辺野古新基地建設をめぐり、建設に反対する住民と海上保安庁の攻防が連日続いている。海保の警備はあまりにも過剰な点が目立ち、けが人も出ている。あまりに強権的な姿勢は、現代の「銃剣とブルドーザー」と言っても過言ではない。
「銃剣とブルドーザー」とは、今に続く在日米軍基地問題の出発点である。米軍による土地接収は、1952年のサンフランシスコ講和条約締結を前後して、二つの時期に分けられる。
米軍は沖縄占領と同時に住民を収容所に入れ、居住や農業などに適した広大な土地を軍用地として接収し、これを無償で使用した。さらにサンフランシスコ講和条約発効後、米国民政府は、1953年に「土地収用令」を公布し、真和志村(現那覇市)銘刈・具志、宜野湾村(現宜野湾市)伊佐浜、伊江村真謝など、各地で強制的な土地接収を開始。武器を持たず必死に反対を訴える住民に対し、米軍兵士は銃剣で武装し、強制的にブルドーザーで家屋を押しつぶし、耕作地を敷きならしていったのだった。
仲井真知事の手のひら返しで動き出した辺野古新基地建設
辺野古新基地建設計画は、「普天間飛行場の県外移設」を公約に当選した沖縄県の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事が2013年12月27日、それまでの姿勢を一転して辺野古の公有水面の埋め立て申請を承認したことで動き出した。
そして2014年7月1日、集団的自衛権の行使をめぐる解釈改憲が閣議決定された日の午前、安倍政権は閣議で、辺野古沖の臨時制限区域(約561ヘクタール)を常時立ち入り禁止とすることと、同区域を日本政府が共同使用することを決定した。集団的自衛権行使容認の裏で、戦争に向けたもう一つの閣議決定がしたたかに行われていたのである。
ブイとフロートの設置開始で過熱する辺野古沖の攻防戦
辺野古沖での攻防戦は8月14日、立ち入り禁止区域の境界を示すブイ(浮標)やフロート(浮き具)の設置作業が始まってから本格化した。
抗議の市民らはこの日、漁船やカヌーでブイの設置作業場に接近を試みたが、海保の警備は厳重。多いときは1隻の船に対して、10隻もの海保のゴムボートや小型船がマークについた。また、市民らの漁船の前に強引に立ちふさがり、危険な操舵を繰り返すなどした。
海保は拡声器で「臨時制限区域なのでこれ以上近づかないでください。近づけば、しかるべき措置を取ります」などと警告を発しながら、時には立ち入り禁止区域に近づいただけの市民らを強制排除した。
抗議の漁船に同乗しながら現場で取材し、ツイキャス配信し続けるIWJ中継市民沖縄のちえぞうさんは、「海保は、『安全のため』、『この先は危ないですから』と言うのに、私たちの小さな船に対し、波の荒い外洋を通れ、と言う。危ないから島の間を通してほしいと頼んでも聞いてくれない。海の安全のために存在するはずの海保が、市民を危険にさらしている」と感想を述べる。
ちえぞうさんはスチール写真でも現場の模様を伝えている。
▲「この先工事区域になってるので近づくと危ないですよ」――。強制排除の法的根拠は何か、過剰警備ではないか、強制排除をするほうがより危険ではないか、何を聞いても海保の回答は同じ「安全確保」である。
▲スタンドアップパドル(立つサーフボード)に立って抗議の意思を示す3人の市民。
▲そんな3人の市民に対し、これだけの数の海保の船とゴムボートが出動する。「丸腰の市民たちを、何をそんなに恐れているのか」と、ちえぞうさんは疑問視する。
ボーリング調査開始。仲井真知事はまるで他人事
8月18日には、ついに防衛省が埋め立て工事海域の地盤を調べるボーリング調査に着手した。04年に、市民らの強い抵抗によって作業を中断して以降、10年ぶりとなる調査の再開だ。10年前は掘削に着手しないまま作業は頓挫となったが、11月30日までに16カ所を掘削調査する予定となっている。
辺野古新基地建設反対の圧倒的民意を受け、2014年1月に再選した稲嶺進名護市長は、ブイ設置に伴い、今回の工事強行について、「激しい憤りを禁じ得ない。政府は、先の市長選で示された新基地建設に反対する民意を無視し続け、計画を強硬に進めてきた。『海にも陸にも新たな基地は造らせない』の信念を貫き、市民、県民と力を合わせて不退転の覚悟で臨む」との談話を発表した。
一方で仲井真知事は18日、ボーリング調査が始まったことの感想を記者会見で尋ねられ、「いちいち作業工程の感想を私に聞く趣旨が分からない。防衛局は承認を求めてきた通り、仕事を進めているのではないか。まったく答えられないテーマだ」と一蹴。まるで他人事だ。18日も市民らはカヌーで沖に出たが、海保の警備は厳重で、現場に近づくことはできなかった。
現場では海保の強制排除で怪我人も
辺野古沖の攻防では、市民側から怪我人も出始めている。
