NHKのテロップ先行問題は質問と答えを聞いた上で字幕を作成する時間差が原因との回答。しかし一般視聴者への説明はなし。公共放送であるNHKの権力への忖度・すり寄りが常態化している問題は看過できない!


 IWJは、現在、ウェブ上で問題になっている3月27日の佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官の証人喚問に関連した問題について、NHKに取材を行いました。その問題とは次のとおりです。

 27日の証人喚問の際、自民党の丸川珠代参議院議員の質問に対して、佐川氏が答える前に「ございませんでした」とテロップが先に流れた問題。このときの丸川議員の質問は、「安倍総理からの指示はありませんでしたね?」というものでした。ウェブ上では、政権与党と佐川氏、NHKが事前に打ち合わせを行い、質疑応答のシナリオを事前に作成していたのではないかという疑惑が取りざたされています。

 この問題に対してIWJは次のような質問をNHKにファックスで送りました。

「連続して同じ趣旨の質問がなされたために、テロップが質問よりも先に出た問題について、2つの可能性がございます。一つは、前の質問の答えを作成したテロップが『遅れて』、次の質問にかぶってしまった可能性。二つ目は質問と答えを聞いた後で、字幕を作成している関係で、たまたま音声よりも先に、テロップが出てしまった可能性。今回の件は、この二つのうちどちらでしょうか」

 これに対するNHKの回答は次のとおりでした。

「質問に対する答えは、手作業でテロップを作成し誤字脱字などの確認を行った後に出しているために、前の質問に対応する答えが、『遅れて』あとの質問の直前に出てしまったものです」

 これに関連して、NHKは数10秒遅れで放送しその間に字幕をつけているから、字幕が先に出ても不思議ではない、という指摘もあります。そこで、放送事故を防ぐために、NHKはライブ放送のときに「ディレイ」(遅延送出システム)を採用しているのかどうかも質問してみました。

 これに対するNHKの回答はつぎのとおりです。

 「ディレイ(遅延送出システム)はNHKでは、一切行っていません。電波の状態などで放送がリアルタイムよりも遅れることはありますが、システムとしてディレイは使用していません」

 今回のテロップが先に出てしまった問題は、手作業で上記のようにほんの数行の回答をするために、テロップを作成し、しかも、ディレイを使用せずに、誤字脱字等の確認を行ってから出しているために、「遅れて」しまった、ということのようです。

 しかし、NHKは我々のこの問い合わせに回答するために、なぜかまる2日を要し、しかも我々に対して回答するのみで、一般視聴者へ向けて説明等を行いませんでした。「これは一種の『放送事故』のようなものであり、公共放送であるNHKには説明してもらわねばなりません」との我々の質問には一切回答がありませんでした。この点は解せません。

 また、問題は、もうひとつあります。単純な人為的なミスでテロップが「先に」出てしまったことが、なぜこれだけ広範囲に事前打ち合わせ疑惑を生んでしまったのか、という点です。

 NHKは、国会答弁では、公共放送を前面に打ち出し、公平・中立な放送を心がけていると常に述べていますが、その公平性・中立性に対しては多くの人々が疑問を抱いています。その多くは、政権の情報操作に積極的に加担してゆくNHKの姿勢に対して寄せられたものです。

 たとえば、3月29日の参議院総務委員会で共産党の山下芳生議員は、森友問題に対して、NHKの幹部からニュース編集責任者に対して、情報操作の詳細な指示があったという内部告発を明らかにしています。

 「ニュース7やニュースウォッチ9、おはよう日本などのニュース番組では、森友問題をトップニュースで伝えるな、トップでも仕方がないが、放送尺は3分半以内、昭恵さんの映像は使うな、前川前文科次官の講演問題と連続して伝えるな」

 驚くべき情報操作・印象操作です。政権への忖度・擦り寄りが常態化していることがうかがわれます。

 こうしたNHKの権力の圧力に弱く権力を忖度するという姿勢が、政治報道のはしばしに歪みとしてあらわれて、日頃から視聴者の不信と顰蹙を買っているからこそ、テロップと映像が合わない様子を見て、これは事前に打ち合わせをして、台本を入手していたのではないか、などと視聴者に疑いをもたせる結果になったのではないでしょうか。

 丸川議員の「安倍総理の指示はありませんでしたね」という誘導尋問じみた質問は、森友問題の核心です。それだけに、テロップが佐川氏の発言よりも「先に」出てしまったことは、NHKと佐川氏、政権与党の間で、なんらかの事前の打ち合わせがあったのではないかという疑問を抱いてしまうのは無理からぬ話です。何の背景がなくても、質問の重要性から、この箇所が注目されるのは当然であるのに加えて、NHKの与党に偏向した政治の報道姿勢を考えれば、そうした疑いが生じるのは当然すぎるほど当然だったと言っていいでしょう。

 このテロップの先行問題は、NHKの公平でも中立でもない放送姿勢に対して、多くの人々が常日頃から感じている強い違和感のあらわれだと考えるべきではないしょうか。

 なお、岩上安身は3月28日のツイートを削除し、ツイッター上でお詫びを下記のように述べています。