【安保法案反対 特別寄稿 Vol.343】 平和で、人間らしく働き暮らせる社会のために、今こそ声をあげよう 「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同者 龍谷大学教授(労働法・社会保障法専攻)脇田滋さん

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 今、国会で与党が強行可決しようとしている「安全保障関連法案」は、審議が進む中で日本国憲法に明らかに違反する重大な問題点が、ますます明確になってきました。憲法に反する同法案を強行成立させることは明らかに立憲主義に反し、「法の支配」を根底から破壊するものです。法を学び、研究している者として、あり得ない状況だと言うしかありません。政府・与党は、国民の意思を尊重して、同法案を直ちに撤回するべきです。

 既に、憲法学者をはじめ、多くの法律専門家や学者・研究者が「同法案は日本国憲法に違反する」と反対の意思を表明しています。8月30日には、全国各地で法案反対の大規模なデモが行われました。世論も安保関連法案成立に反対する声が多数です。

 私の専門である労働法の視点からは、安保関連法案について重大な疑問が限りなく浮かんできます。その一つは、自衛隊員だけでなく、多くの労働者が生命の危険を伴う業務に参加させられる可能性が増えると推測できる点です。第二次大戦では、戦時動員された6万2000人の民間船員が犠牲となったとされています。これは海軍軍人の戦死者より多い数字です。陸、海、空の交通労働者が、生命に関わる危険業務への参加を強制されることが危惧されます。

 もう一つは、安倍政権が平行して、労働者派遣法の「改正」法案を成立させようとしていることです。今回は、民間人材ビジネス業者の業務領域拡大が改正目的の一つとされています。「非正規労働者の権利実現全国会議」がHPで行っているアンケートでは、数多くの派遣労働者が異口同音に派遣労働の過酷な実態を指摘していますが(注1)、政府や厚労省は、人材ビジネスを美化しています。最近、著者の体験から、派遣労働が労働者をモノ扱いにする奴隷労働現場であることを告発する、衝撃的なルポが刊行されました(注2)。

 既に、アメリカには、戦闘行為を含む、戦争関連業務で労働者をイラクなどの紛争地域に派遣する民間軍事会社が跋扈(ばっこ)していると言います。日本の労働者派遣法は、危険有害業務への労働者派遣をとくに制限していません。もし、安保関連法案と労働者派遣法改悪案が成立すれば、労働現場が急激に劣悪化するだけでなく、とくに、危険な戦争関連業務に無権利な労働者を派遣して、莫大な利益を上げる民間人材ビジネスが登場し、拡大すると考えます。

 日本国憲法は、平和で人間らしく働き暮らせる社会の実現を国家に求めています。それに逆行する違憲立法である安保関連法案と、悪法中の悪法である労働者派遣法改悪案の成立強行に強く反対します。

脇田滋 龍谷大学教授(労働法・社会保障法専攻)

(注1)労働者派遣法改悪反対2015全国アクション
(注2)中沢彰吾『中高年ブラック派遣 人材派遣業の闇』(2015年、講談社)。この書物で描かれている現実は、10年前に私自身がHPの労働相談を通じて知った派遣労働者の実態と重なっていますが、むしろ、ますます酷くなっていることが分かりました。

 
安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