【安保法制反対 特別寄稿 Vol.301~Vol.310】「中国の脅威に対処~市場経済化を後押しし民主化を促せ」「安倍首相をフランコ将軍にしてはならない」「抑止力という幻」「私が反対する4つの理由」

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【安保法制反対 特別寄稿 Vol.301~Vol.310】

Vol.301 日本の美しい国土を戦争のために使うことを阻止しよう 名古屋大学法学研究科教員・紙野健二さん

 違憲の新安保法案が最終局面を迎えています。審議採決日程や自民党総裁選結果で、事実上決まった感が、総動員で流されています。お決まりのパターンです。

 しかし、そんなに思い通りいかせてよいものでしょうか。これほど、秘密とごまかしを重ねに重ねて戦争準備をさせて、涼しい秋を迎えさせてはなりません。

 これで収まるほど、国民は愚かではありません。国の仕組みを成り立たせている基本的な考え方を理解しないで、ムチャなことを完成させようとしている政治を、いまここで止めましょう。

 日々の生活に追われている人も、日頃の株価にしか興味のない人も、たくさん年金のある人も、「自衛隊の皆さんが他国へ行って殺し殺されたり、日本の美しい国土を戦争のために使うことを阻止しよう」この一点で、いま立ち止まって、通ってしまうととりかえしのつかないこの法案の成立を止めましょう。

名古屋大学法学研究科教員・紙野健二

Vol.302 理屈が通らない安保法案は、法治主義の破壊である 北海道大学大学院文学研究科教員・戸田聡さん

 10の改正法と1本の新法(自衛隊海外派遣関連の恒久法)から成る安全保障関連法案は、ここでは詳論できませんが(例えば自由法曹団のWebサイトで逐条批判の意見書をご覧ください)、集団的自衛権の行使を容認する違憲の閣議決定を根拠に、恣意的解釈の可能な存立危機事態という概念を導入して、自衛隊に米軍等他国の軍隊の後方支援を可能にすること。周辺事態に代えて重要影響事態なる概念を導入して「自衛」隊の活動から地域限定を外すこと。

 国会の事前承認なしに「自衛」隊の海外派遣を可能にすることなど、問題点が山積です。

 戦争放棄を謳った憲法9条に対して、個別的自衛権と自衛隊保持を認める従来の政府解釈も、ほとんど歪曲と言うべき曲芸的な解釈ですが、今回の法改正は、多くの憲法学者が指摘するように、完全に憲法9条と矛盾しています。

 今回の法案を法律とすることは、9条だけでなく99条にも違反し、立憲主義・法治主義の破壊です。法治主義の根幹は理屈が通っていることであり、学問の本質上、学者は論理を重視しなければなりません。その立場から見て今回の安保法案は断じて認められません。仮に法律成立となれば、安倍政権は自らの正統性を失い、民主主義の敵となります。主権者たる国民は必ずやこのような政権をその座から引きずり降ろさなければなりません。

北海道大学大学院文学研究科教員 戸田聡

Vol.303 他国の人々を傷つけまい 名古屋学院大学講師・宮坂清さん

 自ら他国の人々を傷つけに行くことはしないという、私たちがもつ類まれな意志を、たとえそれがそれほど単純に美しいものでないにせよ、このような形で捨て去ることはできません。

 この意志は所与のものではなく、私たちが自ら時間をかけて練り上げてきたものです。

 今回の一連のできごとは、これから私たちがこの意志を一層自覚的に磨き続ける必要があるのだと教えています。がんばりましょう。

名古屋学院大学講師 宮坂清

Vol.304 中国の脅威に対処~市場経済化を後押しし民主化を促せ 愛知学院大学准教授(歴史学)柴田哲雄さん

 安倍晋三政権が、新たな安全保障政策に関する法案を5月15日に国会に提出。国内では、この法案をめぐって賛否の議論が起こっている。反対派の主張は次の二つに集約されるだろう。

 一つは、立憲主義の立場から、安倍政権が、憲法9条に関する政府の従来の解釈を無視して、集団的自衛権を認めるなど恣意(しい)的に解釈を変えていることに異議を唱えるものである。

 もう一つは、平和主義の立場から、アジアへの侵略や植民地支配の歴史に対する安倍首相の否定的態度と絡めて、日本を再び戦争のできる国にしようとしていると批判するものである。

