【IWJウィークリー第8号より抜粋】<IWJの視点>原佑介式モンゴリアン・チョップ3

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【特集】国会提出迫る秘密保全法~米国によって剥奪される国民の知る権利

※IWJウィークリー第8号(2013年6月26日発行)より抜粋

♢<IWJの視点>原佑介式モンゴリアン・チョップ3♢

 モンゴリアン・チョップといえば、キラー・カーン、天山だ。が、今回の三連打目をもって、私の名前もモンゴリアン・チョッパーとして記憶していただきたい。

 先週は、秋の国会に上程されるという「秘密保全法」の概要や、法案が浮上した経緯、目的などについて考察した。秘密保全法制定の背景には米国からの強い要求があると指摘し、日本政府は、その要求に応じるため、憲法の保障する「国民の知る権利」や「報道の自由」「プライバシー権」までをも踏みにじろうとしている。

 特別秘密を扱う者は政府内部でもごく一部に限られており、その情報が特別秘密として指定されるに足るかどうかをチェックする機関も作られない。不当な拡大解釈や恣意的な運用によって、本来、秘密に指定される必要のない情報まで隠蔽される恐れがある。しかも、そこには米国の意志が多大に影響を与える可能性が高い。ここまでは、前回、紹介したとおりである。

 今回は、秘密保全法が我々の生活にどのように関わってくるのか、いくつか事例を挙げて考えてみたい。

 秘密保全法とは、行政機関が「国の存立にとって重要なもの」と判断した情報を「特別秘密」に指定し、漏洩した者、情報にアクセスしようとした者などに重罰を科す、という法案である。「特別秘密」は、「国の安全」「外交」「公共の安全および秩序の維持」の3分野から選ばれる。

 「国の安全」は、主に防衛省を中心とした国防、安全保障に関する情報である。「外交」は、外務省を中心とした外交戦略やTPPなどの経済交渉に関する情報が指定されるだろう。では、この、「公共の安全および秩序の維持」という曖昧に表現された項目には、一体、何が含まれるのだろうか。

◇ 政府の情報隠しが強いた無用の被曝 ◇

 例えば、福島第一原発事故発生時に秘密保全法が導入済みであれば、「公共の安全および秩序の維持」に当たるとして、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」のデータは未だに公開されなかった可能性は高いように思う。

 現実にも、SPEEDIの情報が一部公開されたのは、事故から10日以上も経った、3月23日のことだった。細野豪志首相補佐官は、5月2日の統合会見で、公開しなかった理由について、「公表して社会にパニックが起こることを懸念した」と説明した。

 当時、SPEEDIは、国民がもっとも公開を臨んだ重要な情報の一つだった。にも関わらず、政府は、独断で、起こるかどうかも分からないパニックを恐れ、「公共の安全」や「秩序の維持」を優先したのだ。

 結果的に、南相馬市の住民などは、より線量の高い飯舘村に避難し、浪江町では、住民約8000人が同町内の津島地区に避難した。だが、実際には、避難先のほうが高線量だったことが後に明らかになった。

 もし、SPEEDIが早い段階で公表され、活用されていれば、住民に、このような無用な被曝を強いることはなかったに違いない。公益に反する決断をしたのは日本政府の方だったが、その責任は誰もとっていないし、根本的な反省もなされていない。

 おかしなことに、事故直後の3月14日には、文科省が外務省を通じ、SPEEDIのデータを米軍に提供していたことが発覚している。都合の悪い情報は国民には隠し、米軍の要請には素直に応える。日本の主権者はいったい誰なのか――。岩上安身は、政府が真っ先にSPEEDIの情報を提供していたことが明らかになった時点で、当時の文科大臣に、そう問いかけている。日本の政府の姿勢をあらわす象徴的な一件だが、秘密保全法が制定されれば、このようなことが往々にして繰り返されるのではないか。

 (関連動画 2012年1月17日「日本の主権者は誰なのか」岩上安身、平野博文文科相に質問http://iwj.co.jp/wj/open/archives/2444 )

