日刊IWJガイド・非会員版「ウクライナ紛争は『米国覇権の終わりの始まり』、『プリゴジンの乱』を検証! 岩上安身による元外務省国際情報局長 孫崎享氏インタビュー!」2023.6.29号~No.3941号


┏━━【目次】━━━━
■はじめに~<インタビュー報告>孫崎氏「『ウクライナ紛争というのは、本当に、米国覇権の終わりの始まり、その通りだと思います』岩上安身による 元外務省国際情報局長 孫崎享氏インタビュー」を生中継フルオープンでお送りしました!

■ロシア軍が劣化ウラン弾を本当に使用したのか、という点について会員の方から重要なご質問をいただきました! IWJは再度、詳しく調査・検証しました!

■IWJは創業以来、最大の経済的危機に直面しています! 第13期の累積赤字は毎月増え続け、6月は28日までの28日間で、106件、196万4000円のご寄付をいただきました。ありがとうございます! これは、月間目標額390万円の約50%にあたります。月間目標額の達成にはあと50%、193万6000円が必要になります。6月こそは少なくとも月間目標額390万円を達成したいと思います! また累積の不足額を少しでも減らしたいと願っています! ちなみに8月から5月まで10ヶ月間の累積の不足額は、1868万2900円となりました! 緊急のご支援・ご寄付・カンパを、どうぞよろしくお願いいたします!!

■【中継番組表】

■7月11日に第三次世界大戦開始!? 米国務省のビクトリア・ヌーランド国務次官が、キエフとのビデオ会議で公式に表明! ビデオ会議で共同議長を務めた大西洋評議会のリチャード・フッカー・ジュニア氏はカホフカダム破壊を予言していた!?
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■はじめに~<インタビュー報告>孫崎氏「『ウクライナ紛争というのは、本当に、米国覇権の終わりの始まり、その通りだと思います』岩上安身による 元外務省国際情報局長 孫崎享氏インタビュー」を生中継フルオープンでお送りしました!

 おはようございます。IWJ編集部です。

 6月28日水曜日、午後4時すぎより、「ウクライナ紛争への深入りは『米国覇権の終わりの始まり』? 米国依存から離脱する動きがグローバルサウス諸国で急加速!!」と題して岩上安身による元外務省国際情報局長・孫崎享氏インタビューを、生中継フルオープンでお送りしました。

 IWJ事務所に現れた孫崎氏は、梅雨にもかかわらず、よく日焼けされて、大変お元気そうでした。岩上が「ガングロの孫崎先生、びっくりしました」というと、孫崎氏は「毎日皇居の周りを5キロ歩いて、調子が良くなるとジョギングもして」と述べ、と健康の秘訣を話しました。今年の7月で80歳になるそうです。

 岩上も「ちょっと太ってしまって、メタボで糖尿病と言われてしまい、これから痩せようと思います」とダイエットを誓いました。

 孫崎氏へのインタビュー直前、6月24日に、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、ワグネル部隊を率いて、ロストフ・ナ・ドヌーにあるロシア南部軍管区司令部を含む重要な治安拠点を占拠し、部隊の一部がモスクワに向かって北上するという軍事クーデターが起こりました。

 岩上は、冒頭、以下のように切り出しました。

岩上「先週の土曜日から始まった、ロシアでのクーデター騒動『プリゴジンの乱』というべきもの、民間軍事会社ワグネルの部隊、いわばプリゴジン氏の私兵ですけれども、その私兵集団がドドドドドーっと、南部から首都モスクワをめざして進軍していると。

 これは容易ならざることになったと思われたんですけれども、わずか1日で白旗をあげるといいますか、ストップ。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁により、ベラルーシにプリゴジン氏の身柄を預かるということになり、収束したと。

 本当に、『お騒がせ』だったんですけれども、そのお騒がせさわぎの中から、いろんなことが見えてきたという気がします」

 岩上安身は、ウクライナ紛争に米国が深入りしすぎ、西側諸国が「プリゴジンの乱」に関与していた可能性も出てきたと述べ、これは米国の覇権の「終わりの始まり」ではないか、と問いかけました。

岩上「米国の単独覇権維持のためにロシアを弱体化させ、中国も叩き、と。アメリカは『2正面作戦』ができる国だとずっと言ってきたわけですよね。これが、長いこと、(国家安全保障上の)ドクトリンだったわけですけど、それが今、保てなくなってる。

 どうも自分たちの覇権を強化するはずだったのが、泥沼化して。しかも、逆に『乱』を仕掛けたけれども、バフムートの前線から後方を撹乱しようと思ったことも空転した、と。

 これは、米国の覇権の『終わりの始まり』じゃないかという気がするんですね」

孫崎氏「いや、まったく。それが起こっていますね。アメリカの経済協力、これがどこに行ってるか、というのを見ると、もう、ウクライナ一極集中なんですよ。他の所へはほとんど行ってない。

 その間に何が起こってるかというと、中国がインフラであるとか、そういうところで発展途上国の方に、どんどんどんどん投資と外交をやっている。

 何が起こったかというと、一番典型的なことは、電気自動車。電気自動車は蓄電池がものすごく重要なわけですよね。蓄電池には、稀少金属、レアメタルが必要です。レアメタルを中国は全部持ってるわけですよね。ところが、海外の鉱山を全部押さえたんですよ。これが、ひとつの代表例なんですけれども。

 アメリカが、ある意味、意味のないウクライナ紛争をやっている。その間に、どんどんどんどん、中国に取られていって。典型的なのが、ここ一年ぐらいに、中東の図がすっかり変わりました。

 かつては、アメリカ―サウジ―イスラエルが、中東全部を、覆っていたわけですけれども。今はもう、サウジとイランとシリアが仲良くなって、そのうしろに中国とロシア、というね。

 だから、ウクライナ紛争というのは、本当に、『米国覇権の終わりの始まり』、その通りだと思います」

 岩上は、米国を代表する外交軍事評論誌『フォーリン・アフェアーズ』を例として持ち出し、さんざんウクライナ紛争を煽ってきた『フォーリン・アフェアーズ』さえも、とうとう、このウクライナ紛争は「ミッション・インポッシブル」だ、「お手上げ」だという論考を載せるようになった、と紹介しました。

 岩上は、『フォーリン・アフェアーズ』の7月・8月号に掲載された「勝ち目のない戦争――ワシントンはウクライナで終戦を迎える必要がある」(6月5日発行)という記事をかいつまんで紹介しました。

岩上「『ワシントンはウクライナで終戦を迎える必要があると』、この言い方がいいですね。ワシントンはこれ以上戦線を伸ばして、極端なことを言うと、ウクライナとNATOが突き進んでモスクワ占領まで行けば、本当の(ロシア)弱体化まで可能なわけですよね。プーチン政権を解体して。

