フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)の記者、カルステン・ゲルミス氏(2010年東京赴任)の記事は、読者の意見の多い記事(50件以上)を挙げると、2014年前半だけでも、犯罪の少ない社会と市民の不安(57)、東電の新原発建設(124)、安倍の原発推進(60)、原発回帰(72)、閣僚の靖国参拝(51)、少子化と人口減少(51)、後半~2015年3月まではなぜか一件のみで、政府によるアメリカの教科書への介入(歴史修正主義問題、69)だった。
今年に入ってからの記事は、読者の意見はどれも多くはなかったが、改憲、従軍慰安婦、IS人質事件、メルケル氏訪日、反原発運動がテーマだった。いずれも記者名入で、長文で、日本を熟知し、批判精神と示唆に富んだ記事が魅力だった。しかし、様々な情報によれば、日本外務省関係者からフランクフルトの本社に、直接クレームがあったということで、ゲルミス氏は3月末にドイツに戻った。
その後のFAZの記事は、記者名もない短い事象報告書が増えた。権力を用いて、ドイツの人々からさえも、事実を深掘りする真実の言葉を奪う。
安倍政権の代表的手法が現れていると感じる。これは、最悪の人権侵害、最悪の不正であり、これが今、日本の私たちを覆い尽くそうとしているのではないだろうか。
キング牧師は語っている。「平和は単なる戦争の不在ではない。公正さの存在が平和なのだ。」
今、私たちは、至るところで公正さを奪われている、と感じているのではないか。戦争に反対し、平和を求める声を、挙げ続けなければ、挙げられない時が来るのでは、と不安なのではないか。だからデモに参加するのだ。彼らはその時を狙っている。だから、声を挙げ続けなければならない。
彼らに聞こえるように。安保法案だけでなく、安倍政権の不正を告発するために。
海老原由美子 親和女子大学非常勤講師(ドイツ語担当・ドイツ文学専攻)