◇ 「特別秘密」は誰のための「秩序」なのか ◇

 「公共の安全、秩序の維持」を主な任務としているのは、「警察」である。日弁連も、昨年12月20日付で発表した「秘密保全法案の作成の中止を求める意見書(http://bit.ly/15jjxzT )」の中で、「公共の安全及び秩序の維持」について、次のような見解を示している。

 「『公共の安全及び秩序の維持』という文言は、警察法1条で警察の所掌事務として規定されている文言と同じであり、有識者会議に警察庁、公安調査庁、海上保安庁の官僚が同席していたことからすると、警察の所掌する事務全般にわたって秘密の網が掛けられることを予定していると考えられる」

 「警察官は、町のお巡りさんから上層部にいたるまで、100%全員が『裏金』で汚染されている」――こう語ったのは、仙波敏郎氏だ。

 仙波氏は愛媛県警察の元警察官。2005年当時、現職警察官として初めて警察の裏金問題を実名で内部告発した人物である。

 裏金作りに必要な「架空の捜査協力費の領収書」を作成するよう、上司から命じられた仙波氏は、これを拒否。「全国27万人いる警察官の中で、唯一、自分だけが一度も裏金作りに加担しなかった警察官である」と話すほど、警察による組織的な裏金作りが常態化していたというのだ。

 仙波氏は、上司から、度重なる「裏金作り」の命令を受けたが、全てを拒否した。結果、同期でもっとも早く巡査部長昇任試験に合格したにも関わらず、以降、定年退職するまでの35年間、一度も昇進することなく、巡査部長という階級に留まることとなった(日本警察史上、最長記録だという)。

 さらに仙波氏は、岩上さんによるインタビューの中で、「愛媛県警の女子職員に対して現職の刑事がレイプする、そういうことも極々、普通ですね」と、裏金づくりにとどまらない警察の腐敗の驚愕の実態を語っている。

 (2010年11月6日 岩上安身による仙波敏郎氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/1373 )  

 こうした警察犯罪は、愛媛県警だけが例外なのではない。北海道警察は組織ぐるみの裏金(道警の内部調査では総額10億9600万円)作りが発覚し、現職警官、OB含め約2000人のポケットマネーから、合計9億6千万円を返還。数千人規模の警官、幹部が処分されている。

 関連動画

 ( 2010年6月30日 岩上安身による、道警裏金問題を追求した元北海道新聞記者・高田昌幸氏インタビュー:インタビュアー岩上安身 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/10954 )

 (2010年8月30日 道警を告発し、自らも裏金作りに関わってきた元北海道警釧路方面部長・原田宏二氏インタビュー:インタビュアー岩上安身 http://iwj.co.jp/wj/fellow/archives/1613 )

 もし、秘密保全法が成立すれば、このような警察内部の犯罪を内部告発することはほとんど不可能になるだろう。この国の「公共の安全及び秩序の維持」を独白的に担う警察の内部では、こうした不祥事が横行しているというのに、その内部告発は困難をきわめることになるのである。

 秘密保全法が導入されれば、一部の幹部のみで、裏金システムに関わる情報を、「特別秘密」にして公開できないようにすることも可能である。これに気付き、正義感から告発に踏み切った者は秘密保全法違反で逮捕され、厳罰に処されてしまう。筋が通らない、「正義」が実現しない世の中になってしまうのである。

◇ 秘密保全法が隠す権力者の腐敗 ◇

 警察の腐敗を内部告発によって明るみにする行為は、本来であれば、これは「公益通報者保護法」で保護されるべき「公益に資する通報」のはずである。秘密保全法によって、公益に適う内部告発の動きが鈍ることは間違いない。権力の腐敗を暴こうとする動きも失速せざるをえなくなるのではないか。

 多少強引にでも、暴いて明るみにさらさなければいけない「現実」というものがある。イギリスで起きた、「シークレットポリスマン事件」はその好例のひとつだ。

 これは、警察による人種差別が常態化しているというマンチェスターの警察署の実態を暴くため、イギリスの公共放送局「BBC」が、記者を警察にスパイとして送り込み、取材にあたらせたというものだ。