 だけど、そんなばかなことを言ってるんじゃなくて。『もう、これは勝ち目がないからやめましょう』、と。『ミッション・インポッシブル』だという論文を載せるようになってきた。

 今、西側メディアは、特に日本のメディアは、後生大事に、アメリカのプロパガンダに全部、乗っかっているじゃないですか。かつてだったら、親米右派は乗るけど、左派は乗らなかった。それが今、左派・中道が全部のっかっているわけですよ。

 『テレビ朝日』、『TBS』、『朝日新聞』、まあ、言うまでもないという状態ですよね。本当に、『ロシアたたき』だけに奔走して、リアリズムで、事実を見るということをできなくなってる。これは、西側全体がそうですよね。

 アメリカは、それと抗うタッカー・カールソンみたいな人が出てきたり、スコット・リッターが出てきたり」

 タッカー・カールソン氏は、『FOXニュース』の看板番組から外されて、自分のツイッター番組を始めましたが、その初回はなんと1億ビューを取りました。岩上は、カールソンが言っていることはIWJが言ってきたこととほとんど同じだが、「日本のメディアではゼロに近い」と嘆きました。

岩上「何でしょうね。リベラルで仲良くやってきた人間たちから、まあ、手のひら返したように攻撃されてるんですけど。これは本当に、事態が、物事が見えないんだなぁと。なんでこれが見えないだろうと思って。

孫崎氏「記者だけじゃなくて、将来、大統領のところまで行かないとは思いますけれども、ロバート・ケネディ・ジュニア。彼も、『バイデン政権の外交政策の骨子は何か。戦争』という。これが出ているんですよね。だから、まさにアメリカは今、全力でウクライナ戦争を支援しているんだけれども、それと違う意見は必ず存在して、多くの人の目に見えるところで、それが起こっている。

 ところがね、日本ぐらいひどい国はないですね」

岩上「ないですね、本当に。これは、後に台湾有事が控えてて、『東アジア戦争がくるんだ、それは決定的なんだ』と。で、そのときには『絶対アメリカの力を借りなきゃいけないんだ』っていう論理なんですよ。間違いなくそのようになるから、『アメリカ様に守ってもらいたい』。

 いや、『守ってもらう』じゃなくて。アメリカは守ってくれないじゃないの。ウクライナに何一つ、自国の兵士を派兵してない。ポーランドにまでは行ってますよ。ポーランドに初めて米陸軍第五軍団(の前方展開司令部)が1万人ぐらい展開してるんですけれども。でも、自分の手は汚さないですよね、基本的に」

孫崎氏「非常に明確になってきてるのは、バイデン政権は、これ(ウクライナ紛争)をやろうというのがありますよね。で、大体、汚いことをやるとすると、戦争を含めて。下手人(実行犯)がアメリカじゃないんですよ。

 これが、バイデン政権のひとつの特徴ですね」

 岩上は、独露を結ぶノルドストリーム・パイプライン爆破事件では、米国メディアは、匿名の米政府高官らのリークをもとに、今や「ウクライナ」がやったと主張している、米政府も否定せず、ウクライナに責任を押しつけて終わりにしようとしていると指摘しました。

岩上「あるいは、アメリカとウクライナが共同でやったんでしょう。そうしか考えられない。あのヌーランドが、『オッケー』を言った、という話もありますよね」

孫崎氏「その前に、バイデンが『俺がやる』『やるし、できる』と言っているんだから」

岩上「知らないわけはないし。ウクライナが暴走して、米軍には何も分からないなんて不可能ですよ。ウクライナにそんな技術ないですよ、はっきり言って。めちゃくちゃじゃないですか。

 ウクライナは今、破壊されてしまって、人材だってたくさん死んじゃってるのに。

 ウクライナ戦争が始まってすぐレーガン政権の顧問だった、保守派の論客が、『ワシントンは、ウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦う』という、皮肉なタイトルの文章を書いている。

 つまり、これはアメリカが主体の戦争で、ウクライナは兵として使われて、最後のひとりまで、全滅するまでロシアと戦って。終わったら、ウクライナの負けだとして手を引くという話ですよね。

 (他方、『フォーリン・アフェアーズ』誌の論文は)ワシントンがもう、ロシアまでやるんじゃなくて、ウクライナで終戦を迎えろと。やめろと。

 浪費が激しすぎるんですよね。今、世界一、戦費を使ってるのはアメリカですよね。1位アメリカ、2位中国で、3位ウクライナなんですよ。勿論ウクライナの自主財源ではないですよね。借り入れと支援と、それから持ち込まれた軍備というのを計算すると3位なんですよね。

 それが、ほとんど消費されてしまって。早い話が、例えば防空網だって、パトリオットをキエフの周りに並べたけど、もう全部破壊されてるんですよね。だからいつでも(ロシア側は)首都攻撃できるんだけど、それをしないのは政治的に控えてるからだとプーチンは言ってるんです。

 こうした情報が、日本で出るかというと、全然、マスメディアは流さないんです。そういうことを伝えないメディアって本当に意味がないと思うんですけれども」

 インタビューはいよいよ「プリゴジンの乱」に入っていきます。岩上安身は、プリゴジンやワグネルの存在を理解するためには、ロシア社会のことを知る必要がある、と切り込みました。

岩上「6月24日に、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジンがプーチン政権に反乱を起こして、ワグネルはモスクワめざして北上、という話なんですけれども。

 ワグネルとはどういうものか。ソ連が崩壊した時代に、もう、わさわさ、こういうのができたんです。生で見てきました。

 新しいビジネスが立ち上がるじゃないですか。それを恐喝に行く『レケット』というマフィア達がいて。マフィアなんて短銃くらいしか持っていないと思ったら大間違いで。もう、守る方も重武装なんですよ。

 普通のオフィスビルを想像してほしいんですけども、モスクワ都心のビルの一階フロアに入ると、そこらじゅうに兵士が迷彩服でたむろしてるわけです。そこに、弾丸のベルトがあってバーっと回していくような重機関銃、あんなのを置いてる奴らがいっぱい、ゴロゴロいるわけです。民間のガードマンだと言ってるんですけれども。

 そこの社長といろいろ話して、とにかく官僚は賄賂を求めてくるし、マフィアは『みかじめよこせ』とか言ってくるし、下手すりゃ『株を全部よこせ』とか。ピストルを突きつけながらね。

 ヤクザはヤクザの方で、僕は話をたくさん聞いてますから、『どこでも何でも、俺らは自由に取れるぞ』って言うんですよ。だから(社長は)もう全力で、こういう形で守ってるんだと言ってたんですよ。

