2015/09/12 【全国デモ・抗議行動レポート51】「国会前を学習の場に!」 青空ミニ講義&09/11国会正門前 参加体験レポート

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 2015年9月11日(金)・14日(月)・15日(火)、15時~国会正門前集会(主催:総がかり行動)内で、急きょ「憲法研究者による国会前連続・青空ミニ講義」なるものが行なわれることになった。呼びかけ人は、安保法制に反対する憲法研究者有志。

 数日前、ある憲法研究者の方から、「理論に強い憲法研究者とビジュアル的要素に強い美術関係者との協力関係を試みたい」との提案があり、私たち「安保法案に反対する武蔵野美術大学有志(以下武蔵美有志)」も様々なアート・プラカードを持って応援にかけつけることになった。

 「武蔵美有志」はインターネットで知り合った武蔵美関係者個人の緩やかな集まりだ。現在は教職員と卒業生のみで、残念ながら現役学生は参加していない。代表もおかず、役職も決めず、束縛もせず、「それぞれの個性を尊重して各自自由に」がモットーである。安保法案反対の一点では一致しているが、ひとかわむけば、それぞれみな良い意味で我の強いクリエイター。群れて行動したり、組織で団結! が、一番苦手なタイプだ。だから皆が毎回新作してくるアート・プラカードは、画風も画材も使用素材も全員バラバラ。幟やアイコンのデザイン一つとっても全員美意識の方向性が違うので、なかなかまとまらない時もある。現在は他美大・芸大関係者とも連絡をとりあい、「全美術・デザイン系学校の人が声をあげよう!」と、それぞれの方法で呼びかけている。

 青空ミニ講義の第1日目、11日(金)は、真夏のような暑い日だった。いつも私が金曜日の国会周辺行動に参加するのは、主に18時過ぎ。昼間の国会正門前座りこみ行動の現場に行くのは初めてに近い。

 永田町から歩いていくと、すでに大勢の人が国会正門前北庭周辺で、幟を立てて座り込んでいた。終日座りこみをしているのは高齢者が多く、みな木蔭の下に寄り添うように座っている。いつものように、国会周辺の歩道・車道間には鉄柵が設置されていた。

 日よけが一切無い国会正門前北庭では、容赦なく直射日光が照りつけている。立っているだけでも次から次に汗が流れ落ちてくる。総がかり行動実行委員会の高田健氏の姿が見える。私は3.11以降、さまざまな抗議・デモに参加してきて、総がかり行動が果たしてきた役割についてもリアルタイムで見てきたので、思わず高田氏に握手を求めた。高田氏はいつもの厳しいスピーチ中の表情とは違い、優しいにっこりとした表情で握手に応じてくれた。高田氏の手は予想と違い、とてもやわらかかった。

 昼過ぎの国会前は、海外の見学者を乗せたバス、国会見学を終えた小学生、取材する外国のジャーナリストなど、いろいろな人が次々通り過ぎる。NHKとしんぶん赤旗の記者もいた。国会前で何かあったときに備え、常時待機している様子だった。約30分ごとに、各駅方面から幟を持った高齢者が合流してくる。
 国会見学を終えた小学生の集団が、正門を出て北庭抗議エリア前を通りかかった時、座りこみをしていた年配の女性が、子どもたちのそばに行った。持っていた戦争反対のプラカードを見せながら語りかけた。「安倍首相のいうことを信じちゃダメよ! あれは悪い政治の見本なんだから!」
 子供たちはきょとんとした顔をしながら通り過ぎていった。引率の教師らしき人は、表情をくずさず、視線を合わせないまま、無言で通り過ぎていった。

聖学院大学:石川裕一郎教授

 平日の昼間ということもあり、この日、憲法研究者応援のために参加した武蔵美有志は、私と、同じく非常勤講師の新谷尚之氏の2名だけだった。15時、菱山南帆子さんによる澄み切った声のコールで集会が始まった。

 コール→民主党議員のスピーチのあと、日本体育大学:清水雅彦教授(憲法学)の紹介で、聖学院大学:石川裕一郎教授の青空講義が始まった。時間にして15分ほど。とてもわかりやすい語り口で、安保法案と憲法の関係・法案の問題点を解説。周囲にいた人は静かに聞き入った。詳しい内容については、正確な記録がとれなかったので、残念ながらここでは省略するが、どんな時も、動画(もしくは音声)による記録が必要だと痛感した。しっかり記録を残しておかなければ、こういう小さい市民運動などは、長い歴史から無かったことにされてしまう。

