IWJの熱心なサポーターでいらっしゃる榊原千鶴様から 『戯作・誕生殺人事件』をご恵贈いただきました。
いつもこのコーナーで紹介している本はいわゆる「お固い」本ですが、今回はミステリーです。ミステリー本の紹介というのは、いかにネタバレをしないようにご紹介するかがミソでして。正直、難しいものではありますが、トライしてみようと思います。
本作は著者の辻真先さんが40年以上書き続けた可能キリコ(通称スーパー)と牧薩次(通称ポテト)の二人が活躍するシリーズの最新刊になります。辻真先さんはかなりの読書家らしいのですが、この作品にも随所に読書好き、漫画好きのツボをくすぐる仕掛けが見受けられます。
ホッとしたような薩次に、
「『私の男』じゃなくて良かったわね」
キリコがからかい顔だ。桜庭一樹が直木賞を受賞した名作だが、少女と養父が男女の仲になる話だったからだ。(p.25より)
「お面の新作が出てるわ」
「コナンくんはわかるけど、この女の子たちは?」
「『まどマギ』の魔法少女たちでしょ」(p.102より)
「分かる、分かるわー」と思わずニンマリしてしまうネタがこれでもかと出てきます。ミステリーとしては最後のどんでん返しは「ええ?!ちょっと強引じゃない?」と思ってしまいますが、そこはキャラクターの力でグイグイ読まされてしまいました。
そして辻先生、作中でピリリと辛い発言をキャラクターに語らせています。
「その気持ちいい風が、放射能で安心できないなんてね。本当に収束したというのなら、東電本社も国会議事堂も福島に越してくるべきよ。せめて原発賛成の人たちは、福島へ越してきて、福島の水を飲んで、福島で採れた作物を口にしなさいね。風評被害で実家は農民廃業をマジ考えてるわ。放射能の問題がいつ片づくと思っているのかしら。セシウム137だけでも半減期は三十年なんだからね」
およそ政治的な発言をしそうにない彼女の、にこにこしながらの言葉であった。(p.92より)
ハキハキしたキャラクターの力もあって、読後感の爽やかなミステリーでした。(2013/10/08発行【IWJウィークリー第19号】より転載)
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