【参院選2013争点解説①原発】昨年の衆院選から唯一豹変した、自民党の原発政策(IWJウィークリー10号より) 2013.7.15

記事公開日:2013.7.15 テキスト
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(文責・岩上安身)

 ちょうど一年前の夏のことを思い出してみて下さい。

 政府が決定した大飯原発の再稼働に反対するため、総理官邸前には、毎週末、数万人〜数十万人の市民が押し寄せました。当時の野田総理は、官邸前の主催者である「首都圏反原発連合」メンバーと面会の場を設定。政府が「脱原発を求める民意は無視できない」と考えたことがうかがえます。

 2012年夏に政府がまとめた「討論型世論調査」の結果では、「2030年代の電力に占める原発割合」について、46.7%の市民が「0%」と回答していました。同じく、政府が募集した「2030年代の電力に占める原発割合」の意見公募(パブリックコメント)では、応募総数89000件のうち、9割近くが「原発ゼロ」を選択しています。

すべての党が原発との決別を表明した2012年衆院選

 結局、大飯原発は再稼働が強行されましたが、その後も原発再稼働への国民の抵抗は根強く、年末の衆院選で、「原発政策」は、大きな争点の一つとなりました。その際には、主要な政党のすべてが「脱原発」を掲げたのです。

 民主党は「2030年代に脱原発」と掲げ、みんなの党は「2020年代に原発ゼロ」と打ち出しました。日本未来の党は、遅くとも10年以内の完全廃炉を目指す「卒原発」を謳い、日本共産党は「すべての原発からただちに撤退、原発輸出政策の中止」、公明党は「可能な限り速やかに原発ゼロを目指す」、社民党は「稼働中の原発の即時停止と新・増設計画の白紙撤回、『脱原発基本法』の制定で原発ゼロ社会を実現」、日本維新の会は「既設の原発は、2030年代までにフェードアウトする」と掲げました。

 あの自民党ですらも、「すべてのエネルギーの可能性を掘り起こし、社会・経済活動を維持するための電力を確実に確保するとともに、原子力に依存しなくても良い経済・社会構造の確立を目指す」と、「脱原発依存」を有権者に約束して、その結果、政権を奪還したのは、皆さん、お忘れではないだろうと思います。

つまり、一年前の夏に高揚した官邸前での抗議やパブコメの結果は、財界など「原子力村」がいくらせっつこうとも、各党が原発の維持・推進を安易に打ち出せるような「空気」を許さなかったのです。

▲「再稼働反対」を叫ぶ市民により埋め尽くされた首相官邸前―2012年6月29日

参院選スタート 各党は脱原発の方針を踏襲したが…

 さて、今回の参院選の公約ですが、ひと通り見わたすと、各党は基本的に衆院選時の脱原発政策を踏襲しているように見受けられます。各党の打ち出す原発政策をひと通り見比べてみましょう。

 民主党は「40年運転制限制を厳格に適用する」「原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする」「原発の新設・増設は行わない」の3つの原則のもと、「2030年代に原発再稼働ゼロを可能とするよう、政策資源を投入します」と、前回の方針を堅持しています。

※民主党「参議院選挙重点政策」 http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2013.pdf

 みんなの党は、「発送電分離を敢行し、卸電力市場の活性化や30分同時同量制の廃止などで地域分散型エネルギーシステムへ移行するための環境を整備。発電・小売りの全面自由化で、ライフサイクルに合った電気料金や再生可能エネルギー100%の電力購入など消費者が電力を選べるシステムを構築します」と、電力自由化のインフラ整備をすると主張。「2030年までの原発ゼロ」、「2050年に再生可能エネルギー80%」と打ち出しています。

※「みんなの政策アジェンダ2013」 http://san2013.your-party.jp/agenda/02.php

 生活の党は、日本未来の党時代と同様に、「10年後にすべての原発を廃止する」と明記し、2020年代前半までに脱原発を実現したい考えです。そのために、「メタンハイドレート等の日本からの次世代エネルギー革命、日本の省エネルギー技術と再生可能エネルギーの普及、効率の良い天然ガス・コンバインドサイクル火力発電、さらにエネルギーの地産地消や脱原発による成長戦略を推進」するとしています。さらに、「原発の再稼働・新増設は一切容認しない」とも掲げています。

