学生たちに占拠された立法院内を「黒い稲妻(ブラックサンダー)」が駆け抜けた。
と言っても、立法院が落雷に見舞われたわけではない。ブラックサンダーとは、1個30円(税抜き)で売っている準チョコ菓子のことである。甘くて食べごたえのある、日本でも人気のお菓子だ。
IWJの「台湾報道」を観て、矢も盾もたまらず、日本から台湾に駆け付けた女性、山田さん(仮名)。「若者たちのために何ができだろうか。カンパか、それとも別の何かか」。検討の末、山田さんは、「台湾で『ブラックサンダー』が大流行している」というニュースを知って、日本でブラックサンダーを300個用意し、差し入れることを決めた。
【原記者報告】IWJの報道を見て、いても立ってもいられずにブラックサンダー
山田さんからIWJ代表・岩上安身のもとに、「立法院占拠を続ける学生たちへブラックサンダーを差し入るため、IWJに力を貸して欲しい」と相談があったのは4月2日のことだ。立法院の取材を続ける私がこの話を引き取り、4月4日午後17時半、立法院付近の駅で山田さんと待ち合わせた。
山田さんは、ブラックサンダーが詰まった大きな紙袋を二つ抱えていた。300個用意するために、近所のコンビニを10軒ほど回ったという。「私自身はブラックサンダーが特別好きというわけではないんです。サービス貿易協定の審議が『ブラックボックス』と言われていることもあって、『ブラックサンダー』がいいかなぁと思って」。我々は人脈を伝い、厳重な警備体制下にある立法院内に入った。
時を同じくして別の日本人グループがブラックサンダーを
通訳の協力者が、立法院内を仕切っている受付の学生に事情を告げる。すると、快くブラックサンダーを受け取った受付の学生の口から、思いもよらぬ言葉が飛び出てきた。
「さきほどの日本人たちと同じグループですか?」
なんと、ついさきほど、山田さんよりも一足先にブラックサンダーを差し入れにきた日本人がいたというのだ。類は友を呼ぶではないが、まさか、同じように占拠された台湾の立法院に関心を持ち、ブラックサンダーを持ってここを訪れた日本人がいたとは驚きだ。
山田さんらのブラックサンダーは、夕食の弁当と一緒に、学生らに配布された。ブラックサンダーだけ配布所に取りにくる学生の姿も目立つ。やはり、台湾でブラックサンダーは人気なのだろうか。
ブラックサンダーを食べた学生「すごく美味しくて幸福感があります」
地べたに座りながら食後のデザートとしてブラックサンダーを食べていた4人組の学生に話を聞いた。
▲ブラックサンダーを食べる4人組の学生
女子学生の一人は、「すごく美味しくて、味も台湾人がとても好きな味です」と述べ、隣のベースボールキャップをかぶった男子学生は、「すごく美味しくて幸福感があります」と語った。4人とも、これまでにもブラックサンダーを食べたことがあるという。
女子学生は、「以前は台湾でも買うことができました。でも、最近は大人気ですぐに完売してしまい、台湾ではなかなか手に入らないんです」と語り、ブラックサンダーを完食した。
机の陰に座って一人でブラックサンダーを食べていた男性にブラックサンダーの味の感想を求めると、男性は口の中のブラックサンダーを吹き出しそうになったのを堪え、「感想? 感想? ブラックサンダーの感想ですか?」と笑顔で戸惑い、何度も質問を確認した。
▲ブラックサンダーの感想を求められ戸惑う学生
「これまでにも食べたことがあります。ブラックサンダーはとても人気があって、友だちが箱買いしていました。それみんなで分け合ったことがあります。すぐ完食しました。みんなで『クレイジー』になったように食べました」。
しかし、この男性は、ブラックサンダーを「(愛しているか愛していないかと言われれば)まぁまぁ愛している程度」だという。「好きだが、そこまで大好きだというわけではない」と冷静に話した。
「ブラックサンダーは流行。僕は流行には乗らない」
▲ブラックサンダーは二番目に好きな食べ物だと話す男性
議場前列のほうで体育座りをしながらブラックサンダーを頬張っていた男性は、「ブラックサンダーを食べるのは初めてではない。台湾ではすごく人気があり、有名な食べ物です」とブラックサンダーを紹介。「僕もブラックサンダーがすごく好きで、美味しいと思います」。しかし、やはり今は品薄で買えず、欲しい場合はインターネットで時間をかけて手に入れるしかない、という。
では男性にとって、ブラックサンダーは好きな食べ物としては何番目にランクインするのだろうか。男性は少し困った表情で笑い、「二番目に好きな食べ物です。一番好きな食べ物は…思いついたら連絡します」と語った。
ブラックサンダーをかじりながら議場内を歩き回っていた男性は、ブラックサンダーについて、少し考えこんだのちに、「正直に言うと、まぁまぁですね」と笑い、「好きか嫌いかでいえば、中間くらいです」と打ち明けた。
▲ブラックサンダーの流行には乗らないと断じる学生
続けて、「台湾でブラックサンダーはすごく人気です。しかし、台湾人は盲信的に流行にのる癖がある。僕は独立志向を持っているので、みんなと一緒の流行にのるのは好きではありません」と断言。中国との関係についても、「台湾はもともと独立した国です。中国との間に、台湾の『独立』をめぐる問題は存在していないと考えています。台湾では、台湾人が選挙で自分たちの総統と国会議員を選んでいます。中国とは全然関係ありません」と話した。
