この度、麹ともの会会長の松井なつ代さんより、第一弾寄稿をいただきました!
ご自身が会長を務める麹ともの会の活動や、麹がもたらす健康への影響などを紹介してくださいました。
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健康とはどういうことをいうのでしょうか。
様々な考え方があるでしょうが、私は、「正しい細胞が作られ続けること」そして「出来のいい血液が体の隅々までめぐること」ではないかと考えています。人間の体の細胞は日々新しく作り変えられています。今の私は、半年前の私と全く別の細胞でできているのです。そしてその細胞が何で作られるかといえば、私たちの食べた食物と飲んだ水、吸った空気、原材料といえばこれだけです。出来のいい血は正しい細胞からできるはずですから、「口にいれるものに気を配り、適度な運動をする」、これが健康に生きる上で大切なのではないかと、とりあえず私は思っています。
さて、前おきが長くなりましたが、「麹(こうじ)」です。
私と麹との出会いは、ブームになった塩麹、わりと最近のことです。友人が塩麹が美味しいから、作りなさいと麹をわけてくれたのでした。貰った麹は私の知っているものとは違って初めて見る乾燥麹でした。こういう麹もあるのかと、それで塩麹を作りまして、なかなかこれはいけると思いましたが、本当の生麹で作ればきっともっと美味しいのではとも思ったわけです。
私は生まれは金沢で、あちらには麹屋さんが結構あります。あとで知ったことですが、麹の消費量が全国で最も多いのが石川県なのだそうです。姉に頼みましたらおやすいご用と近所の麹屋さんの生麹を送ってくれました。これで作った塩麹が予想以上に美味しく体調も良くなった実感があったので、一気に麹のファンになったというわけです。
麹は、ご存知のように、味噌、醤油、酢、酒、漬物など、日本人の食を支える発酵食品に欠かせないものです。簡単にいうと蒸した米にカビを生やしたものです。このカビは麹菌Aspergillus oryzaeと呼ばれています。学名のアスペルギルスですが、外国では、強力な毒を出す病原菌としておそれられています。しかし日本のアスペルギルス、麹カビは唯一、カビ毒を出しません。これは奇蹟であると言われていたのです。
ところが、去年の暮れに放送されたNHKスペシャルの中で、驚くべき話が出てきました。米麹は延喜式(927年)にも出てくるほど、日本人とは古い付き合いです。最初はやはり毒が出たらしいが、我々の先祖が大事に育てるうちに、環境が安定し外敵を攻撃する必要がなくなり、毒を出さなくなったというのです。「麹カビを家畜化した」という表現で語られていました。
これには本当にびっくりしました。毒を持たない麹カビは、奇蹟でも何でもなく、アグレッシブかつクリエイティブかつ根気のいい我らのご先祖が、勝ち取ったものだったのです!
それでは、麹カビの仕事「発酵」とはどういう現象でしょうか。
あっさりいうと有機物を分解し別の物質をつくるということです。これは科学的には「腐敗」とやってることは実は同じです。我々にとって嬉しい変化を「発酵」と呼び、有害な変化を、「腐敗」とよんでいるのです。
いよいよ発酵の何が嬉しいか、麹のどこが素晴らしいかを、具体的に見ていきます。
――その1――
発酵によって栄養成分が爆発的に増える。麹を例に取るとカビをつける前の米に比べると、麹カビがつくことで400種類もの新たな成分が蓄積されるという。
――その2――
味、匂い、旨味が格段に増す。発酵によって、新たな匂い成分、旨味成分がつくりだされるためである。
――その3――
保存性が高まる。たとえば塩麹に漬けると魚や肉も日持ちがします。
麹菌がすごい勢いで繁殖する過程で腐敗菌の繁殖をおさえるためらしい。煮豆と味噌では保存性の違いは一目瞭然。
発酵食品が体にいいということは、昔から経験的に言われていたわけですが、昭和50年頃から本格的な研究が始まり、次々とその有用性の科学的な裏付けがされるようになりました。
