民進党新代表に前原氏が選出された。予想通りではある。前原氏にはおめでとうと申し上げるとともに、野党第一党代表として、しっかりやっていただきたいと、期待を込めて苦言も申し上げたい。
第一に、前原氏が、私のインタビューの中で、緊急事態宣言条項を含めた自民党の改憲草案を読んでいない、と発言していたことに不安を覚える。代表になって1番にやるべきことはそのための勉強である、ということ。本来は、なってからやるべき勉強、ではなく、とっくの昔にしておくべき勉強なのだが。
秋の国会にも与党が提出予定だった改憲案(見送りの予定と言われているが油断は禁物)、おそらくその中に緊急事態宣言条項は間違いなく入っているはず。今回代表選を戦って敗れた枝野氏は明確な危機認識を持っている。せめて足並みを揃えてもらいたい。
IWJは、自民党改憲草案の危険性を逐条ごとに読み解いた書籍『前夜』を販売している。現在販売中の『前夜〜増補改訂版』は、中でも緊急事態条項の危うさに焦点を当て、大幅に加筆しているので、ぜひお読みいただきたい。
第2に、前原氏の周囲には第2自民党的ともいうべき右派が多く、そうした側近ばかり登用したあげく、野党と称しながら、民進党を、維新や都ファのような、自民党と大差のない、オルタナティブ右派政党にしてしまわないように、ぜひとも気をつけてもらいたい。
北朝鮮危機に対して、小野寺防衛大臣の主張する敵基地攻撃論は取らないと前原氏は私のインタビューで明言されたが、他方、有効性がまるでないミサイル防衛を「格段に充実させる」とも述べており、落胆しました。
これでは危機を煽って商売を目論む米国の軍産複合体の思うツボ。「北朝鮮問題は、米朝間の問題なので、日本にできることはほとんどない」と言っていた前原氏は、そのことをまずは正直に国民に伝えるべきである。
その上で、無駄なミサイル防衛などに貴重なリソースを浪費する愚を批判し、自公維ファなどと一線を明確に引き、外交の重要性に立ち戻ってもらいたい。安全保障にとって軍事に匹敵するほど重要なのは外交である。
PAC3やTHAADなどのミサイル防衛システムがいかに無意味で役立たずであるかは、元外務省国際情報局長の孫崎享氏が私のインタビューの中で詳しい数字を用いて検証している。現在、公共性を鑑みてフルオープンで公開しているので、ぜひご覧いただきたい。
第三に、野党共闘には限りなく柔軟に、自公と対峙できる態勢を整えてもらいたいということ。このままでは、自公どころか国民ファーストにも水をあけられてしまう。今の日本は、極左暴力革命が起こる可能性など皆無であり、支持者もほとんど存在しない。
共産党に対する過剰な敵視は度が過ぎている。他方、心配なのは左ではなく右方向である。極右方向に針が振れて、緊急事態宣言条項に見られるように、軍事全体主義国家化、軍事ファシズム化へと向かう可能性は決して低いとは言えない。
とめどない右傾化に歯止めをかけることは、野党第一党たる民進党にとって、喫緊の現実的な政治課題であるはず。実際、改憲によって自民党の改憲草案の緊急事態宣言条項が憲法に刻まれ、実際に発令されたらどうなるか。
形式的には合法であっても、国民主権、基本的人権、三権分立、議会制民主主義の息の根を完全に止める事実上のクーデターとなる。「反共」に熱心なあまり「反ファシズム」といった方向への熱意がほとんど感じられないのが、残念であり、不安でもある。
今回のインタビューの中で、前原氏が「レイシズムには絶対反対」と発言されたのはよかった。しかしアジアへの蔑視が国民全体に広まったのは、明治以降、東アジアへの侵略の開始とともに始まったことである。
差別・レイシズムの蔓延と帝国主義、植民地主義、そして侵略戦争は一体である。過去の歴史の直視抜きに、現在進行形の現実を正確にとらえ、認識することはできない。
そうした点では、小池知事らとの政治的連携はくれぐれも慎重であってもらいたい。そうでなければ、関東大震災直後の朝鮮人ジェノサイドという史実を歴史の片隅に置いやろうとしている小池知事や野田数という極右政治家と手を結ぶことになる。
野田数(かずさ)氏は、都議時代、大日本帝国憲法の復活を求める請願を都議会に提出した人物である。ポツダム宣言受諾の意味もろくにわかっていない、そんな粗野な極右政治家が都ファの議員らの言論統制まで行って権力を振るっている。論外である。
こうした懸念を払拭することなく、都ファと無防備に接近する愚を犯して、残り少なくなってきた民進党の良心的な支持者さえ離れていくような真似は、新代表となった前原代表にはぜひともやめてもらいたいと願う。
民進党には、まだ、良識や良心が残されており、良識に基づく善政を行おうとする政治的意志や能力、人材もまだ残されていると期待をかけている支持者の人々が多少なりともまだこの国には存在する。
そうした期待を持つ人が、失望し、支持者であることをやめてしまわないように、枝野氏がこの代表選で示したリベラルな認識もぜひ共有して、右に傾いている政治姿勢を中道へ戻すべく、軌道修正してもらいたい。前原氏にはそう切望し、期待する。
※2017年9月1日付けのツイートを並べて掲載しています。