 一方、賛成派の主張は、中国の海洋進出の脅威にいかに対処するかという観点から出発している。彼らは、立憲主義や平和主義に手を縛られた揚げ句、中国に尖閣諸島を占領されてしまうのは、愚かなことだと考えているのだろう。

 反対派は中国の海洋進出の脅威を否定しがちであり、その脅威にいかに対処するかについて正面から論じることを避けているようにみえる。反対派が賛成派を説得するためには、賛成派の主張が中国の脅威を抑止するには必ずしも妥当とは言えないことを例証すると同時に、憲法9条に関する従来の解釈を変更しなくても、中国の脅威に対する抑止が可能となる対案を示す必要があるだろう。

 賛成派の主張を一言で表せば、「集団的自衛権に基づいて、自衛隊が海外で米軍とともに戦えば、日米同盟はより強化され、中国の尖閣諸島への侵攻を抑止することができる」ということになるだろう。

 実は韓国政府も1960年代半ば、ベトナム戦争に際して、同様のことを考えた。「集団的自衛権に基づいて、韓国軍がベトナムで米軍とともに戦えば、韓米同盟はより強化され、北朝鮮の韓国への侵攻を抑止することができる」。朴根好・静岡大学教授によると、韓米同盟の強化のほかにも、韓国の経済発展や軍の戦闘力向上という効果も期待されていたという。

 しかしながら、ベトナム戦争後の1976年の米国大統領選挙で、民主党のカーター候補は、韓国のベトナム派兵に義理を感じることなどなかった。アジアの戦争に再び巻き込まれないようにするなどの理由で、在韓米軍の撤退を公約とするに至った。こうした経緯を見れば、韓国のベトナム派兵が韓米同盟の強化に寄与したとは言い難いだろう。

 無論のこと、日本と韓国では、米国の世界戦略における位置付けや仮想敵国がそれぞれ異なっている上に、当時と今日では時代背景も大きく違う。しかしながら、万が一、尖閣諸島周辺の海域で日中紛争が起きたならば、米国内では、たかだか無人島のために中国との戦争に巻き込まれたくないという世論が沸き起こることはあり得ないだろうか。

 米国政府は、自衛隊が海外に行って米軍とともに戦ったことに義理を感じて、国内世論を無視してまで中国軍に対して実効的な武力制裁を加え得るだろうか。おそらく米国政府は中立的な立場で、日中間の和議を斡旋(あっせん)しながら、後方からの対日支援でお茶を濁してしまうのではないだろうか。つまり日本の集団的自衛権の行使も、米国との同盟強化に必ずしも寄与するとは言えないだろう。

 では、憲法9条に関する解釈を変更することなく、中国の脅威に有効に対処するには何をなすべきだろうか。

 中国の市場経済化を後押しする一方で、中国の民主化を促すことである。中国が日米両国と価値観を共有することができるようになれば、領土・領海問題の平和的な解決は容易となり、中国の脅威もかなり減じるであろう。無論のこと、それはたいへん困難な道のりである。

 目下、日米両国の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が山場を迎えているが、日本政府は自国の産業保護の観点のみならず、将来的に中国がTPPに参加することを前提にして、中国の市場経済化を完成させるという戦略的な観点からも、米国との交渉に当たるべきである。

政治亡命者を受け入れよ

 また日本政府は従来の消極的な難民政策を転換して、中国からの政治亡命者をも積極的に受け入れて、日本を中国の民主化運動の一大拠点とすべきである。これまで中国の民主化運動は主として欧米諸国に拠点を置いてきたが、隣国に確固とした拠点ができれば、中国国内の様々な運動とも連携しやすくなるであろう。

 中国政府を激怒させ、かえって日中関係がよりいっそう悪化するのではないかと危惧する向きもあるかもしれない。

 政治亡命者の支援に当たっては、あくまでもNGOが前面に立つべきであって、日本政府は黒衣に徹するべきだ。人権や民主主義といった普遍的価値観を擁護する民間人があくまでも主体となって、日本政府と資金・情報面で連携しながらNGOを設立するのである。そうしたNGOは米国民主主義基金(NED)などの組織と提携すべきだろう。私は、民主化支援に限定するのならば、中国との大きな外交問題とはならないものと考える。