※生活の党 参院選政策 http://www.seikatsu1.jp/political_policy

 日本共産党は、「省エネ・節電の徹底と、再生可能エネルギーの大幅導入へ抜本的に転換」すると宣言。「『即時原発ゼロ』を決断し、ただちに廃炉のプロセスに入ることが、最も現実的な道です」とし、「原発にたよらず、省エネ・節電の徹底と、再生可能エネルギーの大幅導入への抜本的転換の計画を立てて、実行していきます」「原発推進派は『自然エネルギーは供給が不安定』などとしますが、多様なエネルギーである太陽光・熱、小水力、風力、バイオマス、地熱、潮力などを組み合わせて普及すれば、安定します」と、原発維持・推進勢力と対峙する姿勢を明確にしています。

※日本共産党 参院選挙政策 http://bit.ly/11Uavqi

 公明党は、「原発の新規着工を認めず、原発の40年運転制限制を厳格に適用します。新しいエネルギー社会を創造しつつ、原発への依存度を段階的に減らし、可能な限り速やかに“原発に依存しない社会・原発ゼロ”をめざします」と、衆院選の公約を踏襲。また、再稼働について、「40 年運転制限制、バックフィット、活断層等の徹底調査をはじめとする厳しい規制の下で、原子力規制委員会が新たに策定した厳格な規制基準を満たすことを大前提に、国民、住民の理解を得て判断します」とし、高速増殖炉もんじゅについては「廃止」すると記しています。

※公明党Manifesto2013 http://bit.ly/1d2mCUm

 社民党も、「原発再稼働は一切認めません」「稼働中の大飯原発3・4号炉は即時停止させます」「原発の新増設はすべて白紙撤回し、建設を中止します」と、衆院選時と同様の主張をしています。「福島第一原発5・6号機と福島第二原発1~4号機および活断層の上に立地することが明らかとなった原発は直ちに廃炉」「その他の既存原発については、『脱原発基本法』を制定し、老朽炉等のリスクの高い原子炉から順次計画的に廃止」するとしています。

※社民党2013参院選 選挙公約 http://bit.ly/1asA1sM

 日本維新の会もやはり、「既設の原子炉による原子力発電は2030年代までにフェードアウトさせる」と、衆院選時の公約をスライドさせています。他にも、「発送電分離による自然エネルギーへの移行」や「福島県内の原発全基廃炉」などを掲げています。

 しかし、衆院選時、石原慎太郎共同代表が会見で、自党が掲げた公約にもかかわらず、「(原発の)フェードアウトってどういうことですか?」と記者に問いただし、「原発ゼロは『願望』だから公約は直させた」などといったことも述べており(結局、公約は直っていない)、また、維新から出馬したアントニオ猪木氏が、事務所開きの日に「原発を10年後にやめよう」と発言するなど、維新内で、本当に脱原発政策が共有されているかは疑問です。

※日本維新の会 https://j-ishin.jp/pdf/2013manifest.pdf

 初の国政選挙となるみどりの風は、「原発は再稼働せず、廃炉」と打ち出し、「2023年までにすべての原発の完全廃炉に着手」すると明言。「発送電分離」「再生可能エネルギーの利用拡大」「脱原発基本法の制定」を進めるとともに、「廃炉ビジネス」の立ち上げを宣言しています。

※「みどりの風の約束」政策集 http://bit.ly/17LFhTR

 主要な政党のすべてが、衆院選時の公約をそのままスライドしているのがわかります。

 唯一、豹変したのが自民党です。

トロイの木馬

 自民党は、今回の公約で、「国が責任を持って、安全と判断された原発稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限努力します」と、再稼働を推進すると断言しました。さらには、衆院選時に掲げた「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という文言まで撤回しています。100%の手のひら返しです。

 仮に、エネルギー政策を転換せざるをえないような、切羽詰まった状況の変化でもあれば、少しは理解もできます。しかし、この半年間で、日本の電力事情に決定的な変化があったとは思われません。電力が不足するというプロパガンダにも関わらず、電力は十分に足りていますし、石油や天然ガスの価格が急激に高騰したわけでもありません。また、東海・東南海・南海の三連動の巨大地震が起こるリスクも消えてなくなったわけでもありません※。半年前と前提条件は何も変わっていないのです。