8月15日、時折、雷雨が降りしきる中、市民らの抵抗と海保による強制排除は続いた。巡視船16隻、ゴムボート約20艇を投入していた海保は、立ち入り禁止区域に近づいた市民のうち、少なくとも3人の身柄を「安全確保」を理由に一時拘束した。その際、30代の男性の眼鏡が壊れ、目のあたりを切る軽傷を負った。
翌週の22日には、カヌーで抗議していた男性2人が海保職員に取り押さえられた。そのうち32歳の男性が海保職員に首をつかまれ、怪我を負った。病院で全治10日の頸椎捻挫と診断された。別の船に乗っていた男性は「海上保安官がカヌー隊に馬乗りになっているように見えた」と証言したという。
頚椎捻挫した男性は29日、ボートに乗っていた海上保安官3人を特別公務員暴行陵虐致傷容疑で、那覇地検名護支部に告訴状を提出。当時の様子を撮影した動画と写真も合わせて出した。同行した池宮城紀夫弁護士は「海保の規制はむちゃくちゃで住民の命を奪いかねない。職権乱用の悪質なやり方なので告訴した」と説明した。
ちえぞうさんは、「海保によるカヌー隊の拘束を目の当たりにした。まずカヌーを転覆させてから、乗っている人を拘束する。『気道確保してるから大丈夫だよ』と言いながら顎と首を抑えつけ、カヌー隊員は声も出せない状態になった。ツイキャス中継中ではあったが、『手を離せ!』と思わず声をあげた」と証言。海保の手荒さが目に浮かぶ。
海保「報道では怪我人が出たというが、そういう連絡はあがっていない」
こうした海保の過剰警備、強制排除に法的根拠はあるのか。しかも、立ち入り禁止区域でない場所で、これまで約20名もの市民が拘束されているのだ。社民党の福島瑞穂参議院議員は8月29日、議員会館に防衛省、海上保安庁の職員を招き、緊急行政交渉「辺野古に基地はいらない!海保の過剰警備は問題だ!」を開き、質した。
福島瑞穂議員に対し、海保の担当者は「あくまでも海域の安全と法令の励行。水域外という話だが、工事海域が真に危ない海域で、ここに乗り込もうとする方、勢いがあってこのままだと水域に入る可能性がある方は、安全に制止できるところで止まっていただく、あるいは侵入しない進路をとってもらうことにしている」と説明。やはり具体的な法的根拠については曖昧だ。
福島議員は、「これまで、のべ何人を指導してきたのか。なぜ、拘束できるのか。警職法でもない。何の根拠があるのか。身柄を拘束するということは、すごいことだ。憲法にも拘束できない旨の規定があるのに、なぜ海保にはそれができるのか」と詰め寄った。
海保担当者は、「拘束というかたちではないが、規制はしている。身体の接触は『制止活動』の一環としてやることがある」と弁明。拘束はしていない、との認識を示した。さらに、「報道では怪我人が出たといわれているが、私どもにそういう連絡はあがっていない」と述べ、海保の対応に問題はなく、市民らの負った怪我にも責任はないとの見方を示した。
沖縄の約8割が辺野古新基地建設に反対という民意
辺野古新基地建設に対する沖縄の民意は明らかだ。
琉球新報社と沖縄テレビ放送が合同で、8月23、24日、ボーリング調査が開始されたことに対する県内電話世論調査を実施した。
結果、「移設作業は中止すべきだ」という反対意見が80.2%に上り、「そのまま進めるべきだ」の19.8%を大きく上回った。安倍政権の強硬姿勢を支持する回答は18.6%にとどまり、不支持が81.5%に達したという。
仲井真弘多知事がどう対応すべきか、という質問には「埋め立て承認判断を取り消し、計画そのものをやめさせるべきだ」といった回答が53.8%で、半数以上を占めた。「作業に協力すべきでなく、少なくとも中断を求めるべきだ」という意見を足した合計は74%に上った。
「なぜ作業が遅れている。さっさとやれ!」と怒鳴る安倍総理
地元の民意は、辺野古新基地建設に反対であることがはっきりと示された。にも関わらず、国の姿勢は一向に変わらない。
菅義偉官房長官は26日の会見で、世論調査の結果について、「政府の方針として工事を粛々と進める」「影響は全くない」と、沖縄県民の意思には左右されないとの姿勢を明らかにした。
「政府は法治国家であり、仲井真知事の承認をいただいた。沖縄のみなさんの、普天間の危険除去への強い訴えや抑止力などの中で18年前に決着した」と正当性を主張した。
世論調査の結果について仲井真知事は25日の会見で、「防衛省は法令にのっとった許可が取れている。それに沿って仕事の段取りを進めることはある意味で当然だ」と開き直った。
もっとも強硬な姿勢をみせているのが安倍総理だ。
琉球新報の報じたところによると、安倍総理は7月上旬、「官邸の執務室に防衛省幹部を呼び、移設作業の進捗について報告を受けた際、『なぜ作業が遅れている。さっさとやれ』などとブイ設置や海底調査開始の遅れについて声を荒らげて叱責。机をたたくなどしてまくし立てた」。
これまで安倍総理は、辺野古新基地建設について、「地元に丁寧に説明して、移設への理解を求めて行きたい」などと繰り返し語っていたが、民意など気にもかけていないことがわかる。