 台湾の馬英九総統が2014年10月に香港で街頭行動を行っている民主派への支持を表明した。その際に中国政府が抗議しこそすれ、中台関係が極度に悪化しなかったことを見れば、それは明らかだろう。

 ただし中国ナショナリズムを過度に刺激しないために、そうしたNGOは台湾の独立、並びにチベットやウイグルなどの少数民族の独立を支援すべきではない。NEDも同様の姿勢をとっている。また日本のアジアへの侵略や植民地支配の歴史を否定する動きとは明確に一線を画すべきだ。

AJWフォーラム英語版論文
(2015年6月25日「朝日新聞社インフォメーション AJWフォーラム」)より転載

柴田哲雄 愛知学院大学准教授(歴史学)

Vol.305 違憲立法に反対します 立命館大学教授(法律学)生熊長幸さん

 日本国憲法第9条は、第二次世界大戦への深い反省から作られた崇高な理想に基づくものです。それに対して今回の法案は、アメリカの強い要請に基づくアメリカ軍支援法案であり、また、戦前の軍国主義への大きな一歩となる極めて危険なものです。

 また、今回の法案は、憲法改正という手続きを経ると、憲法改正を実現できないと考えた安倍政権が、憲法の条項を潜脱する形でその内容を実現しようとするものです。このようなことを許すとするならば、憲法のあらゆる重要な条項が、骨抜きにされてしまいます。

 これに法曹資格を有する国会議員を含め、政府与党の議員が誰一人として反対を唱えない事態も、極めて異常です。すでに戦時体制にあるかの如くです。

 以上の次第で、今回の法案については、直ちに撤回を求めます。

生熊長幸 立命館大学教授(法律学)

Vol.306 安倍首相をフランコ将軍にしてはならない 龍谷大学経済学部専任講師(スペイン現代史)安田圭史さん

 安倍政権が昨年の特定秘密保護法に続き、現在安保関連法案の審議の過程で、マスコミに情報を流すのをためらっているのは非常に気になります。衆議院での法案審議がテレビ中継されないこともありましたが、これは政権側に何か後ろめたいことがあるからではないでしょうか。

 私は、スペインの20世紀の歴史研究を専門としていますが、スペインにはフランコ将軍という独裁者が1939年から75年までの36年間、国を支配しました。この間、フランコ政権は出版業界や放送業界において厳しい検閲を実施し、テレビ局も国営放送のみしか認めませんでした。36年もの長い間、スペイン国民は画一化された少量の情報しか得られず、スペインはその間、他国に比べて政治的にも文化的にも非常に停滞しました。

 またフランコ政権は、政権に抵抗する人々に徹底した弾圧を行い、拷問などで数多くの人々を殺害しました。その事実は、最近まで決して公にされることはありませんでした。

 安倍政権が国民に十分に情報を与えず、安保関連法案を力ずくで可決しようとしている様は、フランコ独裁政権の手法とよく似ています。日本も今のままでは、当時のスペインのようになってしまうのではと危惧しています。そうならないために国民が様々な情報を問題なく入手でき、政権を厳しく監視できる社会が続くよう努力しなければなりません。

安田圭史 龍谷大学経済学部専任講師 (スペイン現代史)

Vol.307 抑止力という幻 広島大学教授・栗木雅夫さん

 現在、多国間による紛争防止を理由として、実質的に無制限に海外派兵を可能とする集団的自衛権の立法が模索されています。しかし、現在までに欧米諸国による軍事介入などで世界に平和がもたらされているでしょうか? 多国籍軍によるイラク侵攻、続くシリアへの軍事介入は、イスラム国の出現による治安の絶望的なまでの悪化、軍事的緊張を引き起こしています。

 また、それは欧米各国で相次ぐ宗教的原理主義者による残虐なテロリズムの遠因ともなっています。軍事力は平和構築に何ら寄与しない、ということを世界は学ぶ時期に来ています。

 広島は世界で初めて、原子力爆弾が実戦投下された場所です。原子力爆弾の投下は、その威力を世界に知らしめるためのデモンストレーションであったことが、指摘されています。日本政府は、米国の核の傘という、抑止力を認める態度を崩していませんが、核抑止力を認めることは、広島•長崎への爆弾投下を正当化することに他なりません。核抑止力からの決別は、日本人としての尊厳を取り戻すことでもあるのです。

