【安保法制反対 特別寄稿 Vol.351~Vol.357】「ジョン レノンに寄せて」「中国文学を研究(翻訳紹介)するものとして」「壊憲クーデターを許すな―開戦直前のファシズムに抗して」

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【安保法制反対 特別寄稿 Vol.351~Vol.355】

Vol.351 憲法違反の安保関連法案(=戦争法案)に反対する、全国の高校生・中学生、選挙権を持つ成人の方へのメッセージ 森本芳男さん

 私は関西在住の、年金生活者です。基礎年金は1ヶ月6万5千円しか貰えません。この金額では、憲法で保障されている健康で文化的な最低限度の生活さえも無理です。それでも政府は1機20億円のオスプレイを、10倍の価格1機200億円で17機も購入するのです。合計で3600億円です。

 あの、強力洗剤よりもよく落ちると言われる欠陥飛行機を10倍の値段で購入する、すべて私達の税金です。この愚かさを必ず止めなければなりません。

 戦争法案に反対する全国の高校生・中学生の皆さん、選挙権を持つ成人の方にお伝えしたい私からのメッセージです。

 平和憲法と国民の幸せを踏みにじり、安全保障関連法案(=戦争法案)が不当な方法で成立させられた翌日、京都で多くの高校生・中学生の人たちが抗議のデモ行進をしました。

 三条大橋を途切れる事無くデモ行進が続く様子を見て、私は涙が止まりませんでした。デモ行進をする高校生・中学生の人たちは、この戦争法案が存在する限り、いつかは戦場に送られるかもしれない不安を、毎日持ち続けて暮らしてゆかなければなりません。

 でも、彼らには今は選挙権がありませんから、抗議の声を上げ、デモ行進をする事しか出来ないのです。不安と、悲しさと、選挙で不正を正す事に参加出来ない悔しい気持ちを思いやると、この原稿を書いている今も涙が溢れてきます。その彼らの気持ちを、選挙権のある成人のみんなでしっかりと受け止めてあげましょう!

 高校生・中学生の皆さんが、三条大橋をデモ行進しているとき、安倍総理は山梨県の別荘で静養し、ゴルフをし、高級料亭で日本料理を食べていました。別荘もゴルフ代金も、高級日本料理も、すべて私達から搾り取った税金です。安倍総理には、デモ行進をする高校生・中学生の気持ちは関係ありません。何故なら選挙権がないから、自分には何の影響もないからです。

 そしてもう一つ、国会議員は戦場に行かなくて良い身分なのです。

 繰り返します、国会議員は徴兵されないのです。

 そのような総理大臣や、戦争法案に賛成した国会議員達を、そのままにしておくわけにはゆきません。

 私には、どうしても今の国会議員を許しておけない別の場面も眼にしました。戦争法案が不当に成立させられる時の国会前は、抗議の人たちで溢れていました。強い雨が降り続き皆はずぶ濡れ。そんな中、新潟県から一人で国会前の抗議集会に来ていた高校生位の若者が、帰るのに東京駅への行き方も分からず、途方に暮れていました。

 彼も、いてもたってもいられず、雨が降りしきる中、新潟県から国会前の抗議集会に来ていたのです。

 その時、国会の中で審議されている様子がテレビで中継されていました。見ていると大きな口を開けて寝ている議員、他にも居眠りの議員があちこちに、そして何よりも絶対に許せないと怒りが爆発したのは、反対意見を述べている野党議員をあざけり笑い、野次を飛ばしている議員達の笑い顔を見た時でした。

 いいですか、皆さん。自衛隊員の人が命を失うかもしれない、やがて一般市民が戦場へ送り出されるかもしれない、人の命に関わる法律の是非について決める時、ニヤニヤ笑っている国会議員、居眠りしている議員が何人も居たのです。

 繰り返します。彼らは自分達が国会議員であるかぎり、戦場へ行かなくて良い事が分かっているからです。

 全国の高校生・中学生の皆さん、あなた方は、今は選挙権が無いから抗議の声をあげ、デモ行進をするしか方法が無く、希望をなくしたり、将来を悲観し続けたり、自暴自棄になったりしないで下さい。

