戦争と武力の行使を禁じ戦力の不保持を定める憲法9条のもとで政府がとってきたのが、自衛権行使を厳しく限定する憲法解釈であった。60年にもわたり、急迫不正の侵害に対する必要最小限度の実力行使のみが許されるとの解釈がとられてきた。安保法案の内容は、長年確立してきたこうした解釈から到底正当化できるものではない。
このような武力行使の厳しい制約は、政策判断としてではなく、最高法規である憲法の解釈としてとられてきたものである。憲法9条を通じて、その時々の多数の判断だけでは変えられない憲法という固いルールによって、武力の行使に枠をはめてきたことの意味を確認しなければならない。安倍政権は、国会の多数だけでは変えられないはずのルールを法律で変えようとしている。これまで憲法で禁じられてきた事柄が、多数だけで決められる政策決定の領域に移されようとしている。
「国会等における論議の積み重ねを経て確立され、定着しているような解釈については、政府がこれを基本的に変更するということは困難である」
かつての法制局長官による答弁の一節である。これまでの政府の9条解釈は、国会で厳しい議論が繰り返される中で、維持されてきた。国会の審議は、国民の監視のなかで行われる。国民が常に厳しい目を向け続けてきたことが、強い歯止めともなってきたのである。
9条と立憲主義が脅かされている今、あらためて私たちの民主主義の力が問われている。
一橋大学法学研究科教員(憲法学) 只野雅人