【続報】イスラム国による邦人人質事件:米国主導の「イスラム国壊滅のための有志連合」に組み込まれる日本 2015.1.22

記事公開日:2015.1.22 テキスト
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(IWJ・佐々木隼也)

 緊迫した状況が続いている。

 イスラム国による邦人2人の殺害予告動画が公開され、明けて2015年1月21日、中東歴訪を切り上げた安倍総理は正午に帰国。関係閣僚会議に出席した後、取材陣に対し「これまで培ったあらゆる外交チャンネルを活用して、2人の解放に手段を尽くすことを指示した」と述べた。

 そして、「テロに屈することはない」「テロとの闘いに万全を期す」などと、イスラム国への強硬姿勢を改めて示した。

 しかし、一夜明けて情報が検証されるにつれ、安倍総理のこうした外交姿勢、また今回の事件をめぐる姿勢について、様々な疑問符が浮かび上がっている。

※【速報】「日本政府はイスラム国に対する戦いに2億ドルを払うという愚かな選択をした」 「イスラム国」が邦人を人質に犯行声明、236億円の支払いを要求

安倍総理が発し続けたイスラム国への「攻撃的」メッセージ

 イスラム国側は動画で、安倍総理が17日にエジプトでの演説で、「イスラム国と闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」「トルコ、レバノンへの支援をするのは、イスラム国がもたらす脅威を少しでも食い止めるため」と、あからさまな対決姿勢を打ち出したことを、今回の邦人2人の殺害予告と身代金2億ドルの動機だと述べている。

 日本時間20日15時にこの事件が発覚したことで、同日夕方に予定されていた中東歴訪の締めくくりの記者会見は、事件への対応に関する質問ほぼ一色となった。安倍総理はイスラム国側の主張に対し、2億ドルはあくまで非軍事分野における「避難民への人道支援だ」と強調した。

 しかし、この会見の映像をみると、イスラエルの国旗である六芒星旗と、日章旗が掲げられている。そのなかで安倍総理は会見で、「テロには屈しない」と2度も強調しているのだ。

 イスラエルはイスラム国から「イスラムを抑圧している」と敵視されている。これに対しネタニヤフ首相は、「イスラム国は絶対に打倒する」と強硬姿勢を示している。そのイスラエルの地で、安倍総理は六芒星旗を背景に「テロには屈しない」とイスラム国への敵対姿勢を見せたことで、イスラエル側についた、という印象を与えてしまっている。

イスラエルでの安倍総理会見の模様。通常、外遊先での内外記者会見では相手国の旗と日章旗が並んで立てられる

 安倍総理のイスラム国「敵視」発言は、今回が初めてではない。昨年9月23日に、エジプトのシシ大統領と会談した安倍総理は、米軍によるイスラム国への空爆について、「イスラム国が弱体化し、壊滅につながることを期待する」と述べている。

身代金支払いの選択肢を自ら絶ち、米国主導の「対イスラム国連合」参加を望む安倍総理

 総理自らが「テロには屈しない」と宣言したことで、身代金を支払って解放というシナリオは絶たれたようにみえる。

 自民党の高村正彦副総裁は21日、「政府が人道支援を取りやめるのは論外だ。身代金を払うこともできない」と党本部で記者団に述べた。

 不可解なのは、日本政府は邦人2人がイスラム国に拘束されていることを、以前から把握していたという事実である。

 湯川遥菜氏とともに、イスラム国が殺害を予告している後藤健二氏について、政府は以前から後藤氏が人質となっていることを知っていた。

 後藤氏が行方不明になった後、昨年の11月に後藤さんの家族宛に、約20億円の身代金を要求するメールが届いていたのだ。政府はメールについて把握していたが、家族の強い要望があったとして、公表を控えていたという。

 20億円という身代金で人質になっていることを知りながら、今回の事件に発展するまで、政府は何ら手が打てていなかったということだろうか。

 中東情勢やイスラム国に詳しい、放送大学教授の高橋和夫氏は、21日に岩上安身のインタビューに応え、「私の知っている情報では…」と前置きをしたうえで、「後藤さんのご家族は身代金要求メールが来た際に、外務省に相談した」と明らかにした。官邸に情報があがったかどうかは不明だが、少なくとも外務省は後藤氏の置かれている状況を把握していたのだ。

 また湯川遥菜氏についても、政府はイスラム国に拘束されていることを把握していた。昨年、イスラム国は「湯川さんの裁判を開く」として、元同志社大学教授の中田考氏とフリージャーナリストの常岡浩介氏に対し通訳として来てもらえないかと要請したという。しかし、北海道大学の学生が私戦予備・陰謀の疑いで事情聴取された事件に関与したとして警察の捜査を受けたことで、渡航が困難となってしまった。

 つまり、日本政府は湯川氏が解放されるチャンスを、みすみす逃してしまったことになる。

 湯川氏と後藤氏が、イスラム国に拘束されている状態を、政府はあえて放置していたのだろうか。

 いずれにせよ、政府は邦人2人がイスラム国に拘束されていることを知っていた。後藤氏に至ってはすでに身代金が要求されていることから、イスラム国に「カード」として温存されていることを知っていた。イスラム国と敵対した場合、それが今回のような最悪の事態に発展することは、容易に想定されていたはずである。