 あなた達に出来る最も効果のある闘い方に気付いて下さい。暴力的な闘いではありません。その方法がある事に気づいてください。

 現在の政治家は、選挙権のある私たち成人が、その選挙権により、必ず引き摺り下ろします。高校生・中学生の皆さんは、その後の日本の正しい政治を築いてゆく、日本国民の幸せを願う政治家になるための勉強をし、そのような政治家になって下さい。

 憲法・法律を守り続ける憲法学者、法律学者、裁判官、国民一人ひとりを守る警察官になるための勉強をして下さい。

 原発を全部撤去し、クリーンでフリーなエネルギーを開発する、研究者・技術者になる勉強をして下さい。放射性物質を消し去る装置を作って下さい。

 沖縄に基地を置かなくてよい、世界から戦争をなくし、平和な世界にし、そのような国際舞台で活躍できる人材になって下さい。

 正しい情報を、正しく国民に伝える報道関係者になってください。

 それが、今あなたたち、高校生・中学生にできる最善の闘い方だと、私は考えます。

 そして、もう一つ選挙で日本の政治を正しい方向に戻すために、全国の高校生・中学生の皆さんの力が必要になります。皆さんのお祖父ちゃん・お婆ちゃんには選挙権があります。ご無沙汰していたら、久し振りにお饅頭でも買って遊びに行ってあげて下さい。とても喜ばれると思います。

 そこで、戦争法案のことを説明してあげて、この憲法違反の法律が存在する限り、いつかは戦場に送り出されるかもしれなくて(女生徒の方は、クラスメートの男の子たちが…)とても不安で、心配な気持ちを伝えて下さい。

 可愛い孫の命に関わる一大事となれば、投票所へ行ってくださるのではないでしょうか。

 街宣で声をあげ、署名を集め、デモ行進する以外にも、考え、工夫してゆけば、今は選挙権が無くても、この憲法違反の安保関連法案(=戦争法案)を廃案に追い込み、私達国民を見下し、好き勝手放題にしている政治家たちを追放出来る道に繋がります。

 皆の力を結集し、智恵とパワーで安倍総理から私達の日本を取り戻しましょう!

(森本芳男 奈良県橿原市)

Vol.352 ジョン レノンに寄せて 青山さんしゅさん

 私は、今ある日本国憲法が人類の到達した究極の憲法であり、守って世界中に広めてゆくべき宝物であると思っています。

 確かに理想的でロマンチックで未完成で人類が持ち続けるのは夢なのかもしれない。アメリカとの安保条約に守られなければ存在できないという人もいますが、私はそうは思いません。

 たとえ不完全でも世に完璧なものなど無く、常に更新してゆけばよい。この憲法を持つ者たちが義務として冷静に用意周到に注意深く、今の1000倍の知恵を使い外交に努力してゆけば守り通してゆけるにちがいない。

 今の危機は先の選挙であそこまで自民党を勝たせて、これほどの全体主義的な政権を許してしまった国民に最大の責任があります。

 一国平和主義が国際社会でいつまでも許されるとは思いません。世界の平和に対して義務と責任があります。一国でも多くこの憲法の精神が世界の国々に定着してゆけば、恐怖に怯え、無駄に死んでゆく子供たち、鳥、獣、草、木が救われるでしょう。それこそ日本が進むべき道ではなかったのではないのでしょうか。

 もうひとつ、日本人が覚悟をきめてどうしても乗り越えなければならないものがあります。

 日本人が70年先送りしてきた先の大戦の我々自らの手による検証と断罪、及びアジア諸国との真の和解と補償です。もし、今回自民党の提案する戦争法案が可決され現実に集団的自衛権とやらを行使したならば、多くの犠牲者たち、多くの同胞の死、70年間の先人たちの平和への努力が水泡に帰してしまう。

 戻るべき日本の平和への希求は機会を失いまたもや先送りされることになる。この先の大戦のけじめをつけることこそ、これからの子供たち、孫たちに送ってはいけないものなのではないでしょうか?

