【岩上安身のツイ録】岩上安身のワールドカップ観戦記① スペイン対オランダ戦~ヨハン・クライフが創出したトータルフットボールの地平 2014.6.14

記事公開日:2014.6.14 テキスト
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(岩上安身)

※6月14日の岩上安身の連投ツイートをリライトして再掲します

 我々が、一番気になっているのは、日本時間朝の5時ごろに始まるスペインーオランダ戦。いきなり決勝戦となってもおかしくないようなカード。というか、前回大会の決勝の再現。

 緩急のあるパスにつぐパスで、ピッチに美しい幾何学模様を描く現代サッカーの極北のようなスペインチーム。その主力をなすのはバルセロナの面々。そして現在のバルセロナのスタイルの基礎を築いたのは、選手として、監督としてバルセロナを率いたオランダのヨハン・クライフ。そしてクライフこそは、70年代に近代サッカーの画期をなすトータルフットボールをひっ下げて、世界を席巻した人物。

 つまりクライフらが70年代に作り上げ、ワールドカップでも体現した革命的な近代サッカースタイルの理念が、スペインのバルセロナでクライフ自身の手で種をまかれ、育てられ、花を開いたのだ。そのスペインと、故国のオランダは、人口規模からいってドイツやフランス、オランダのようなサッカー大国にあと一歩及ばず。

 両国とも、ワールドカップ優勝経験がなく、しかもお互いに対戦したこともなかった。その両者が、前回大会の決勝で初めてまみえ、どちらが勝っても初優勝という状況で、スペインが勝利。スコアは1ー0だったが、ボール支配率はスペインが終始上回った。ゲーム全体を通してスペインが勝っていた。

 オランダが優勝に最も近づいたのが、74年の西ドイツ大会。リヌス・ミケルスが監督としてトータル・フットボールの理念を唱え、ヨハン・クライフが体現したチームだ。僕は当時、15歳。西ドイツのベッケンバウアーもゲルト・ミュラーも大好きだったが、なんといってもアイドルはヨハン・クライフだった。

 この試合、2-1でオランダは西ドイツに敗れ去る。しかし今でも、繰り返し思い出され、フットボール・ファンの口の端にのるのは、ヨハン・クライフの率いた、オランダチームの健闘である。記録より記憶に残る名選手。長嶋茂雄みたいだが、クライフもまた、「空飛ぶオランダ人=フライング・ダッチマン」のニックネームの由来となったジャンピング・ボレー・シュートとともに、人々の記憶に残った。

 指導者としては、クライフは長嶋をはるかに上回る。

 試合が始まった。オランダのファンベルシーの超絶個人技のヘディングで、1ー1の同点! スペイン、チャビのスルーパスに飛び出したフォワードが倒され、PK、先制。スペインのポゼッションサッカーが、必ずしも機能しているとはいえないぎこちない序盤、先制してからパス回しが滑らかに。その一瞬の隙をついてオランダ同点に。

 オランダ、後半、ロッペンのこれもすごい個人技! クロスに対し、ジャンピングボレーならぬジャンピングトラップ、切り返してシュート!4年前の決勝と同じ組み合わせ、ではあっても、やはりその単なる再現ではなかった。

 4年前に世界を制し、現在も世界ランキング1位のスペイン。世界を支配し続けたのは、ショートパスでつなぎ、ボールをキープし続けるポゼッションサッカー。その秘密は、ただ単にパス回しをすることではなく、ボールを取りにくるように相手選手を動かし、揺さぶり、振り回してゆく点にある。

 言い換えると、相手選手が動いて、振り回されないと、このボール支配は半分しか意味をなさない。前回は、スペインはオランダを実際のスコア以上に振り回した。しかし、今回は違う。オランダは振り回されていない。そう思っていたら、後半、両チームともハイペースになる中、オランダさらに追加点!3ー1!

 スペインの守備のミスを逃さず、ファンベルシーのゴール、4点目! スペインの長所を消していったオランダ、一瞬の隙をつき、着実にものにして3点差をつける! 誰も想像できなかった4ー1というスコア。半分、スペインは半ば自滅。勝負に永遠の勝者などいない、という哲理を見せつけられる思い。

 信じられない!縦一本のロングパス、これをロッペン、ディフェンダーを振り切り、GKのカシージャスを前に引っ張り出し、切り返して、振り回し、転倒までさせて、ゴール!5点目! 世界一のキーパー、試合前、無失点記録まで84分とカウントされていて、達成確実に思われたのに!屈辱の転倒!

 結局、5ー1で、試合終了。まさかまさかのスペイン、大敗。スペインの側に敗因はあったかもしれない。他方、オランダとすれば、決してまぐれの勝利ではないと思う。勝因はあった。オランダの戦略勝ち、徹底した研究と卓越した個人の技術、そして最初から最後まで勝ちにいく強い気持ちの勝利。

 クライフはこの試合、どう見ていたのだろう。彼は、どう分析するのだろうか。スーパースターと呼ばれる元選手で、クライフほどフットボールを考える人はほとんどいない。彼は哲学者のようであり、また、彼が信じる美しく、魅力的に勝利するフットボールの伝道者のようでもある。

 いや、母国オランダやバルセロナのあるカタルーニャでは、フットボールの教父や預言者の如き存在、だとも聞く。彼が創出してきたトータルフットボール、そしてポゼッション・サッカーの地平。その完成形のスペインを粉砕したのも、彼の母国オランダ。どう、これを見るのだろう。

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