【安保法制反対 特別寄稿 Vol.4】日本のことは日本が決める:アメリカ合衆国に隷属しつつ戦前体制に復古しようとする安倍政権に反対する(一市民・東京薬科大学生命科学部分子生命科学科 脳神経機能学研究室 教授:宮川博義さん) 2015.7.14

記事公開日:2015.7.14 テキスト
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 日本のことは日本が決める。アメリカ合衆国に隷属しつつ戦前体制に復古しようとする安倍政権に反対する。

第3次アーミテージレポート

 安倍首相は2013年2月の米国訪問の際、CSISというシンクタンクにおいてスピーチをしたそうです。その全文を首相官邸のHPからダウンロードして読んでみたところ、CSISが前年に示したThe U.S.-Japan Allianceという題の報告書に示された提案の実行を約束するという内容でした。

 CSISの報告書には日本に対する9項目の提案が示されていました。特に気になったのは次の3点です。

 ①原発再稼働 ②防衛に関する秘密保護 ③集団的自衛権の行使抑制の撤廃

 安倍政権はCSISにおける約束を果たすために粛々と活動しているようです。川内原発再稼働は今年7月に実施されそうですし、特定秘密保護法は昨年末に施行されました。現在は集団的自衛権を行使するための法律を審議中というわけです。

 この報告書は第3次アーミテージ・レポートと呼ばれているようで、ここ数年の日本の政策がこの報告書に従って進められているという指摘はネット上では以前からあり、新聞でTVの番組でも述べられていたようですが、私は最近になって気がつきました。報告書には「日本の集団的自衛権行使の制約は日米同盟にとって障害である」とも書かれています。「ホルムズ海峡をイランが封鎖したら日本が掃海艇を単独で派遣すべきだ」ともあります。現政権の進めようとしている法案は、自らの認識・見識に基く方針に沿ったものではなく、同盟国と証するアメリカ合衆国から「提案」という名の指令に唯々諾々と従っているだけのものであるようです。

集団的自衛権行使、原発再稼働、秘密保護法等を求めるアメリカの提案と、それに従うことを約束する安倍首相のスピーチです。スマホでアクセスできます。私はこれを読んで目からウロコがおちました。皆さんも是非。
※ 安倍首相のCSISにおけるスピーチ
http://japan.kantei.go.jp/96_abe/statement/201302/22speech_e.html
※ 第3次アーミテージレポート 2012/8
http://csis.org/files/publication/120810_Armitage_USJapanAlliance_Web.pdf

※ 参考(IWJ編集注)
【IWJブログ】CSIS「第3次アーミテージレポート」全文翻訳掲載 2013.2.3

神道政治連盟国会議員懇談会

 この名前の懇談会があり、300名の国会議員が参加しています。神道政治連盟のHPをみてみると、憲法前文に「主権が国民に存することを宣言し」などとあるのが恥ずかしいそうです。天皇を元首とする明治憲法のようなものに戻したいということのようです。この懇談会の会長は安倍晋三首相です。自民党は新憲法制定を党の綱領としていますが、神政連国会議員懇談会の方々の目指す憲法は「国民主権」ではないものでしょう。

日本の政治の二重構造

 太平洋戦争に敗れたのち、米軍の駐留の期間を経て1951年のサンフランシスコ平和条約により日本は独立しました。独立前に現日本国憲法が制定(1947)されていましたが、サンフランシスコ平和条約の数時間後に締結された日米安保条約の締結、その後の日米行政協定(1952)、日米地位協定(1960)、さらにはその後の日米構造協議、年次改革要望書等によって日本は米国の政治的・軍事的・経済的な戦略の中に位置づけられてきました。

 憲法は存在しても、同時に安保条約も存在するために、日本の政治は憲法だけに規定される状況に無く、憲法との整合性を(苦しい拡大解釈をして)考慮しながら米国との関係に腐心するものになったようです。歴代の政権は、米国からの要求にたいし、譲れないことと譲らねばならないことの間で苦労をしてきたようにおもわれます。

 砂川判決にある以下の文「安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが、違憲であるか否かの法的判断は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。」はこの点を明白に示しています。交戦権をみとめない憲法の下で米軍の駐留を認めることが合憲か違憲かという問題に対し、歴代政権はこのような二重構造のなかで、独立国であるか属国であるかの綱渡りを続けて来たということでしょう。

 ところが、現安倍政権は政治・軍事面においては第3次アーミテージ報告にしめされた米国の要求に唯々諾々と従っているだけの様に見えます。米シンクタンクCSIS内のいわゆるJapan Handlersと呼ばれる人たちの走狗に見えます。

アメリカから日本が守ってきた憲法

 憲法の制定、自衛隊の設立・憲法の改正あるいは解釈変更もアメリカ合衆国からの要請によってなされてきたようです。敗戦後に策定された憲法には、主権が国民に在ること、交戦権と軍を放棄することが明記されたにも関わらず、その後、冷戦・朝鮮戦争・ベトナム戦争等々、機会あるごとにアメリカ合衆国は日本に対して、憲法解釈をまげて軍を持つこと、できれば憲法を修正することを要請し続けてきました。

 それに抗して、日本の政府と国民は、その要請に憲法の解釈拡大で応じながらも憲法の条文の変更は避けてきました。苦渋の選択を迫られながらも平和憲法と国民主権は守ってきました。ところが現政権は平和憲法を無意味にするだけでなく、国民主権の立憲主義を無意味なものにしようとしている様に見えます。