 にも関わらず、安倍総理は、イスラム国に対して一歩踏み込んで自ら「宣戦布告」した。

 米国は20日、2人の救出に向けて協力すると表明したものの、身代金の支払いには応じないという立場を強調した。

 アーネスト大統領報道官は米CNNの番組で、「身代金を払うことは、『イスラム国』がこのような恐ろしい行為を続けるための資金集めのメカニズムを提供するだけだ。我々は身代金を払わずに人質を救出するため、他国と緊密に連携しており、今回のケースも同じように対応する」と話したという。

 そして21日、一般教書演説を行ったオバマ大統領は、「米国はテロ組織を弱体化させ、最終的には壊滅に追い込むために、中東のアラブ諸国を含めた有志連合を率いていく」と述べた。

 安倍総理は20日のイスラエルでの会見で、「国際社会は決してテロには屈してはならない」「国際社会は、断固としてテロに屈せずに対応していく必要があるだろう。協力して取り組んでいく必要がある」などと、「国際社会での対イスラム連携」を強調していた。

 イスラム国への空爆に参加していないはずの日本が、安倍総理の中東歴訪、そしてこの事件を経て、いつのまにか米国が主導する「イスラム国壊滅のための有志連合」に組み込まれている。

人質事件を安保法制成立に利用?

 この事件が発覚する前日の19日、菅官房長官は記者会見で、米軍など他国軍の戦闘を支援するために、自衛隊をいつでも海外へ派遣できるようにする恒久法案を26日召集の通常国会に提出する考えを示していた。

 また同日、アフリカの南スーダンを訪問中の中谷元防衛大臣が、国連のPKOに参加している自衛隊部隊を視察し、「駆け付け警護」が可能になるよう、安全保障法制の整備を進める考えを示している。「駆け付け警護」とは、自衛隊が他国軍やNGOなどの民間人が危険にさらされている場所に駆け付け、「武器を使って」救出することだ。

 そして、さらに同日に安倍総理は、訪問先のイスラエルで、ジョン・マケイン米上院軍事委員長(共和党)ら米上院議員7人の訪問を受けている。訪問では日米同盟の重要性や、TPPの早期妥結に向けた連携強化の重要性を共有したほか、マケイン氏からは「普天間飛行場移設問題などの米軍再編を進めることが重要だ」などと提言があったという、

 マケイン氏は、タカ派の親イスラエル派として知られ、中東におけるイスラエルの軍事的優位の維持や、イスラエル軍によるパレスチナ内での軍事作戦を支持している。そして、安倍政権の憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を強力に支持する人物として知られている(※)。

(※)マケイン氏は、ソ連共産党が崩壊したあとのロシアに対しても厳しい姿勢を示していることでも知られる。プーチン率いるロシアをG8から外し、インドとブラジルを入れるべきだと主張している人物。また、ウクライナの「オレンジ革命」を積極的に支援し、同名のNGO幹部でもある。

 そして、あのウクライナ騒乱の立役者とも言われている。米国の権威ある外交政策関専門誌であるフォーリン・ポリシーは、「そう、ウクライナ政府には悪者がいる」という記事を掲載した。「不快な事実だが、キエフの現政権の中にいる相当数の人々、そして彼らを政権に就かせた抗議者たちは、実際にファシストだ」と述べ、「アメリカのジョン・マケイン議員はキエフでの集会でスボヴォダ党の党首であるチャフニボクと一緒に演台に立ち、抱き合った。そしてデモ参加者たちに向かって、“自由な世界はあなたたちとともにある。アメリカはあなたたちとともにある”と明言した」と論じた。

 この事件をきっかけに、日本が「イスラム国壊滅のための有志連合」の一員に引きこまれた以上、政府はこうした安保法制の成立、米軍との連携強化に全力をあげるだろう。そのための世論喚起としても、この事件が利用されようとしている。

 読売新聞は21日にさっそく、「米英、身代金応じず…必要なら軍事力で奪還」と題する記事で、米国民のジャーナリストが誘拐され、1億ユーロ(約137億円)の身代金支払い要求を受けたものの、それを断った米国の事例を紹介。人質が殺された後、オバマ大統領が「米国は正義のための措置を取る」と述べ、掃討作戦を強化したことを大きく報道することで、世論に対し、身代金よりも、軍事力での奪還を煽り立てている。

 2004年3月、英紙フィナンシャル・タイムズは石原慎太郎東京都知事(当時)の発言として、「日本の兵士が死亡するのを見れば国民は怒り、結束し、政府を支持するだろう」という改憲派の本音を紹介している。

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“【続報】イスラム国による邦人人質事件:米国主導の「イスラム国壊滅のための有志連合」に組み込まれる日本” への 1 件のフィードバック

  1. 空想的「テロに屈しない」主義 より:

    あらゆるテロに屈しないというのは総論で、「負けない」程度の意味です。「誰と」と問われると、とたんに沈黙してしまう、便利かつ狡猾な言葉と思います。各論で「イスラム国のテロに屈しない」と公共の場所で言うことは「虎の尾を踏む」行為です。戦前でしたら「打ちてしやまん」が近いのでしょうか。「主義」と名乗っているわけですから、あらゆる人の、あらゆる事件に同じような思考で取り組むということのようですが、安倍政権はそれこそ想定だらけでいい加減だと思います。

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