なぜここまで工事を強行に急ぐのか。3選を目指す仲井真知事と、仲井真知事を推す安倍政権は、11月の県知事選でかなり厳しい戦いを強いられるだろう。であれば、早めにボーリング調査を終わらせ、「辺野古新基地建設計画は動かせない」という既成事実化を図りたいのではないかとも受け取れる。
キャンプ・シュワブ前に3600人が集結 「本気で怒っています」
連日、市民による必死の抗議が続く中、8月23日には、埋め立て予定地に面する米軍キャンプ・シュワブのゲート前で、大規模な抗議集会が開かれた。
参加者は、主催者発表で3600人。名護市内の他、沖縄市と那覇市から50人乗りのバス35台が手配され、県内各地から辺野古での新基地建設に反対する市民が集まった。
集会でマイクを握った稲嶺進・名護市長は、「今こそ県民の心を見せる大事なとき。絶対に今年は(仲井真)知事に『いい正月』を迎えさせないよう、力を合わせよう」と呼びかけた。他にも、「かりゆしグループ」CEOの平良朝敬共同代表や、日本共産党の赤嶺政賢議員が挨拶し、新基地建設への反対を訴えた。
▲新基地建設への反対を訴える稲嶺進・名護市長
この日、那覇市内から集会に参加した田原琴子さんは、当日の様子を次のように振り返る。
「とにかく、すごい熱気でした。告知まで1週間しかなく、当初の予想は1000人程度だったそうです。それが、最終的には3600人集まりました。県内各地から手配されたバスにも、人が全然乗れなかったそうで…。
私は、用意されたバスに乗れず、いったん家に帰って、車で向かいました。11時半出発のバスが、9時の時点で売り切れになってしまいました。当初の予想をはるかに超えて、辺野古に人が集まった、ということだと思います」
参加者は、団体などに所属する「運動のベテラン」だけでなく、若者や、子供連れの母親の姿が目立ったという。
「普段行かないような人たちが集まった、という感じがしました。普段はTwitterやFacebookで眺めていて、『でも、やっぱりちょっと行かないとな』と思った人たちが集まったのだと思います。初めて辺野古に足を運んだという方が多かったのではないでしょうか」
11月の県知事選について、田原さんは、「なんで仲井真さんが勝ち続けているのか、分かりません。私のまわりでは、声高に仲井真さんを応援している人はいないのに…。ちょっと、意味が分からないんですよね」と、ため息混じりに語る。
「県知事選、どうなるんでしょうね。でも、仲井真さんが勝ったら、沖縄は『おしまい』だと思います」
この日集まった3600人の市民の声は、辺野古での新基地建設を強引なまでのやり方で推し進める安倍総理の耳に届くのか。田原さんは、「沖縄県民は、本気で怒っています」と語る。
「今日の集会に参加して分かったのは、沖縄県民は、本気で怒っている、ということ。大手メディアの報道では、『反対派住民』というふうに一括りにされてしまいますが、『反対している』というよりも、『怒っている』のだということを、分かってほしいと思います」
国は改めて民意を問うまで待つべきだ
「海を壊すな」という圧倒的な地元の民意に目を向けず、米軍基地建設の着手を急ぐ日本政府のやり方は、米軍統治下の強制的な土地の収奪と何が違うのか。住民にとっては、相手が米国から日本に変わっただけで「銃剣とブルドーザー」そのものではないか。
先述した通り、仲井真県知事は「普天間飛行場の県外移設」を公約に掲げ、過去に2度当選してきた。それが当選後に手のひらを返したのである。明らかな公約違反であり、信義則違反である。有権者の負託を受けた政治家が有権者を裏切ったのだ。許されることではない。これが許されるのであれば、「何でもあり」になってしまい、民主主義は死んでしまう。
民主的プロセスを尊重するのであれば、少なくとも11月の県知事選で沖縄の民意が今一度明らかになるまでは、辺野古新基地建設に向けた工事をすべて中断すべきではないか。
アメリカいいなりの時代ではないということを沖縄のひとたちは示してきた。その波は日本全土に拡散していく。沖縄は革新の震源地になっている。
はじめてコメントします。
法廷で闘う方法を考えてみましたので、本気でご検討して下さる方々がおられないかと期待しております。
防衛省告示の制限区域は違法であると思われます。ただ、裁判となれば、長く苦しい戦いになりますので、それを覚悟で実行できる人たちが必要になるのです。しかも沖縄でなければなりません。
福島みずほ議員その他の国会議員の方々が何を問いただしても、強制的に回答させることができない限り、勝つことはできません。防衛省や海保と対等に戦える場は、法廷をおいて他にありません。どうか、現地の活動している人たちに、情報を伝達してもらえたらと思います。
無理なお願いとは承知しておりますが、どうかよろしくお願いいたします。
また、IWJの益々のご活躍をお祈りしております。