【IWJブログ】格差拡大の再開発バブルか 舛添氏の「ハイパービルディング(超高層ビル)」政策を斬る! 2014.2.8

記事公開日:2014.2.8 テキスト
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(文:野村佳男・文責:岩上安身)

 東京都知事選候補の舛添要一氏の政策案の中に、以下のような一文がある。

 「免震・制震の超高層縦型都市化、木造住宅密集地域の改善」

 災害対策の一つとして舛添候補が打ち出している、「超高層縦型都市化」。実はこの「超高層」都市改造計画こそ、舛添氏が長年温めている構想であることをご存知だろうか。

 NPO法人自立生活サポートセンターの稲葉剛理事長がIWJに寄稿していただいた記事にあるように、舛添氏は、2010年に出版した『日本新生計画 世界が憧れる2015年のジパング』(講談社)という著書の中で、「大都市圏の中心部は、超高層縦型都市に改造する」と提言している。

 また、舛添氏がかつて党首を務めていた新党改革の2012年マニフェストにも、「都市圏の中心部を、超高層縦型都に大改造します。マンハッタンのように、超高層ビル、超高層マンションが林立する街へ」という言葉が踊る。

 東京に関しては、前述の著書に、「東京では、少し郊外に行くと、高いビルを建ててはならないなどという規制があり、高層化できない。こうした規制を撤廃し、超高層ビルの建設を可能にする」(p.185)と書いている。

 さらに驚くことに、「山手線内にも、一軒家に住んでいる人がたくさんいる。申し訳ないが、この方たちには、協力をお願いしなければならない」とあり、超高層ビル建設のためには、住民の立ち退きや強制収用も辞さないというスタンスだ。

 舛添氏が東京都知事に就任すれば、この「ハイパービルディング(超高層ビル)構想」が積極的に推進されることは間違いないだろう。

築地市場跡地にもハイパービルディング計画が

 ハイパービルディング計画は、1990年前後のバブル景気の時代に、高さ1000メートルを超すハイパービルディングを建設しようという計画が相次いで提案されたことがある。

 1994年に設立された「ハイパービルディング研究会」という組織を中心に、ハイパービルディング特別法を制定し、首都圏の各地域に巨大ビルを建設し、そこに街の機能すべてを集中させるという構想が計画された。

 築地市場移転後の跡地には、「築地グリーンスパイラルシティー」というハイパービルディングを建設する構想も打ち上げられた。

 現在は、バブル崩壊後の長引く不況や東日本大震災の影響で、これらのハイパービルディング構想は頓挫し、研究会も活動を停止しているようである。しかし、ハイパービルディング構想を推進する舛添候補が都知事に選ばれれば、これらの計画が復活することも大いに考えられる。

 どれだけ高層ビルを建てても、当然そこに入居する企業がいなければ、話にならない。東京には、果たしてそれほど大きなオフィス需要はあるのだろうか。

(出典:三井住友信託銀行調査月報 2012年10月)

 東京(都心5区)の空室率を見ると、2008年のリーマンショック以降急激に悪化し、その後も本格的には回復していない。2012年には、オフィスの大量供給による市況悪化、いわゆる「2012年問題」が取り沙汰されたばかりだ。

 景気の回復がおぼつかない現在の状況でハイパービルディング計画を実施すれば、空室率のさらなる上昇を招くことになりかねない。

 その状況が先行しているのが、大阪だ。2013年に、大阪駅北ヤードに建設された「グランフロント大阪」など、過去平均の2倍もの大量供給が行われたため、今年の空室率は上昇するかも知れないと、専門家は予想している。(三井住友信託銀行調査月報 2012年10月

 アベノミクスの一時的なカンフル剤により、今のところ市況は落ち着いているが、今後実体経済の改善が伴わなければ、中之島や堂島など、既存のオフィス街で賃料の値下げが行われることになるだろう。

 賃料が下がれば、都市再開発のコストの回収が難しくなり、デベロッパーに貸し込んだ銀行は不良債権の山を築くことになる。90年代の「不良債権問題」の再来である。

 舛添候補のハイパービルディング構想は、アベノミクスの幻想に乗っかり、「バブル経済よ、もう一度」と言っているに等しい。その崩壊の後は、一体どうなるのだろうか。

ハイパービルディング計画と「国家戦略特区」はつながっている

 ハイパービルディング計画を実現するためには、現行の建築基準法の規制緩和が鍵を握るが、この点において「国家戦略特区」が大きな意味を持っている。

 昨年12月に国会で可決された「国家戦略特区法案」では、内閣総理大臣をトップとする「国家戦略特別区域諮問会議」が制度の基本方針や特区ごとの区域の方針を決定し、建築基準法などに特例を設けて、市街地再開発事業が実施できるようになった。

