みんなで語る「改憲への危機感」寄稿文 Vol.46 改憲に抗してー希望と勇気を胸に 医師 渡邉良弘さん

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 改憲は第9条を中心とするものと以前から思っていましたが、自民党改憲案は、緊急事態条項の規定を新設していることもあり、国民投票となる政府与党の改憲案は9条改憲のなかに緊急事態条項を加える長文条項になると予想します。

 憲法および法律の専門家の既述と少し重複しますが私見を記します。

 緊急事態条項はこれまでも議論がなされてきた国内外の非日常事態について、一括して緊急事態として憲法に記し、国民主権を制限し、国会の機能を損ね、国の権限を強化するものであると思います。

1)緊急事態の定義を国内外の事態と災害をあげる他に「その他法律で定める緊急事態において」とあります。これは、緊急事態の定義拡大を意味しています。条文に「法律の定めるところにより」と繰り返し出てきますが、これは他に法律があるわけでなく、「緊急事態条項への自己言及」であり、緊急事態条項の宣言が「合法的手続きで問題ない」とでもいいたそうです。

2)内閣総理大臣は緊急事態の宣言についての第3項は、宣言の解除について国会承認がすべて「事後」であることを示しています。

3)緊急事態宣言がなされると、衆議院は解散されないので、緊急事態宣言を承認した国会が承認を否決するまで宣言は延長されます。解散もされない国会で、不承認と国会が議決できるでしょうか。国会はあたかも内閣総理大臣の宣言とその終結を事後承認するだけ、とも読めます。これでは議院内閣制とはいえないと思います。

4)国会承認の議決については、改憲案にありますが、ほかの条文でも頻繁に使用される「準用」だけでなく、「日にち」も変更しています。「準用」の意味があいまいであるだけでなく、国会承認を「『5日以内』と読み替えるものとする」という「読み替え」の指示文章にとても違和感があります。地方自治体への指示の文章にも表れていますが、文章が「とても荒っぽい」と思います。

5)内閣が「法律と同一の効力を有する政令を発する」ということは、国会の議決を経ない政令を内閣が立法発令できるとしたもので、その政令については国会の承認の必要がありませんし、否決もできません。むしろ改憲案第99条第3項で政令はじめ政府や自治体の指示に国民は従うとあります。その地方自治体も財源はじめ政府の指示下に入ることが明記されています。

6)一度緊急事態条項が宣言されたら、「何人も」国その他の公の機関の指示に従わなければなりません。緊急事態宣言を承認したり、継続したりする国会議員も指示に従わなくてはならず、自由に、宣言に反対し宣言の延長に反対する意見を述べられなくなります。

7)国民の基本的人権は「最大限に尊重」とあります。上限があるということで制限が加わっただけでなく、人権尊重義務が必ずしも「国その他の公の機関」にあると書かれていません。

 緊急事態条項は、自民党改憲案に幾度も登場する「公益および公の秩序とそれに反すること」がもとにあり、政府の意向にそぐわない動きを押さえ、憲法で保障された個人の自由を著しく制限するものであると思います。

 さて、国民投票になったら、確実に日本は変わります。国民投票で改憲が「想定外に」否決されても日本は変わるでしょう。まずは大手メディアと政府与党による結果の矮小化から始まります。

 おそらく、まだ多くの国民は、「安倍政権を支持しない強い理由はないけれど、憲法改正についてはわからない」というものでしょう。

 憲法改正問題は賛成、反対の立場からいずれもわかりやすく解説はされるでしょう。

 改憲は国民ひとりひとりに決意を求めるので、「面倒なことはしたくない」と思ったら棄権して、なんとなく大勢についたふりをして過ごすのがもっとも「安全」なのかもしれません。賛否いずれにしても国民投票は「一票の重み」を意識して荷が重いのではないでしょうか。

 「現状の生活を変えるほどつよい不満が政権にあるわけでもない」に始まり、「不満や批判をいうと政府だけでなく周囲から何をいわれるか」など投票行動そのものが「暮らしに影響が出そうなので政権は支持して政権の主張に従っておこう」というささやきが出そうです。

 一方、改憲について学ぶ集会は企画されるでしょうし、インターネットによる「拡散」もありえます。間違っているかもしれませんが、以前スコットランド独立をめぐる国民投票のドキュメンタリー番組で独立賛成の人々が戸別訪問をしていました。国民投票には広報宣伝活動にとくに規定がなさそうなので、戸別訪問、電話、手紙も有効であると思います。

 最後に、澤地久枝さんの単行本の題名の言葉をここで引用します。

 「希望と勇気、この一つのもの」

 希望を持つことは勇気を持つことである。私もそう信じたいと思っています。

(医師 渡邉良弘さん)