IWJの熱心なサポーターでいらっしゃる榊原千鶴様から 『茶色の朝』をご恵贈いただきました。
今回はカテゴリーとしては「絵本」です。前半は11ページの短い物語、後半は哲学者である高橋哲哉氏からのメッセージで構成されています。
前半の物語の中では、「茶色以外の猫」が「処理」され、「茶色だって言い張るには無理」がある犬は処分され、「茶色新報」以外の新聞は廃刊になり、図書館や本屋の棚からは「茶色の」という形容詞なしで「犬」や「猫」という単語を使用している書籍が次々と消えて行きます。
ランク パヴロフ、ヴィンセント ギャロ、藤本 一勇、 高橋 哲哉
『茶色の朝』(大月書店、2003/12)
主人公とその友人はそうした政府の方針や法律に違和感を覚えながらも、状況を受け入れていきます。『少なくとも、まわりからよく思われていさえすれば、放っておいてもらえるし(P.9より)』と自分に言い訳をしながら。
しかしある朝、「茶色ラジオ」が「時期はいつであれ、法律に合わない犬あるいは猫を飼った事実がある場合は、違法となります」というニュースを流し、結果として主人公とその友人は捕らえられてしまいます。
逮捕される直前になっても、主人公は以下のように言い訳を始めます。
抵抗すべきだったんだ。
でも、どうやって?
政府の動きはすばやかったし、
俺には仕事があるし、
毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。
他の人たちだって、
ごたごたはごめんだから、
おとなしくしているんじゃないか?(P.28より)
後半部分で高橋哲哉氏はこの物語を以下のように評しています。
『茶色の朝』は、私たちのだれもがもっている怠慢、臆病、自己保身、他者への無関心といった日常的な態度の積み重ねが、ファシズムや全体主義を成立させる重要な要因であることを、じつにみごとに描きだしてくれています。(P.41より)
そして高橋氏は「ではどうすれば良いのか」という問いには以下のような懸念を示唆しています。
自分が「具体的にどうすればいいか」は、あくまで自分自身が考え、決定すべきことがらです。それさえも他者から指示してもらおうというのは、そこに、国や「お上」の方針に従うことをよしとするのと同型のメンタリティがあるのではないか、と感じられてならないのです。
私たちは今、「TPPは問題だ。原発は問題だ。憲法改正は問題だ。ではどうすれば良いのか」という問いに常に晒されています。こうした困難な問いにいかに個人個人が向き合っていく必要があるか、非常に考えさせられるものがある内容でした。(2013/10/18発行【IWJウィークリー第21号】より転載)
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