 具体的には、これまで各自治体によって決められていた容積率の上限を緩和したり、未使用の容積率を建設業者間で売買したりすることができるようになったのである。

 要するに、政府や企業の意向で、建築計画を進めることができるようなる、ということである。そこに地域住民の意見が関与する余地は、ほとんどないだろう。

 法案では、特区ごとに、民間事業者や自治体の首長などを交えた「国家戦略特別区域会議」を設置し、区域内で実施する事業を盛り込む区域計画の作成を進めることになっている。

 舛添候補が「国家戦略特区で、ただちに東京を特区にする」と意気込んでいるのは、東京都の首長として、自身のハイパービルディング構想を実行に移したいと考えているからに他ならない。

 国家戦略特区は、その名の通り「国家戦略」という国主導の政策によって、画一的な都市の再開発が進むということである。地方議会や地域住民を無視した都市計画が行われることにもなりかねない。

ハイパービルディングにはこれだけの弊害が

 縦方向空間に都市機能を集中させるという「ハイパービルディング構想」を進める理由として、人間活動が原因で都市の気温が周囲より高くなる「ヒートアイランド現象」や、自動車の排気ガスなどの「自然環境問題」、交通渋滞などの「交通アクセス問題」などを解消できるというメリットがあると言われている。

 しかしその一方で、超高層ビルやマンションの建設によって、さまざまな被害が報告されている。

 再開発により高層マンションが林立された川崎市の武蔵小杉地区では、立っていられないほど強い風が吹くようになり、街路樹が倒れたり、お店の商品が飛んだりという被害が続出しているという。自転車で倒れる、傘が壊れるなどといった被害を受けた人が、住民の8割にも上ると報告されている。

 また、日照被害も深刻である。同地域で活動する市民団体「小杉・丸子まちづくりの会」による住民環境アセスメントでは、約4300棟の建物が日影の影響を受けると試算している。

さらなる「東京一極集中」の弊害も

 地方の経済活性化の観点からも問題だ。もし東京が特区に指定されれば、規制緩和の恩恵に預かれない特区外の地域では、さらなる地価下落の可能性や、地方都市の衰退を招く恐れが出てくるだろう。

 舛添氏は、「東京を国家戦略特区にして、どんどん金儲けをすれば、東北の復興にもなる」と、選挙戦を通じて主張しているが、これ以上経済の東京一極集中をすすめることが、どうして東北復興に直結するのか、まったく理屈が通らない。

 それでなくても、東京への人口集中は続いている。総務省が1月30日に発表した「2013年の人口移動報告」では、東京圏は転入超過が9万6524人と、18年連続の転入超を記録している。

 企業が集まれば雇用増につながるというが、逆に言えば東京で雇用にありつけない人々はますます暮らしにくくなるということだ。雇用にありついた人にとっても、家賃は上がり、住環境は狭くなり、通勤はさらに長く混雑するだけである。

 そもそも、都心の高層ビルに入居できるのは、リッチな企業や住民だけである。加えて、安倍総理は、「国家戦略特区は、外国人が住んで働きやすい街にするのが目的」と、自ら宣言している。

 特区による都市開発は、富裕層のみが生活し、人や車の流入を厳格に制限する、米国の「ゲーテッドタウン(要塞都市)」のようなものを想定しているようにすら思える。東京都民全体の暮らしのことは、どうやら眼中にはないようだ。

健康への影響はまだ研究途上

 住宅が狭くなるだけではない。超高層ビルやマンションには、壁のきしみ音などの物理的障害や、居住者が外出しなくなり孤独化が進む「シック・ハイパービルディング症候群」と言われる社会的・精神的影響を懸念する専門家もいる。

 福岡大学工学部の高山峯夫教授は、ENRという米国の建設業界専門誌の論説に、「長い時間軸でみたとき、超高層ビルに住むことの社会的、精神的な影響は解明されていない」と指摘されている事実を、自身のブログで紹介している。