 以上により、私はこの戦争法案に絶対反対です。

(青山さんしゅ 建築設計室主宰)

Vol.353 中国文学を研究(翻訳紹介)するものとして 慶應義塾大学(中国現代文学)櫻庭ゆみ子さん

 中国のある学者(銭鍾書1910‐1998)が、文革終結後に、作家である妻の楊絳(1910- )のエッセイ(『幹校六記』:知識人たちの労働改造体験を日常の些事の記述という側面から描いたもの)に序文を寄せ、「表に立って抗議の声をあげる勇気がなかった臆病者として(私も含めて)恥じるべき」という趣旨のことを述べています。

 当時学生であった私は、これを読んだとき、「もし」同じようなこと(言論弾圧、迫害)がわが身に降りかかったらどう対応するだろうか、と自問自答したものです。(この二人のように、限界状況にあってもできる限り誠実に対処し得るだろうか、おそらくおびえて付和雷同するか、沈黙して自滅するのがおちではないか等々)

 それが、311以降、「個」を押し潰す全体主義の脅威が、対岸の火ではなくなってしまった、安全地帯だったはずの場が目の前で崩れようとしているのです。実は危うい状況はずっと前から始まっていたわけなのですが、愚かにも私がそれに目を向けてこなかったのです。

 私は、文学という領域において、個別の人間(作家)に注目し、その書く営みを歴史的な背景と関連付けながら見ていますが、時に細部に拘泥するために、危うい何かを感じても、とっさに簡潔に理論整然と語りかけることが不得手です。逡巡しつつ、考えつつ、恐る恐る(体調不良もありますが)歩を進めています。(「学者」にもいろいろおります。)

 けれども、それゆえ国境の境界の感覚がうすれ、それこそ否が応でも地球規模(グローバル)で物事をとらえざるを得ない今日、(私にとって)お隣の国のある個の体験は、人類の共通の出来事として共有すべき性質を帯びるものであり、そこから歴史の教訓を汲むべきものだと思えます。

 幸運にも、大学という場で、歴史の教訓をいくばくでも学ぶ機会を与えられた者として、今抗議の声を上げなければ、臆病者として卑屈な自己弁護の人生を選択することになる、それはできない、これが抗議の声をあげる理由です。

櫻庭ゆみ子 慶應義塾大学(中国現代文学)

Vol.354 “壊憲クーデター”を許すな―“開戦直前”のファシズムに抗して 鹿児島大学教員(平和学)木村朗さん

 いまの日本は「新しい戦前」「開戦前夜」といっても過言ではない戦後最大の危機に直面しています。安倍政権の暴走は、2013年12月の特定秘密保護法の制定と日本版NSA(国家安全保障会議)の設置、2014年7月の集団的自衛権行使を容認する閣議決定に続き、今年5月の安倍首相訪米での日米ガイドライン再改定合意と5月14日の「戦争法案」である安保法案の閣議決定、7月15日・16日、衆議院特別委員会、衆議院本会議での立て続けの強行採決などなど、止まることを知らない勢いです。そして、「60日ルール」を前提に会期を9月27日まで大幅に延長して何としてでも今国会で安保法案を成立させる構えです。

 この安保法案は、これまで大多数の憲法学者や歴代の内閣法制局長官、元最高裁判事が指摘しているように内容的にも手続き的にも違憲(立法)であることは明らかです。衆議院の憲法審査会で安保法案の違憲性を明言した小林節慶大名誉教授が「憲法を無視した政治を行おうとする以上、独裁の始まりだ」と安倍政権を糾弾しているように、いま私たちの目の前で生じている動きはまさに憲法や国会の存在、主権者国民の意思をまったく無視した事実上の壊憲クーデター、選挙を通じた数の暴力による「委任独裁」「立憲独裁」です。2013年7月に麻生太郎副総理が「(改憲をうまくやるためには)ナチスの手口に学ばねば」と言ったことの意味があらためて想起されます。いまの日本は「従米ファシズム」への道、すなわちアメリカへの従属を深めつつ、本格的なファシズム国家になりつつあるといって過言ではないと思います。

 安保法案の成立を目指す政治勢力は、日本が米国の属国・奴隷国家であることを露呈させました。砂川判決を集団的自衛権合憲の根拠としていることがそのことを物語っています。また、戦争法案の成立を前提に新ガイドライン(日米軍事協力の指針)を実施するための詳細な計画を自衛隊統合幕僚監部が進めていることが明らかになっています。日本はもはや民主主義(法治主義)国家でも、独立した主権国家でもありません。そのことを証明しているのが、9月27日までに何が何でも安保法案を成立させようとする国会での数の力を背景としたあまりにも強引な議事運営であり、沖縄での民意をまったく無視した普天間基地問題をめぐる辺野古新基地建設の強行です。

