【参院選2013各争点の総括と今後の見通し】アベノミクスの是非(IWJウィークリー12号より) 2017.8.5

記事公開日:2013.8.5 テキスト
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(IWJ・野村佳男)

 参議院選挙での自民党の圧勝という結果を受け、国内外の大手メディアは一斉に、安倍総理の経済政策「アベノミクス」が国民に広く支持されたかのように報じている。

 国会での「ねじれが解消」され(この表現自体、衆議院に対する参議院の独立性を軽んじるような表現である)、強化された政権基盤の下で、日銀の「異次元金融緩和」の継続や追加的な成長戦略によって、円安や株高傾向が今後も続くだろうと、手放しで賞賛の論調だ。

  • SankeiBiz 2013年7月23日「日銀、消費増税対応が関門 アベノミクス信任で追い風も」(リンク切れ)

 その一方、参院選直前の世論調査によると、「アベノミクスで生活が楽になった」と感じているのはわずか6.1%という。


(出典:【生活トレンド研究所レポート】「一般生活者の景況感と家計」に関する調査 http://bit.ly/18CCP2x

 さらに、共同通信社による参院選後の世論調査では、安倍内閣の支持率が56.2%と、前回6月から11.8ポイント急落したことが明らかになっている。支持率急落の最大の理由は、「経済政策に期待が持てない」という結果である。

  • 東京新聞 2013年7月24日 「内閣支持急落56% 共同世論調査」(リンク切れ)

 安倍政権を足並みそろえて持ち上げる大手マスコミの認識と、一般市民の感覚に「ねじれ」が生じていることは明らかである。

 「国会のねじれ」は解消したかもしれないが、マスコミの礼讃報道と、国民の実感との間の「アベノミクスのねじれ」は、ますます大きくなっているようだ。

 この「アベノミクスのねじれ」は、今後大きな波乱材料となるだろう。安倍政権の政策を見る限り、すでに始まっている円安による物価上昇と、ますます加速する「非正規化」や「賃金上昇の遅れ」との間の「ねじれ」は、拡大こそすれ、「解消」する見込みはほとんどない。アベノミクスがもたらす政策効果によって、物価は上昇(インフレ)に、所得は低く抑えられる(デフレ)という「ねじれ」が拡大し、そのまま経済格差の広がりへとつながる可能性が高い。

 アベノミクスの「第1の矢」である異次元金融緩和は、円安株高で一部の資産家や投資家を潤しただけで、早々に収束してしまった。「第2の矢」の財政出動も、肝心の復興対策で復興予算の流用や手抜き除染が横行するなど、国民生活を支える公共事業にはほとんど使われていない。逆に、この後に待ち構えている財政再建のための消費税増税が、景気の悪化を招きかねず、不安を拭えない。

 そして、これから放たれる「第3の矢」である成長戦略の要は、企業優遇政策である。法人税を削減し、雇用規制を緩和することで、企業の設備投資や雇用を増やすと、安倍総理が街頭演説で繰り返し訴えていたポイントである。

 日本の就業者の8割が企業に属している以上、企業活動が活発になる政策自体は悪いことではない、という人も少なくないだろう。問題は、その恩恵を誰が手にするかということである。

 例えば米国では、株主や経営者の利益が第一であり、経営者と労働者の平均賃金格差が204倍にも拡大している。またOECDのデータでは、米国は雇用保護の度合いも主要国で最低であり、労働者の地位は極めて弱い。

  • ハフィントンポスト 2013年5月10日「経営者と労働者の賃金格差は204倍」(リンク切れ)


(出典:内閣府 「雇用形態の変化と家計」

 日本でも、小泉政権が米国的な新自由主義の経済政策を導入して以降、平均給与は低下し、パートや派遣など地位の弱い「非正規雇用」が急増している。アベノミクスの企業優遇策は、さらなる「雇用の流動化」を生み、労働者の環境悪化に拍車がかかる恐れがある。


(出典:時事通信 2013年1月31日 「平均給与、最低の31.4万円=製造業の賞与減響く-12年」リンク切れ )

 そもそも先述の通り、安倍総理は雇用規制を緩めて、労働者を解雇しやすくする、といいつつ、雇用を増やすという矛盾したようなことを訴えてきた。これは要するに、正社員を解雇しやすくするとともに、非正規社員を増やすということに他ならない。

 マスコミの世論誘導があったにせよ、自民党を圧勝させたのは有権者自身である。信任を得たとして、安倍総理は公約を実行に移すだろう。労働者の権利は、いっそう弱められ、賃金の抑制にますます拍車がかかるのは避けられない。

 最近、一部のメディアでは、いわゆる「ブラック企業」の問題が取り上げられるようになり、地位の弱い労働者がどのような憂き目にあっているのか、その実態が明らかになってきている。

 IWJでも、月に100時間を超える残業を強いられ、鬱病になった「ワタミの介護」の元従業員の告白をスクープした。

 ワタミグループのトップに立っていた渡辺美樹氏が、自民党の公認で出馬し、比例で当選したことに、今回の選挙の本質が象徴されている。

 アベノミクスを支持する人々の中で、いつ自分がこのような境遇に陥るかもしれないということを、どれだけ想定しているだろうか。「明日は我が身」なのである。

 選挙戦は終了したが、株価高騰や高額消費といったニュースに惑わされることなく、基本的な生活を守るという視点で政策を見極めることが、ますます重要になるだろう。

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「【参院選2013各争点の総括と今後の見通し】アベノミクスの是非(IWJウィークリー12号より)」への1件のフィードバック

  1. 木下晴雄 より:

    魯の君主の定公が孔子に「一言で国を滅ぼすと云うような言葉はありますか」と聞いた。
    孔子答えて曰く「君主の言うことが善いことであって、しかも誰もがそれに従う、というなら大変結構です。しかし、もし君主の言うことが善くないことであるのに誰もが服従する、というなら、一言で国を滅ぼす、と云うのに近いと思います」(論語の子路第13-15-2)

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