みんなで語る「改憲への危機感」寄稿文 Vol.17 自民党「憲法改正草案」の危険 大学教員 守中高明さん

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争点隠し・虚構の2/3

 安倍首相は、先の選挙戦中には、ただの一度も改憲に言及しなかった。にもかかわらず、投開票日の夜のテレビ番組では、一転して次の国会から憲法審査会で議論を開始することを明言し、翌日の記者会見では、自民党による「日本国憲法改正草案」をもとに改憲に着手することを公言した

 政治目的を争点化することをこのように意図的に隠蔽することで獲得した「2/3」という数字は、民意を反映しているとは言えない。ましてや制度上可能になったからと言って、国民が現政権に改憲発議へのフリーハンドを与えたわけではまったくない。衆参両院における実質的かつ充分な時間をかけた熟議が求められる

自民党「日本国憲法改正草案」の危険

 自民党による改憲草案(2012年4月発表)は、現代国家の憲法草案とはおよそ言いがたい危険と錯誤に満ちている。ここでは5点のみ指摘する

1.天皇制:草案・第1条において「天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって」と相矛盾する規定がなされている。「元首」でありかつ「象徴」であるとは、いかなる存在か。前文の「日本国は〔…〕天皇を戴く国家」であるという文言と併せて読むとき、草案が象徴天皇制を実質的に解体し、「天皇」を「国ノ元首」と定めた『大日本帝国憲法』への回帰を企図していることは明らかである。この復古的企図は、以下の各条項の共通基盤とも言える

2.憲法尊重擁護義務:草案・第102条1項「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」。これは、憲法によって支配者の恣意的な権力行使を制限するという、立憲主義そのものの全否定である。憲法の尊重擁護義務は、言うまでもなく天皇および「国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員」にある。憲法とは、国民が政権へ課す命令なのであり、その逆を規定する草案の企図は、国民の隷属化にある

3.国防軍の保持:集団的自衛権の行使容認の閣議決定(2014年7月10日)および安全保障法制の強行採決(2015年9月19日)によって現行憲法の平和主義が大きく損なわれたとはいえ、草案の規定するように、第9条2項を削除し、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」だけでなく、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」をも担う「国防軍」を「保持」することになれば、日本はアメリカ合衆国の主導する「有志連合」国の一員として無際限な「対テロ戦争」等に参加することになる

4.緊急事態:草案第98条・99条。これこそが、草案中で最大の警戒を必要とする条項である。現政権は、この条項を大規模自然災害対策という口実のもとに新設しようとしているが、その内実は内閣の独裁を可能にするものである。「緊急事態」宣言の権限は内閣総理大臣にある。そして、宣言下において「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定」することができ、何びともその「指示に従わなければならない」。しかも、宣言下において「衆議院は解散されないもの」となり議員の任期は特例措置とされる。これは一内閣に立法権を無制限に与える条項であり、宣言が発せられた瞬間から三権分立はその機能を停止し、紛れもない独裁政治が可能となる。あってはならない、決して成立させてはならない条項である

5.表現の自由:「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」は、現行憲法が無条件で保障する基本的人権である。ところが草案第21条2項は「公益及び公の秩序を害する」とき、その自由は「認められない」とする。だがこの「公の秩序」という無規定な概念が濫用された場合、民主主義社会の命とも言うべき自由な言論が恣意的かつ容易に封殺されることになる。戦前・戦中の治安維持法の再来である

結論

 憲法「改正」の発議がなされた場合、それが自民党「日本国憲法改正草案」にもとづくものであるかぎり、いかなる条文・条項も斥けるべきである。もし国民投票が実施されることになれば、それは、まさに私たちの権利と自由のすべてが賭けられた死活的に重要な場面となる。その事実を広く社会に知らしめよう

(早稲田大学法学学術院・教員 守中高明さん)