 安倍政権はいったい日本をどこに向かわせようとしているのでしょうか。安倍首相が目指しているのは、「新しい富国強兵策」(浜矩子氏の言葉)による列強への仲間入り、すなわち「戦争に強い国家」に他なりません。安倍首相らが口にする「この道しかない」は戦前日本が経験した「いつか来た道」であり、再び日本を破滅の淵に追いやる悲惨な結果を生むことは、火を見るより明らかです。

 しかし、私たちはこうした企みをみすみすと許すことは絶対にできません。沖縄では、「沖縄を再び戦場にするな! これ以上の沖縄差別は許さない!」をスローガンに辺野古新基地建設阻止闘争に多くの人々が立ち上がっています。

 私たちは決して少数派ではありません。実際に、消費税増税や原発再稼働、TPP参加にも、そしてもちろん「戦争法案」や改憲の動きに対しても過半数以上の圧倒的多くの人々が反対しています。また、心ある多くの自衛隊員やその家族の方々も、自衛隊を米軍の補完部隊・傭兵として差し出す「戦争法案」に反対していることも忘れてはなりません。

 いま現在、「もうこれ以上は黙っておけない!」と若者や子どもを持つ母親など多くの人々が立ち上がっています。特に、日本の自由民主主義の伝統を守るために、従来の政治的枠組みを越えたリベラル勢力の結集を求めて立ち上がったSEALDs(「自由と民主主義のための学生緊急行動」)の活動は多くの市民に大きな勇気を与えています。政権支持率の急速な低下にも示されているように、自民党と連立を組んで「戦争法案」を推進する公明党に対して、支持母体である創価学会からも平和を求める心ある会員たちが抗議の声を上げ反旗を翻すという新しい動きも出て来ています。

 いまからでも決して遅くはありません。実際に追い詰められているのは私たちではなく、抗議の声を上げはじめた怒れる民衆の力におびえる安倍政権です。いまこそ私たち一人一人が立憲主義と三権分立を否定して暴走する安倍政権に心の底から怒りの声をぶつけるときです。私たちは沖縄の人々と連帯して、あくまでも反対の意思表示をして「戦争法案」を廃案にし、日本を平和国家から戦争国家へと根本的に作り変えようとしている安倍ファショ政権の退陣を実現させなければなりません。

 皆さん、戦争法案の廃案・撤回を実現するまで最後まで諦めずに声を上げていきましょう! ストップ戦争法! ありがとうございました。

(「ストップ戦争法!大集会のスピーチ(2015年8月23日、中央公園)」でのスピーチより)

木村朗 鹿児島大学教員(平和学)

【IWJ特別寄稿】昭和天皇自ら天皇主権を否定し、大日本帝国憲法から日本国憲法へ橋渡しをした(近畿大学通信部短期大学・松永章生氏/憲法、社会保障法、生活保護法) 2015.10.22

── 論文を書くにあたって ──

 この1年、憲法を無視する大変な事態がでてきました。明らかに憲法違反と分かっているのに、公然と安保法案を通しました。私はどうしてそのようなことができるのか、深く考えました。そしてふと気づきました。

 私は学生に憲法を教えています。残念なことに、日本国憲法の成立過程や性格については省いていました。心の中に「押しつけ憲法ではないか」とか「占領法規ではないか」とか、なんとなくやましい気持ちを持っていたからです。内容がよいからよいではないかとか、人権思想は世界史の流れであるからなどと考えても、なんとなくすっきりしません。そこで深く反省し、学問的にどうかと本気になって追究してみようと考えました。

 まずポツダム宣言、その他の文書を英文で読んでみました。日本国憲法も同じです。そうすると、意外なことに気づきました。英文では、「主権」と「権限」を厳密に区別していたということです。そしてより重要なことは、これまでの憲法論に主権者天皇の存在がすっぽり抜けていたということです。これでは日本国憲法の成立過程や性格を語ることができません。