 そういう、このプリゴジンのような、ソ連崩壊後に、バーっと財を成した奴らを見てきたし、話してきたんですけど、僕が取材したある会社の社長は、その1ヶ月ぐらいあと、新聞に出てましたけれども、乗ってた車に爆弾仕掛けられて吹っ飛ばされて。爆殺されたと。(マフィアの)恐喝に応じなかったんでしょうね。

 だから(プリゴジン氏は)そういう修羅場を、潜ってきたような人で。『仁義なき戦い』が旧ソ連全土で起こっているような状態を想像してもらいたい。戦後、焼け跡に奪うものが、日本はそれほどなかったけど、何も戦争で壊れていない国の、ありとあらゆる資源とか建物とか不動産とか財産とかを巡って、争奪戦をやってきた中の勝ち残り組ですから。

 まあ、簡単に言えば、(プリゴジン氏は)『ヤクザの親分』みたいなものなんですよね。それが分からないと、彼の行動原理とか分からないと思うんですよ。軍人出身じゃないですし、エリート軍人でもないし。

 そういう人物と、対峙した側のプーチン政権の、厳しくしたり、寛容になったり、というのが分からないんじゃないかなと思って」

孫崎氏「私はウズベキスタン大使になった時にね、私の家の大家はそういう人だった。マフィア(の親分)」

岩上「それ、絶対安心ですよね」

孫崎氏「いやいやいや。だけど、それはウズベク系のマフィアじゃないわけ。抗争があって、結局殺された」

岩上「あ、その親分がね。前、その話聞いたことがありましたね。何系だったんですか?」

孫崎氏「えーと、コーカサスのどこかのほうです」

岩上「これ、民族間抗争にマフィアが絡んでくるからややこしいんですよね」

孫崎氏「だから下手すると、私も殺されてたかもしれない。そういう感じもあった」

岩上「本当は、それがウズベクのマフィアだったら、安全なんですよ」

孫崎氏「そうそう」

岩上「僕、コーカサスとか中央アジアに行ったときに、気に入られると、『お前、うちへ来い』と言って。食事をしたりすると、これ、チェチェンが特徴的だったんですけど、『もう、チェチェンの中でお前に手を出す奴はいない』というふうに言われましたね」

 ソ連解体後の「無法地帯」となった旧ソ連諸国まで含めてレポートした、岩上安身の『あらかじめ裏切られた革命』は現在絶版になっていますが、日刊IWJガイドで少しずつ復刻連載をしています。ぜひそちらもお読みください。チェチェンの現地ルポも、所収されています。

 インタビューでは、この後、「プリゴジンの乱」の顛末、そして、西側諸国の関与はなかったのかという疑問、NATOの大演習との関連などに踏み込んでいきます。詳しくはぜひインタビュー全編を御覧ください。

■ロシア軍が劣化ウラン弾を本当に使用したのか、という点について会員の方から重要なご質問をいただきました! IWJは再度、詳しく調査・検証しました!

 会員のT.M.様より以下の質問をいただきました。重要な質問なので、改めてIWJはこのロシア軍と劣化ウラン弾との関係を調べ直し、再検討しました。

 T.M.様からのご質問は、以下の通りです。

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 日刊IWJガイド6月15日号の「IWJは、ロシア軍もすでに英米に先んじて劣化ウラン弾をウクライナで使用している証拠を発見!」と題した記事に大いに違和感を感じます。

※はじめに~英国に続いて米国も劣化ウラン弾をウクライナへ供給! 米国ではクラスター弾の供与も検討中! 他方、IWJは、ロシア軍もすでに英米に先んじて劣化ウラン弾をウクライナで使用している証拠を発見! もはやウクライナは、劣化ウラン弾による放射能汚染は避けられない!? しかもNATOは史上最大の演習を開始! その中に自衛隊も参加! 日本国民のあずかり知らないところで第3次世界大戦に参戦など、許されない!
会員https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20230615#idx-1
非会員https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/52400#idx-1

 日刊IWJガイドでは、「ウクライナ向け英国の劣化ウラン弾に関するICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)声明」のなかで、ロシアに関して触れられた「ロシア軍による劣化ウラン弾の使用は、GICHD(ジュネーブ国際人道地雷除去センター)より確認されている。(3BM-32「Vant」弾はウクライナの現地で発見された)」との記事を根拠に「ロシア軍もすでに英米に先んじて劣化ウラン弾をウクライナで使用している証拠を発見」と結論付けています。

 しかし、3月23日のICBUW声明については、文中に「更新」と題する5月4日付けで、「ウクライナ向け爆発物ガイドでGICHDが提供した情報が不確実であるため、ICBUW は劣化ウラン弾がウクライナのロシア軍によって使用されているという主張を検証できません。私たち(ICBUW)は説明のためにGICHDに連絡し、3BM-32の発見を確認しましたが、場所と量に関するデータは入手できません。ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在は、親ロシア派(例)と親ウクライナ派(例)の両方のメディアによっても確認された。」との一文が挿入されています。

 英国がウクライナに劣化ウラン弾を供給する事を発表したのが3月21日、ICBWの声明が23日で、そこでロシアの劣化ウラン弾がウクライナで見つかったとの2022年9月22日のGICHD報告が引用され、5月4日付けの訂正文が3月21日の声明文の中に挿入されています。

 ロシアも3月21日にプーチン大統領が「もしこのようなことが起きれば、ロシアもそれに応じた対応をせざるを得なくなる」と警告を発し、以降ロシアの高官やメディアが、再三にわたって劣化ウラン弾の危険性について指摘していました。この事は、少なくとも3月21日以前には、ロシアは劣化ウラン弾を使用していないという事を意味しているのではないでしょうか。

 2022年9月22日の報告は、ウクライナ戦争が始まって間もなく、ロシアが核使用に言及し、世界の緊張が高まっている中で出されたもので、意図的にロシアを悪者に仕立て上げようとしたか、又は、ウクライナでの緊張に引きずられて発表したフライングぎみの報告なのではないかと思います。

 GICHDが証拠として載せている3BM-32の写真も、確信はないのですが、周りの木や草から判断して、少し大きいように見えますし、尾翼の形もネットにあがっている写真と少し違うようにも見えます。

 米国が、英国に次いで、劣化ウラン弾を供与することが伝えられ、ロシアも対抗処置として劣化ウラン弾を使うことも示唆し、ベラルーシには戦術核の配備を進めるなど、緊張が高まるばかりの現在、劣化ウラン弾を含む「汚い爆弾も核兵器」と位置付けているロシアが、GICHDが言うところの、2022年9月22日以前にロシアがすでにウクライナで使っていたとすれば、ロシアによる核の先制使用ということになるのでしょう。

