連日、国会前庭などで繰り広げられている、安保法制への抗議集会、そしてデモ。このような権力への対抗行動がほぼ自由にできることを、水や空気のように当然だと思って参加している人も多いでしょう。だがもしこの行動が、デモや集会への参加を繰り返せば裁判所の令状も証拠もなく当局に拘束され、いったん拘禁されれば精神薬漬けで廃人にされる命懸けのものだとしたら、どうでしょうか。
実は、このような違憲・違法の人身拘束が、日本では既に18歳未満の子どもについては行なわれ、多数の子どもたちが、長期にわたって特別権力関係施設に拘禁されて、精神薬漬けにされているのです。(※注1)
この根拠となっているのが、「児童虐待防止法」です。この法律が制定された2000年には、現在の安保法制の前提となる有事法制が、アメリカのアーミテージからの要求により、日本で議論されていました。令状も証拠も要らない市民の人身拘束を可能にするこの法律は、有事法制審議のただ中、安保法制同様にまともな審議を尽くすことなく、国会を全会一致で通過したのです。
現行の有事法制にも、また安保法制にも欠けている重要なミッシングリンクがあります。それは、戦争に反対する市民の人身拘束、つまり予防拘禁です。有事が起これば、反戦活動家が中心となって運動を展開し、後方攪乱が起こることは間違いありません。国家権力としては、何とかこれを阻止し、抑圧しなければならないと考えるでしょう。そのためには、裁判所の令状も、証拠も要らないで、市民を恣意的に人身拘束する制度を用意しておくことが不可欠です。戦前には、治安維持法の予防拘禁として、この制度がありました。ドイツには、そのための機関として、よく知られているゲシュタポがありました。
現在の児童虐待防止法に基づく、児相による子どもの人身拘束を検討すると、それは、かつてのナチのゲシュタポと同じ構造になっていることがわかります。すなわち、
1.国中に、政府機関への密告システムをはりめぐらしています。オランダ亡命中のアンネフランクが、アムステルダムで密告によりゲシュタポに拘束されたことはご存じでしょう。日本では最近、189という新しい「密告ダイヤル」さえできました。
2.政府機関の言うことがすべて正しいという「国定思想」を国が押しつけています。例えばそれは、現在では、良妻賢母で家庭で育児にいそしめという保守的女性観です。しかし今後、その他の思想・良心の自由に拡大されることも十分あり得ます。
3.この「国定思想」に反する行動を取ったかどうか、権力は着々と個人別に情報を蓄積しています。児相には、そのための子どもたちの個人別ファイルが既に存在します。ある閾値を超えたと権力が勝手に判断すれば、それだけで身柄が拘束され、長期にわたり特別権力関係施設に拘禁されるのです。
4.拘禁された先では、収容者に虐待が加えられ、向精神薬投与や、精神病院の収容など、精神医学が最大限に悪用されます。 例えば、児相収容所で児相に反抗した子供は、直ちに精神病院送りにされています。かつてのソ連で、反体制派に加えられていた抑圧と同じです。
この人権侵害の一端が最近ようやく暴露され、メディアで報道されました。デモや集会に参加した成人が、近い将来この囚人のような施設内虐待を受けることになるかもしれない、と考えながらご覧になってみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=F7EbNnM83qA
今、18歳未満の子供たちを人身拘束しているのは「児童相談所」であり、収容しているのは「児童養護施設」です。すでに拘束と拘禁の前例が蓄積されていますから、その看板を「国民相談所」あるいは「国民保護施設」のように掛け替えられるような措置を講ずれば、カップに湯を注ぐだけでラーメンができるように、市民の拘束が比較的容易に実現する仕掛けになっているのです。
「保護」という言説の危険さ、それが国家権力の横暴と戦争につながることの危険さを、既にアメリカ市民は自覚しています。添付のイラストをご覧下さい。日本ではまだ、「子ども最善の利益」とか、「虐待からの保護」と言われた途端、それにころりと騙されて、思考停止してしまう国民が多いのが残念です。このままでは、いざというとき、反戦活動家に対し「国家有事で、国民を保護するため米軍や自衛隊が必死に戦っているのだ。このお国の一大事に、これを妨害・攪乱し、国民の最善の利益を損なうのは怪しからん」などという言説で非難が向けられ、令状・証拠なき人身拘束が正統化されても、誰も批判しないかもしれません。
日本を全体主義国家にするために必要な市民への権力的な統制の準備が、目くらましの言説を弄しながら、いま水面下で着々進行しています。この現実を、私たちは直視しなければなりません。その氷山の一角が海面上に少しだけ現われているのが、「児相問題」なのです。この恐怖の人身拘束システムを、いまだ卵のうちに市民の力で徹底的に潰しておかないと、このままでは、戦前のように、安保法制反対デモや集会に参加することすら、拘束につながるリスクと引き替えの命懸けな行動にしてしまう、巨大な害虫に成長してしまいます。
詳しくは、雑誌『インパクション』193号(2014年)に掲載した拙稿「市民の権利と、権力装置化する児童相談所 : 予防拘禁への道ひらく機能的治安法としての児童虐待防止法」を下記のリンクからダウンロードして、ぜひお読み下さい。
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/26880/6/0101401101.pdf
この、予防拘禁制度への地ならしをしている日本の児相問題に、ぜひ、もっと多くの人々が強い関心を持ち、日本の民主主義と市民の人権を護るため、機能的治安立法である児童虐待防止法の廃止を目指して、立ち上がって頂きたく存じます。
水岡不二雄(一橋大学特任教授)
注1 「学校の期待に添わない子どもが児童相談所送りに」国連報告を裏付ける事件か 「教師の体罰に抗議したら報復で一時保護」!? 父親が提訴 〜2年が経過した今も親子の面会・通信禁止、所在も不明