 記者はまず、正規の手続きを踏んで警察学校に入学。そこでは、すでに警察学校生たちによる人種差別発言が横行していた。記者は、7カ月間にわたって、隠しカメラとマイクで、その様子を収め続けた。

 警察学校を卒業した記者はその後、順調に警察官となり、警察署勤務を開始した。記者は、警察署で数ヶ月間、取材にあたったが、ある日、警察官に取材活動を見抜かれ、捕まってしまう。BBC記者でありながら警察官の給料を不当に取得したとし、「不当利益容疑」で逮捕され、起訴されることとなった。

 しかし、BBCは、警察に「違法取材だ」と大きな圧力を受けながらも、それまでの潜入取材の映像を編集し、30分のドキュメンタリーとして放映した。ドキュメンタリーのタイトルは「シークレットポリスマン」。警察官による人種差別の実態が白日のもとに晒され、番組は大きな反響を呼んだ。

 「シークレットポリスマン」の手法は、「違法」であったかもしれない。しかし、視聴者の多くは、「この報道は公共の利益にかなう」と判断したと思われる。現に、「シークレットポリスマン」への起訴は取り下げられ、人種差別に関わった警察官のうち、10人が退職、10人が処分対象となったという。

 このように、内部告発や潜入取材が、権力者にとっては不都合で、不利益な、しかし多くの国民にとっては利益をもたらす、すなわち「公益」をもたらすことは多々ある。「公益」は、「権力者の利益」に反することも少なくない。ところが、時として「公益」という言葉は、権力者側に都合よく用いられ、「権力者の利益」の保護膜のように使われることもある。

◇ TPP反対の声を上げた市民は「公共の秩序」を乱した「左翼」!? ◇

 秘密保全法は、「公共の安全および秩序の維持」を理由として、どの情報を「特別秘密」に指定するか、恣意的に決められる権力者側が、自己の腐敗の証拠を、合法的に、そして永久に闇に封印することを可能にする。

 秘密保全法の制定を目指している当事者中の当事者である安倍総理は、当然、「公共の安全および秩序の維持」のために「特別秘密」の指定を判断する側に立つ。

 6月9日、安倍総理は渋谷で街頭演説を行った。その時、偶然、同じ場所では「TPP反対」を訴える市民らが該当アピールを行なっていた。市民らは、安倍総理の演説中、「TPP」断固反対を掲げた公約違反を糾弾するシュプレヒコールを上げ続けた。

 市民らの反対の声を受けた安倍総理は、「私たちはあんな民主主義に対する挑戦には、絶対に負けない!」とその場で宣言し、その後、自身のfacebookに「左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してました」、「彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした」と書き込んだ。

 どうやら、市民は、安倍総理にとっての「公共の秩序」を乱したようだ。しかし、実際には、TPP反対のアピールをしていた市民らは、約半年前、衆院選の直前に自民党が掲げていた公約と同様の内容をアピールしていただけにすぎない。権力側の都合で「公共の秩序」を判断する基準はコロコロ変わりうる。秘密保全法が制定されたら、何を基準にして、どんな情報が「特別秘密」に指定されるのか、公正さが確保されるか、きわめて疑わしい。

 果たして政府に、「公共の安全・秩序」とは何か、という価値判断をすべて委ねてしまっていいのだろうか。

 なお、自民党改憲草案でも、「国防軍」や「国民の責務」などの条文で、「公益及び公の秩序」という文言は、たびたび使用されている(当然のように、「表現の自由」もこの文言で制限されている)。また、初回のモンゴリアン・チョップで触れた「国家安全保障基本法」でも、自衛隊の任務について「必要に応じ公共の秩序の維持に当たる」と定めている。

 「公共の安全および秩序の維持」という言葉が、 こうした法案の施工後、どのように我が身に降り掛かってくることになるか、ここで挙げたいくつかの事例をもとに考えていただきたい。