 ロシアが善玉だとは少しも思いませんが、劣化ウラン弾をウクライナより先に使っていたとすれば、英国や米国のウクライナへの劣化ウラン弾供与も正当化され、このウクライナ戦争への評価も大いに変わってくるのだろうと思います。

 先程のICBUW声明の訂正文に対する見解や、時系列的な流れから抱く疑問、写真に対する私の疑問について、IWJのご見解を窺いたいと思います。

(T.M.様)
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T.M.様

 ご質問ありがとうございます。

 結論から先に申し上げると、ロシアはソ連時代から劣化ウラン弾を保有していますし、新しい徹甲弾も生産しています。しかし、ウクライナ紛争において、使用した実績は、現時点では確認できませんでした。

 他方、ウクライナ軍に関しては、新たな発見がありました。英国から供与された劣化ウラン弾が話題となりましたが、それ以前に、ウクライナ軍は、旧ソ連製の劣化ウラン弾と、ロシア製の徹甲弾を所有しており、開戦当初から、使用しています。

 それを親ウクライナメディア自ら写真入りで報じ、アピールしていました。この事実は西側メディアでは、これまでほとんど報じられてきませんでした。IWJにとっても、見のがしていた新しい発見になります。

 T.M.様の質問のご趣旨は、以下の3点だと思います。

 1.ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)声明の訂正文に対するIWJの見解

 「更新(2023.04.05):ICBUWは、GICHD(ジュネーブ国際人道地雷除去センター)がウクライナの爆発物ガイドで提供した情報が不確かであるため、劣化ウラン弾が、ウクライナ領内でロシア軍によって使用されているという主張は、検証することができません。GICHDに問い合わせたところ、3BM-32を発見したことを確認しましたが、場所と量に関するデータはありませんでした。ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在は、親ロシア派と親ウクライナ派の両方のメディアでも確認されています」

 ICBUW声明の「更新」からわかるのは、以下の3点です。

 1)ICBUWが、GICHDに連絡し、劣化ウラン弾と目される「3BM-32」の発見を確認していること。ただし、3BM-32の発見場所とその量に関するデータがないこと。

 2)ICBUWは、GICHDがウクライナの爆発物ガイドで提供した情報が不確かであるため、劣化ウラン弾が、ウクライナ領内でロシア軍によって使用されているという主張は、検証することができないこと。

 3)ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在は、親ロシア派と親ウクライナ派の両方のメディアでも確認されていること。

 どれも大事な論点ですが、3)の記述は、少し曖昧です。「ウクライナの劣化ウラン弾」とは、ロシア軍の保持する劣化ウラン弾なのか、ウクライナ軍の保持する劣化ウラン弾なのか、特定がありません。

 また、「親ロシア派と親ウクライナ派の両方のメディアでも確認されている」という一文も、「何が」「どちら」によって確認されたのか、記述されていません。

 繰り返しになりますが、ロシア軍の劣化ウラン弾なのか、ウクライナ軍の劣化ウラン弾なのか、その両方が、親ロシア派、親ウクライナ派の両方のメディアによって報じられたのか、この一文からは判然としません。

 通常の考えからすると、親ウクライナ派のメディアは、ロシア軍の劣化ウラン弾の使用を取り上げて非難し、親ロシア派のメディアは、ウクライナ軍の劣化ウラン弾の使用を取り上げて非難しそうに思われます。

 しかし、そうした我々の思い込みは脇に置いて、ここでは、何が何を確認したのか、明確でないという指摘にとどめ、先に話を進めます。

 このご質問の核になるのは、GICHDの2022年9月22日の報告書が、「ウクライナ戦争が始まって間もなく、ロシアが核使用に言及し、世界の緊張が高まっている中で出されたもので、意図的にロシアを悪者に仕立て上げようとしたか、又は、ウクライナでの緊張に引きずられて発表したフライングぎみの報告なのではないか」という点だと思います。

 2. これに関連して、GICHDの2022年9月22日の報告書の劣化ウラン弾「3BM-32」の画像が不自然であるという点も加わります。

https://steelbeasts.com/sbwiki/index.php?title=3BM32

 3.さらに、T.M.様は、質問の中で、プーチン大統領の発言を時系列的に位置づけたときに抱く疑問をあげておられます。つまり、プーチン大統領の発言から考えて、ロシア軍は少なくとも2023年3月21日以前には劣化ウラン弾を使用していないのではないかという疑問です。

 まず、この問題の大きなポイントは、ウクライナの戦場で劣化ウラン弾が発見されたかどうか、劣化ウラン弾の砲弾(通常は戦車に装填される)が発見されたとしたら、誰が使用したのか、ということだと思います。

 3のプーチン大統領の言葉の時系列の問題は、もちろん、重要なことですが、実際に、劣化ウラン弾がウクライナの戦場に存在したかどうかという事実を、物的証拠によって確認することは重要度が高いと考えられます。

 したがって、以下では、主に、物証の問題を中心に検証します。

 ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在を検証する方法は、現在のところ、GICHDの報告書しかありません。

 GICHDのドナー国、組織を見ると、NATO諸国を中心にした30の国と組織です。

※DONORS(GICHD、2023年6月19日)
https://www.gichd.org/the-gichd/donors/

 ドナー国と組織から考えて、2022年9月22日の報告書が、ロシアに不利な情報を意図的に捏造した可能性はゼロではありませんが、このGICHDの報告書の目的は、ウクライナで発見された爆発物を正しく認識することであるとされています。このため、ウクライナ軍で使用されている地雷や砲弾などについても、その撤去ガイダンスの目的から詳しく記述されています。

 「GICHDウクライナ兵器ガイドの第2版は、ウクライナでEOD(爆発物除去)を実施する有資格者のための基本的な爆発物認識ガイドを提供することを目的としています」

 たとえば、その記述には、以下のようなものがあります。

 「9N24は、誘導弾による運搬を目的とした高爆発の破片弾です。ミサイルに搭載されます。9N24は、ウクライナで9M79トーチカ(NATO SS-21スカラベ)短距離弾道ミサイルに採用されています。9N24は、長い白いリボンを使って飛行を安定させ衝撃フューズを機能させるために最適な位置に弾薬を配置します(後略)」

※EXPLOSIVE ORDNANCE GUIDE FOR UKRAINE SECOND EDITION(35頁、GICHD、2022年)
https://www.gichd.org/fileadmin/uploads/gichd/Publications/GICHD_Ukraine_Guide_2022_Second_Edition_web.pdf