 また、長年「シック・ハイパービルディング症候群」の研究を続ける東海大学医学部講師の逢坂文夫氏は、296メートルという高さを有する横浜ランドマークタワーでは、「壁のきしみ音のために、勤めをやめる人が増えている」と報告している。

 逢坂氏は著書『コワ~い高層マンションの話』(宝島社)の中で、「高層マンションに暮らす33歳以上女性の流産率66%」というデータを発表するなど、異常分娩や肥満、うつ病、子どもへの影響などの問題も警告している。

 このような研究が十分進展する前に、ハイパービルディングの建設ラッシュとなれば、知らないうちに我々の生活に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。

舛添氏のハイパービルディング計画に「共感」はあるか

 舛添候補の言うように、世界の大都市と比べて、東京は超高層ビルの数が少ない。六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど、高層ビルには人が集い、街を活性化させる効果があることは、その通りであろう。

 しかし、超高層ビルが増えれば、街の魅力が増して、都市間競争に勝てるというのは、いかにも短絡的すぎる。都市の魅力は、街全体の景観やアクセス、人々の活気ある生活や文化によって育まれるものであり、ビルの数や高さによって計られるものではないだろう。

 昨年秋、ニューヨークの9.11跡地「グラウンドゼロ」に541メートルのビルを設計した世界的建築家の槇(まき)文彦氏は、先日行われた記者会見で、2020年東京オリンピックに向けて建設される「新国立競技場」について、「建築ではなく、ただの巨大な『土木計画』」と一蹴。ひたすら巨大化する建造物の林立に、疑問を呈している。

 槇氏は、「ビルと周辺の間に『共感』がもたらされるものが建築」と語る。舛添氏のハイパービルディング計画に、この「共感」を感じ取ることはできるだろうか。 

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「【IWJブログ】格差拡大の再開発バブルか 舛添氏の「ハイパービルディング(超高層ビル)」政策を斬る!」への5件のフィードバック

  1. hotaka43 より:

    マスゾエ死は姥捨て山でも作る気なんでしょ。
    田母神死も多摩地区に老人ホームを作って都心の老人を行かせるって、言ってたじゃいですか。
    二人とも、経済が未だ伸びると思っているので、老人が邪魔なんですよ。
    いい加減にしろ、って言うの。人は家畜じゃねえんだよ!家畜だって、フクシマじゃ「殺せない」って被曝しながら飼っている人が居るのによう。

  2. erichan より:

    選挙選の討論番組の中で、舛添さんは「高層ビルの一階には、保育園と老人ホームを作ることを義務づける」って言ってたけど、実現できるのだろうか。口から出まかせを言ってるようにしか思えない。それに老人はそんなところに押し込められたくないだろう。

  3. とし より:

    本当に福祉の事ばかり言う自分勝手な奴が多すぎるわ。日本は他国と比較しても福祉は充実している国。大きなな欠点は都市計画がひどい事。都心部を高層化する事・・・企業ビルだけではなく、住宅地も高層化する事によって、郊外の、ぐちゃぐちゃで欧米と比較してもかなり見劣りする住宅街の改善方向に持っていけるわけ。また、都市計画をきちんとする事によって電線の地中化もしやすくなる。このことにより、世界から更に注目される都市となり、外資も入りやすくなり、経済効果も生まれる。このままだとアジアの都市に負ける一方(シンガポール、香港、上海)。

  4. KISHIDA より:

    本当に日本国民は不平不満だらけが多いですね。地方は地方としてコンパクトに集まり独自性と農林水産加工業や大規模工場を中心とした産業を為替を130円程度に再度円安誘導し、原発再稼働などで産業用に光熱費を格安として日本へ戻すなどして地方の雇用に貢献させる。その原資として東京・大阪・名古屋等の大都市圏がグローバルに競争できる体制を整える事が日本が生き残る唯一の道ですよね。最低山手線内・湾岸エリアは高層化して、現在の旧耐震ビルを等価交換にて強制誘致させる。新しい高層ビルは、規制緩和をして芸術性のあるビルとして世界唯一の空間を作り、ビルを見学に東京へ来る等の観光地化も図り競争力をUPさせ、海外企業が進出しやすい都市を作り、得た税金収入UPで地方の再構築につぎ込む。 など前向きな提案をする時期です。 政府や行政の足の引っ張り合いでは日本は良くなりません。

  5. ムスカ より:

    公共の福祉の概念がないのか。経済発展だとかのたまってるが。
    それにその日本のためってのも怪しいもんだ

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