【安保法制反対 特別寄稿 Vol.113】 「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同人の一人として、貴社からの寄稿の要請に応え、以下の見解を投稿します。 富山国際大学(法学)後藤智さん

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 そもそも自衛隊の存在自体が憲法違反と考えます。憲法9条2項は、「陸海空軍その他の戦力」の不保持を規定しています。これは一切の戦力の不保持を定めていると解されます。自衛隊はこの規定により保持が禁じられる戦力にあたり、憲法上存在し得ないはずのものです。

 しかし、これまでの政府解釈によれば、「自衛のための必要最小限度の実力」は憲法が保持を禁じている戦力にあたらないとされてきました。このような解釈が成立する合理的根拠はないと考えます。

 とはいえ、現実には、そうした政府解釈の下で「必要最初限度の実力」とされる自衛隊は、今や世界有数の軍事組織(実質的な軍隊)となっています。9条2項を素直に読んだとき、憲法とこの現実の矛盾は誰がみても明らかではないでしょうか。主権者である国民の多くも、自らは自衛隊が合憲であることの論理的な説明ができない状況にあると思われます。国民主権的民主主義国家において、本来、こうした状況はあってはならないことです。つまり、自衛隊を合憲とする従来の政府解釈は、そういう「あってはならない状況を生み出すほどに無理な解釈」であると言えましょう。

 以上の考えからすれば、自衛隊の存在を前提とする今回の安全保障関連法案も、当然ながら憲法違反と判断されるというのが私の結論です。

 したがって、以下は、本来は触れる必要がないものということになりますが、現実の議論状況を踏まえて、追加的に述べることにします。

 かりに、自衛隊違憲論を脇に置くとしても、今回の安全保障関連法案には、多くの法的問題点が存在します。

 従来の(2014年7月1日より以前の)政府解釈は、自衛隊の存在を合憲とし、また、主権国家である以上、個別的自衛権、集団的自衛権ともに有するとしながらも、平和主義を基本原則とする憲法が自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないとしてきました。そして、1972年に参議院決算委員会に提出した資料(72年見解)において、わが国が外国からの武力攻撃を受けた場合の、いわゆる武力行使3要件が打ち出され、集団的自衛権行使は違憲とされてきました。それは1981年に衆議院に提出された答弁書でも踏襲され、その後、歴代政権、内閣法制局は、基本的にその論理を受け継いでいたわけです。(※注1

 それを覆したのが、2014年7月1日の閣議決定であり、今回の安全保障関連法案です。わが国を取り巻く安全保障環境の変化を理由として、それまで「できない」とされてきた集団的自衛権行使を「できる」ことにするというのですが、それを行う現実的必要性も法的論理性・合理性も認められません。

 合憲論の論拠とされる砂川事件最高裁判決は、多くの研究者が指摘するように、日本の「自衛の措置」としての集団的自衛権行使を容認しているものではありません。今回の安全保障関連法案は、「事態」の乱立にしても、「限定的」と称される新3要件にしても、不確定概念が多用されており、その結果、その時々の政権の裁量判断によって「いつでも、どこでも」自衛隊を動かすことができることになりかねません。これ自体、「国民の人権保障のために、憲法で権力を縛る」という立憲主義に反するものです。さらにまた、このことは、自衛隊のような軍事組織の活動を法律で規律する際には、その要件(どのような場合に)、効果(どのような活動を行うのか)について、厳格かつ明確にするべきという法治主義の要請にも反していると言わざるを得ません。

(これらは、問題点の一部を挙げたにすぎません。その他にも、たとえば、民主主義、国民主権の観点からの問題指摘・批判も可能ですが、ここでは省略します。)

 したがって、今回の安全保障関連法案は廃案にすべきと考えます。

富山国際大学 後藤 智(法学)

(※ 「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同者)

 
注1 【スクープ!】「集団的自衛権行使容認の閣議決定」が覆る決定的根拠! 「昭和47年政府見解」の知られざる真実を小西洋之議員が暴露!!

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