 「T-7は、超クイックインパクト機能を備えたPTTF(Powder Train Time Fuze)です。使用するのは122mm径のS-463照明弾などのキャリア弾に使用します。またA1 122mmベース射出弾のような旧来のビラ配り手段にも使用可能です。これは、ウクライナで目撃されたことがあります」

※EXPLOSIVE ORDNANCE GUIDE FOR UKRAINE SECOND EDITION(57頁、GICHD、2022年)
https://www.gichd.org/fileadmin/uploads/gichd/Publications/GICHD_Ukraine_Guide_2022_Second_Edition_web.pdf

 必ずしも、西側諸国の政府発表や、一般向けの西側のマスメディアの偏向した記事・番組のように、「ロシア=悪、ウクライナ=善」という、極端に単純化されたマニ教的二元論の図式で、この報告書が書かれているわけではないように思えます。

 爆発物の生産国は、ほとんどがロシアですから、ロシアへの言及は非常に多く(206ヶ所)なりますが、ウクライナの爆発物への言及も29ヶ所に及びます。

 この報告書の目的に沿って、同報告書の109頁でGICHDは劣化ウラン弾「3BM-32」の解説を載せています。

 このページの画像は、出典が「Image C(◯にC) Open source」となっており、オープンソースです。周囲の草木は写っていません。現物で見つかった、確認されたというならば、その現物で撮った写真を掲載すべきでしょうし、なぜここに現物ではなく、「このタイプの劣化ウラン弾がウクライナで見つかった」という例示としてイメージ写真を掲載したのか不可解に思われます。

 とはいえ、現場における現物の写真が報告書にないから、ただちに、この報告書は間違いで、ウクライナで劣化ウラン弾「3BM-32」が見つかったというのは偽りだとまで結論するのは、飛躍しすぎに思われます。

 GICHDは、実は確たる証拠となる現場における現物の写真をもっていないのかもしれません。しかし、所有していて、たまたま今回は何らかの理由で報告書内に使用しなかったのかもしれません。

 現段階では決定的なことは言えないので、「不可解」であるというのに、とどめる必要があります。ただし、なぜ、その現物の証拠写真がないのか、という疑問は誰もが抱いて当然だと思います。

 また、メディアは、こうした報告書の細部の不信な点も確認して指摘してゆくべきであろうと思います。

 さらに、調べてみると、「3BM32」は、改良型も存在します。「尾翼の形もネットにあがっている写真と少し違う」というT.M.様のご指摘について、そうしたズレは現実にありえると考えられます。

※3BM32(SB Wiki、2023年6月19日閲覧)
https://steelbeasts.com/sbwiki/index.php?title=3BM32

 日刊IWJガイド6月15日号では、我々は、次のように記述しています。

 「ここで言及されているロシア軍の劣化ウラン弾3BM-32『Vant』弾は、GICHDの報告書『ウクライナ向け爆発物ガイド 第2版』の中で、写真とともに次のように、記載されています。

 『3BM-32弾は、ロシアのスムースボア戦車砲で使用される125mmAPFSDS弾と共通です。戦車砲に使用される一般的な125mm APFSDS弾です。弾芯は劣化ウランでできています。二重推進薬カートリッジで使用する場合、この弾は3VBM-13と呼ばれます。1980年代に作られたこの弾はソ連初のDU(劣化ウラン)APFSDS弾です。開発した研究プロジェクトにちなんでバント(Вант)と呼ばれることもあります。

 これらの弾丸を正しく識別し、他のAPFSDSモデルと間違えないようにすることが重要です。これらの弾丸は、シンター(焼結)が発生するため、爆発的な手段で破壊してはいけません。これらの弾丸は、特殊産業的処理を用いて取り除かれるべきです』

※EXPLOSIVE ORDNANCE GUIDE FOR UKRAINE SECOND EDITION(109頁、GICHD、2022年)
https://www.gichd.org/fileadmin/uploads/gichd/Publications/GICHD_Ukraine_Guide_2022_Second_Edition_web.pdf

 つまり、1980年代にソ連で初めて作られた劣化ウラン弾、3BM-32弾が、すでにウクライナで見つかっていたのです」

 ここで、このGICHD報告書にある3BM-32弾が、ウクライナで見つかったことに同意した根拠は、次の2つの記述です。

(1)ICBUWの3月23日の声明の「更新」の中にある「GICHDに問い合わせたところ、3BM-32を発見したことを確認しましたが、場所と量に関するデータはありませんでした。ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在は、親ロシア派と親ウクライナ派の両方のメディアでも確認されています」という記述。

(2)ICBUWのspecial newsletter issueの中の「ロシア軍による劣化ウラン弾の使用は、GICHD(Geneva International Center for Humanitarian Demining)により確認されている(3BM-32「Vant」弾はウクライナの現地で発見された)。ここで紹介した3種類の戦車はすべてウクライナで使用されていることが確認されている。ただし、いずれの戦車も、劣化ウラン弾を使用しない別の弾薬も保有している」という記述。

 論理的に考えれば、 3BM-32弾の使用主体はロシア軍とウクライナ軍の両軍に可能性があります。どちらか一方、あるいは両軍とも使用した可能性を否定できません。

 この3つの可能性のうち、どれが正しいのか、本来ならば、比較し、先述したような慎重さをもって、「ウクライナにおける劣化ウラン弾の存在は親ロシア派と親ウクライナ派の両方のメディアでも確認されている」という曖昧で多義的な読み方を許してしまうセンテンスについて、前回、IWJガイドを執筆したライターも、チーフライターである岩上安身も、子細な検討を行わず漫然と読み流してしまいました。

 この点で、日刊IWJガイド6月15日号の見出しの中にある「他方、IWJは、ロシア軍もすでに英米に先んじて劣化ウラン弾をウクライナで使用している証拠を発見!」という断定的な文言はミスリードでした。この点は、我々に迂闊さがあったことを認め、お詫びして、T.M.様ご指摘の通り、訂正させていただきます。申し訳ありませんでした。

 6月15日号でつけたタイトルをあえて直すとすれば、「他方、ロシア軍もすでに英米に先んじて劣化ウラン弾をウクライナで使用している証拠が発見された!?」という疑問形のリードの方が適切だったと思われます。

 ただ、日刊IWJガイド6月15日号を御覧になればわかるように、本文中で、このウクライナ領内における劣化ウラン弾について言及した個所では、ロシア軍が劣化ウラン弾をウクライナ領域で使用したと断定する記述はありません。したがって、本文につきましては訂正は必要ないと考えています。