 核戦争時代、そして技術の発展を背景とした通常兵器の拡散による地域紛争、テロの激化という状況は、軍事的威嚇が平和構築には無力であることを証明しつつあります。憲法九条は、破滅的な敗戦という状況の中から生まれた、時代を先取りした平和構築の知恵なのです。解釈改憲によりこれを無力化し、軍事力による威嚇への道を開くことは、時代に逆行した愚かな行為です。

 世界は軍事力による抑止という幻から目覚めなくてはならないのです。

(栗木雅夫 広島大学教授)

Vol.308 米軍負担軽減のための法律  富山大学教授・西田谷洋さん

 今回の安保関連法案は憲法違反の内容であり、且つ、権力者の恣意的な運用が可能な点で非常に危険であり、国会での答弁もきちんとした受け答えをしていない点、たとえば根拠としてあげられる国際情勢の危機も、単に排他的な恐怖・敵愾心を高めるためのものであり、日本防衛を強化せず米軍負担軽減のための法律である点で、大変問題であると考えます。

 安保関連法案は日本の危機を強め、安全を失わせるものであり、日本の右傾化、民主主義の危機を象徴する法案として反対します。

(西田谷洋 富山大学教授)

Vol.309 現政権のやり方に反対 東洋大学経済学部教員・曽田長人さん

 安保法案は、
・日本と中国との関係をさらに悪化させるのではないか?
・日本をアメリカによる対テロ戦争へと巻き込むのではないか? 対テロ戦争への参戦は、日本の防衛のために必要なのか?(むしろ逆ではないのか?)
・違憲の疑いが極めて濃いのではないか?
・現政権による日本の民主主義の緩慢な圧殺をさらに加速させるのではないか?

 これらの疑問に、現政権は十分に答えているとは思えません。

 それゆえ、十分な議論を尽くすことなく、安保法案の通過を目指す現政権のやり方に反対します。

(曽田長人 東洋大学経済学部教員)

Vol.310 私が反対する4つの理由 金沢大学(フランス文学)岩津航さん

 私が今回の安保法案に反対する理由は、主に4つある。

 第一に、立憲主義の無視。

 日本国民は、憲法9条を通じて、武力行使の禁止を自らに約束し、諸外国に約束している。集団的自衛権の行使が、この憲法の条項と合致しないことは、すでに憲法学者の圧倒的多数が表明しているとおりである。

 これを合法化するためには、憲法改正の手続きを経なければならない。それができなければ、もはや法治国家とは言えない。私は法律を信頼できる国に暮らしたい。

 第二に、論理の軽視。

 法治国家とは、単に法律に従っているというだけでなく、論理的に誰もが納得できる法律に従って統治されている国家を指す。政府の答弁は、その場しのぎの想定と詭弁を繰り返して、ことごとく自家撞着の見本のようになっている。

 私が怖れるのは、このような論理の軽視と無責任な言説が、悪しきモデルとなって、今後日本に蔓延していくことである。

 第三に、武器輸出の倫理的欠陥。

 今回の法案は武器輸出の緩和を含む。日本の産業界は、武器輸出によって儲かるのかもしれない。武器産業は、戦争があるほど儲かる。

 ところで、戦争で武器が使用される際に、誰も死なないということは想定しがたい。誰かの死によって利益を増大させるような事業を私は国益と呼びたくない。

 第四に、提案に含まれる虚偽。

 憲法の理念に背き、論理も破綻しているにもかかわらず、なぜ今国会で強引に押し通そうとするのか。国民には説明されていない理由が存在すると考える方が自然であり、それを説明しないのは、秘密にせざるを得ない事柄であるからだと考えるしかないだろう。特定秘密保護法が先に施行されたことが、間接的にこのことを証明しているように思われる。

 東京オリンピック招致の際に、「福島第一原発の状況はコントロールされている」と平然と嘘をついた首相は、嘘をつき通せない相手には、なるべく会わないようにしている(沖縄県知事や韓国大統領)。

 このような「内向き志向」は、メディアによる日本礼賛と連動している。日本人の自信のなさが裏返しに表現されている、と考えてよいだろう。しかし、私たちが「取り戻す」べき自信は、嘘に基づいていてはならない。

岩津航 金沢大学准教授(フランス文学)

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