【安保法案反対 特別寄稿 Vol.261】 なぜ安保法案に反対するのか 「安全保障関連法案に反対する学者の会」賛同者 明治学院大学名誉教授・大木昌さん

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 現在、安倍政権が行おうとしている安保法制に対して、以下の観点から反対します。それは、要約すると強い危機感と現政権に対する怒りです。

1 最高法規である憲法を、正規の改憲手続きを経ないで解釈だけでその中身を変えてしまうことは、立憲主義という国家の根幹を特定の政権の恣意的な解釈によって変えてしまうから。

2 憲法9条は明瞭に,国際紛争を解決する手段として、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定しており、どう読んでも外国(事実上、アメリカ)の戦争に日本が集団的自衛権を行使できる法的根拠はない。

 政府が、集団的自衛権が合憲だという根拠として挙げる①砂川判決は,米軍基地の存在を認めただけで、集団的自衛権を認めてはいない、また②1972年の政解釈は、まさに集団的自衛権の行使ができないことを確認したものである。

3 憲法9条が、集団的自衛権を認めないことは、単に法律文章でそう規定されているだけでなく、その解釈においても歴代の政権は一貫して確認してきた。それを安全保障の環境が変わったからという理由で解釈を変更することは間違いである。

 加えて政府が集団的自衛権が行使される事例として挙げている事例は、全く非現実的か個別的自衛権でカバーされているかどちらかである。たとえば、アメリカの艦船が紛争地から日本の民間人救出したとき、日本はその米艦船を守る例を挙げていますが、アメリカ政府は米艦船は、日本の民間人を救出することはないと明言しており、政府の説明は非現実的である。

4 憲法9条は、世界遺産にすべき極めて価値の高い法であり、日本が誇るべきかけがえのない財産である。戦後、日本が軍事的紛争で人を殺し、殺されることなく復興し繁栄できたのは9条があったからだ、という事実を再認識すべきである。言い換えると、日本が世界から信用を勝ち得てきたのは、9条によって武力の行使が禁じられており、他国民を武力で殺してこなかったからだ。

5 集団的自衛権とは、日本が直接攻撃されなくても緊密な関係にある国が攻撃されれば、日本が攻撃されたとみなして戦闘行為ができる権利のことである。この場合の「緊密な関係にある国」とは事実上アメリカを指している。

 第二次大戦後、アメリカが行ってきた主要な戦争(ベトナム戦争、イラク戦争、アフガン戦争)を見れば分かるように、これらの戦争は、全くアメリカの独善的な覇権主義から行われてきたものであり、そのような戦争に日本が付き合うことは間違っている。

6 日本は戦後、アメリカの戦争に反対したことは一度もない。それでも日本が戦争に巻き込まれなかったのは、9条のおかげであった。しかし、今回の安保法制で集団的自衛権の行使が認められれば、参戦への要請を拒否できなくなる。

7 政府は、集団的自衛権の行使を可能とすることにより日米軍事同盟は一層深化し、抑止力は高まると主張している。しかし、国際紛争を解決する手段として軍事力に訴えることは、軍拡競争を激化し緊張を高めるだけであり、外交的努力こそが最も重要な手段である。これまでの自民党政権(とりわけ安倍政権)は、対立する国(中国、韓国など)と忍耐強い外交的な努力をして緊張の緩和に努めてこなかった。

 また、中東の紛争に関して日本は、宗教的にも歴史的にも中立的であり、武力によらない紛争の解決に貢献できる立場にある。アメリカの中東での戦争に日本が「後方支援」という名目で加われば、これまで日本がこの地域で培ってきた日本に対する高い評価と信頼を一挙に失うことになる。それだけでなく、今後は日本もアメリカと一緒に憎しみと攻撃の対象となる。第一、「後方支援」などという概念は国際的には存在しない。

 「後方支援」とは、一般に「兵站」と呼ばれ、その戦闘行為と一体化した軍事行為として認識されている。現実に中東で亡くなった外国の軍人の多くは、「後方支援」の兵士である。さらに、武器弾薬の供給として核兵器の運搬も法的には禁じられていないとの防衛相の答弁は、非常に危険である。

8 以上、書いたように現在政府が通そうとしている安保法制は、立憲主義に反し、憲法で禁じられている集団的自衛権をなし崩し的に行使可能にしようとする憲法違反である。しかも、日本の方向を根底から変えてしまう、一つ一つが極めて重要な10本の法律を1本の法律にまとめてしまうことは、十分な論議を拒否する強引な手法である。

9 安倍政権は、国民の6割以上が今国会で通してしまうことに反対している。そして、国民の8割が政府の説明は不十分だと感じている安保法案を国会における圧倒的な多数の力で通そうとしている。これは、民主主義を否定することであり、それによって戦後の日本が積み上げてきた「平和国家」という貴重な財産を葬り捨てることで認めることはできない。

10 最後に、教え子が戦争に駆り出された戦前の悲しい歴史を再び繰り返してはならないと強く思います。

(大木昌 明治学院大学名誉教授)

安倍政権の集団的自衛権にもとづく「安保法制」に反対するすべての人からのメッセージ