 しかし、この問題は、これで終わりではありません。

 ここで、問題の焦点は2つあります、

1.「GICHDが、3BM-32を発見したことを確認した」は、真実かどうか。

2.親ロシア派メディアと親ウクライナ派メディアの両方のメディアでも、劣化ウラン弾の存在が、ロシア軍の使用として、確認されている点は、本当かどうか。

 1については、「場所と量に関するデータはありませんでした」という不自然なコメントがあります。

 この点も含めて、IWJから、GICHDに直接確認中です。

 この発見の場所と数量が明らかになれば、使用主体の3つの可能性を絞り込むこともできるかもしれません。

 なぜ、場所と量に関するデータがないのか、これに対する回答で、「GICHDが、3BM-32を発見したことを確認した」ことの真実性が、ある程度、推し量ることができるのではないかと思われるからです。

2.親ロシア派と親ウクライナ派のメディアの報じ方については、前述したように、親ウクライナ派がロシア軍が劣化ウラン弾を使用したと非難し、親ロシア側がウクライナ軍が劣化ウラン弾を使用したと非難するだろうと予想していましたが、改めて実際に調べ直してみると、真逆でした。

 親ロシア派の記事では、ロシア軍が、親ウクライナ派の記事では、ウクライナ軍が、劣化ウラン弾3BM60「Svinets-2」を使用する可能性がある、あるいはすでに使用したというものでした。

 親ロシアメディアは、以下のような記事の中で伝えています。

 「ロシアの戦車キットに新型『Lead-2』弾丸が登場。

 ロシアの戦車キットに125mmの新しい徹甲弾サブキャリバー3BM60『Svinets-2』砲弾が登場し、ロシアの戦車兵装に最新の弾丸が登場したことで、供与された戦車をより遠くからどんな投射でも命中させることができるため、西側兵装に勝ち目はない。

 3BM60『Svinets-2』BOPSはタングステンのコアを持ち、3VBM23弾の一部として4Zh96『Ozon-T』投擲チャージと共に使用され、直角2キロメートルから約700mmの均質鋼の推定浸透力を提供します。740mmの弾丸長は、事実上ロシアの自動装填装置の限界であり、したがってT-90A、T-90M、T-72B3、T-80BVMなどの新型戦車にしか使用することができない。

(中略)

 したがって、西側の軍備がロシアの設計に対抗できる可能性は低く、たとえ納入されたとしても、ウクライナ軍を助ける効果はほとんどないだろう」

※В боекомплекстах российских танков появились новые снаряды 「Свинец-2」(radiovolna、2023年2月15日)
https://radiovolna.fm/news/federalnye-novosti/v-boekomplekstah-rossiyskih-tankov-poyavilis-novye-35126.html

 この記事は、3BM60『Svinets-2』砲弾が、ロシア軍の戦車に装備される、あるいはすでに装備されていると述べています。

 記事を読むと、御覧の通り、親ロシア派メディアはロシアの新型の3BM60『Svinets-2』砲弾を用いることが可能であると「誇っている」のです。

 他方、親ウクライナ側のメディアの情報はどうなのか。調べてみますと、ロシア製の3BM60『Svinets-2』砲弾を、ウクライナ軍が使い、保有しているだけでなく、実際に着弾させたことを、こちらも「誇って」います。

 「ウクライナ軍がロシア独自の『Svinets-2』弾を着弾させた:判明していること(写真)

 早くもロシアの侵攻開始時に、ウクライナ軍は3BM60『Svinets-2』弾薬に触れていたことを、軍事コラムニストのアレクサンドル・コバレンコ(Aleksandr Kovalenko)が防衛者(ウクライナ軍)の写真を引用して確認しました。

 ロステック国家公社のTechmash Concernは、2019年にEra Military Innovation Technopolisで『Svinets-2』サブキャリバー戦車砲を初めて公開したとコバレンコは指摘した。

 『この砲弾の装甲貫通力は20%以上向上しており、標準的なショットが230mmの装甲貫通力であるのに対し、「Svinets-2」のショットは300mm(角度60°)です。しかし、「Svinets-2」は大量生産できる砲弾ではなく、今でもロシア軍では非常に珍しい、ユニークなショットです』とこの専門家は説明する。

 コバレンコは、ウクライナ軍がこの砲弾をすでに研究している一方で、ロシアの戦車乗組員は 『この砲弾を手に入れるために祈っている』と付け加えた。

 『その(「Svinets-2」)すべての利点と欠点は、すべての結果とともに、以前から知られている 』とコバレンコは結論付けた」

※ВСУ затрофеили уникальные российские снаряды “Свинец-2”: что известно (фото)(unian.net、2023年2月11日)
https://www.unian.net/weapons/vsu-zatrofeili-unikalnye-rossiyskie-snaryady-svinec-2-chto-izvestno-foto-poslednie-novosti-amp-12140736.html

 この記事の内容を確認するため、引用元の軍事専門家のコバレンコ氏のテレグラムを、以下に仮訳してみました。

 「昨日、AFU(ウクライナ軍)が最も精度の高い152mm砲弾とされるロシアのトロフィー砲弾3OF39『クラスノポル』を使用したことが話題になったばかりだが、今日は侵攻開始時にAFU(ウクライナ軍)がトロフィー砲弾3BM60『Svinets-2』を使用していたことが判明した。

 3VBM23砲弾と3BM60『Svinets-2』弾は、ロシア軍で使用されている最も高度な砲弾である。

 ロステック国営企業のコンツェルン・テーマシュは、2019年の軍事革新テクノポリス・エラでSvinets-2サブキャリバー戦車砲を初めて発表した。

 この砲弾の装甲貫通力は20%以上向上しており、標準的なショットが230mmの装甲貫通力であるのに対し、『Lead-2』のショットは300mm(角度60°)である。しかし、『Svinets-2』は量産弾になれず、今でもロシア軍では非常に珍しいユニークなショットである。

 一方、AFU(ウクライナ軍)はこの砲弾に触れ、明らかに研究し、適切な結論とマーキングを行った。ロシアの戦車乗組員がこの砲弾のために祈っている間、そのメリットとデメリットはすべて、その意味するところとともに、長い間知られていた」

※アレクサンドル・コバレンコ氏のテレグラム(2023年2月11日)
https://t.me/zloyodessit/18308

 このウクライナ側の軍事専門家の紹介した情報は、重要です。驚いたことに、3BM60「Svinets-2」が、2022年2月24日のロシア軍の侵攻開始当初から、ウクライナ軍によって使用されていたと写真付きで述べているのです。

 このコバレンコ氏のテレグラムでは、着弾した3BM60「Svinets-2」を、ウクライナ兵の足と大きさを比較できるように、ウクライナ兵の足元で写真に撮っています。