 講義も無事終わり、再び菱山氏のコールで集会はいったん終了した。

 私と、風邪薬服用中の新谷氏は、めったに参加しない午後3時・灼熱の北庭エリアにばててしまった。この日、引き続き行なわれる総がかり行動:正門前大集会、さらに続くSEALDsによる抗議まで、北庭公園内の休憩所で休むことにした。北庭抗議エリアすぐ横の公園入口は封鎖されていたので、憲政会館側の入口から公園内に入った。40~70歳代の人たちが15人ほどベンチに腰掛けて休んでいた。自動販売機は通常より安い価格になっており、基本、80円ほどで飲料水類を購入することができる。真夏のような陽気なので、次々に飲料水を買いに抗議参加者がやってくる。

 夏の夜の金曜日国会周辺・各抗議エリアは、いつも蚊取り線香の臭いがいつもたちこめていた。この日、休憩所内でも蚊取り線香の臭いが絶えず漂っていた。見ると、トイレの中に大きな蚊取り線香を乗せた皿が2つ置いてある。交互に線香をたくためであろう。誰が火をつけにくるのだろうか。

 しばらくして、休憩所に20歳代の若い警察官が、一人で飲料水を買いにやってきた。国会前行動に参加している75歳ぐらいの女性たち4人ほどがその警察官を囲んだ。女性たちは心配そうにこう言った。

「あなた、命を大切にね。戦争なんかに行っちゃだめよ」

 若い警官は、最初戸惑っていたが、やがて嬉しそうな表情でうなずくと、静かに立ち去っていった。

 大勢の人で埋め尽くされる夜の国会前抗議と一味違い、ゆったりと時間が流れる昼下がりの抗議は、どこかアットホームで、独自のコミュニケーションの場となっている。私たちは「国会正門前を全部公園にして、屋台とかカフェを出せばいいのにねえ」などと話していた。

 私と新谷氏は武蔵野美術大学でアニメーションを教えている。アニメーションの原義は「アニマリズム」やラテン語の「アニマ」等であり、その語源は、インド・ヨーロッパ語族の「ane」であるといわれている。いずれも「息づく・息をする・呼吸をする・活気付ける・元気付ける・魂」などの意味を持っている。だからアニメーションとは、決して「死・死ぬこと」ではなく、「生・生きること」を意味している。

 原発再稼動反対抗議スタート以降の、国会前アート&ミュージックシーンのクオリティは衰えることをしらない。ある大学は幟に提灯をつけている。あるグループは国会前希望のエリア付近で、スチレン・ボードや段ボールをカッターで切って立体プラカードを自作している。非常に緻密な絵を体にまとって歩いている人もいる。音楽の生演奏、肉声のコール…。言葉も音もビジュアルもフライヤーデザインも、どんどん洗練されていく。いつか美術館に一堂に集め、大展示を行なうべきだろう。

 私たちは、午前の授業や仕事などもあり、18時で国会前を離脱することにした。すると駅の方から次々大勢の人たちが歩いてくる。若者やベビーカーを押している若い母親の姿が目立つ。私たちと入れ替わるように、仕事を終えた別の武蔵美有志、講評会を終えた別の美大学生有志らが、国会前に到着したことを、帰宅してから知った。

 どこかの学校関係者が座りこみながら掲げていた横断幕にはこう書かれてあった。

 「教え子を再び戦場に送るな」

 職場でも家庭でも友人同士でも、政治の話題をタブー視せず、もっと声をあげていこう。あの愚かな戦争を二度と繰り返さないために。

 青空ミニ講義は、このあとも続く。9月14日には、中川律:埼玉大学准教授、15日には、三輪隆:埼玉大学名誉教授が講義をする予定だ。安保法制に反対する憲法研究者有志らは、「出前勉強会」と題し、各地域の勉強会に講師を派遣している。「STOP!違憲の安保法制・憲法研究者共同ブログ」などで情報を発信中である。

写真と文:原田 浩 (武蔵野美術大学:非常勤講師)