【安保法制反対 特別寄稿 Vol.114】 平和のために尽力しよう 「安全保障関連法案に反対する学者の会」呼びかけ人 早稲田大学教授(労働法・ジェンダー法専攻)浅倉むつ子さん

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#1

 2015年の第189回通常国会は、かつてない暴挙が行われる国会になった。これほど国民が反対している安保改正法案が6月15日に強行採決されたということ自体が「暴挙」なのだけれど、それとともに記憶に刻みたいのは、「ここまで言うのか」という安倍晋三政権総ぐるみの「放言」の連発である。

 「ポツダム宣言をつまびらかにしない」と平気で発言する首相は、立憲主義は「かつて王権が絶対権力を持っていた時代の考え方」だと断定した。主権者である国民が国の基本的あり方を決めたのが憲法であり、国家権力は、憲法に基づき構成され、統治している。その基本的な約束事が立憲主義である。安倍首相もこのような「正当性」に基づいて統治機構の一端を担っているのではないか。憲法を首相が否定するのなら、国の機関はがらがらと崩壊し、正当性を失う。首相は自らの統治の正当性を放棄したのだ。

 このことは、私たちが学び、教育に携わっている「法学」という学問への明白な冒涜だと思う。6月8日に文部科学大臣が「人文社会科学系学部と大学院」廃止という方針を出したことと深く結びついている。この政権のさまざまな暴挙を許しておけば、その行き着く先は学問の崩壊だろう。

#2

 私が専攻している労働法分野でも、無視できない法案がいくつもこの国会には提出されている。時間規制の撤廃・緩和をねらう労働時間に関する「労基法改正法案」、常用代替を促進して雇用の安定を脅かそうとする「労働者派遣法改正法案」、加えて、国家戦略特区改正法案だ。一方で安倍首相は、「女性活躍」を声高に叫んで、「女性活躍推進法案」を提出している。

 しかし、よく考えて欲しい。「女性活躍」の障害の一つは、家事育児労働が女性に偏って過重負担をもたらしていることだ。その偏りの最大の原因は、男性パートナーの家事育児参加を阻害する日本の長時間労働という実態である。労基法改正は、長時間労働の実態を改善するどころか、裁量労働制を拡大し、「高度プロフェッショナル労働者」を時間規制の適用除外とするものであり、働く女性のパートナーからますます生活時間を奪う法案だ。完全に女性活躍推進に逆行している。(※注1

 加えて、労働時間を規制するということは、労働者が「従属労働」から解放されて、その自由なる時間に政治的・市民的活動をすることができるという人権保障の側面もある。労基法改正は、民主主義のための活動への労働者の参加の自由を奪うことになる。

 「労働者派遣法改正法案」は、「人を変えれば」永続的に派遣先が業務を派遣に委ねることができるようにすることで、派遣労働者による常用代替を進める。また、専門職派遣として長く働いてきた、女性も含む多くの派遣労働者の契約打ち切りを許すもので、明らかにこれも女性活躍とは矛盾する。

 さらに、女性の活躍のためという名目で、家事・育児支援の基盤として、安上がりな外国人家事労働者を利用できるようにするという人権侵害的政策も進められようとしている。外国人家事支援人材の導入に向けた国家戦略特区改正法案は、間違えば人身売買の温床を生むことにもなりかねない危うさをはらむ。これらの法案には、到底、賛成できない。

 そもそも日本女性の活躍を阻害している最大の要因は、日本の企業文化を根強く支配している性差別的慣行であり、同時に、それらを是正させる差別禁止法制が脆弱で未整備だ、という事実である。この障害の克服を看過して、いくら女性活躍を叫んでも、法の目的は達成されないだろう。女性活躍は、首相のリップサービスとしてしか位置づけられていないのだろうか。

#3

 しかし、一方で、この国会への抗議を通じて、日本の民主主義は生きていると実感できることにも、たくさん出会うことができた。「安全保障関連法案に反対する学者の会」は、6月11日にHPをたちあげてわずか4日間で2678人の署名を集め、安保法案が衆議院特別委員会を通過した6月15日には、署名は10,056人になった。人文・社会科学系だけでなく、医学・理学・工学系の学者・研究者を含む幅広い層の人々が、これほど政治課題に向かって立ち上がったことは、かつてないことだ。

 若い人々にも希望をもらっている。SEALsという学生グループ、全国各地の高校生を含む若い世代の人々の声、育児中のお母さんたちのグループの声も、大きく世の中を動かし始めた。楽観はできないけれど、日々、励まされている。(※注2

 今年は、戦後70年だ。この70年という年に、私たちは、大きな山場を迎えている。この年に、暗い時代を終わらせて、平和と人権という未来へ向かって、新しい見通しを開くのか。それとも、はかりしれない犠牲者を生んだいまわしい戦争という過去を忘れ去って、再び、戦争への道を突き進んでしまうのか。そういう分かれ目だ。若い人たちは、新しい世代をこれから築く人々だ。どうか、まっすぐに、平和と人権という未来をめざして欲しい。

 戦後、もっとも尊敬された政治家であった、西ドイツのヴァイツゼッカー大統領が行った演説の最後のフレーズを、若いみなさんに送りたい。

  若い人たちにお願いしたい。他の人々に対する敵意や憎悪に駆り立てられることのないようにしていただきたい。
  若い人たちは、たがいに手を取り合って生きていくことを学んでいただきたい。
  自由を尊重しよう。
  平和のために尽力し。
  憲法を守ろう。
  正義については内面の規範に従おう。
  今日、能うかぎり、歴史の真実を直視しよう。

(2015年7月16日)

浅倉むつ子(早稲田大学教授/労働法・ジェンダー法専攻)
(※ 「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼びかけ人)

 
注1 2013/05/08 「均等法は女性の継続就業には何の役にも立っていなかった」政府・行政の姿勢を批判 ~5.8男女平等を進める院内集会~均等法を男女雇用平等法に!
注2 2015/07/14 IWJ「題名のまだない新番組」第02号(仮)〜ゲストトーク 浅倉むつ子・早稲田大教授 西谷修・立教大特任教授(安保法案に反対する学者の会)(動画)

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