 ここまでの情報からわかることは、ウクライナで見つかったとされる劣化ウラン弾は、ソ連時代に製造された3BM-32「Vant」弾と、冷戦後のロシアで製造された3BM60「Svinets-2」の2種類あることになります。

 ソ連で作られた3BM-32「Vant」弾は、明らかな劣化ウラン弾です。

 問題は、3BM60「Svinets-2」弾です。

 冷戦後のロシアで製造された砲弾3BM60「Svinets-2」を、果たして劣化ウラン弾と呼べるのかどうかという問題があると、調査の過程でわかってきました。この砲弾について、説明が3種類あり、情報が混乱しています。

 1つは、コアにタングステンが使用されているとするもの。タングステンという金属は、金属の中でもっとも硬いとされています。ダイヤの硬度「10」に次ぐ「9」に位置付けられ、徹甲弾としても採用されています。劣化ウラン弾のような放射性物質ではありません。

※В боекомплекстах российских танков появились новые снаряды 「Свинец-2」(radiovolna、2023年2月15日)
https://radiovolna.fm/news/federalnye-novosti/v-boekomplekstah-rossiyskih-tankov-poyavilis-novye-35126.html

※В зоне СВО появились новые бронебойные снаряды 3БМ60 “Свинец-2″(Политика、2023年2月10日)
https://dixinews.ru/news/armiya-i-oruzhie/v-zone-svo-poyavilis-novye-broneboynye-snaryady-3bm60-svinets-2/

 2つ目は、コアに劣化ウランが使用されていると説明しているもの。

※Russia is mass producing the improved Svinets-1 and Svinets-2 ammunition(Below The Turret Ring、2016年10月16日)
https://below-the-turret-ring.blogspot.com/2016/10/russia-is-mass-producing-improved.html

※Russia Is Arming Its Tanks with a Controversial New ‘Bullet’(THE NATIONAL INTEREST、2018年12月 24日)
https://nationalinterest.org/blog/buzz/russia-arming-its-tanks-controversial-new-bullet-39682

※ICBUWのspecial newsletter issue.
https://www.icbuw.eu/icbuw-statement-on-british-du-ammunition-for-ukraine/

 3つ目は、コアに劣化ウランを用いながら、硬度を強化するためにタングステンが加えられた合金とするものです。

※Russia’s upgraded T-80BV tank to feature capability of firing depleted uranium shells(タス通信、2018年12月20日)
https://tass.com/defense/1036958

※Т-80БВ: 「Реактивный」танк получил урановые снаряды(Свободная Пресса、2018年12月23日)
https://svpressa.ru/war21/article/219941/

 多くの記事でソースとされている2018年12月20日付『タス通信』の記事は、次のように、「ロシアの主力戦車T-80BVが改良され、劣化ウラン弾の発射機能を備えた」と記述しており、3BM60「Svinets-2」を装填する機能を持つこと、同弾が劣化ウラン弾であることも併記しています。

 「ロシアの主力戦車T-80BVが改良され、劣化ウラン弾の発射機能を備えたと、国防省が木曜日に発行した機関誌『比較のロシア軍』で発表した。

 T-80BVM(Mは「近代化」を意味する)は、『改良された武器安定装置と3BM59「Svinets-1」および3BM60「Svinets-2」弾の装填機構』を特徴とする、と同報道は述べている。

 公開情報によると、「Svinets-1」の徹甲弾フィン安定化サブキャリバー弾はコアが炭化タングステン製で、「Svinets-2」はウラン合金製のコアを備えている。

 各種データによると、「Svinets-1」は2kmの距離で均質な装甲を700-740mm貫通することができ、「Svinets-2」は同じ距離で800-830mmを貫通することができる。

 砲弾のひとつに劣化ウランのコアがあるという情報は、軍事専門家で『祖国の工廠』誌の編集長であるヴィクトル・ムラホフスキーがタスに確認した。彼は、『劣化ウランとタングステンの合金が使われている』と述べ、公開されている情報では『材料B』として言及されていると付け加えた。

 劣化ウラン弾の使用は、いかなる国際条約にも違反していない、と専門家は述べた。

 このような砲弾は、ロシア軍の軍事ユニットの兵器庫の外に保管されており、特別な備蓄品というカテゴリーに分類されると彼は付け加えた。

 米軍も、劣化ウランのコアを持つ戦車砲を保有しているという。

 特に、米国のエイブラムス戦車の砲弾装填には、各種データによると、2kmの距離で650mmから700mmの均質な装甲を貫通できるM829A1弾を装填できる。タングステンと劣化ウラン合金を使用した徹甲弾は、密度が高いため鋼鉄よりも効率的である。(後略)」

※Russia’s upgraded T-80BV tank to feature capability of firing depleted uranium shells(タス通信、2018年12月20日)
https://tass.com/defense/1036958

 以上のようなわけで、3BM60「Svinets-2」を、劣化ウラン弾と考えるべきかどうかは、現時点で判断できません。今後、防衛省やロシア大使館、あるいは、その他の専門機関に3BM60「Svinets-2」について、取材する予定です。

 しかし、これを準備したという情報は、上記のようにありましたが、これを今回のウクライナ紛争で、ロシア軍が戦場において実戦使用したという情報は、今のところ見つかっていません。

 逆に、ウクライナ軍の方は、先述したように、ウクライナの軍事専門家、コバレンコ氏のテレグラムの中の写真で、このロシア製砲弾の使用が確認できています。

 Wikipediaによると、3BM60「Svinets-2」は、2005年からロシアで使用開始されています。

※3VBM23/3BM60 (3BM60 “Svinets-2”)(Wikipedia、2023年6月20日閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/125_mm_smoothbore_ammunition

 仮に、3BM60「Svinets-2」が劣化ウラン弾であると確実に確認できれば、ウクライナ軍は2022年2月24日のロシアの侵攻直後から、劣化ウラン弾を使用していたことになります。

 ここで、指摘しておかなければならないのは、劣化ウラン弾は、英国からウクライナへ「チャレンジャー2」戦車とともに供与されることが決まった3月20日に大きなニュースとなったため、あたかも、この時期からウクライナ軍が劣化ウラン弾を用い始めるようになったと思い込まされてきましたが、3BM60「Svinets-2」が劣化ウラン弾であると確認できれば、開戦当初からウクライナ軍が用いてきたことになります。

 さらに、旧ソ連製の劣化ウラン弾「3BM-32」の使用についても、ウクライナ軍にも、その使用可能性があります。

 以上ですが、取材や調査に、引き続き時間を要すると考えられます。

 新事実が判明次第、お知らせします。

■IWJは創業以来、最大の経済的危機に直面しています! 第13期の累積赤字は毎月増え続け、6月は28日までの28日間で、106件、196万4000円のご寄付をいただきました。ありがとうございます! これは、月間目標額390万円の約50%にあたります。月間目標額の達成にはあと50%、193万6000円が必要になります。6月こそは少なくとも月間目標額390万円を達成したいと思います! また累積の不足額を少しでも減らしたいと願っています! ちなみに8月から5月まで10ヶ月間の累積の不足額は、1868万2900円となりました! 緊急のご支援・ご寄付・カンパを、どうぞよろしくお願いいたします!!

