岩上安身より

2012年12月16日、日本は大きな変化に見舞われました。しかし、この日は同時に、日本という国の
「変わらなさ」が露呈した日でもあったのではないでしょうか。

まだ、IWJが誕生する以前、Web Iwakamiをリニューアルし、私がネットをジャーナリズムの
ツールとして試み始めたばかりの2009年夏、民主党が歴史的な政権交代を果たしました。
それから3年4ヶ月、「国民の生活が第一」をスローガンに掲げ、新自由主義からの転換、
国民への富の再分配を約束し、政権を託されたはずの民主党は、米国からの圧力を背景に、
検察の不当な権力行使、異常なメディアスクラム、そして党内部からの国民に対する
「裏切り」によって、原発再稼働、TPP推進、消費税増税と、国民に負担を強いる政党へと
変貌しました。

その民主党への不満を背景に、今回の選挙で自民党は大勝をおさめましたが、おそらくこの先、
原発はなし崩し的に再稼働され、消費税も上げられ、隣国との緊張は高まっていくだろうと
予想されています。そして背後には、常にアメリカの影がちらついています。何のことはない、
民主党政権時代と大差のない風景が眼前に広がっているのです。

この「変わらなさ」は、民主党政権が「自民党化」し、その本家の自民党に戻っただけだから
当然のこと、と冷ややかに見る向きもあることでしょう。しかし、静かに広がるシニシズムが
無力感から無関心を招き、さらに投票率の低下という結果をもたらしたのであれば、
それを漫然と見過ごすことはできません。選挙の結果が民意の正確な反映であるならばともかく、
国民の6割前後が脱原発、消費税増税反対を求めながら、議席にはそうした民意が
反映されていないという事態を軽視してはならないだろうと思います。
これを軽視することは、「民主主義」の、死に至る緩慢な衰弱を等閑視することに他なりません。

この「変わらなさ」をどうにかする必要があると思ったなら、マスメディアから一方的に
与えられる情報をブロイラーのようにうのみにするのではなく、市民一人ひとりが、
これまで以上に目を見開き、耳をそばだて、自ら考え、行動しなければならないだろうと思います。
私たちはこれまで、「考えてきた」のではなく、「考えさせられてきた」のではないか。
時に巧妙に誘導されてきたのではないか、ということに、もうそろそろ気づく必要があるでしょう。
情報を独占し、操作し、世論を誘導しようとする既存の権力に対し、いかにして抵抗を試みるか。
これは、情報の民主化を進めるための、挑戦でもあります。

この3年間で、私たちは新しい道具を手に入れました。爆発的な発達を遂げたSNSです。ネット上に
広がる新しい情報空間は、市民に自由な議論と情報発信の場を提供しつつあります。それは、
特権的な既存メディアが私たちに刷り込んできた世界像を塗り替える可能性を秘めています。

私たち、IWJが目指すのは、こうしたネットの潜在力を駆使しながら、日本において情報の民主化を
一歩でも半歩でも進め、押し広げてゆく一助となることです。
IWJは、まだ設立二周年を迎えたばかりです。しかしこの間、配信本数は格段に増え、海外からも
中継を行うようになりました。2年前、IWJを設立した2010年12月1ヶ月間の動画配信本数は39本。
設立1周年を迎えた2011年12月の月間配信本数は102本でした。現在は11月の月間配信本数390本を
数えるまでになりました。

本日は、原発、検察、経済、TPP、改憲問題、日本を蝕むこの5つの危機に対し、
私たちがいかにして明るいレジスタンスを挑むことができるか、議論する
シンポジウムを設けました。

IWJは、市民一人一人の皆さまに、直接支えられるメディアとして誕生しました。
会社が正式に設立して2周年、定額会員制がスタートしてまだ1周年の、幼い会社です。活動資金も、
人材も、経験も足りず、運営面では、会員・サポーターの皆さんをハラハラさせることも
しばしばの未熟者です。常日頃の至らない点をおわびするとともに、皆さまのより一層の御支援と
御指導をお願いしたいと存じます。この「響宴」は、そんなIWJから、
日頃からお支えいただいている、会員とサポーターの皆さん、そして「中継市民」をはじめとする
ボランティアの皆さんへ送る、懇親と謝恩の場です。本日は、どうぞ、多彩なゲストの皆さんと、
存分に交流を深めていただければ、と思います。

岩上安身

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