8月21日に強制撤去された「経産省前テントひろば」のドキュメンタリーを、制作いたしました、一般事務班と動画班を掛け持ちで担当している谷口直哉と申します。
「経産省前テントひろば」をご存じないという方もおられると思いますので、簡単にご説明いたします。
東京電力原発事故が起こった2011年に、市民グループによって経済産業省の敷地内に設置され、「脱原発テント」として、原発に反対する人々のシンボル的な存在となってきたのが「経産省前テントひろば」です。
このテントには、原発廃止を求める市民が、約5年間、24時間体制で座り込みを続けてきましたが、経産省がテント側を訴えた裁判により、テントの撤去と明け渡しが決まり、とうとう先月、強制撤去されてしまいました。
IWJ動画班では、この強制撤去を受け、急きょ、この「経産省前テントひろば」の5年間の軌跡を追ったドキュメンタリーを制作することを決めました。
改めて経産省前テントひろばの取材映像を全て観直してみて、私が一番強く感じたものは「奪われた人々の怒り」です。
テント前でのスピーチやヒューマンチェーン(人間の鎖)、座り込みやハンガーストライキなど、様々な抗議行動で表現される、脱原発のメッセージ。どのメッセージの奥底にも、共通して流れているものは「怒り」なのだと感じました。
東電や国・経産省への怒り、故郷を追われた怒り、大切な人や仕事を失った怒り、マスコミや御用学者への怒り、世間の無関心への怒り。
もちろん、皆さん、怒りたくて怒っているわけではありません。怒るには怒るだけの、十分過ぎるほどの理由があり、その底には、悲しみが隠れています。
このドキュメントの中でも、様々な感情がない交ぜになっていますが、経産省前テントに関わる人たちから、最も強烈に伝わってきたのは、全てを壊してしまう「核・原子力」に対する怒りでした。
何よりも大切な自分や家族の命と健康だけでなく、こつこつ積み上げてきた仕事や人生、生まれ育ち、思い出が詰まった故郷、そして、豊かな自然環境までも、全てを、あっという間に奪い去ってしまった「核・原子力」への大きな怒りが、経産省前テントひろばを作り上げ、5年間もの間、存続させ得た原動力だったのだと痛感しました。
北朝鮮が核実験をくり返し、東シナ海では中国との摩擦が続く現在。安倍政権とその周辺の人々は「核兵器への誘惑」に取り憑かれているように見えます。
稲田朋美防衛大臣は、過去に雑誌の対談で「長期的には日本独自の核保有を、国家戦略として検討すべき」と発言していますし、現内閣法制局長官が「(核兵器の使用について)憲法上、禁止されているとは考えていない」と発言したりする時代です。今後、日本でも核兵器保有の議論がおこってくる日も、そう遠くないのではないでしょうか。
ちなみに、稲田防衛大臣が心の支えとするのは、「生長の家」の創始者・谷口雅春氏の教えだそうで、その中には「戦争は人間の霊魂進化にとって最高の宗教行事」であるという、到底理解しがたい教義も含まれています。
原発と核兵器開発は表裏一体の技術です。国が断固として原発政策を推し進める理由は、核保有の可能性を捨てたくないからではないか、とも言われています。
こうした現状だからこそ、このドキュメンタリーにまとめた「奪われた人々の怒り」を、見つめていただきたいと思います。
福島県双葉町から東京に避難したある女性は、この作品の中で、こう叫びます。
「こんな所にいなくても良かったんでしょう!東電が爆発しなかったら!ふるさとに帰りたいから、ふるさとを返してください!」
どこにぶつけていいのか分からない怒りに震えながら、彼女が必死で訴える映像を観ながら、私は、この映像に残された「奪われた人々の怒り」を掘り起こし、伝えるべきだと確信ました。
微力ながら、こうした思いを込めて作った作品です。
経産省前テントが建てられたその日から、まさに強制撤去された当日まで、1807日間の記録をぜひご覧下さい。
※ドキュメント・経産省前テントひろば ―脱原発のシンボル 5年間の記録
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/330392