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 6月は28日までの28日間で、106件、196万4000円のご寄付をいただきました。ありがとうございます! これは、月間目標額390万円の約50%にあたります。そして、月間目標額の達成にはあと約50%、193万6000円が必要になります。

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 5月末時点での会員総数は2648人(前年同日比:1113人減)でした。会員の方々の会費と、ご寄付が、IWJの運営の二本柱です。ご寄付も、連日お伝えしているように、目標額を下回っていますが、会員数も会費も減少しています。

 経営は本当に赤字が連続し、厳しい運営状況が続いています。

 どうぞ、皆さま、IWJを知人・ご友人、地域の皆さまへIWJの存在をお知らせいただき、独立系メディアの意義と、米国に忖度する日本政府、大手主要メディアの「情報操作」の恐ろしさについて、広めてください。

 IWJの内部留保も底を尽き、キャッシュフローが不足したため、私、岩上安身が、個人的な私財から、IWJにつなぎ融資をいたしました。

 私がこれまでにIWJに貸し付けて、まだ未返済の残高は約600万円。これにつなぎ融資1000万円と合計すると、IWJへの私の貸し付け残高は約1600万円にのぼります。近いうちに、また私がIWJにつなぎ融資をしなければならない見込みですが、本当に貯金が底を尽きます。

 私の貯えなどたかがしれていますから、この先も同様の危機が続けば、私個人の貯えが尽きた時、その時点でIWJは倒れてしまいます。

 皆さまにおかれましても、コロナ禍での経済的な打撃、そしてこのところの物価上昇に悩まされていることとお察しいたします。

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◆中継番組表◆

**2023.6.29 Thu.**

あくまで予定ですので、変更、中止、追加などがある場合があります。また電波状況によっては、安定した中継ができない場合もございますので、ご了承ください。

【IWJ_YouTube Live】14:30~「『新しい戦前にさせない』連続シンポジウム 6・29 第4回 ―講演:『脅威論の真相を剥ぎ、平和への道を探求する』孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、シンポジウム 『中国・朝鮮の脅威論を越えて』王祝 上海大学教授、李柄輝 朝鮮大学校教授、羽場久美子 青山学院大学名誉教授、 前田朗 東京造形大学名誉教授」
視聴URL:https://www.youtube.com/user/IWJMovie/featured

 「共同テーブル」主催のシンポジウムを中継します。これまでIWJが報じてきた共同テーブル関連の記事は以下のURLから御覧いただけます。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/%E5%85%B1%E5%90%8C%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB

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◆中継番組表◆

**2023.6.30 Fri.**

あくまで予定ですので、変更、中止、追加などがある場合があります。また電波状況によっては、安定した中継ができない場合もございますので、ご了承ください。

【IWJ・エリアCh5・東京】18:00~「原発反対八王子行動」
視聴URL:https://twitcasting.tv/iwj_areach5

 「キンパチデモ実行委員会」主催の原発反対八王子行動を中継します。これまでIWJが報じてきたキンパチデモ実行委員会関連の記事は以下のURLから御覧いただけます。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/kinpachi-demo-executive-committee

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◆昨日アップした記事はこちらです◆

「死亡説の流れたウクライナ国防省・軍事情報局のブダノフ長官を松田・駐ウクライナ大使が訪問したのは米国やNATO諸国の要請か?」IWJ記者の質問に「日常的な外交活動の一環」と林外務大臣!!~6.27林芳正 外務大臣 定例会見
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/516832

【IWJ号外】ウクライナの反攻は不発に終わりタカ派の予測は再び外れる! ウクライナがロシア支配層内部の亀裂を利用し、西側諜報機関の支援によって、ワグネルトップのプリゴジンのクーデター未遂を煽った!?
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/516898

この現代における諸矛盾の一番犯罪的なものは何か?「『政治を変えないといけない』というアバウトなことではなく『政治家を変えないといけない』」と足立正生監督!!~6.16映画『REVOLUTION 1』上映後の足立正生監督トーク
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/516647

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■7月11日に第三次世界大戦開始!? 米国務省のビクトリア・ヌーランド国務次官が、キエフとのビデオ会議で公式に表明! ビデオ会議で共同議長を務めた大西洋評議会のリチャード・フッカー・ジュニア氏はカホフカダム破壊を予言していた!?

 カナダのモントリオールに拠点のある独立調査機関、「グローバリゼーション研究センター」は、5月26日に、ショッキングは記事を配信しました。

 米国務省のビクトリア・ヌーランド国務次官が、キエフとのビデオ会議において、7月11日に、ロシアと第三次世界大戦が事実始まると公式に表明したというのです。しかも、米国と同盟国は16年以上もこの戦争を戦うことになるというのです!

※Victoria Nuland Inciting WWIII with Russia(Global Research、2023年5月26日)
https://www.globalresearch.ca/victoria-nuland-inciting-wwiii-russia/5820705?doing_wp_cron=1687942437.8472979068756103515625

 このビデオ会議は、現在削除されており、確かめることができません。

※11th July: The date set by Victoria Nuland for WWIII(Tap News、2023年6月24日)
https://tapnewswire.com/2023/06/11th-july-the-date-set-by-victoria-nuland-for-wwiii/

 5月26日付『Global Research』の抄訳は以下のとおりです。

 「ヌーランドは来る7月11日の攻撃を『反攻』と呼んでいるが、その標的はモスクワだ。軍事的にプーチンを排除し、ナワリヌイを首班とする臨時政府を発足させることだ。

 プーチン暗殺に対する世界の反応は実に興味深い。プーチンの右腕であるラブロフについては言及されていないが、彼が『赤いボタン』にアクセスできる可能性は高い。そしてロシアは、ロシアを独立国家として存続させるために、誰を容赦し、誰を容赦できないかを熟知している。ロシアのメドベージェフは、先制核攻撃は西側諸国がキエフに核兵器を提供した場合にのみ行われると述べている。そうでなければ、すべての核兵器はおためごかしになる。

 驚くべきことに、西側諸国政府による和平交渉の話し合いはテーブルの上にない。

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 それでは、本日も1日、よろしくお願いします。

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IWJ編集部(岩上安身、六反田千恵、尾内達也、浜本信貴、前田啓)

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