討するべきだと主張した。
以下、記者会見で発表された声明の全文を記載する。
議会政治の劣化と解散問題に関する見解
議会制民主主義における議会の役割は本来、特定の党派、特定の利害を超えた、国民全体に共通する中長期的利益を実現すること、ジャン-ジャック・ルソーのことばを借りるならば、「一般意思」を実現することにある。一般意思の追求など偽善的スローガンにすぎないとのシニカルな見方もあるかも知れない。しかし、政治から偽善を取り去れば、残るのはその場その場における特殊利益むき出しの権力闘争のみである。
残念ながら、現在の政府・与党の振る舞いには、多様な利害、多様な見解を統合して、将来にわたる国民の利益を実現しようとする態度は見受けられない。それを装おうとする努力さえない。非現実的な適用事例を挙げるのみで、必要性も合理性も説明することなく、いわゆる安保関連法制を強行採決につぐ強行採決によって制定した昨年の通常国会での行動はその典型である。そうした振る舞いは、TPP関連法案、年金制度改革法案、カジノ法案の採決を、数々の懸念や疑問点にもかかわらず強行する近時の行動でも変わるところはない。数の力は、説明や説得の代わりにはならない。国会が各党派の議席数の登録と計算の場にすぎないのであれば、審議などはじめから無用のはずである。政権中枢から発出される数々の暴言・失言を含め、議会政治の劣化は、目を覆うしかない状況にある。
数の力によって特定の党派、特定の見解を無理やりに実現しようとする現在の政府・与党の態度の背景には、与党によって有利な時機を選んで衆議院総選挙を施行する、長年にわたる政治慣行も控えている。この政治慣行は、その一つの帰結として、解散風を吹かせることで与党内部を引き締めるとともに、野党に脅しをかける力を政府に与えることにもなる。むき出しの権力闘争の手段である。小選挙区比例代表並立制の下での、政権中枢への権力の集中とあいまって、現在の政権は、選挙戦略で手に入れた両院の議席の多さを、世論での支持の広がりと見誤っているおそれもある。
しばしば誤解されることがあるが、議院内閣制の下では必ず、行政権に自由な議会解散権があるわけではない。ドイツ基本法に典型的に見られるように、「議院内閣制の合理化」の一環として、憲法典によって解散権の行使を厳しく制約する国も多い。
さらに、議院内閣制の母国であり、その典型例とされるイギリスでは、2011年9月15日成立した立法期固定法(The Fixed-term Parliaments Act 2011)により、次の選挙の期日を2015年5月7日と定めるとともに、その後の総選挙は、直近の総選挙から5年目の5月の最初の木曜日に施行することを原則とするにいたった。
議院内閣制である以上は、内閣あるいは首相が自由に議会を解散できるという主張自体は、ますます説得力を失いつつある。政府与党が自らにとって最も有利な時期に総選挙を施行する党利に基づく解散権の行使は、もともと議会の解散が稀なフランスでは「イギリス流の解散 dissolution anglaise」と否定的に語られる。
日本の議会政治がその本来の姿へ回帰するためには、長年にわたって疑われることのなかった解散権に関する慣行の是非も改めて検討の対象とする必要があろう。
2016年12月12日
立憲デモクラシーの会
なお、これまでの立憲デモクラシーの講座や、解散権をめぐる議論は、以下の動画記事からもご覧いただくことができる。