 冷戦以降、アメリカは日本が憲法を改正してアメリカの世界戦略により大きく貢献することを望んできましたが、安倍政権についてはその要求をトーンダウンさせているように見えます。第2次アーミテージレポートには「The ongoing debate in Japan on the Constitution is encouraging」と書かれていました、第3次では「A shift in policy should not seek a unified command, a more military aggressive Japan, or a change in Japan’s Peace Constitution」と書かれています。アメリカでさえ現政権の復古的な性格には懸念を持っているということかと推察します。アメリカは集団的自衛権行使を求めるが憲法から逸脱することは求めていないわけで、このことは日本の政治の二重構造の矛盾をさらに深刻なものにすることになります。矛盾が深刻になれば憲法が意味を持たなくなるでしょう。

米軍のいない日本という選択肢

 もし日本がアメリカの言うことを聞かなければアメリカは日本に置いている基地や日本が提供する経費負担を手放すでしょうか。良くわかりません。

 ベトナム戦争終結、米中の国交回復のあと、アメリカは駐留米軍を縮小しようとしましたが、日本側は沖縄返還をもとめつつ、基地移転にかかる費用、駐留費用など多額のお金を支払い、米軍の駐留の継続をむしろ求めたように見えます。アメリカは海洋国家であるとの自己認識があり、アリューシャン列島、日本、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線で中国・ロシアから太平洋における権益を守ろうとしている様ですが、その戦略のために日本の力と人を使おうとしているようです。

 陸軍は縮小するとのことですから日本が侵略を受けても米陸軍が投入されるとは思えません。アメリカは日本の経済的繁栄を可能にする体制を維持してあげているのだから、それ以上を期待されても米国民を説得できないということでしょう。

 その一方で、在日米軍が首都東京周辺の基地も含めて完全に撤収し、米軍による核の傘がなくなると、日本が独自で核武装し、アメリカへの軍事的脅威になってしまう可能性をアメリカは危惧しているでしょう。いずれにせよ、米軍駐留を終了することは現実的な選択肢であって、日本国民が決定するべきこととおもいます。

どうすればよいのか

 アメリカは日本と中国・ロシアとがより深い関係を持つことを望まないかもしれないけれど、日本は中国やロシアと接しておりその関係のなかで生きてゆかなくてはなりません。集団的自衛権の行使を可能にすることは、中国やロシアとの関係において日本を危険にさらす選択に思えます。アメリカの世界戦略の枠組みの中に組み込まれ、アメリカが「敵」とみなす相手を日本も敵とみなすのでは危険です。

 長期的に見て、アメリカの世界戦略に組み込まれた状況、日本の政治の二重構造をこれからも維持し、アメリカの属国としての性格をさらに明白にしていくことが日本の安全のために妥当とはどうにも思えません。アメリカは凋落してゆく途上にありそうです。世界経済もアメリカ中心の経済から中国主導のAIIBとの二重構造にシフトしそうです。ロシアはこれからもっと外にでてくるでしょう。アメリカの完全な属国という旗を掲げるのではなく、日本は中国、ロシア、アジア諸国と関係を築かなければいけない。同盟関係を築かなければならない。それと同様にアメリカとも新たな関係を築かなければならない。アメリカが中国・ロシアが敵であるから一緒に戦えといってきても、「いや中国、ロシアは日本の大事な隣国である」としてアメリカを牽制すべき場所に日本は存在しているとおもいます。

 実は今、集団的自衛権行使の法制整備でアメリカが求めているのはホルムズ海峡での機雷掃海であって中国・ロシアとの関係に関わることでは無いようです。ところが、安保法制に賛成する方々は中国・ロシア・北朝鮮からの侵略に対しての日本の守りを米軍に期待しているようです。アメリカはそのような侵略時には陸軍は投入せず、空爆をし、その結果として日本人と侵入者の両方に多くの死者が出ることになるのではないでしょうか。

 今回の法整備はアメリカの属国になることを、しかもアメリカの州ならば認められる権利なしの単なる使い走りの国になることを、意味するように感じます。(安倍氏はアメリカの属国になりながら、主権在民・立憲主義のアメリカの憲法の適用を逃れ、神国日本の国体を護持しようとしているのでしょうか。それは考えにくい。アメリカの属国になるふりをして再軍備し、その上でアメリカのくびきをはずして神国日本を復活させようということでしょうか。こちらのほうが考え易い。)

 米軍の駐留を終了し、日米安保条約や地位協定を廃止にする選択を本気で考えるべきなのだとおもいます。日本の政治の二重構造をおしまいにして、日本のことは日本が決めるべきなのだとおもいます。その日本の主権は天皇ではなく日本の住民に存するべきであり、政権は憲法を守って国家を運営すべきです。
(以上)

 同志社大学長村田氏が「学者は憲法学者だけではない」とおっしゃったとか。無論です。憲法学者でなくても違憲であることはわかります。学者である必要もありません。

 私は「安全保障関連法案に反対する学者の会」のアピールに神経生理学者として賛同署名しましたが、学者だから反対しているわけではありません。自分が知識人という範疇に入る者とはとても思えません。研究者・教育者であることによって「自分で考える」ことの重要性を理解するようになった一般市民であると認識しています。(宮川さんからのメールより抜粋)

宮川博義[一市民・医学博士(神経生理学)]

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  1. kaimarin より:

     簡潔、明快でしかも深い考察から出てきた寄稿。プリントアウトして保存させていただきます。ありがとうございます。

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