日本語を少し勉強したという教育大学の学生は、「ブラックサンダーは何回も食べたことがあります。まぁまぁ好きです」と語る。しかし、何回も食べたことがあるというのであれば、本当はかなりブラックサンダーが好きなのではないだろうか。
▲ブラックサンダーは「まぁまぁ好き」とゆずらない学生
学生は、「いえ、友だちが食べていたから食べただけで、そこまで好物ではありません。でも、売っているのを見つけたら買います。しかし、みんなのように買い占めるようなことはしません」と譲らない。
では、ブラックサンダー以上に好きなお菓子があるのだろうか。学生は困惑しながら、「いろいろあります。甘いモノは好きです」と言葉をにごした。
何回も食べたことがある、売っているのを見つけたら買う、そして、甘いモノが好き――。おそらくこの学生は、本人が自覚している以上にブラックサンダーが好きなのではないか。私は、学生の言葉の節々から、そんな印象を受けざるをえなかった。
あどけない笑顔を引き出したブラックサンダーの力
ブラックサンダーを食べながらインタビューに応えた学生たちは、一様にしてあどけない照れ笑いを浮かべた。
なぜサービス貿易協定に反対しているのか、なぜ立法院を占拠までする必要があったのか、馬英九政権の対応をどう感じているのか――ここにいる若者たちは、メディアから、何度となくこうした質問を投げかけられてきただろう。私もそうだ。まさかブラックサンダーの味の感想を聞くことになるとは思いもしなかった。学生たちがインタビューに対して笑い、戸惑うのも当然だ。
サービス貿易協定と、その不透明な審議に異を唱え、前代未聞の「立法院占拠」にまで発展した今回の「ひまわり学生運動」。今、台湾国内でもっとも注目されている「事件」であり、その手法には賛否両論もある。
肩入れするつもりはないが、ここで忘れてはならないのは、この運動の主体が、ブラックサンダーで喜び、あどけない笑顔を浮かべる学生たちだということだ。
社会問題に関心をもち、協定に危機感を抱き、立法院を占拠し、仲間とともに政治について議論する。その一方で、嬉しそうにブラックサンダーを頬張る若者らしさも同居している。ここには一見、ギャップがあるようでいて、一切のギャップも矛盾もない。つい忘れがちになるが、彼らはあくまで若く、まだ社会的には未熟で、成長過程にある若者の集まりなのだ。この事実は、「ひまわり学生運動」を読み解く上で欠かせない、重要な視点である。
だからこそ、こんな学生たちの運動を「見守りたい」と考える人は少なくない。絶やすことなく学生らに届く物資、応援する保護者や大学教授、弁護士たち、そして、集会に集まった50万人の人の波が、それを裏付けている。
山田さんたちが差し入れた、台湾で大人気の日本のお菓子は、情熱にあふれる学生たちのピュアな側面を我々に再確認させた。黒と黄色をパッケージの前面に押し出したブラックサンダーは、まさに「ブラックボックス」の審議に反対して、「ひまわり」を掲げる、今回の学生運動にぴったりなお菓子…なのかもしれない。
※3月20日〜4月1日の抗議の模様や、国会占拠の背景、「サービス貿易協定」の問題点と本質、行政院占拠・強制排除のドキュメントはこちら
IWJでは、IWJ台湾Chから、今も台湾全土で行われている抗議行動の模様を、現地市民の協力を得て報道し続けています。「持久戦」の様相を呈してきたこの事件。3月23日からは、原記者が現地に入り、生々しい抗議の模様や現地市民の声を体当たりで取材し、配信しています。この問題は、「大資本による99%の市民の富の搾取」という点で、日本におけるTPPの問題と非常によく似た構図となっています。IWJは苦しい財政状況ですが、可能な限り伝え続けたいと考えています。取材が持続できるよう、どうか緊急のご寄付、カンパのほど、そして会員登録をよろしくお願い致します。
ストレスたまると、甘いものを食べたくなりませんか?私は、そういうタイプなんです。
今回ブラックサンダー届けた人たちも、同じこと考えたかも。
さっき我が家でも子どもがブラックサンダー持ってました(^^)。
ストレス発散して、ほっこりできるといいですね。送った方々、グッジョブです。
学生さんたち、また元気になって頑張ってください。ほえほえくま~。
この原くんの記事がとてもユニークな視点で新鮮だったので、ブラックサンダーを製造している有楽製菓さまにご連絡させていただきました。記事をご覧になったそうです。
台湾の方々とはブラックサンダーとビックサンダーを通じてご縁ができたそうです。
なんと、ビックサンダー・・・があるらしい。
台湾の学生を中心にした今回の抗議活動ですが、政府がおかしなことをすれば民衆が「怒り」の声を挙げるというごく当たり前のことですね。
それに対して、日本人はなぜこうまで無気力になってしまったんでしょう?近年の日本人は常に「いらいら」していると思います。常に「いらいら」のはけ口を求めていて、マスコミによって安易に用意されたスケープゴートを攻撃して、とりあえずそれでお終い。でも、「いらいら」の根幹にある政府・社会のおかしな点や不正を冷徹に見つめて、それに対する「怒り」を表明することはしない。
わたしは10~20年後に社会に出る3人の子供がいますが、この国の行く先が心配です。