 そのような事情で本論文は、できるだけ英文を入れ、また主権者天皇に視点をあてて論じることにしました。

論文の要旨

① ポツダム宣言を受諾しても、天皇主権は維持されていた。しかし権限はマッカーサーに従属した。主権を英語ではsovereignty といい、権限をauthorityという。この2つはポツダム宣言、マッカーサー元帥への通達、日本国憲法では厳密に区別されている。

② ポツダム宣言の目的は日本の武装解除であり、主権変更を目的としていない。主権変更は日本国民が決めることだからだ。マッカーサーは日本政府を通じて支配した。天皇を尊重し、日本政府に指示するという方法をとった。つまり間接統治である。主権者である天皇は自由に行動できた。

③ 天皇は戦前からイギリス型の立憲君主制を理想としていたが、ポツダム宣言受諾後、大日本帝国憲法のもとでは不備があると痛感した。すでにマッカーサーとの第1回会見前の1945年9月25日の記者会見で、天皇は「……立憲的手続きを通じて表明された国民の総意に従い、必要な改革がなされることを衷心より希望する」と述べている。その2日後がマッカーサーとの会見である。

④ 天皇は、1946年1月1日の「新日本建設に関する詔書」で天皇主権を否定した。天皇は、独立後の記者会見でこの詔書が自分の意思であることを表明している。マッカーサーの押しつけではない。主権が否定された大日本帝国憲法は形式だけになった。マッカーサー3原則が出たのは1946年2月3日である。その前の1月1日、天皇はすでに天皇主権を否定しているから、天皇主権をとる政府案(松本案)ではなく、国民主権をとるマッカーサー3原則が天皇の意思を表現している。

⑤ 国民は天皇を支持していた。大日本帝国憲法も、内容はわからないが天皇が与えるものだからよいものだと考え、喜んで支持した。終戦も天皇が戦争を止めるというから従った。日本国憲法も天皇が裁可したから喜んで支持した。

⑥ 憲法の分類には、君主が与える欽定憲法、市民革命などにより国民が制定する民定憲法、君主と国民が共同で制定する君民協約憲法がある。大日本帝国憲法は欽定憲法、日本国憲法は君民協約憲法である。従来の学説は君主と国民を対立的に考えていた。ここに誤りがある。日本の場合、天皇と国民は対立していない。

⑦ 天皇は戦前から「君臨すれども統治せず」というイギリス型の立憲君主制をモデルとしていた。政府の決定を尊重し、2・26事件と太平洋戦争終結以外は自分の意思で決めていないと1981年4月17日の記者会見で述べている。そうであるなら開戦の決断は天皇の意思ではない。しかし、天皇主権のもとでの立憲君主制は制度上不備がある。意思決定せず、責任だけ負う。つまり「君臨すれども統治せず。されど責任を負う」ということになる。そうであるなら国民主権のもとでの天皇制しかあり得ない。天皇は敗戦により制度の変更を痛切に感じたのである。

⑧ ところが政府は、天皇主権を維持することしか念頭にない。国民主権のもとでの天皇制即ち象徴天皇制があると考えることができなった。また戦前の天皇制を維持することの危険性に気づいていなかった。危険性とは何か。天皇の戦争責任である。

⑨ それに気づいていたのがマッカーサーである。天皇を敬愛していたマッカーサーは、何とか天皇を護らなければならないと考えた。そのためには1946年2月26日極東委員会の成立前に憲法改正に着手し、その後速やかに国民主権に変更して天皇に戦争責任がないことを示さなければならなかった。つまり天皇は戦前も戦後も意思決定者ではなかったことを示す必要があった。天皇の意思を理解していたのはマッカーサーのほうであった。

⑩ 1946年1月1日、天皇自ら「新日本建設に関する詔書」で天皇主権を否定した。この時、大日本帝国憲法の根幹は崩壊し、形式だけになった。4月10日女性の参政権を認めた総選挙が行われた。4月17日憲法改正草案が公表された。この草案は国民主権に基くもので、天皇の意思を表現したものであった。形式化した大日本帝国憲法の手続きに従い、10月7日可決成立した。天皇はこれを裁可し、11月3日公布した。よって日本国憲法は天皇主導の君民協約憲法である。