その1で400もの新たな成分ができると書きましたが、デンプンが糖に、たんぱく質がアミノ酸になり、何種類ものビタミン類が生まれます。アンジオテンシンとか言う特殊なたんぱく質は血圧を平常に保つ働きがあります。また非常に優秀な消化酵素を作り出し、整腸作用があるのは有名です。市販の胃腸薬も麹カビから作られているそうです。がん細胞とも闘い、ウイルスにも効果があり、脳下垂体を刺激し、ストレスホルモンを抑え、美肌効果、シミの原因メラニンを抑え、肌の再生を促進します…などなど、誇大広告かというほどの効用の数々で、ちょっと気恥ずかしくなるほどです。
麹で作られるものに甘酒があります。麹にご飯を加えたものと、麹と水だけで発酵させたものがあり、酒という字が入っていますが、アルコール分はありません。この甘酒はまたの名を「飲む点滴」といわれます。ブドウ糖、必須アミノ酸、多種のビタミン類を含み、現在病院で使われる点滴とまさに同じ成分なのです。
最近の私は、日常的に麹を食べています。
塩麹、醤油麹(2種類)、酢麹、味噌、甘酒です。料理に使うすべての調味料は麹がらみです。この冬にはべったら漬け(大根を甘酒で漬けたもの)も作ってみました。どれも本当に美味しいうえに、作り方は簡単、誰でもできます。初めて自分の作った味噌を食べた時、味噌ってこんなに美味しかったのかと驚きました。私の味噌は好評でみんな欲しがるので、ひっきりなしに味噌を作っています(これが本当の手前味噌というやつです)。私に最初に麹をくれた友人と近所の美味しいもの好きの友人と三人で、「麹ともの会」を結成しました。そして自ら会長を名乗っております。会長の仕事は麹を多くの人に勧めることと、会員のみなさんの麹や大豆の注文代行などの雑用です。私のちっぽけなブログで麹を褒めそやしたおかげで、今んとこ会員は8人に増えました(笑)。このごろの会長には「甘酒屋の婆さんになる」という夢もあります。江戸時代、江戸や大阪、京都には甘酒売りがいて、一杯四文で飲めたと言います。庶民にも手が届く総合栄養ドリンクだったのです。
(塩麹と味噌)
(べったら漬け)
わざわざ自分で作らなくても、世間には味噌も醤油も山ほど売られているじゃないかと思われるかもしれません。しかし、本物となると極めて少ないのが現状です。
発酵は時間がかかる。それは値段に跳ね返ってきます。また、麹カビは生きているので状態が変化する。こういうのは今の日本では喜ばれません。促成栽培的に短時間で作ったものや、防腐処理、加熱殺菌されたもの、麹の材料の米も品質の良くないものが使われたりしています。要するに本来の力を持った発酵食品が、市場には少ないのです。今後TPPなどが始まれば、ますます状況は悪くなると心配しています。
ここで頑張って、国産大豆の生産者がやっていけるほど消費を増やし、これ以上麹屋さんが減らないように買い支える人が必要です。誰もが、ちゃんとした味噌や醤油を食べられないなんていうのは憲法違反だと思います。そんなものは憲法で定められた健康で文化的な最低限度の生活ではないからです。外国に対して和食を自慢したいのなら、和食の基本調味料である味噌や醤油を大事にしろと。そうまで言いたい会長です。
以前読んだある本に、味噌が大好きなお爺さんが出てきました。毎日ご飯と味噌だけ食べて満足なのです。時代は1920年頃です。お爺さんは頑健で当時としては長生きで70歳以上まで生きました。先ほどの点滴の話でもわかるように、正しく作られた味噌は栄養的には不足はありません。宮沢賢治のアドバイスを受けいれて、これに少しの野菜を加えれば申し分ない美しい正しい食事と言えるのではないかと、私は思っているのですが、どうでしょうか。
「みんなで麹を食べて健康にすごしましょう。そして、ご先祖が残してくれた素晴らしい発酵食品の文化を、次の世代に手渡しましょう」(by 麹ともの会会長)
私が読んで参考にしたもの
「発酵食品学」小泉武夫編著
「糀屋本店の塩麹レシピ」浅利妙峰
「和食千年の味のミステリー」NHKスペシャル
東京新聞日曜版の麹特集
最後のお爺さんは、高群逸枝の「お遍路さん」に登場した人です。
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松井さん、この度は寄稿をいただきまして、誠にありがとうございました!!
<ご紹介>
ブログ:「松井なつ代のやま」
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