代議士斉藤隆夫は、1938年2月、国家総動員法案を審議する衆議院本会議場において「議会が立法を為し、政府が行政を為す、如何なる場合に当っても此(憲法の)条規を踏み外すことは出来ない」と喝破し、立憲主義を擁護した。しかし、かつての日本は立憲主義の崩壊をくい止めることはできず、その後に戦争の惨禍と国家の崩壊を経験した。現在、我々の立憲主義は安保法制問題によって再び危機に瀕している。日本国憲法下の立憲主義を擁護することは国民主権や民主主義を守ることでもある。その意味で立憲主義の危機を克服することは現下の最優先課題でなければならない。そして、その方途は違憲の法案を廃案に追い込むことしかない。
立憲主義は、安全保障問題の議論を否定するものではない。ただ、それは立憲主義の枠内で安全保障問題を議論することを要求するだけである。つまり、違憲法案のゴリ押しを止め、憲法改正論として安全保障問題を提起すればよいだけである。立憲主義と民主主義を標榜する限り、誰もこの手順に異議を唱える者はいないだろう。
確かに立憲主義の危機は深刻である。しかし、同時にこの危機が我々の民主主義を鍛え、育てつつあることに確信を持ちたい。民主主義は闘いとともに成長する。
(橋本誠一 静岡大学教授)