資料の評価

 法的に評価できるものと補足的に評価できるものがある。①法的に評価できるものは、憲法、詔勅、法律、条約、宣言、通達、指示、覚書などの公式文書(または行政行為)である。②準法的に評価できるものは、天皇の記者会見などの公的発言である。公的存在である天皇の場合、一般人と異なり、記者会見は本人の意思を表明したもので法的効果を持つ。③補足的に評価できるものは、マッカーサーとの会談、回想録、同席した者の発言・日誌、当時の政治家の発言・日誌などである。背後を知るのに重要だが、私的なものもあり補足的に評価した。法的にみると重要度は①②③の順である。

 2014年、『昭和天皇実録』が公開された。この中に夥しい量の資料があるが、回想録、日誌、私的発言などは③になる。貴重な資料ではあるが、法的効果から見ると、①②に劣る。たとえると、①②は水面上の氷山であるが、③は水面下の氷山である。法的に効果を有するものは、下部にある個人の見解や心の動きではなく、上部にある明示された文書あるいは公的発言である。目に見えない部分には利害、思惑、感情が錯綜しているが、目に見える部分はそれが抜けたり、往々にして美辞麗句で語られたりする。それでも目に見える文書や発言が法的効果を持つ。また『昭和天皇実録』は、編集者の態度や論者のとらえ方で評価も変わる。その意味でこの論文では、筆者の見解を補足するものとして、補充的に取り上げた。なお、論文中の傍線は筆者による。

論文

松永章生さんの寄稿の続きはこちら>>
【IWJ特別寄稿】として寄稿全文をUPしました。

【IWJ特別寄稿】昭和天皇自ら天皇主権を否定し、大日本帝国憲法から日本国憲法へ橋渡しをした(近畿大学通信部短期大学・松永章生氏/憲法、社会保障法、生活保護法) 2015.10.22

Vol.356 安保法制は「外国にルーツのある人たちを『敵』と想定する」 〜国際移動の時代にまったくそぐわない法律に「反対」――上智大教授・稲葉奈々子さん(国際関係論)

 今回の法律(安保法制)が、日本が戦争に参加する敷居をこれまでよりも低くすることは確かで、国家の論理からすれば「安全保障上」という論理は絶対なのでしょうが、グローバリゼーションと国際移動を専門とする研究者の立場からは、この法律が時代にまったくそぐわないものであり、反対します。

 国境を越えた人の移動を国家が規制することができないのは歴史が明らかにしていることであり、外国人や外国にルーツのある人が日本において今よりも増えることがあっても減ることはありえません。そうした社会において、今回の法律は、外国にルーツのある人たちを「敵」と想定してしまうもので、外国にルーツのある人たちば、すでに家族、恋人、友だち、同僚、地域社会の隣人として身近にいる現実と相容れるものではありません。

(稲葉奈々子 上智大学教授)

Vol.357「僕は、あなたの醜さを許せないし許さない」――「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同者 与那覇大智(画家・沖縄県立芸術大学非常勤講師)

 安倍晋三さん。あなたのことを今だに「総理」と呼ばなければならないことに強い憤りを覚えます。

 あなたはオーウェルの「1984」のニュースピークさながらに、無責任に「責任」を説き、戦争を「平和」と言い、違憲を「合憲」と言い、福島第一原発の汚染水が制御できていない状況を「アンダーコントロール」と言っている。

 美しいものに心動かす人間は、醜いものにもまた敏感です。その自覚を持つ人間の一人として、あなたに言いたい。

 安倍さん、あなたの言葉は醜い。ウソにまみれている。

 あなたの口は、酔っ払いがゲロを吐くようにウソを吐き続けている。誠意がなく、論理もなく、責任もない言葉をこれほど並べられる人間を、僕は見たことがない。

 いいですか、あなたは「語っている」のではなく「吐いている」のです。あなたの口から吐き出される醜いウソが、僕には実体としてはっきりと見えてしまう。僕はそのウソを、見て見ぬふりはできません。

 僕は、あなたの醜さを許せないし許さない。

 ゲロを吐くなと言っても、あなたには通じないでしょう。

 だから安倍さん、あなたには総理の座から去ってもらうしかないのです。

​​(与那覇大智 画家・沖縄県立芸術大学非常勤講師)

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