【IWJブックレビュー】 元シリア大使が明かす なぜイスラム国は生まれたのか、そして何を目指しているのか 国枝昌樹著『イスラム国の正体』(朝日新書)

 元在シリア特命全権大使であり、著者の国枝昌樹さん御本人から『イスラム国の正体』をご恵贈いただきました。

 本書は、過去にIWJの単独インタビューにも出演いただいている、国枝昌樹氏の著書で、シリア大使時代の情報ルートを使ってメディアや中東・イスラム研究者とは違ったスタンスから、イスラム国について解説を試みています。イスラム国が誕生した背景から、体制、世界中の若者を引きつけている理由、そして今後の展開まで論じています。

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 イスラム国を知るにあたり、著者は「アラブとその周辺は長く安定な平和が訪れていない。イスラム国の実像とそれが生み出された歴史や宗教、国際政治といった背景を冷静に知る態度が必要」と語ります。イスラム国の起源は、90年代半ばのアフガニスタン紛争に遡り、この時期に結成された『タウヒードと聖戦軍団』がルーツだと説明します。その後、シリア問題の混乱に乗じて拡大していき、2014年6月に『イスラム国』の樹立を宣言します。

 こうして生まれたイスラム国ですが、イラクのサダーム・フセイン時代の軍人や行政官といった世俗主義者とイスラム原理主義者のハイブリッドで組織されるという矛盾を抱えたまま、急激に拡大していることから、いずれは消えていくだろうと解説します。しかし、イスラム国が理想像とする7世紀の『正統カリフ時代』の思想・信念は受け継がれていき、また新たな『イスラム国』がでてくることになるだろうとも語ります。そして、著者は民主主義社会の常識でアラブ問題を捉え、解決させようとすること自体が危険だと指摘します。

 日本で暮らしていると、突然現れたかのように感じるイスラム国も、イスラム社会における長い歴史を背景に行きついたひとつの形態であることがわかります。混乱を極めるアラブ世界ですが、イスラム国を通して俯瞰することで、アラブに平和をもたらすために何が必要かを考える一助となる一冊です。

 

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