※内閣府「東海地震、東南海・南海地震について」 http://bit.ly/1b2vqwF

 現に、他のすべての政党が、前回と同様の原発政策を掲げています。ただただ自民党の公約だけが、大きく変わったのです。原発再稼働に向けて前進するのだ、というのが、財界の意を受けた自民党の、そもそもの本音であるとしたら、前回の衆院選時の「脱原発依存」という公約の方が、政権奪還のため「国民の反感を買わないよう政策を偽った」のだと考えざるをえません。

 しかも、原発政策は国民的な関心事であるにも関わらず、原発の新規増設問題や核燃サイクルをどうするのかなど、重要な論点について、何も触れられていません。

 公約の中で、「原発」という文字が他に見受けられる箇所は、あと1ヶ所だけ、「東京電力福島第一原発事故に関し、新しくかつ有効な除染・減容化技術の導入や中間貯蔵施設の整備等、除染の加速化に努めます。また、除染から廃炉までの道筋を明らかにし、国がより前面に立って具体的な事業展開を加速化します」というくだりだけです。

 ここでは「福島第一原発の廃炉」について書かれていますが、福島第二原発に対する考えはわかりません。再稼働推進の姿勢を打ち出した上で、あえて福島第二原発に触れないということは、再稼働候補に入っているとも考えられます。

施行された新規制基準

 参院選のまっただ中、原子力規制委員会が新たに作成した「原発新規制基準」が、今月8日に施行されました。北海道、関西、四国、九州の4電力会社が、一日も早い再稼働を目指し、施行日初日に原発の安全審査申請を行いました。今後、新規制基準を満たした原発が、次々と再稼働していくことが予想されます。

 さらに、未だに福島第一原発事故の収束さえできていない東京電力までもが、柏崎刈羽原発6、7号機の安全審査を申し出る、と表明しました。地元・新潟県の泉田裕彦知事などの反発※により、まだ申請には至っていませんが、まるで、福島での事故などなかったかのような、事故前の日本に戻ろうとしているかのようです。安倍総理がスローガンとして掲げる「日本を取り戻す(Japan is Back)」とは、こういうことだったのでしょうか。

▲東電の廣瀬直己社長を叱責する泉田裕彦新潟県知事~7月5日、新潟県庁

 一度起きれば、取り返しのつかない被害が出る――そんな原発事故を経験した日本ですから、今後の原発政策に関しては、衆院選時のように、各党とも公約に「民意」が反映されて然るべきです。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というのが日本人の国民性であるとしても、あまりに変わり身が早すぎはしないかと思います。事故を防げなかったのは国と電力会社の責任であったとしても、悲惨な事故の記憶をとどめ、明日に活かすことができなかったとしたら、それは、最終的には国民自身の責任であることを忘れるわけにはいきません。

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「【参院選2013争点解説①原発】昨年の衆院選から唯一豹変した、自民党の原発政策(IWJウィークリー10号より)」への1件のフィードバック

  1. 日本は大丈夫か より:

    衆院選挙で一番気にしたい事
    特定秘密保護法の廃止または特定秘密分類を犯罪手法などに限定することが 一番大事と思う。
    下記は特定秘密保護法に賛成した議員と反対した議員
    http://stophimitsu.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-7865.html …
    情報が偏って伝われば、身を守ることが極めて難しくなる。 まずはここから

    衆院選で、国民皆でチェックしたいこと
    投票の受付を地元の人が顔を見て受け付けているか?
    どこかの派遣社員が受付しているか?
    同じ筆跡で同一名称の投票がないか?
    ムサシの設定ミスはないか?
    開票所へ運ぶ途中で投票用紙が消えたり、 すり替えられたりしてないか?
    投票時間が勝手に繰り上げられたりしないか?
    ムサシの集計バーコードが付け替えられたりしてないか?
    ただし気を付けるべきは、選挙前の12月10日に特定秘密保護法が施行されること!!

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