【安保法制反対 特別寄稿 Vol.213】 安保法制に対する立場 「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同者 学習院大学非常勤講師・田島正樹さん

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 安保法制をめぐる安倍政権への批判は、それが大方の憲法学者の解釈と歴代の内閣法制局の解釈にさえ反して、強引な解釈改憲を行おうとしていることが明らかになるに及んで、新しい局面を迎えつつあるように見える。つまり、安全保障については意見が異なるとしても、たとえば集団的自衛権を認めるべきだという考えに賛同する人さえも巻き込んで、さすがに法治国家の骨格を覆すような手続き上のごまかしは認めることができないという国民的合意が、安倍政権を窮地に追いやりつつあるのだ。
当初安倍政権は、例によってマスコミを買収と恫喝で巻き込むことによって、このようななし崩しが可能だと思っていたのであろう。

 しかし、いよいよ海外派兵による戦闘の危険が目の前に迫る中で、このような国民をなめきったやり方に対する批判が、澎湃として起こったのである。安倍政権に対する不信は、単に安全保障政策をめぐるものに留まらない。もしそうなら、現状を確認したうえで率直に議論を闘わすことも可能であろう。

 しかし、国会を見ていると、政権が安全保障を本気で考えているなどとはとても思えない。あるいは本気で考えているのかもしれないが、その細部を国民に明らかにして国民の協力を求めることはしようとしていない。それを明らかにすれば、国民の協力が得られないと考えているからであろう。国民に率直に政策を訴える前に、アメリカ議会に約束し、その既定路線を押し通そうとしているのだ。

 安全保障にアメリカの協力が必要だというのであれば、なぜそれを率直に訴えないのか? 極東の脅威が増しているというのなら、どのようにそれを除き得るのかを、国民に説明したらどうなのか? それに対抗する「抑止力」がかえって偶発的危機を招く可能性はないのか? よけいに緊張を高める危険はないのか? 軍拡競争をコントロールする手立ては十分であるのか? 極東におけるアメリカの関与を求める政策が、それとの交換に、たとえば中東における我が国の戦争関与につながる危険はないのか? これらのことは、包括的に安全保障政策を考えるならば、当然に議論されなければならないことである。かかる考察は複雑なものになるから、単純に善悪を判断することは難しいだろう。

 しかしだからこそ、徹底的な議論が必要なのである。たとえ全員が納得しなくとも、共通前提を確認して、どのような危険とコストが伴うのか、それに対するオルタナティヴにはどのようなものがあるのか、失敗においては誰が責任を取るのか、などについて、共通の了解が必要である。国民には情報を制限して、どこかわからない所で決定し、責任もはっきりしないまま何となく事態が進むというようなやり方は、国民の協力が何より不可欠である安全保障政策においては、致命的なものである。今般の国民の決起は、安倍政権の火事場泥棒のようなやり方が通用しないことを示したものである。

 もともと軍事政策には、大きな利権や惰性が伴うものであるから、途中で政策変更が難しい。ダム建設や原発政策でさえ、始めたら見直しが難しいような国で、いったん大きな軍事的行動が起こった場合、あるいは巨大な軍事産業が興る場合、そこから引き返すことは非常に難しい。満洲政策やその後の国策を見ればよくわかる。

 だからこそ、日本国憲法はそのような歴史の反省に立って、時々の政権の安全保障政策に対して、大枠としての厳しい制約を課しているのである。一時の感情的反発や、金に目のくらんだ連中による愚かしい煽動にたやすく動かされる前に、国民が熟慮することを憲法の精神は求めているのである。

 安倍政権の最大の罪は、単に戦争の危険に国民を巻き込むところにあるのではない。戦争に匹敵するような国難であっても、それが真に必要な名誉ある道であることが説得されるならば、それに人民は耐えるであろう。

 しかし、嘘と欺瞞に満ちた空疎な言葉によっては、そのような名誉と品位ある歩みは決して期待できない。またぞろ、ずるずると満洲事変のやり直しに引きずり込まれるばかりだ。常に黒を白と言いくるめようと小細工をする国会答弁によって、日本語をめちゃくちゃにしたことこそ、この政権最大の罪である。今や、小学生には国会中継のまねをしないように、とくと教育せねばならない。政権中枢でこそ、この国最大の不道徳がまかり通っているからである。どのような政策を選択しようと、その前提を為す精神が崩落の瀬戸際にあるとき、安倍政権から国の精神を守るために、すべての愛国者は決起する義務がある。

<なお、安全保障についてのわたくしの立場については、『戦争思想2015』河出書房新社、所収の拙論「安全保障をめぐる弁証法的政治」に、いくらか詳しく論じたので、ご参照いただきたい>

(田島正樹 学習院大学非常勤講師)

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