11日に暴露された自衛隊の内部文書は、統合幕僚監部という自衛隊トップが、a)違憲性が問題になっている法案がそのまま成立することを前提に、b)一般的に施行に必要な事項を研究するとか、単に検討項目を整理するだけでなく、国会審議にもかけられたことのないガイドラインの実施という、特定の政策方向の実現に向けて準備を進めていることを、あからさまに示すものでした。そこで私たち憲法研究者有志は、軍事問題研究者からの助言も得ながら、この文書を検討し、国会に向けて以下の声明を緊急に出しました。ここで指摘した諸点は、特別委員会では与野党の力関係もあってきちんと扱われていませんが、しかし法案の成否の如何に拘わりなく、今後も問題追及されるべきものと思われます。
統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明
統合幕僚監部がいわゆる安保関連法案の成立を前提に、詳しい文書を作成していたことが明らかになった。この文書には、憲法上見過ごすことのできない以下のような問題があると私たちは考え、国会の厳正なる対応を求めるものである。
第1に、今回明らかになった文書は、単に法案成立前に関係官庁が一般的な「分析・研究」を行なうことを越える重大な問題をもっている。そもそもこの文書を作成した統合幕僚監部は自衛隊を統合運用する組織である。また本文書によると、今後はこの統幕が主管となって「日米共同計画」という軍事作戦計画を「計画策定」するものとされている。このような軍事作戦の策定・運用にあたる組織が、その合憲性に深刻な疑義のある法案について、その成立を何らの留保なしに予定して検討課題を示すことは、憲法政治上の重大な問題である。
第2に、この文書は、「日米防衛協力のための指針」(以下、ガイドライン)実施のための国内法整備が今回の安保法案であり、この法案にない事柄は国会に諮ることなく実施されることが当然としている。これは、ガイドラインこそが日本の防衛当局にとっての最上位規範であることを露骨に示すものである。そもそもガイドラインは、政府がアメリカと結んだ政策文書であって、国会の審議や合意を経たものではない。また、この文書には本来国内法上の根拠を必要とする筈の自衛隊の運用課題も、ガイドラインのみを前提に示されている。これらは重大な国会軽視であり、独走であると言わねばならない。
第3に、この文書は、ガイドラインにも記されていないACM(同盟調整メカニズム)内の「軍軍間の調整所」設置、そして法案に特定されていない地域をあげて南スーダンPKOへの「駆付け警護」等の業務の追加、南シナ海における警戒監視などへの関与といった検討課題を記している。のみならず、「日米共同計画の存在の対外的明示」は「抑止の面で極めて重要な意義を有する」とまで明記している。これらのことは、この文書が法案内容を自衛隊トップに単に周知するための一般的な「分析・研究」文書ではなく、法案成立を前提に自衛隊がとる運用施策を特定の対外政策に結びつけ、速やか実現することを促す文書であることを示している。これは議会制民主主義のプロセスよりも防衛実務の事情を優先した対応といわざるをえず、「軍部独走」という批判をまぬがれない。
第4に、ここで挙げられている検討課題が、駆付け警護における武器使用基準の緩和、平時からのアセット防護、そして在外邦人の救出など、武力行使に直結する内容のものであることも見逃すことができない。法案のこれらの点に関する国会審議は全く不十分であるが、この文書はこうした課題を新法施行後ただちに実施することを予定している。総じてこの文書はガイドラインに基づいて事実上の武力行使を含む「切れ目のない」自衛隊運用の課題を挙げるもので、憲法の平和主義に基づく対外関係の推進に真っ向から反するものとなっている。
私たち憲法研究者有志は、国権の最高機関である国会が、今回明らかになった文書がもつ深刻な問題を受けとめ、唯一の立法機関としての役割を真摯に果たし、全国民の代表として国民の信託に応えることを求めるものである。
※安保法制に反対する団体の声明文はこちら