海と月社様から『チャヴ 弱者を敵視する社会』をご恵贈いただきました。
オーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳
チャヴ 弱者を敵視する社会
海と月社 2017/7/20
「チャヴ」とはロマ族の言葉で「子ども」を指す「チャヴィ」が語源。現代のイギリスでは、「カジュアルなスポーツウェアを着た労働階級の若者」というコリンズ英語辞典に掲載された定義が最も広まっているとのこと。彼らが好んで着用するというバーバリー柄の帽子が、本書の表紙を飾っています。
他方、「チャヴ」は「急激に増加する粗野な下流階級」「反社会的なチンピラやごろつき」等と同意でも表現され、もっぱら労働階級を侮蔑する言葉として理解されていると著者は説明しています。
また、「中流階級の謙虚さや上品さがなく、悪趣味で品のないことばかりに金を使う浪費家」という意味でも使われるとのこと。デイヴィッド・ベッカム(ロンドンの下町出身のサッカー選手)やウェイン・ルーニー(リバプール出身のサッカー選手)、シェリル・コール(ニューカッスル出身の歌手)といった労働者階級出身の著名人は、「繰り返し『チャヴ』だと馬鹿にされている」という事例も、本書では紹介されています。
こうした「チャヴ」に対する劣等視の根本にあるのは、イギリスの階級闘争の名残であると著者は訴えます。サッチャー首相(1979年就任)による労働者階級への徹底した攻撃により、労働組合や公共住宅制度が廃止され、産業破壊によってコミュニティは分断。連帯感や共通の向上心といった価値が一掃され、代わりに個人主義が台頭。労働者階級は力と誇りを奪われ、冷笑され、見くびられ、スケープゴートにされてきました。イギリス社会がたどってきたこのような歴史に、「チャブ・ヘイト」とも言われる今の現象を著者は重ねあわせています。
「チャヴ」をあざ笑う態度は、労働者階級の実像を見えづらくし、弱者である労働者への攻撃・偏見を正当化するために政治家によって利用していると指摘。「差別そのものではなく、差別を生み出す源、すなわち社会」に目を向けることが本書の狙いだ、と著者は綴っています。
「緊縮財政、民営化、規制緩和、自己責任社会の末路 ― イギリスがたどった道は日本がこれから歩む道」と記された本書の帯の通り、日本の近未来を慮るために有益な指南書と言えるかもしれません。ニューヨーク・タイムズ紙ノンフィクション部門でベスト10に選出された世界的ベストセラー、待望の翻訳本です。
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